「強制連行」と記載の看板→撤去 奈良県天理市が旧海軍基地跡を〝歴史遺産〟として保存へ

柳本飛行場跡地に残された防空壕=奈良県天理市
柳本飛行場跡地に残された防空壕=奈良県天理市

先の大戦末期に建設された奈良県天理市の旧大和海軍航空隊大和基地(通称・柳本飛行場)跡地にある防空壕(ぼうくうごう)2基について、市が民間から買い取り、歴史遺産として保存する方針を決めた。跡地には戦後、市が平成7年、「朝鮮人労働者が強制連行された」といった記載がある説明板を設置していたが、26年に「根拠がない」として撤去した経緯がある。公有化後に設置する説明板は、簡素な内容にとどめる予定だ。

現在は田畑に囲まれている防空壕=奈良県天理市の柳本飛行場跡
現在は田畑に囲まれている防空壕=奈良県天理市の柳本飛行場跡

市によると、柳本飛行場は昭和19年に建設され、飛行場用地は約300万平方メートル。幅50メートル、長さ1500メートルの滑走路があったといい、現在は滑走路の一部が道路として活用されている。

また、田畑に囲まれた跡地には長さ20メートル、高さ2・5メートルの防空壕が2基あり、農具置き場として利用されている。

市と市教育委員会は平成7年、跡地の一角にある市の公園に、飛行場の規模や建設工事などに関する記述のほかに「工事には多くの朝鮮人労働者が動員や強制連行によってつれてこられ、きびしい労働状況の中で働かされた」「『慰安所』が設置され、朝鮮人女性が強制連行された」などと記載した説明板を設置した。

だが、26年に説明板を巡り市民から抗議や指摘を受け、市は「『強制性』の点を含めて、市の公式見解と解されるような掲示はできない」と判断、説明板を撤去した。

市は今年で戦後80年となることから、跡地のうち民有地にある2基の防空壕とその隣接地について、「市の歴史的財産としてきちんと残す意義がある」として、買い取る方針を決めた。

周辺の土地の調査費用として今年度の一般会計補正予算案に70万円を計上。今後は防空壕までの進入路や駐車場も整備するほか、朝鮮人の強制連行といった記載は外し、飛行場の造成時期や規模などを記した説明板を設置する予定だ。

説明板の撤去に反対してきた市民団体「天理・柳本飛行場跡の説明板撤去について考える会」代表の高野真幸さん(74)は「飛行場が造られた理由や歴史的背景も説明する必要があるのでは」と話す。

一方、並河健市長は「説明板記載内容は、わが国全体の歴史認識に関わる事項を含み、市として政府見解等を超えて基礎自治体の立場から独自認識を示す考えはない」とコメント。「今は牧歌的な田園風景の中にも戦争中には飛行場がつくられていたという歴史を忘れてはならない、そして戦争は決して繰り返してはならないという意味を込めて防空壕を保存する」としている。

政府は令和3年、先の大戦中に行われた朝鮮半島から日本本土への労働者動員について「移入の経緯はさまざまであり、『強制連行』『連行』とひとくくりに表現することは適切ではない」とする答弁書を閣議決定している。答弁書では、国民徴用令に基づく徴用・募集・官斡旋(あっせん)により行われた労務について、1932年発効の「強制労働ニ関スル条約」で定義された「強制労働」には該当しないとして、「これらを『強制労働』と表現することは適切ではない」とした。

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