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奈良公園の　シカさん

（天声人語）死者の声を聞く８月１５日

　名優として知られた森繁久弥さんは戦中、旧満州の新京放送局に勤めていた。日本の敗色が濃くなったころ、関東軍の極秘の命令で、特攻隊員の遺言を残す仕事をしたそうだ。ポロポロと涙を落としながら、６０人ほどの若者たちの勇壮な言葉を録音したという。

「青い海の底で」と題する一文に、森繁さんは記している。そのなかにひとり、おそらく永久に忘れられない隊員がいたと。長い沈黙があったのち、白皙の若者はマイクに向かって、重い口を開いたそうだ。

お父さん。いま僕はなぜだか、お父さんと一緒にドジョウをとりにいったときの思い出だけで頭がいっぱいなんです。何年生だったかな。おぼえてますか。弟と３人でした。鉢山の裏の川でした。２０年も生きてきて、いま最後に、こんな、ドジョウのことしか頭に浮かんでこないなんて……。

ポツンと言葉がとぎれてから、若者は言った。「何だかもの凄く怖いんです」。ハッと胸を刺されるような響きがその声にはこもっていた。

「僕は卑怯かも知れません…ね…お父さんだけに僕の気持を解ってもらいたいん…だ」。

あの戦争で、多くの人が死んだ。敵も味方も。兵士も民間人も。女も男も。なぜ彼らは、彼女らは、死ななければならなかったのか。それは避けられなかったのか。誰のせいか。何のためか。

どこかの青い海の底で、あの若者はいまも、死の恐怖に魂をおののかせている気がしてならない。森繁さんはそう書いた。

36歳、独身で管理職。毎月15万円を実家の母と兄へ仕送りしていた。兄は実家住まいなのに一円も家に入れない。

ある日、会社の給料日が変わり仕送りが遅れると母に伝えると、「じゃあ月30万に増やしなさい」と要求。断ると「引っ越し先は教えない。30万送らないなら絶縁」と脅された。

しかし私は既に知っていた。母と兄は兄の元カノのマンションに勝手に住み着いていることを――。元カノから泣きつかれ、一緒に暮らすことになった。

1週間後、母から「まだ振り込まないの？絶縁よ」と電話。私は「絶縁なら家族じゃないし仕送りもしない」と告げ、電話を切った。それから何度も着信があったが無視。

やがて母と兄は元カノの家から追い出され、さらに母は借金まみれ、兄は仕事のミスで損害賠償。私に金を無心するために30万を要求していたのだ。

最後は「絶縁はなしにしてあげる。一緒に暮らそう」とメッセージが来たが、「さようなら、元お母さん」とだけ返信しブロック。

今、2人は親戚の家で朝から晩まで働き、給料のほとんどを借金返済に回す日々。

私はというと、セキュリティ万全のマンションで自由な一人暮らしを満喫している――。