(社説)広陵高校辞退 暴力を根絶するために
暴力は許されない。スポーツの分野もけっして例外ではなく、教育の一環である学校の部活動ではなおさらだ。根絶へ向けて何ができるか、改めて考えねばならない。
開催中の全国高校野球選手権大会で、広島代表の広陵高校が、1回戦に勝利した後、出場を辞退した。部内の暴力にかかわる問題が理由で、大会途中に不祥事でチームが去ったのは初めてだ。
学校側などによると今年1月、1年生の部員が部の決まりに反して寮内でカップラーメンを食べた。これを上級生がとがめ、暴力を振るった。報告を受けた日本高校野球連盟は厳重注意とした。
厳重注意は、日本学生野球憲章に基づく規則では原則非公表で、高野連や学校からの発表はなかった。一方、甲子園大会の開幕直前、SNSでは加害側の人数などに関し、学校側が認定した内容と異なる情報が拡散。3月に転校した被害者の元部員の保護者は「(学校側が言う)事実関係に誤りがある」とし、元部員側と学校との協議が5月まで続いたことがわかった。
別の元部員も、2年前に監督やコーチらから暴力を受けたと訴えている。学校側は、校内調査では確認できず、今年6月に第三者委員会を設置したことを明らかにした。
暴力やいじめに関しては、被害者と真摯(しんし)に向き合う姿勢が不可欠だ。
広陵高校の堀正和校長は、1月の事案について「なぜ(被害者側と)お互いが了解し合えるような対応、対処をしなかったのか」と悔いた。「指導体制の抜本的な見直しを図る」とも強調したが、その出発点は関係者が納得する徹底した調査と説明だろう。
高野連と、夏の甲子園大会を共催する朝日新聞社は、対応を考えねばならない。
学校教育への配慮から、不祥事にはまず各校が対応するのが基本だ。広島県高野連は広陵高校から継続して報告を受けるとしているが、こうした取り組みを深めつつ、より透明性の高い仕組みを目指してどんな手を打てるか。高野連とともに責任と役割を積極的に担っていきたい。
学生野球憲章は「一切の暴力を排除し、いかなる形の差別をも認めない」とする。スポーツ基本法も先の通常国会で改正されて「暴力等の防止」が明記され、性的な言動やインターネット上の誹謗(ひぼう)中傷などが具体的に示された。
今回の一連の問題でも、不確かな情報や多くの個人名がSNS上で飛び交い、人権侵害の連鎖が懸念されている。ネットにまつわる課題への対策のさらなる検討が急務だ。