335日目 連射と呪
335日目
ドアの下の隙間にメッセージカードを発見。そのまま写しておく。
『本当に楽しかったわ! 話には聞いていたとはいえ、正直どんな人なのかすごく不安だったんだけど、一緒に歌ってみて、ロザリィみたいなアレな娘を任せられるのはあなたしかいないって感じたの。次に会えるのがいつになるかはわからないけど、また一緒に歌いましょうね! その時はもちろん、みんなで歌うってことを忘れないように!
それじゃあ、体に気を付けて、勉強頑張ってね! 生活能力のまるでない妹だけど、できればこのまま面倒を見てくれるとお姉さんはうれしいかな。ロザリィのこと、よろしくお願いします。
【リティア】
P.S たぶんあのこ、あなたの夢魔のぬいぐるみを差し出せばなんだってしてくれると思う。我が妹ながら、昨日はドン引きするレベルでぬいぐるみに夢中になってたわ。
あと、【ロザリィの部屋のチェストの下から二番目の左側】。姉が許可します。好きにしてください。未来の義弟へのささやかなプレゼントです。我が家に遊びに来た時のために覚えておくといいかも?
ちなみに、そこの引き出し二重底になっているから! 買ったはいいけど一度も着たことのないすんごく過激なのがそっちに入っているわよ!』
今日は普通に仕事のため、いつもと同じくらいに起床。身支度を整え部屋を出ようとしたところ、メッセージカードを発見。どうやら義姉さんはすでに旅立ってしまったらしい。まだ夜明け前だというのに、何をそんなに急いでいたのだろうか。
たぶん、俺が起きるのとほぼ入れ違いになってしまったんだろうと思う。きっと今頃歌手への道を一歩一歩歩んでいるに違いない。
起床後はマデラさんのところへ指示を仰ぎに行く。『朝の仕事はしっかりやって、午後以降の仕事はぼちぼちでかまわない』とのこと。珍しいこともあるもんだと思ったらら、『恋人が来ているのに、一日中こき使うわけにゃいかないからね』と言われた。
なお、あくまで俺のためじゃなくてロザリィちゃんのためらしい。そりゃそうか。
んで、いつも通りに風呂掃除をしに行く。数時間前にロザリィちゃんもここを使っていたと考えると、なんかすっごくどきどきした。ババアロリとか乳臭いガキとかも利用していたことは考えないことにする。
とりあえず、もったいないけどいつも通りに綺麗に床を磨き、湯を張り替えて入浴剤をぶち込んでおいた。今日はほんのりピンクのハートフルピーチのかほり。なぜそのチョイスかって? そんなのロザリィちゃんが好きだからに決まってるだろ?
男湯のほうは適当に済ませる。ルフ老の腹巻が脱衣所に忘れられていたので回収しておいた。あのジジイ、とうとうボケたか。
風呂掃除後は朝餉の下ごしらえ。いつも通りなので特に書くことはなし。
朝食はロザリィちゃんと一緒に取る。『リティアさん、帰っちゃったけど寂しくないかい?』って聞いてみたけど、『私には──くんがいるからね!』と蕩ける笑顔を浮かべてくれた。しかも手をぎゅっ! って握ってくれるという愛の触れ合いも。
おまけに、『なんか、こうやって食事をするのってすごく新鮮だねっ!』って微笑みかけてくれるところがマジプリティ。『具体的には?』って聞いてみたら、『……恋人の家で朝ごはんって、新婚さんみたいじゃない♪』って小さく囁かれた。
ああもう、可愛すぎる。耳まで真っ赤になっちゃったよ。なんでロザリィちゃんはこんなにもかわいいのだろう。俺、ロザリィちゃんに一生ついていくわ。
そうそう、イチャイチャしながら朝食をとっていたら、『かぁ──ッ! これだから最近の若い者は! 好き嫌いしないでちゃんと食べんか!』ってルフ老が舌打ちしながら大量のハムエッグ(白身部分のみ)を俺の皿にのせてきた。
もちろん、『あーん♪』ってロザリィちゃんにやってもらって完食する。『ステキな時間をありがとう』とルフ老にウィンクしてやったら、『こんな形で成長したことを感じたくなかった……ッ!』って歯をぎりぎりしていた。ハゲてるくせに歯は現役らしい。
ああ、ナターシャにもちゃんと毒ジュースを持ってってやったよ。『あんたらこんなに仲良かったっけ?』って聞かれたけど、よくよく考えれば、こいつのおかげで俺とロザリィちゃんが急接近できたと言えなくもない……いや、やっぱ敵だな。
午前中は通常業務に取り掛かる。ロザリィちゃんがニコニコしながら働く俺を見つめてきてちょっと緊張した。せっかくなのでいつもより気取って働いていたら、『ヘンに見栄張りなさんな』ってマデラさんに軽くケツビンタされた。
マデラさんは男心ってものがわかっていない。せめて、ロザリィちゃんの前では子供扱いしないでほしいものだ。
さて、本当はもっとロザリィちゃんとの愛を語りたいところだけど、午後の昼には遅く、おやつにはだいぶ早い時間にちょっとした事件が起きた。
そう、突如として形容しがたき悍ましき邪気と、異常魔法雰囲気と、心が張り裂けそうになる悲鳴が聞こえてきたのだ。
あまりの事態に日向ぼっこをしていたリアが震えだす。ぐうたらしていた冒険者たちも武器を取った。マデラさんでさえ、『よくないモノがいるねぇ……?』と家事の手を止める。
が、もちろん俺とロザリィちゃん(と、ちゃっぴぃ)は動じない。『怖くないよー』ってリアをぎゅって抱き締めて背中をポンポンしてあげているロザリィちゃんがマジ聖母だった。俺もやってほしかった。
ある意味予想通り、次の瞬間に宿の扉が開け放たれる。『来ちゃった♪』と笑顔のパレッタちゃんと、『俺一番乗りしたかったのに!』ってぎゃあぎゃあ騒いでいるポポルがそこにいた。
久しぶりの再会に驚きを隠せない。二人ともけっこう元気そう。あと、ポポルの私服は妙に大人びていて(たぶんカーチャンセレクトだろう)、逆に子供っぽかった。
もちろん、ヴィヴィディナも元気に宿の天井をカサカサしていた。掃除しずらいところの汚れが取れて超ラッキー。細かいチリって目立たないうえに取りづらくて困るんだよね。
どうやら二人とも、例の招待状を使ったらしい。『そろそろパパとママの新鮮な糧をヴィヴィディナに捧げたかった』、『俺一番に来るつもりだったのに、こいつがフライングしやがったんだ!』と二人は語る。相変わらずで何よりである。
とりあえず、マデラさんに(ヴィヴィディナを含めて)紹介しようとしたところで事件が。『わぁっ!』ってパレッタちゃんはマデラさんを見るなり目を輝かせ、そして助走をつけて思いっきり抱き付いたのだ。
『ふかふか! グランマ! ふっかふか!』ってたいそう幸せそうに抱きしめ&ほおずりする姿を見て、宿屋&冒険者一同、パレッタちゃんは再起不能になると思った。
だってマデラさんだぜ? あのマデラさんに、初対面で抱き付いたんだぜ?
空気が凍る中、欲望に忠実な渇欲のパレッタちゃんは『ねえ、いっしょにやろうよ!』とリアの腕を引っ張り、『私こっち、あなたそっちからぎゅってして!』とリアをマデラさんの背中側から抱き締めさせる。
そう、ちょうど二人でわっかを作る感じ。俺がやろうとしてもできない、『もっと手ェ伸びるだろうが?』って無理やり腕を伸ばされるアレ。
もう終わった、と誰もが思ったその時、『まぁ、かわいい子ねぇ!』とマデラさんはパレッタちゃんを抱きしめ返した。『やっぱりふかふか! おひさまのかほり!』とパレッタちゃんはちょう幸せそう。
そりゃあ、見た目だけなら恰幅の良い優しいグランマなのだ。抱きしめ心地はさぞやいいことだろう。
なんかよくわからんけど、とりあえずマデラさんの逆鱗に触れなくてよかった。三人で戯れる姿は、まさに祖母と孫のようだったことを記しておく。
ちなみに、『ウチのババアは骨と皮ばっかで薬草臭い。いっつもアヤシイ鍋でクソまずい何かを煮込んでいる。おまけにヴィヴィディナを薬の出汁にしようとしやがった』ってパレッタちゃんは女の子がしちゃいけない表情でのちに語ってくれた。故に優しいグランマにあこがれていたそうな。
そうそう、せっかくなのでポポルにも『好きなだけ抱き付いていいぞ』って進めたら、『俺もう子供じゃねーし!』ってケツビンタされた。そういう返しこそ子供だと思う。
さて、とりあえずの紹介を済ませた後は二人を当面使用してもらう客室に案内する。『男女一部屋ずつ使ってよろしい』とマデラさんの許可が下りたため、五人部屋を二つ使わせてもらうことに。それも、景気よく最上級のグレートのところだ。
ポポルのやつ、ベッドを見るなり『ひゃっほう!』ってダイブしやがった。『すっげぇふかふかじゃん!』とちゃっぴぃと一緒に遊びまくる始末。
なお、パレッタちゃんも『ひゃっふぅ!』ってベッドを見るなりダイブしていた。所詮似た者同士だということを再確認する。
あ、ちなみにロザリィちゃんとパレッタちゃんは同室ね。『こっちのお部屋もすごいねぇ……っ!』ってほめてくれてちょううれしかった。
だいたいこんなもんだろうか。宴会の席にて、ヴィヴィディナは冒険者のオモチャとしていろんな糧を捧げられていた。ヴィヴィディナ自身も満更でも無いようで、積極的にアレクシスとかの背中を這いずりまわっていた。
『これはアンチエイジングの新しき可能性か……!?』って声は聞かなかったことにする。いくらなんでも、アレを顔面パックするのはクレイジーすぎる。
そうそう、今日は久しぶりにポポルと一緒に風呂に入ったんだけど、風呂場にてテッド、ルフ老と共にシャボンカーニバルを開催した。ポポルの連射魔法、あとルフ老の円環輪廻が醸し出すシャボンの幻想がとても美しかったことを記しておく。
ちゃっぴぃは今日もロザリィちゃんのところで眠るらしい。ポポルはひとりでのびのびと最上級ルームで寝るようだ。あ、ヴィヴィディナはマデラさんが首根っこつかんで『嬢ちゃんにはちっと働いてもらうとするかね』って躾の体勢に入っていた。なんか悲鳴チックなのが下から聞こえるけど、気のせいだと思うことにする。
そろそろ寝よう。もしかしたら明日も誰か来るのかもしれない。友達が家に遊びに来てくれるのってなんかちょっとうれしい。なんでこんなにうれしいのかよくわからないけど、うまい具合に仕事の合間を見つけて遊ぶ時間を作ろうと思う。グッナイ。