トカゲから恐竜へ…~王位継承ルール、偉大なる進化の歴史~(その2)

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② 群臣推戴から、世襲王権誕生へ

歴史的名著・『愛子天皇論3』でよしりん先生も仰っているように、5世紀以前の倭国は、豪族連合の中から政治的実力によって王が選ばれるというのが一般的でした。

義江明子氏はこれを、「群臣推戴システム」と呼んでいます。

令和5年の夏イベント【愛子さまを皇太子に】の中で高森明勅先生も、同意しないながらも認めておられるように、継体天皇以前のヤマト王権ではまだ、王の世襲は確立されていなかったというのが、歴史学上の通説のようです。

さも、血縁が繋がっているかのように粉飾された記紀神話ですら、「倭の五王」に代表されるような5世紀以前の王統は、継承順序がとにかくバラバラで、これで「万世一系」だと言われてもすんなり腑に落ちない状態だったのとは異なり、継体天皇の第3皇子・欽明天皇以降の王統は、敏達・用明・崇峻・推古と、母の異なる欽明の男女子4人が、連続で即位しています。

古代の史書『上宮聖徳法王帝説』では欽明〜推古までを指して、「右、五天皇は他人を雑うること無く天の下治しめす」と強調しているように、一つの血統による王位継承が続いたという事は、6世紀末〜7世紀始めの人々にとって、非常に画期的な出来事だったと言えるでしょう。

この事から、欽明から続く敏達〜推古までの、同一血族による連続即位という事実の積み重ねにより、結果として世襲王権は確立されたという説が有力なようです。

「成り行きでやってたら、いつの間にかそれがキマリゴトになっちゃった」みたいな事、我々も結構ありますよね(笑)。

ただ、だからといって、それまで主流だった「群臣推戴」という風習が、ピタリと無くなるわけでは勿論ありません。

その事がよくわかる一例が、推古天皇です。

倉山満の新書を批判した過去ブログ(⇩)でも既に書いた事ですが、それまでシナ冊封体制の影響で、「男王へのこだわり」を捨てられなかった豪族達に推挙された崇峻天皇は、蘇我馬子ら群臣達の信頼を失い、殺されてしまいます。

その後、崇峻の即位前から「丁未の役」の鎮圧等で、統治者としての頭角を表していた額田部王は、群臣達からの「三顧の礼」を受け、即位します。

「正直なウソつき」の、『嘘だらけ』古代史語録⑦ – 愛子天皇への道 ~ Princess Aiko: Path to the Throne ~

このように、王位を継承できる血統が絞られた後も、同一血族の中から有力豪族の信頼を得た者が王として推挙される、という風習は、推古朝以降も続く事になります。

文責 北海道 突撃一番

参考文献
小林よしのり『愛子天皇論2』扶桑社 2024年9月15日
小林よしのり『愛子天皇論3』扶桑社 2025年7月2日
新古代史の会[編]『人物で学ぶ日本古代史 1 古墳・飛鳥時代編』吉川弘文館2022年8月10日 平石充「欽明天皇 ー世襲王権の始祖ー」

※ 他、特に記載したもの以外、今回のブログは
義江明子『女帝の古代王権史』ちくま新書2021年3月10日

を主な参考文献とします。

3 件のコメント

    基礎医学研究者

    2025年8月5日

    (編集者からの割り込みコメント)「世襲王権の始祖は欽明天皇」、なかなかリアルですね。たしかに、欠史八代以降、やけに直系が強調されているのは、生物学的な系統を考えると、不自然ですね。しかし、こういう学術的な知見が増えて、万世一系が崩れることがあっても、それで皇室への敬愛が損なわれることはない!、ということになりましょうか。

    突撃一番

    2025年8月4日

    掲載&コメントありがとうございます!

    参考文献にも挙げましたが、義江さんに限らずどうやら、「世襲王権の始祖は欽明天皇」たいう認識は歴史学の世界ではかなり有力なようです。

    もちろん欽明は、継体天皇の第3皇子なので、「だったら始祖は継体じゃないか!」という反論もたまに聞こえてきますが、同じ継体皇子の安閑・宣化天皇は天皇となる皇子を残しておらず、あくまで欽明を父にもつ4人の男女子が皇位を受け継ぐ事で、「世襲王権」が慣習として定着したという事なのです。

    今回は、「世襲王権が確立された」というのが最も重要な歴史の転換点でしたが、次回以降も、文中青の太字で強調した部分が継承ルール変革のキーワードとなりますんで、ヨロシクです。

    京都のS

    2025年8月4日

     やはり世襲王権の確率は欽明帝からですよね。『女帝の古代王権史』(義江明子著)を読むと強い納得感を得られしました。文中の「成り行きでやってたら、いつの間にかそれがキマリゴトになっちゃった」には笑わされました。
     それから、だから余計に「欽明以前」を描く『神功皇后論』が楽しみになってきますね。

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