<ネットと中傷 第2部~10年以上戦う弁護士>①全5回
社会問題となって久しいインターネット上での中傷や嫌がらせは、なぜなくならないのか。
少しでも答えに近づこうと、問題に詳しい唐澤貴洋弁護士に取材した。知る人ぞ知る有名人。ネット掲示板での騒動をきっかけに、10年以上もネットや現実社会での中傷や嫌がらせを受けてきた人物だ。
加害者側にも取材したいので、紹介してほしいとお願いした。
すると、唐澤弁護士は、ある人物の名前を挙げた。唐澤弁護士らを侮辱する動画が配信サイト「ニコニコ動画」に投稿され、刑事事件化した過程で、投稿者の住所や氏名などを特定したという。関係者によると、投稿者は容疑を認めている。
「やっぱり本人に会いたいですよね。何が起きているのかっていうのを実際に把握してもらえれば」
唐澤弁護士は自ら投稿者に動機などを聞いてみたいという。一緒に取材しても良いとのことで、同行した。
◆アパートから出てきたのは
4月平日の午前7時45分ごろ、雨模様の関東地方の住宅地の片隅。唐澤弁護士らが特定したアパートの一室から出てきたのは、マスク姿の細身の男性だった。青いレインジャケットのフードをかぶっている。自転車置き場に向かうようだ。
静けさを破って、唐澤弁護士が男性に声をかけた。
「なんで『ニコニコ動画』に、こんな動画を上げたんですか」
自転車に乗ろうとしていた男性は「あれっ」と驚いた様子。
唐澤弁護士と目が合ったが、すぐさま自転車に飛び乗り、何も言わずに走り出した。
唐澤弁護士は追いすがる。
「○○さん!」「なんで逃げるんですか!」
それでも、男性は無視して猛スピードで走り去った。
唐澤弁護士は苦笑い。
「逃げましたね。(男性は)僕に気付きましたけど」
◆3月にも訪問したが…
実は、男性の自宅を訪れたのは、今回が初めてではない。
3月の休日にも、唐澤弁護士は男性宅のインターホンを押し、呼び掛けた。
「お話ししましょうよ」
室内に人の気配はあったというが、返答はなかった。
結局、男性が本当にこの動画をつくったのか、なぜつくったのか、答えを聞くことはできなかった。
◆問題の動画とは…
問題の動画は、唐澤弁護士を卑猥な言葉で侮辱する歌詞を、アップテンポの音楽に合わせて流すという内容だった。
唐澤弁護士が動画に気付いたのは2024年末。投稿者は別の人を中傷する動画も公開しており、告訴を受けて捜査していた警察が知らせてきた。
唐澤弁護士はくだらない動画にあきれつつ、嘆いた。
「本当に、人生をかけてこのような誹謗中傷をする人がいるというのは、理解できない思いです」
◆投稿者を刑事告訴
そして、唐澤弁護士も、動画で人格を否定されたとして侮辱の疑いで投稿者を刑事告訴した。投稿者に呼び掛ける。
「複数の被害者が出ている。自分の行動に真摯に向き合ってほしい」
連載第2、3回は、唐澤弁護士への嫌がらせをあおるネット掲示板から現実社会の犯罪に発展してしまったケースを伝えます。第4回は、唐澤弁護士に、これまで面会した中傷の加害者について聞きます。第5回は、唐澤弁護士に関連して、嫌がらせを受けてきた大学院生の石渡貴洋さんに話を聞きます。
◇
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