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ここは女の声を聞かない社会のようだけれど、いつか私たちはYES MEANS YES を手に入れよう

1:新井祥子さんの刑事裁判が始まった


 群馬県草津町町長から性被害を受けたと虚偽の告訴をした新井祥子さんの刑事裁判が、12月18日、ようやく始まった。(※虚偽告訴については新井さん自身が認めています)
 新井さんが虚偽告訴と名誉毀損の罪で在宅起訴されたのは2022年10月31日、あれから2年、この日を待っていた。新井さんが公に姿を現して何を語るのか。ずっと待っていた。

 新井祥子さん、1969年生まれ。草津町史上初、そして唯一の女性議員だった人だ。
 私が新井さんを知ったのは、元都議会議員でフェミニストの三井マリ子さん等の運動だった。町長からの性被害を訴えた女性議員が住民投票でリコールされるかもしれないという。国会議員の女性割合が少ないのは知られているが、実は地方に行けば行くほど、そこは昔ながらの男の世界。地方議会の惨状を知る女性政治家たちが熱心に新井さんを支援していた。

 「性被害があったかどうか」は町長と新井さんにしかわからない。それでも/だからこそ、性被害があったと訴えた女性を第三者がリコールするのはどうなのだろう。そういう観点から私は草津町議会を傍聴し、そこで見たことを記事にした。その記事は想定以上に多く読まれた。

 そこから先に起きたことは、私にとっては悪夢のような話でもある。今ここで詳細には記さないが、性被害者にとって、そして性被害者支援者にとっても、「新井祥子」という名前は「私たち」を深く傷つけ、分断させ、怯ませ、苦しむものになった。もちろん、一番の被害者は虚偽の告訴を受けた町長自身であることは言うまでもない。

 新井さんはいったい何故虚偽の告訴をしたのか。
 告訴をしたばかりでない。日本外国特派員協会で記者会見までするなど、大胆な行動をしたのは、いったい何が目的だったのだろう。それは裁判で明らかになるのだろうか。
 そして一番考えなければいけないこと。
  では、「私たち」は、どうすればよかったのか。

 新井祥子さんの虚偽告訴は、被害者の声を信じる”WithYou”の運動を揺るがしかねない大事件であった。だからこそ、これから半年間行われる裁判を、できるだけ傍聴し、この「事件」を私なりに見つめる必要を感じている。第一回の公判内容も私には相当に衝撃だったが、傍聴記は5月の結審した後に改めてまとめていきたい。
 私は私の責任においてこの事件に向き合うしかないのだと思っている。「なかったこと」にするつもりもなく、そして「なかったこと」にできる事件でもない。あまりにもダメージの大きな事件だからこそ、丁寧に、しっかりと向き合っていきたいと思う。

2:松本人志さん「みんなで楽しんでくれればという思いしかなかった」


 今年も多くの性被害事件があった。
 一つ一つが重く辛いものだが、性犯罪の裁判を巡るニュースには、言葉を失うものがあまりに多かった。
 富山地裁、実娘との性交を認めつつ無罪を主張する父親。
 大阪地裁、元検事正による性暴力。初公判は事実を認め謝罪したにもかかわらず、突然無罪を主張。
 大阪高裁、一審の有罪を翻した滋賀医大生の逆転無罪判決。
 ・・・12月だけでこれだけの重たいニュースが流れてきた。

 特に、大阪高裁が出した滋賀医大生の無罪判決は残酷だった。
 被害者の「やめて」という言葉を「卑猥なやりとり」として認めたことは、言葉を失った。
 男性たちは性交の様子をスマホに録画していたが、そこに積極的な同意はなかった。高裁判決では「(女性が)動画の撮影をやめるよう言わなかったのは、言えなかったからではなく言いそびれたようなものである可能性があり」とした。女性は裁判で「撮らないでほしいと思っていたが、それまでも(いやだと)言っていたのに撮られたので諦めた」と証言していたというのに。そしてそうやって撮られた動画が、性加害の証拠ではなく、「同意」の証拠とされたことは恐怖でしかない。

 なぜこんな判決が出されてしまったのか。そんな折り、復帰を語る松本人志さんのインタビューを読んだ。
 松本さんは冒頭で、問題になった「飲み会」についてこう話していた。

飲み会について言えば、僕としてはみんなで楽しんでくれればという思いしかなかったです。でも、後輩たちにも気を使わせていたのかもしれないし、嫌な思いをした方がいたのかもしれないという部分はある。

(Yahoo!ニュース『松本人志が語る今の思い。そして見据える今後』)

「みんなで楽しんでくれればという思いしかなかった」
という松本さんは、きっと本気で「みんなを楽しませている」と思っていたのだろう。だからこそ、女性からの告発は「裏切り」に感じたのかもしれない。

 滋賀医大生の判決文、一審、二審のもの両方を読みながら、もしかしたらこの医大生も松本さんと同じだったのではないかとと思う。
「オレが楽しいのだから、みんな楽しい」
 医大生だけではない。無罪を主張する父親も同じだ。無罪を主張しはじめた元検事正も。なぜ訴えられなければいけないのか? だって、オレは楽しかったのに。自分から見える世界は、十分に平和で、十分にエロティックで、十分に楽しかったのだと。

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大阪高裁 

3:No Means No の刑法の難しさ


 2023年、日本の性犯罪刑法はNo Means No 型の刑法を採用している。

「同意しない意思を形成したり、表明したり、全うすることが難しい状態」

 これは不同意性交等罪の一文だ。
 簡単に言えば、Noを考えられる状況になかったり(酔っ払っていたりなど、不意打ちされるなどで)、Noを表明できなかったり(意識がなかったり、恐怖でフリーズしていたり、不意打ちされたり、相手の社会的立場が強かったりなどで)、Noを貫けない状況(意識がなかったりなどで)での性交は罰せられる。

 それでも、実は No Means Noの刑法では本当の意味では被害者の立ち場に立つことはできないと考えられている。Noを言えなかった理由を立証しなければいけないのが被害者である以上、「オレが楽しいんだから、みんな楽しいはず」という方向で認知が歪んでいる加害者を相手に闘うのは容易なことではないから。
 12月に報道された一連の裁判の経過と結果、そして週刊誌で明らかになった松本さんの「飲み会」も、刑法改正前に起きていることではある。それでも、私たちは「そういう社会」に生きているのだ。
 女の「No」が徹底的に軽んじられる社会に。女の意思を伺おうともしない認知の歪みから見える世界は、いったいどれだけ「楽しい」のだろう。

4:YES MEANS YESを手に入れるまで


 行為を提案する側が積極的にYESを求めたかどうかが問われる刑法、いわゆるYes Means Yes型の刑法は、アイスランド、スウェー デン、デンマーク、スペイン、フィンランドで運用が始まっているという。「同意」という概念を徹底的に紐解いていけば、Yes Means Yes型の法律が相応しい・・・という流れが、世界的には進んでいる。

 「同意」について、私たちはすごく難しく考えがちだ。特に性的同意にの話になると、「だったら、セックス一回ごとに契約書を結べばいいんですね?」という類の挑発をしたがる人は少なくない。

 でも、私たちは毎日、1日に何十回と「同意」のやりとりをしている。
「ご飯、一緒に食べません?」「そのペン、貸してもらえません?」「ちょっと、その本、貸してもらえません?」「今日、飲みに行きません?」「唐揚げにレモンかけていいですか?」(『カルテット』です・・・わかる人にしかわからないネタでゴメンナサイ)・・・などなど・・・無意識に相手に同意をたずね、無意識にイエス・ノーを発信している。
 そしてたとえば、「唐揚げにレモンかけていいですか?」と聞いたとき、相手が曖昧な表情をしたり、返事をしなかったり、聞こえないふりをしてきた時は、「あー、この人、レモン嫌いなんだな〜」と察することすらしている。ノーとは必ずしも言葉で発せられるものではなく、仕草でも理解すべきことであることを、社会通念上、知っている。

 それなのに、である。いったんセックス、いったん女と男、という世界になると、急に女の話を聞かなくなる男がいる。同意を確認しようともせず、あたかも「あ・うん」の呼吸でセックスをするものだと思っているのである。相手が不安に感じていたり、怖がっていたり、嫌がっていても、なんとかすればなんとかなる、むりやりレモンをかければ唐揚げを一緒に楽しく食べられる・・・と。
 だからこそ。
 「それは認知が歪んでいます」
 そんな風に私たちは一つ一つやっぱり声をあげていかなくてはいけないのだろう。「私の言うことをまったく聞くつもりがない相手に、今さら動画を撮らないでと言ってもきっと止めないだろう・・・」と諦めた絶望を、「同意の証拠」と取られてしまうような社会で、いちいち私たちは「唐揚げにレモンをかけてもいい?」と聞かなければいけないんだよ! と声をあげていかなければいけないのだ。
 同意がないまま、そもそも同意を取ることなく、一方的に無断でレモンをかけてばくばく食べて「美味しかったー! え? 本当はレモンをかけたくなかったの? は? なんで? だったら先に言えよ!」とぶち切れる男は論外だが、そんな男の気持ちを肯定する司法など、徹底的に批判してよいのだ。

 相手の積極的なYESを確認する。
 そんなYES MEANS YES型の性犯罪刑法が、ほしい。
 「どうせ、私の声など聞いてもらえない」
 そんな絶望においておかれる女たちをこれ以上増やさないために。

5:フラワーデモは2025年も続きます

 2025年1月11日フラワーデモを行います。残酷な事件の被害者たちに#WithYouと#MeTooを。そしてYES MEANS YESの刑法を目指すための声を。
    場所:東京駅前行幸通り
 日時:2025年1月11日 PM7:00〜 花を持って集まりましょう
 ※花は被害者への#WithYouの意思表示です

今年もあと数時間。
急いで思いのたけを記していますが、皆さんよいお年を、です。


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北原みのり 8月9日に東京医大等入試差別問題当事者と支援者の会を立ち上げました。サポートいただいた場合は当事者支援のための活動と弁護士費用に全てあてます。よろしくお願いします。
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