319日目 メイク&ダンス
319日目
実にすっきり快適な目覚め。超いい気分。だけど一人で起きるのってちょっと寂しい。まったく、俺も腑抜けたものだ。
一人寂しく食堂へ。冒険者どもは相変わらず遅起きで、今日も老害しか食堂にいない……と思ったら、珍しくナターシャが早起きしてすでに朝飯を食っていた。どうやら今日はちょっと遠出して依頼を受けるらしい。
で、『せっかくだから一緒に朝飯をとってやる』ってあいつの前に座ったら、『は? なに? 甘えたい気分なの?』ってからかわれた。まったく、痴女は自意識過剰だから困る。
とはいえ、『しょうがないから作ってやろう』とナターシャオリジナルを作ってくれたのはよかった。胸だけしか取り柄のないやつだけど、あいつが作るカフェオレだけはマジでうまい。しかも、ちゃんと氷がお星さま型。俺のさり気ないジャスティスだ。
朝食後はナターシャを送り出す。『いってらっしゃいのキス、しなくてもいいの?』とあいつはからかうようにほっぺを突き出してきた。大事なことは全然覚えないのに、なぜそんな昔の話ばかり覚えているのか。
ちょっとばかり悔しかったので、『いいからさっさと行け』と突っぱねる。『泣いて「行っちゃやだぁ!」っつってたガキが偉そうになったわねぇ……』ってあいつは俺のほっぺにキスしていきやがった。朝からヨダレ臭くて辟易する。
今日はリアとちゃっぴぃもお寝坊さんだった。いつもよりだいぶ遅い時間に起きだして朝飯を食いだす。なにが面白いのか、ミニリカはにこにこと笑いながら二人が飯を食う姿を眺めていた。
ルフ老はハァハァ言いながらそんな三人を眺めていた。とりあえずぶん殴ってテッドに押し付けておいた。
その後、なんだったかのきっかけでリアが『わたしも舞踊衣装欲しい!』って言いだす。どうやらちゃっぴぃが寝間着に使っているのを見てほしくなってしまったらしい。老害ロリババアは『ほう! なかなか見込みがあるのう!』ってやたら嬉しそう。
こうなったが最後、リアも地獄の特訓を受ける羽目になるだろう。なんたって、魔法舞踊は俺だってドン引きするレベルで習得難易度も実用性も鬼畜なことになっているのだから。威力だけはすごいけど。
そんなわけで、ミニリカと共にリアの舞踊衣装を作ることに。一人で作ると結構時間がかかるけど、今回は二人掛かりの上、本家本元のミニリカがいる。あいつが世界で一番あの衣装について詳しいし、継承者だけあって裁縫の腕もすごい。
俺の裁縫の腕はマデラさんとミニリカによってもたらされたものと言っても過言じゃない。師匠と弟子なのだ、これ以上にないコンビだろう。
で、リアの採寸を採りながら手分けして衣装を仕上げていく。比較的簡単なところは俺が、衣装の肝の細かくて綺麗なところはミニリカが担当する。別に俺だって一人で全部仕上げられるけど、速さとクオリティはやっぱりミニリカのほうが上だしね。
そうそう、当然っちゃ当然だけど、リアはやっぱり寸胴だった。にこにこしながら採寸を取るロリババアは『将来性に期待じゃの!』って言ってたけど、将来性の欠片もなかったやつが言っても信用がない。
悲しいことに、数字の比率だけで見るならミニリカはリアとそう大して変わらない。ちゃっぴぃのほうがスタイルがいい。リアも『ちゃっぴぃちゃんに秘訣を聞いておく』って言ってた。
努力のかいもあって、おやつの時間ごろに衣装は完成した。『二人掛かりとはいえ、これほど早く仕上げることができるとは……!』ってミニリカも驚いていた。やっぱ俺ってすごいと思う。
その後はリアに魔法舞踊を教え込む。まずは基本ってことでケツフリフリダンスをみっちりやった。『ほ、本当にこれ基本だったの……?』ってリアは不安そうにケツフリフリをしていたけど、実際ガチでこれが基本なのだからしょうがない。
『そこのババアロリも年甲斐もなくやってるだろ?』って言ったらミニリカにぶん殴られた。解せぬ。
さて、このケツフリフリだけど、すでにちゃっぴぃは習熟しつつあり、『きゅーっ!』っと手本を見せるように鋭いケツのキレを見せていた。ヒナたちのほうがはるかに良いキレをしているけれど、ちゃっぴぃのもそれなりに見られるようにはなっている。
『この子は良い踊り子になりそうじゃの!』ってミニリカも嬉しそう。調子に乗って次の型とか教えだす。なぜか俺も巻き込まれて、今や発動することができない(継承者不足のため)二人型、三人型、さらには四人型の練習までさせられた。
『いつかあの光景をこの世に復活させるのが夢なんじゃあ……!』ってミニリカはキラキラした瞳で語っていたけど、リアはともかくちゃっぴぃは魔法舞踊を完成させられないと思う。だってこいつノリで踊っているだけだし。
必至こいてケツフリフリして練習していたら、新規の客が入店。室内でケツフリフリをしている俺たちを見てたいそう怯えた表情。『ええと、ここは普通の宿屋ですか? それともそっち系のお店なんですかね?』とか聞いてきやがった。
全く、由緒正しい高級宿屋だというのになんたることか。こんなに愛嬌のあるやつが三人もいるのに、どうしてそんな勘違いをするのだろうか。だいたい、もしそうだとしたらこんな貧相なやつら使わないだろうに。
結局、マデラさんが介入することで誤解は解ける。『すいませんね、子供ばかりで』、『いいえ、楽しそうでなによりですよ。お兄ちゃんも、三人も面倒見て偉いね』って笑顔で手をひらひら降られた。
ミニリカが隣で何とも言えない表情をしていたのをここに記しておく。マデラさん、『自分の歳と見た目と行動を客観的に捉えられるようにしな』って言ってた。
だいたいこんなもんだろうか。結構長いこと踊っていたからいい感じに疲れている。リアとちゃっぴぃはすでに夢の中だ。俺もいい夢を見られることを強く願う。グッナイ。
20160217 誤字修正