断末魔の主 +【お題箱】
ペンギンです。
腰が痛くて整骨院に通ってます。
数人が座れる待合室があって、カーテンで仕切られた奥に同じく数人分のベッドがある施術室。
その日は施術室で僕の隣にあとから来た患者さんが、ものすごく腰を痛めている人みたいで、整復師さんにひと押しされるごとに「んんんぐぼおおおおああぁぁぁあああ!!!!!!」とすごい声を出していました。
もう、他のことなんか一切考えられないくらい凄まじい断末魔。
当然、施術室中に反響していたし、待合室にもめっちゃ響いていたと思う。
整骨院の施術は、ぐいぐい押されるというよりも患部の症状を見ながらじわじわ押す力を強めてもらうような施術です。
なので断末魔も、押されて一発「アーッ!」じゃなくて、じわじわ押されてじわじわ声もデッカくなっています。
押され始めは「んんんんん」で、押され方が強くなると「ぐぼおおお」で、一番押され切っている時に「ああああぁぁぁあああ!!!!!!」です。
毎回「んんんん」から始まって、「ぐぼおお」で離陸態勢に入り、「あああああぁぁぁあああ!!」で飛び立つ。
で、整復師の手が腰から離れると、「はぁ…」と一旦着陸して息をつく。
これが数秒のスパンで何十回もつづく。
本人もさぞかししんどいだろうが、聞いているだけのこっちもしんどい。しんどいけど、でもなんだかクセになる。でもしんどい。
順番的に僕の方が先に施術が終わるはずなので、早く抜け出したい気持ちになります。
そしてようやく、僕の施術が終わりました。
そそくさと施術室を出ようとすると、ちょうどそのタイミングで断末魔の人の叫びが終わりました。
腰の施術が終わったのか、慣れたのか、あるいは気を失ったのか。
理由が気になるものの、バッと振り返るのもなんだか気がひけるので、静かになった施術室を僕はあとにします。
待合室に戻ると、そこには施術を待つ患者さんが何人かいました。
そしてなぜか、全員が僕の顔を凝視している。
僕は、すぐにその理由を察しました。
ああ。
この人たちにも断末魔は聞こえていたんだ。
そして、断末魔が終わってすぐに部屋から出てきたこの僕が、あの断末魔の主だと思われているんだ。
もちろん誰も口に出して「すごい声でしたね」とは言わないし、僕も何も聞かれてないのに「僕じゃないです」とも言えません。
でも視線は感じる。
さっき僕が彼に対して感じていた「奇異」を、まさか僕が一身に受けることになるとは。
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お題箱に寄せていただいたお題を紹介します。
今日は「ド忘れ」について。
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