AI推進派のよくある勘違い集3
はい、ネットで見かけた勘違い意見をまた集めてみました!
勘違い意見1「学習を拒否する権利は無い」
はい、その通りです!
学習は拒否できません。
人間は見るだけで学習できますからね。
ですが、AIは見るだけでは学習できません。
AI学習は「著作物を複製」した後で「AI学習」という情報解析処理を行う処理なんです。AI学習のために著作物を複製する必要があります。複製せずにAI学習を行うことは基本的にできません。
インターネット等から収集した画像をコンピューター内に「保存」したのち、情報解析処理(AI学習)を行います。この保存が著作権法上の複製に該当します。そのため、「複製」と「AI学習」は不可分なんですね。
だから、「学習を拒否する権利は無い」というのはたしかにその通りですが、「複製を拒否する権利は有る」んですよね。それは著作権法っていう名前の法律なんですが。なので、人間の学習は拒否できず、AI学習は拒否できる場合もあり得るんです。
人間は学習して脳に記憶しますが、記憶は複製ではないんです。だから人間の学習は著作権法に抵触しません。
「人間の学習を拒否する権利は無いが、AI学習を拒否する権利は有り得る」というのが正しいんじゃないですかね。
アメリカ製画像生成AIの場合は、フェアユース規定から外れると、無断学習がNGになります。
日本製画像生成AIの場合は、著作権法30条の4の但し書きに「著作権者の利益を不当に害することとなる場合には適用されない」と記載されている通り、常に無断学習が認められるわけではないのです。
以下の記事に「AI学習を拒否する権利は有る」ことについて詳しく書きましたので、読んでみてくださいね。
勘違い意見2「クリスタの線画の手振れ補正はAI技術が使われている」
使われていないはず。探しましたが、どこにもクリスタの手ブレ補正がAI技術を使ったものという記載はありませんでした。
技術の事をよくわかってない人が便利なものは何でもAI技術だと思い込み、それがSNSで広まったのかもしれません。
線画の補正は、AI技術を持ち出すまでもなく、古典的な計算アルゴリズムだけで実装可能です。ベジェやスプラインで補間すればいいのです。
ペンタブレットのようなデバイスから出力されるペンの座標は、連続しておらず一定周期でサンプリングされた「飛び飛び」の値なんです。なので、何らかの方法で中間を繋ぐ処理が必要になります。デジタルの場合、人間が滑らかな線でペンデバイスを動かしていたとしても、補正する処理が無いとガタガタになります。線画を補正する処理が必要なのは、デジタルデバイスの技術的限界を補うためでもあるわけです。
また、クリスタには一部機能にAI技術を活用した機能もありますが、それを画像生成AIと同列に扱うことには疑問が残ります。スマートスムージングのようなAI技術を使ったアップスケーリングを行う機能などもありますが、これはアウトプットが著作権侵害する可能性は全くないんですよね。だから、AI技術をなんでもかんでも一緒くたにして考えるのは、AI技術に対する理解の解像度が低すぎるからやめましょう。
勘違い意見3「無断学習無しではAI学習は成り立たない。現実的ではない。」
中国では権利取得データだけでAI学習を行って実用レベルの生成AIを作っていると、私は見ています。中国の法律だと、生成AIの学習データは「権利取得したデータ」「パブリックドメインのデータ」「自分で作成したデータ」に限られます。中国の生成AIに関する法律は、けっこう厳しいです。日本やアメリカよりずっと厳しいのです。
学習データセットの要約を公開しているわけでは無いので、本当に中国の生成AI企業が自国の法律を守ってAI学習を行っているかどうかは、はっきりとはわからないです。自国の法律を守っているとすれば、無断学習せずに、それでもちゃんと生成AIを作れているんですよね。なので「無断学習をしないと実用的な生成AIを作れない」という意見には疑問が残ります。
まあ、中国製AIは自国の法律なんかガン無視して、実は無断学習しまくっている可能性はあります…
しかし、私としてはそれはどっちでもいいのです。なぜなら、法律ガン無視はいずれバレるのです。遠くない未来にそのようなものは消滅する運命です。中国の法律が権利取得データでAI学習するのを基本としている以上、最後に残るのはクリーンなAIだけでしょう。
勘違い意見4「Googleの画像検索だって無断学習で成り立っている」
Googleの画像検索は、裁判でフェアユースであるという判決が出ているんですよね。これがなぜフェアユースなのかまで踏み込んで考えなければなりません。Google画像検索の場合、「表示される画像はサムネイルサイズの縮小版のみ」「元サイトへリンクがあり、オリジナルサイズ画像は元サイトで表示」「検索という新しい価値を加えている」からフェアユースなんですね。
無断学習が常に許容されているから合法になっているわけではないんですね。
「Google画像検索の無断学習は合法」=「無断学習は一般に合法」とすると、明らかに論理の飛躍が起きています。
勘違い意見5「日本では著作権法30条の4で画像生成AIの無断学習は合法」
問題になっている画像生成AIに関して言うと、現状だと「著作権法30条の4」で合法と言える場面がほぼ無いです。
画像生成AIに関して「著作権法30条の4があるから合法!」と言うためには、日本国内でフルスクラッチでAI学習を行った画像生成AIを開発するところから始めないとダメですね……そんなものは一般公開されているものでは現状、存在を確認できません。
一般的に使用されている画像生成AIの学習は海外で行われていますが、AI学習ではAI学習を行った国の法律が適用されます(属地主義)。そのため、日本の著作権法30条の4は適用されません。
例えば、日本のユーザーがChatGPTで画像生成した場合、AI学習についてはアメリカの法律が適用され、生成画像には日本の法律が適用されます。
「もし日本国内でフルスクラッチでAI学習を行った画像生成AIがあったとしたら、無断学習でも合法だね!」というならその通りです。
日本国内でLoRA学習を行う場合は、「著作権法30条の4」を適用できる可能性がありますが、狙い撃ちLoRAのような場合は文化庁の見解でもNGになっています。
日本で一般に使われているアメリカ製画像生成AIは、無断学習がフェアユースに該当するかどうかで訴訟の真っ最中ですので、合法とも違法とも言えない「グレーゾーン」です。
勘違い意見6「画像生成AIの無断学習は漫画村のような海賊版サイトと違い、損害が無いため問題なし」
この主張は「無料」で公開されたイラスト等の画像を使っているだけだから、損害は金額として計算できないので問題無しという論理のようです。
画像生成AIの学習データには、主にWeb上の公開データをスクレイピングなどの手法で集めたものを使用しています。では、無料で公開されたものはどんな場合でも無断で使ってもよいのでしょうか?もちろんそんなことはありません。当たり前ですが、無料で公開された作品であっても著作権は発生します。
主な画像生成AIはアメリカで開発されているため、それらの場合AI学習段階はアメリカの法律が適用されますが、フェアユースに該当するなら無断で著作物をAI学習に用いることができます。では、無料の公開データなら、常にフェアユースで無断使用が認められるかというとそんなことはありません。SNS上の画像を無断転載した場合に、フェアユース否定する判決が出て、無断転載した側が負けた判例はいくつもあります。以下のリンクが参考になります。
無料で公開された画像なら無断転載して使ってもOKではないんですね。裁判になると負けるのです。多くの場合は単に訴えられていないだけなのです。
もし、「無料で公開されたものは無断で使っても損害が無いから問題なし」という論理が正しいとすれば「無料のものは著作権が無い」のと同じになってしまいます。
勘違い意見7「文化庁PDFのAIと著作権を見ろ!無断学習は合法!」
「文化庁のAIと著作権のPDFを見ろ!」と言っている人は、なぜか「アメリカ著作権局の著作権とAIに関するレポートを見ろ!」とは言わないんですよね。
日本国内でAI学習を行った画像生成AIに関して何か言いたいのであれば文化庁PDFを参照すべきですが、アメリカ国内でAI学習を行った画像生成AIについてならアメリカ著作権局のレポートを参照すべきですよね。
ですので現状だと、多くの場合は、アメリカ著作権局のレポートを見ないといけませんよね。
なお、文化庁PDFもアメリカ著作権局のPDFも、どちらも法的効力を持つ文章ではありませんが、専門機関の分析結果として、裁判の際に裁判所が参考にする位置づけの文書です。
アメリカ著作権局のPDFは最終版ではないから、効力がないんじゃないか?というようなことを言う人もいますが、最終版になったとしてもどのみち法的効力がある文書ではないんです。法律の条文ではないんです。これは文化庁PDFも同じですよね。
「今後、アメリカ著作権局のPDFは取り下げもあり得る」なんてことを言っている人もいるようですが、その可能性はかなり低いです。
なぜなら、アメリカ著作権局のPDFは最終版ではありませんが、「最終版は後日公表するが、分析や結論に実質的な変更はない見込み」とアメリカ著作権局Webサイト上に明記されています。
また、実務が既に回りだしています。アメリカ著作権局レポートを参照して裁判所での説得的資料として運用が既に進行しています。既に裁判で参照されている資料を「取り下げ」して無かったことにするのはかなり難しく、修正が加えられたとしても補足事項の追記程度になるでしょう。
勘違い意見8「巨人の肩に乗る」
「巨人の肩に乗る」というのは、生成AIに限らず人間だって先人の知識や成果を活用して新しいものを作ってきた、ということですよね。
それはその通りなんです。
だから、人間と同じく生成AIだって先人の知識や成果を活用してAI学習に用いるのは良いことだ!という理屈のようです。
しかし、生成AI企業は、多くの場合、生成AIの生成物をAI学習に用いることを利用規約で禁止しています。
例えば、ChatGPTで生成したイラストをAI学習に用いることはChatGPTの利用規約で禁止されています。
つまり、多くのAIイラストって「AI無断学習禁止」なんです。
たまに絵描きさんが「AI無断学習禁止」と書いていることに対して、「法律を理解していない」とか、果てには「法律違反!」などと非難するAI推進派がいますが、ご自身の使用されている生成AIの利用規約を確認してみた方がよさそうですね。
生成AIは巨人の成果物は利用しますが、巨人の肩に乗ることは拒否しているのです。
こっちも読んでみてね!
イラストレーターさん、絵師さんへ
イラストに「AI学習禁止」と書いておくと、ダルいAI推進派に絡まれることがありますよね?そんなときは、このNoteのURLを貼ると、黙らせることができるよ!
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おこづかいちょうだい♪♪♪




コメント
28SlowMoさん
コメントありがとうございます。
条文には「作品を楽しむため」のことを「享受目的」と書いてます。
享受目的になる例は、映画鑑賞会やイラスト展示会を開く等があげられます。
コンピューターで統計処理に使用するとか、AI学習に使用する場合は、非享受目的になるようです。
文化庁の資料だと「生成・利用段階で、学習データである著作物の類似物が生成される事例があったとしても、それだけで直ちに享受目的が併存していると評価されるものではありません。他方で、類似物の生成が著しく頻発するといった事情は、享受目的の存在を推認する上での一要素となります。」と書いてありますので、学習データと似たようなAIイラストが生成できたとしてもそれだけでは享受目的とは見なさないようです。しかし、類似物のAIイラストが頻発するのであれば享受目的になるかも?とも書いてありますね。
詳しくありがとうございます。最終的に利用目的ですよね。
私はSDが出てきたときから様々な生成AIを技術研究として使ってますが、画像・映像生成AIの現状を見るに「享受」以上の社会的意義のあるものに昇華するのはなかなか難しいんじゃないかと感じてます。享受ではないものとして「教育・福祉」になるかで考えることが多いです。
AIによって絵がかけない人でも絵を出力できることは福祉になりえます。たとえば失語症の人や異言語話者の間での伝達手段としては、抽象化された、しかし確度の高い絵をパっと出せたらすぐ伝わっていいですよね。それは目的のために生み出された絵です。しかし現状の界隈では「美術性の高い女の子ばかりが出るけど、思ったような実用構図が出せないモデル」が流行ってる。それって役立たずの趣味絵やろ…って思うわけです。そういった機能性以上の華美さや趣味性のための生成AIは「ただの享受」になると個人的には思ってる次第です。長々と失礼しました。
SlowMoさん
はい、AI技術は福祉のための応用も期待されていて、そのような使い道なら多いに活用すべきだと考えます。
私も同じ考えで、SDのような華美な絵は福祉とは程遠いところにある気がします。
私は福祉に詳しくなく、当事者では見解が違うかもしれませんが、AI生成画像が福祉になり得るかはちょっと微妙な気もしますね。そもそも絵が描けることは生きていく上でそれほど重要なものではないからです。逆に言うと、絵が描けない人は福祉サポートが必要なのか?とか、作曲ができない人は音楽生成AIで福祉サポートが必要なのか?いうとそんなことはないと思うんです。
SlowMoさん
そもそも画像生成時に文章入力しないとやりづらい今のシステムは難しいですね
あと現段階のLLMでは文章整理はできますが、規制システムのせいでこちらが言いたいことを勝手に改変したり検閲したりこっちを攻撃してきたりするので福祉には多分なりませんね。