334日目 ロザリィちゃんと義姉さんと俺のステキな一日
334日目
なんとも素晴らしい目覚め。まるでロザリィちゃんに抱かれて寝たかのよう。さぁ、今日もバリバリ仕事を頑張るぞ!
……あっ、今日休んでいいんだった。
ステキな気分のまま食堂へ。今日は仕事をしなくていいって話だけど、気分がいいのでそこらへんの掃除だけは気合を入れてやりまくる。新しい花も活けて、机をピカピカに磨き、俺とロザリィちゃんの朝に相応しいエレガントな空間を演出してみた。
で、そんな感じで過ごしていたらちょっと目のとろんとしたロザリィちゃんが義姉さんと一緒に降りてきた。眠そうな姿もマジプリティ。久しぶり過ぎてなんだかいつも以上に心臓がドッキドキ。『夜更かししておしゃべりしすぎちゃったー……』ってあくびするところとか、本当にかわいかった。
さて、せっかくなので……って言い方も変だけど、ともあれ義姉さん、ロザリィちゃん、俺で朝食を取ることにする。宿屋の息子アピールをするために、宿屋モード(スタイル:エレガント)になって『本日の朝食は焼き立てパンとカリカリベーコンエッグ、そして新鮮ミルクでございます』とほほ笑みながら給仕をしてみた。
『かっこいい……!』ってロザリィちゃんがほめてくれて本当に幸せ。『今までで一番決まっているね!』とは義姉さん。そりゃあ、正気の俺ならこれくらい造作もないことだ。
で、三人でおしゃべりしながら朝食を進める。ロザリィちゃんも義姉さんもたいそう食事を気に入ってくれたらしく、終始にこにこと笑っていた。他愛もないおしゃべりをして過ごせたあの時間の素晴らしさを、どう言葉で表現すればいいのか俺にはちょっとわからない。
あと、ロザリィちゃんが『はい、あーん♪』ってベーコンエッグの白身の部分を『あーん♪』してくれて超幸せ。いつもより百億万倍おいしかった。なにより義姉さんの前でちょっと照れているロザリィちゃんの表情が最高にエクセレント。
義姉さん、『め、目の前でいちゃつかれると思った以上にショックね……』って狼狽えていた。ミニリカも『な、なんか嫌じゃあ……! 目の前でいちゃつかれるのはなんか嫌じゃあ……!』って言っていた。いったいどうしてだろうか?
さて、朝食を取り終えるころになってちゃっぴぃがリアと共にやってきた。で、『きゅーっ♪』って一目散にロザリィちゃんの元へと向かい、ちょこんとその膝に乗っかる。『あまえんぼさんだねっ!』ってちゃっぴぃの頭を撫でるロザリィちゃんからあふれる慈愛のオーラが本当にすさまじかった。
義姉さんもちゃっぴぃには興味津々のようで、『聞く機会をずっとうかがってたんだけど、ロザリィはいつこの子を産んだのかしら?』ってロザリィちゃんをからかっていた。『おねーちゃんのばかーっ!』って真っ赤になって怒るロザリィちゃんが本当にプリティだった。
そうそう、ちゃっぴぃなんだけど、なんかやたらと義姉さんに懐いて『きゅーっ!』って抱き着いていた。たぶん、抱き付いたときの高さと柔らかさを両立している存在にここしばらく会ったことが無かったからだと思う。
あえて書かないけど、義姉さんはやっぱりロザリィちゃんのお姉ちゃんなのだ。プリティフェイスはもちろん、体つきも身長が伸びて大人びたロザリィちゃんって感じ。たぶん家系的なアレだと思う。
なんだかんだで昼間はおしゃべりして過ごす。以前の俺なら日中ずっとおしゃべりし続けるだなんて正気の沙汰とは思わなかっただろうけど、不思議なことにしゃべれどもしゃべれども話題のネタが尽きなかったんだよね。
俺のほうは学校でのロザリィちゃんの話をしたし、ロザリィちゃんは学校での俺の話をしたし、義姉さんは家でのロザリィちゃんの話やベイビーな頃のロザリィちゃんの話をしてくれた。
『この子、家では結構ぐうたらしてるのよ? 料理の手伝いもしないし、洗濯物だって畳まないし。お気に入りのタオルケットをもってゴロゴロしている姿しか見たことないんだから。おまけに夏場なんかは「着るのが面倒くさい」って部屋の中じゃほぼは──」って義姉さんが言った瞬間にロザリィちゃんに耳をふさがれた。
『ぜ、ぜんぶ嘘だから! おねーちゃんがふざけてるだけだからっ!』ってロザリィちゃんは真っ赤。ふさぐなら俺の耳じゃなくて義姉さんの口のほうだったのに。
耳元で『ギルだっていつも半裸だし問題ないよ』って囁いたら『う、あ……!』って固まってしまった。そんなところもマジプリティ。
『半裸で家事もしないこの子で本当にいいの?』って義姉さんが聞いてきたんだけど、『僕はロザリィちゃんじゃなきゃダメなんです。それに一応家事のプロを自称していますから』と答えたらなんかやたらと感動された。『見てくれだけしか取り柄がない子だけど、よろしくお願いします』と頭まで下げられる。
なんか仕事中のマデラさんのほうが慌てて頭を下げていた。よく保護者同士が頭をエンドレスに下げあっていることがあるけど、あれと同じような感じだろうか?
なお、義姉さんは『この際だから言っておくけど、この子重度の匂いフェチで、結構その……アレよ?』と深刻そうな顔で告げてくる。が、『あ、それはもう知ってるよー』とロザリィちゃんが涼し気な顔で答えたため特に問題なし。なぜか義姉さんがちょっと俺から距離を取ったんだけど、いったいどういうことだろうか?
さて、日中はそんな感じで過ごし、あっという間に夕方に。今日もやっぱり宴会なんだけど、義姉さんは『今日も歌わせてもらいますか!』と、とてもノリノリだった。
義姉さんは歌手を目指して頑張っている人なのだ。狂いかけていた俺でさえ、義姉さんの歌声については日記にきちんと書いてある。
周りの冒険者にはやし立てられる中、義姉さんは高らかに歌いだす。すごく透き通った綺麗な声が、野蛮な喧騒で満ちる食堂に澄み渡っていく。うまく言葉じゃ表せられないけど、なんかすっげぇ歌声。そうとしか言いようがない。
もちろん、冒険者どもは盛り上がっておひねりを入れまくっていた。『やっぱプロは違うな!』、『ナマイキな男よりむちむちな女子の歌声じゃの!』と、特に男どもがエキサイティングしている。
そして、驚くべきことに、『せっかくだからデュエットしましょうか!』と義姉さんは俺の腕を取ってステージへと引き上げた。
『聞いたわよ、ボディパーカッションがうまくて、呪歌まで歌えるくらいに音楽センスがあるって。……ロザリィの頼みが聞けて、私の頼みが聞けないなんてことはないわよね?』なんて言われてしまえば、俺に断る権利などあるはずがない。
で、早速デュエット。高いところは義姉さんが、低いところは俺が担当。酒場に似合う陽気なメロディで、いつのまにやらちゃっぴぃとリアがケツフリフリダンスをはじめ、エッグ婦人とヒナたちもバッグダンサーのごとくケツフリフリをしはじめた。凄まじいケツのキレだったことを記しておこう。
『~♪』って義姉さんも上機嫌。『盛り上がってきたわ!』とどんどんテンションも上がっていく。『ボディパーカッションも!』と振られたので、歌いながらボディパーカッションを披露する羽目に。
しかし、ここでちょっと困ったことが。義姉さん、テンションアゲアゲで俺にボディパーカッションのパフォーマンスとしてボディータッチしてきたの。以前もちゃっぴぃに同じことをやられたけど、義姉さんの場合はあくまで演出としてのそれだから、むしろダンスに近い感じになってたんだよね。
拳を突き合わせたりとか、ハイタッチしたりとか、いい感じのところで背中を叩いたりとか、くるっと回ってターンしてクロスで互いに手拍子したりとか。義姉さんのリードがすごくうまくて、ほぼ即興なのに長年練習してきたかのように息の合ったパフォーマンスができたよ。
ただね、ロザリィちゃんの顔が凄まじいことになっていたね。メロディの盛り上がるところで義姉さんが俺に触れてくる度に、にこにこガチ笑顔(目は嫉妬の炎で燃えていた)で義姉さんをにらみつけているんだもの。そんな姿がたまらなく愛おしかったけど。
もちろん、これに気づかない義姉さんじゃない。むしろ、逆に煽るようにボディータッチを加速させた。『ねえ、いっそ二人で音楽のてっぺんを取らない!?』とリズムに合わせてハイタッチを決めてくる始末。しかも顔めっちゃ近い。
ここでとうとう、ロザリィちゃんが行動に出た。ずずいと割り込み、『そ、そんなの許さないんだから~♪』と非常に拙い即興の歌を唄い出す。『彼がいないと生きていけないもの~♪』と、真っ赤になりながら、リズムなんてめちゃくちゃに、義姉さんから俺を引き離すようにボディーパーカッションをしてきた。
ああもう、必死になる嫉妬ロザリィちゃんが本当にかわいい。へたっぴな歌声がよりそれを加速している。ルフ老なんて鼻血だしてぶっ倒れたくらい。
義姉さんもこの行動は予想外だったのか、呆然としていた。が、『合作になったからには、きちんと締めないとね!』と妙にやる気を出し始める。恥ずかしがるロザリィちゃんをぐいぐいと前に出し、即興で【可愛い嫉妬の恋の歌】を唄い出した。
メロディも歌詞も、あの場で作ったって言うから驚きだ。しかも、歌いやすいメロディなうえに、歌詞もあの状況に合致していたし、歌い手が三人いなきゃいけない構成にもなっていた。さすがと言わざるを得ない。
そんな感じで、宴会は非常に盛り上がった。たぶん、歌を歌った中では一番盛り上がったと思う。義姉さんのパフォーマーとしての実力を垣間見た瞬間であった。マデラさんでさえ、仕事の手を止めて聞きに来たって言えば、そのすごさが伝わると思う。
おひねりもすさまじかった。もちろんきっちり三等分。ルフ老の本日の稼ぎが大半だった。ウハウハ。ただし、俺のはいつも通り大半がマデラさん銀行へ。
なんかちょっと長くなったからこの辺にしておこう。寝る直前、『先生ならいいけど、おねーちゃんとの浮気は絶ッ対に許さないんだからねっ!』って思いっきりロザリィちゃんに抱きしめられた。湯上りだったからすごくいい匂いがした。
そのまま流れでキスしようと思ったんだけど、ロザリィちゃんは残酷にも『おねーちゃん相手にデレデレしていたからお預けです!』ってそっぽを向いてしまった。
が、『……だから、代わりになされるがままにされなさいっ!』って思いっきりキスをしてくる。いったいどこまでロザリィちゃんは俺を幸せにしてくれるのか。ちょっと見当もつかない。
寝よう。興奮しすぎて文章がちょっと変だ。ちゃっぴぃは今日はロザリィちゃんたちと寝るらしく、俺の夢魔のぬいぐるみと自分のウサギのぬいぐるみ、そして宝物のクッションをもっていってしまった。
書きたいことはいくらでもあるのに、それをうまく文章に出来ないこの悲しみ。日記を書いていると文才がほしくなる。今度纏めて全部書き直してみようかと思わなくもない……けど、それって日記としてどうなんだろう。
言ってるそばから無駄なことを書いてしまった。そろそろ本気で寝よう。ロザリィちゃんと同じ屋根の下で寝られることの喜びをかみしめて、おやすみなさい。