「――――やっぱり、過去、なんだろうね」
ベルはボソリとそう呟いた。大鐘楼からパレードを眺めていて、それが終わっても自分の境遇が理解できなかった。気が付けば街中を歩いていて、まったく見覚えのない街並みを眺めていた。
そう、見覚えがないのである。シルさんやリューさんたちと出会った『豊饒の女主人』。ミアハ様やナァーザさんがやっていた店。そして、自分たちの始まりであった教会すらも無かった。
自分たちが存在した跡がまったくないオラリアにとてつもない違和感を感じるとともに、とても自分が孤独に感じてしまった。
そして――――、ベルはバベルを見上げていた。
バベル――迷宮に真上にそびえ立つ50階建ての摩天楼施設。ギルド保有の施設で20階までは公共の施設や商業施設などが軒を構えている。そして、そのさらに上、オラリアでも有数のファミリアの神々が住み着いている『神様たちの領域(プライベートルーム)』となっている。
そんなバベルの脇でベルは上を、『神様たちの領域』に目を向けていた。
「――――――よし!」
辺りに響かない程度だか、確かに声に出して気合を入れたと思ったら、ベルは足に力を入れ――――、バベルの壁を走り上っていく。
端から見て足をかける所が見えないが、ベルはその限界突破したステータスを利用し、壁のわずかなとっかかりを足場として登って行ったのである。
そんな常識はずれなことを行いながら、ベルは壁越しながら『神様たちの領域』に足を踏み入れていく。
ここはバベルに一室。そこにはある存在が本を片手に椅子に座っていた。
だが、本を開きこそしていたが読んではいないだろう。窓から差し込む月明かりだけでは本の内容を照らすことが出来ていなかったからだ。それでもその存在は手元に本に目を向けていた。
「――――誰だ?」
突如、沈黙を破るように声を出した。しかし、部屋の中には他の存在はどこにも見当たらない。では誰に?数瞬の時間を置き、窓から風が入り込む。そして、月明かりを遮るように部屋の中に影が入ってきた。
謎の影と対してようやく本から目を離した。そして、二度は言わないとばかりに沈黙を続け、影の話しかけを待った
「…………ボクは、ベル・クラネルと言います。多分、未来のオラリアから来ました」
「――――そして、貴方の義理の孫でもあります」
そのことについて部屋にいた人物、【ゼウスファミリア】の主神、ゼウスは軽く眉を上げる程度の反応だった。
そして、ベルを手招きして部屋の中に入れた。
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「――ガハハハハハ!!そうかそうか、未来ではあのヘスティアを嫁にしただけでなく、ハーレムまで作ってしまうとは、さすが未来の儂の孫じゃ!」
「アハハハハ、まぁ、うん、気が付いたら、なんというか、うん」
部屋に招かれたベルだったが、気が付いたらゼウスと向かい合ってお酒を飲んでいた。そして、遠目で見た威厳のある服装をしているゼウスだったが、そこにいるのは自分と共に生活していた祖父そのものであり、少し幼少期に戻った気分になった。
「――あの、ゼウス様?」
「ん?なんじゃ、ってか儂の孫なんじゃろ?敬語なんぞいらんから普通に話せ」
「――んじゃ、お祖父ちゃん、ボクが本当に嘘を言っていないと思わないの?」
「あん?神に嘘が通じないのは知ってるだろう?」
「それは、まぁ……」
「それに、長生きしてるんじゃ、目を見れば本当かどうかくらい分かるわい。……頼るものもなく、暗闇の中を彷徨い、かすかに見えた光に縋るような者がわざわざ嘘などつきにくるかっての」
そこまで言うとゼウスは手を伸ばし、ベルの頭に手を置いて撫でてやる。
「つらかったな。頑張ったな。よくやった。さすが儂の孫じゃ」
「~~~~ぅん」
涙は堪えることができたが、声は誤魔化すことが出来なかった。
どうしてもその嗚咽は止めることが出来なかった。
事実、今のこの街には自分だけでなく、自分たちがいた痕跡が何一つないのだ。
それがどれだけ心細かったのか。
なんの関わり合いのないはずのゼウス(祖父)に会いに来てしまうほど縋りたかったのだ。
自分は確かに強くなっただろう。でも、その強さは仲間がいてこそだと思えた。
そして、今祖父に孫と言って貰えたことで覚悟が決まった。
「――――お祖父ちゃん、なんでボクがここにいるのかは分からなかったけど、決まった。覚悟を決めた」
「んん?」
「ボクは、未来を変える!だからお祖父ちゃん・・・・・・・・・・・・・いや、ゼウスファミリアの主神、ゼウス様!――――黒竜の討伐は未来で失敗しました。だから、ボクをクエストの時に同行させてください!」