グーグルマップで噓の口コミ、調査費多額で勝訴しても大赤字…ネット中傷裁判の構造的問題
歯科医師側は判決を不服として控訴。7月の大阪高裁判決は慰謝料を計40万円に増額したものの、調査費用は「実際に支出した額の半分」(27万5千円)とした。賠償命令の総額は計74万2500円で、歯科医師側は上告した。
■調査費用の賠償、全額認めるケースも
調査費用を一部しか認めない判決は珍しくないが、近年は全額を「損害」と認めるケースも出てきている。
東京高裁は2年1月、調査費用について「発信者情報の開示を得なければ損害賠償の請求ができず、必要不可欠な費用」と指摘。「全額を不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当」と判断した。
東京地裁も5年4月、ネット投稿に対する慰謝料額を10万円と認定しつつ、それを大きく上回る調査費用66万円について全額を損害と認めた。
■加害数分、回復には多大な時間
ネット中傷は社会問題となり、被害を減らすための制度作りは国レベルで進んでいる。今年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法は、事業者にネット投稿の削除申請への対応・回答という手続き的義務を課した。ただ、グーグルマップの口コミは対象外で、抑止力という点からも損害賠償請求訴訟の重要性は変わっていない。
歯科医師の代理人を務めた若松陽子弁護士(大阪弁護士会)は、ネット中傷について「加害者側は数分で書き込めるのに対し、被害者側は虚偽だと証明するのに多大な時間と費用、労力を強いられる」という構造的な問題があると指摘する。
その上で、せめて適切な賠償額が認められなければ中傷はなくならないとし、「裁判所は形式的に過去の判例を当てはめて調査費用を低く認定するのではなく、新しい型の権利侵害として被害回復を図ってほしい」と訴えている。(藤木祥平)