熊本 記録的大雨で土砂堆積「土砂・洪水氾濫」に似た状況か

記録的な大雨で増水した川沿いの住宅街に大量の岩や土砂が流れ込んだ熊本県八代市では、14日も厳しい暑さの中、撤去作業が進められています。
この土砂災害について専門家は、土石流によって流れ下った土砂が川にたまり、大雨によって再び押し流されたことで住宅地に堆積した可能性があると指摘しています。

およそ180世帯402人が住む八代市興善寺町では、今月11日早朝、集落を流れる大谷川沿いの住宅街に大量の岩や土砂が押し寄せました。

現在も高さ1メートルほどの土砂が堆積したままになっていて、14日も厳しい暑さの中、業者が重機で土砂を撤去したり、住民が自宅に入り込んだ土砂をかき出したりしていました。

市によりますと、13日から土砂の撤去を本格的に行っていますが、被害が広範囲にわたっているため、撤去が完了するめどは立っていないということです。

地区に住む平田信也さんは「避難を考えたときには家の前にすごい勢いの濁流が起きていて、2階に避難することしかできませんでした。少しずつ片付けが進んできましたが、生活を取り戻すにはまだまだかかりそうです」と話していました。

約70年暮らす住民 “濁流を目の当たりにして恐怖を感じた”

熊本県八代市興善寺町の集落を大量の岩や土砂が襲ったのは今月11日の早朝でした。

この地区で70年ほど暮らす西本憲治さん(71)は今月11日の午前4時ごろ、自宅前の大谷川があふれて音を立てて濁流となっている様子を目の当たりにして恐怖を感じたといいます。

濁流が自宅にまで押し寄せてきたため、ドアを押さえて土砂を食い止めようとしましたが、命の危険を感じ、勝手口から外に出て避難所に向かいました。

このほかにも周辺の住民がスマートフォンで撮影した映像には、周辺の道路が川のようになり、濁った水が激しく流れている様子が映っています。

西本さんは「当時は怖くてもう終わりだと思った。あの恐ろしさは体験しないと分からない。ふたたび自宅に住めるめども立たず、どうしたらいいのか何も考えられない」と話していました。

川にたまった土砂が大雨によって再び押し流された可能性

土砂災害に詳しい東京農工大学の石川芳治名誉教授は、熊本県の八代市興善寺町周辺を上空から撮影した映像を分析しました。

その結果、住宅地の上流部分で高さおよそ100メートル、幅およそ30メートルにわたって「表層崩壊」が発生し、土石流として流れ下ったあと、いったん川でたまり、大雨によって再び押し流された可能性があることがわかりました。

石川名誉教授は土砂はおよそ700メートルにわたって流れ下った可能性があると分析していて、その背景に山と住宅地を隔てるように通る九州自動車道と「ボックスカルバート」と呼ばれるトンネルの存在を指摘しています。

ボックスカルバート周辺にたまった大量の土砂が、川をせき止めた結果、大雨によってあふれ、住宅地での土砂の堆積につながった可能性があるとしています。

また、こうした状況は大量の土砂や流木で川底が上がり水があふれる「土砂・洪水氾濫」に似ていて、崩壊した土砂の一部が、依然として山にたまっているおそれもあると指摘しています。

石川名誉教授は「雨が強まると再び氾濫が発生し、たまった土砂が押し寄せてくるおそれがある。早めに土砂を取り除くなど対応が必要だ」と話しています。

「土砂・洪水氾濫」とは

石川名誉教授が「近い現象が起きている」と指摘した「土砂・洪水氾濫」は、川の上流に流れこんだ大量の土砂や流木が下流に堆積することで川底が上がって氾濫し、周辺の広範囲に被害をもたらします。

2011年9月の紀伊半島豪雨では和歌山県那智勝浦町の那智川で、2017年7月の九州北部豪雨では福岡県朝倉市の赤谷川で、2018年の西日本豪雨では広島県呉市の大屋大川や坂町の天地川などで発生し、大きな被害がでました。

去年、能登半島を襲った豪雨災害の際、輪島市を流れる塚田川でも発生しています。

石川名誉教授は、土砂が大量に堆積している状況は過去の土砂・洪水氾濫の被害に似ていると指摘しています。

国土交通省は「今回のように大雨特別警報が発表されるような記録的な大雨の際、渓流やがけ、その下流では土砂災害警戒区域に限らず、被害が起きる可能性がある。十分注意してほしい」としています。

あわせて読みたい

スペシャルコンテンツ