こわれるまでは#2
【乾杯する】
旅行にきている。
いま、列車に揺られている。私は列車に揺られていると文章を書きたくなる。
まだまだ旅行は始まったばかりだ。行きの列車は私を私の知らない街を見せて運行している。
都会から離れて三十分。田んぼや森、川などの美しさを見せてくれている。たまに不自然なほど馴染んでいない道がある。と、思ったらすぐさまキラキラと透き通った川。
私の、知っているはずなのに知らない地球を、この列車は私に伝えている。
私はだいぶ寝不足な状態で旅行に挑んだ。おそらく三時間ほどしか眠っていない。
列車で眠ろう。そう思っていた。
しかしこれはどういうことだろう。私は一睡もせず、もう目的地に着こうとしている。
続く田んぼ。山の葉の一枚一枚。意味がわからないほど大きな庭。ガラスを割ったような川の流れ。少なくなっていく集合住宅。ここはどこだろう、と思っているうちに過ぎていく「ここ」。
脳内が爆発しそうなほど情報が視覚から入ってくる。興味がさまざまなところへ移り、あれはこれはと思っているあいだに下車駅に到着した。
もう旅行は始まっている。続きはまた良きタイミングで書く。
城に来た。というより、城の前まで来た。城までの道のりが登りが多く過酷で、城に入る余裕はなかった。
眺めていると、なんとも美しい城なのだった。竜宮城のようだ。竜宮城は見たことないが、たぶんこんな感じ。外壁が白く、瓦が黒い。シンプルだ。
見上げる。パッと目にうつる。見回すほど大きな城ではない。それがいい。
私は売店でソフトクリームを買った。バニラにしようとしたが、売店の目の前に立って目に入った「クッキーアンドクリーム」に釘付けになってしまった。
ソフトクリームのクッキーアンドクリーム?
なんだそれは。私は初めて見た。次の瞬間、私の口からは「ソフトクリームのクッキーアンドクリームをください」という文章がまろび出てきた。
ぺろり。
城を見る。
青い空。白と黒の城。手元にはクッキーアンドクリームのソフトクリーム。
甘くしびれる。じゃりっとする瞬間、「当たったな」と思う。
私が求めていたソフトクリームがそこにあった。クッキーアンドクリームは城の色と同じだ。綺麗だ。
十分もしないうちに食べ切った。暑かった身体はいくぶんか冷えて心地よく感じた。
ぺろり。
くちびるを舐める。甘ったるい味がした。
ふふふ。
私は余韻を楽しむ。この城のこと、ソフトクリームのこと、今日のこと。
私はこの旅行を楽しんでいる。今日と明日が素晴らしい日になる。そんな予感がする。
掴めそうで掴めない、幸福感が私を包んでいる。
ありがとうと言わざるを得ない。
白黒の城とクッキーアンドクリームのソフトクリームに、乾杯しよう。
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