337日目 罠と具現
337日目
すっきり爽やかな目覚め。ロザリィちゃんのために働くことに喜びを感じる。今日もロザリィちゃん(と、ついでにそのほか冒険者)のために頑張ろう。
身支度を整えた後は厨房へ。やっぱりマデラさんはすでに起きていて朝餉の支度をしていた。指示を仰いだところ、『今日は掃除も含めていつもどおりやること』と言われたのでそういうことに。あ、早く終わらせればその分は自由時間でもいいって。
そんなわけで風呂掃除に。なぜか天井付近に泡の後を確認。たぶん、ポポルとかフィルラドとかがテッドやおっさんと共にシャボンカーニバルでも開いたのだろう。掃除する側のことも考えてほしいものだ。
女風呂も覗いたけど、なぜか掃除する必要がないくらいにぴかぴかだったので湯を張り替えることくらいしかできなかった。たぶんヴィヴィディナがやったんだろうけど、俺の仕事を奪うとか、なんかちょっと悔しい。
あ、入浴剤は今日もハートフルピーチの香りの奴にしておいた。ロザリィちゃんにはこれで身も心もリラックスしてほしい。
風呂掃除の後は朝餉の支度。驚くべきことに、この段階でアルテアちゃんは起床していた。ミニリカやルフ老といった老害と同じくらい早いってかなりすごい。
どうしたのかと思ったら、『……ここのベッド、あまりにも気持ち良すぎて寝過ごしそうになる』って葛藤の表情でつぶやいていた。プライド的に惰眠を貪ることを許せないアルテアちゃんは、結局悶々としてこんな早い時間に起きてしまったようだ。
『別にゆっくり寝ていても大丈夫ですよ。わたしかリアが起こしに行きますから!』ってマデラさんがグランマ感あふれる笑顔で言ってたけど、これってもしかして暗に『お前は女部屋に行くんじゃない』って俺に言っていたのだろうか?
朝餉の支度は比較的早めに済ませることができたため(あとポポルとかは遅起きなため)、今日はみんなと朝食をとることができた。『働いている──くんもかっこいい♪』ってロザリィちゃんが頭をポンポンしてくれてちょう幸せ。
アルテアちゃんとフィルラドは『普段からこれくらい真面目な態度を取っていればな……』、『お前、なんかキャラ違い過ぎね?』って言っていた。俺ってばいつも通りに仕事しているだけなのにね。
そうそう、今日は久しぶりにちゃっぴぃを膝にのせて『あーん♪』って飯を食わせてやった。ついでに会話の輪に入りたそうにしていたリアにも同じようにしてやった。『せ、せっかく、お友達が来てくれたんだから気にしなくていいよ……!』って言ってたけど、あいつ、変なところで人見知りだから始末に負えない。
『昨日から思ってたんだが、その子も従業員なのか?』とアルテアちゃん。『冒険者の子供で、一応は宿屋のサービスの一環として預かっている。実際は見習いみたいなものだよ』と教えたところ、『……その、がんばれよ』ってアルテアちゃんはリアの頭を撫でていた。いったいなぜだろう?
『俺はもっと小さい時からもっとたくさんの仕事を泣きながらこなしていた』って言ったら、『そういうお前が近くにいるからこそだ』ってアルテアちゃんはリアを抱きしめた。フィルラドたちも強くうなずくっていうね。本当にわけがわからない。
朝食の後は洗濯物や衣服の修繕なんかを行う。マデラさんは買い出しと地元の会議に出席するため留守。まあ、午前中は客は来ないし、俺一人でも十分回せる。
午後もやっぱり受付で宿帳や書類とにらめっこ。女子たちとリアは日当たりのいい席でおしゃべり。ポポルとフィルラドとエッグ婦人とちゃっぴぃとヒナたちは外に散歩に行った。なんだかんだで和やかな時間が流れていたと思う。
んで、おやつの時間ごろ──ちょうど新規客の三人組のおねーさん&おねーさまの相手をしていた時に魔力の気配が。開け放たれた扉の先にいたのはジオルドとクーラス。『久しぶりだな!』、『マジで立派な宿屋だな!』と、二人はウチの外観に圧倒されていた。
あの二人も元気そう。私服のチョイスは可もなく不可もなく。ただ、魔系らしさとオリジナリティを兼ね備えていて、めっちゃ似合っていた。
『聞いたぜ、高級な部屋を貸してくれるんだろ?』とクーラス。『あのケーキの作り手のお菓子が食べられるんだろ?』とジオルド。何気なくあの二人、今まで来た誰よりも宿屋を楽しもうとしていたと思う。
ここでちょっと面白いことが。俺とフレンドリーに話し、かつまだ若いのに高級な部屋を借りられるということが聞こえたのか、先ほどのおねーさん&おねーさまが『あの二人、もしかしてすごい人たちなの……?』ってジオルドとクーラスを熱い瞳で見つめていた。
それに気づいた二人は、なんかいきなりキリッとしだして、『ふう……今日も強敵との戦いだったな……』、『ふっ……あの程度、俺たちにかかればなんてことはない……そうだろ?』とそれっぽく話し始めた。
で、『へい旦那。今日もいつものを頼む。俺ァ、アンタの飯が一番好きなんだ』、『おっと、代金はツケで頼むぜ? 俺たちと旦那の仲だろ?』などとなれなれしく肩を組んでくる始末。
いったい誰が旦那だ。こいつら、必死過ぎて逆にみじめになってくる。
なお、『よう! 早く一緒におやつのケーキ食べようぜ!』、『おいおい、可愛い彼女をほったらかしてないでこっちこいよ!』とポポルとフィルラドが声をかけたため、あいつらの威厳はあっという間に崩れ去った。あと、『きゅーっ♪』ってちゃっぴぃに抱き付かれたクーラスは後で呪っておこうと思う。
『……ただのお子様ね』、『あっちはまともそうに見えてロリコンね』、『あらぁ、意外と可愛くていいじゃない?』っておねーさん&おねーさまには言われていた。ジオルドとクーラスはむせび泣いていた。
こんなもんだろうか。なんだかんだでジオルドはマデラさん特製ケーキを楽しみ、クーラスはクーラスで高級宿屋のお部屋に満足していたと思う。宴会の時も忙しく働く俺をしり目にめっちゃ楽しんでいたようだし。
あ、書き忘れたけど、二人は『これ、つまらないものですけど。今日からお世話になります』ってマデラさんに菓子折りを渡していた。クーラスの地元の銘菓らしい。『あらまあ、気にしなくったってよかったのに!』ってマデラさんは笑顔。
ボソッと『なんでこんなにまともな子たちが、──の友達やってるんだか……?』って呟いていたのを俺は聞き逃さない。親からのひどい偏見に悲しみを隠せない。
今日も仕事が終わった後に風呂入って見回りをした。残念ながら話す時間はあんまり取れず。ただ、ジオルドもクーラスも部屋に案内した時にベッドにダイブしたのだけは書いておこう。
あ、書くまでもないけど、ロザリィちゃんは今日もプリティで、『おしごと、おつかれさまっ!』っておやすみなさいのキスをしてくれた。もう、これだけで一日の疲れが吹っ飛んで天国に行きそうになるよね、うん。
寝よう。どうせ春休みはまだあるのだ。書くことなどこれから否でも増えてくる。
そして、俺の予想が正しければ、今日が俺の安眠最後の日だ。この流れならいやでもそれがわかる。
一人で寝るのはちょっと寂しいけど、それがこんなにも尊いことだとは。せいぜい今はこの静寂をかみしめることにしよう。おやすみにりかちゃん??歳。