303日目 ルマルマ一年生おつかれさまパーティー
303日目
ギルの枕に大量の抜け毛。でもあいつは普通にフサフサ。
ギルを起こして食堂へ。ゆっくり朝食を食べられるのは今日で今年度ラストのため、一年生のみんなが思い思いに好きなものを食べていた。休日限定デザートも今日だけは人数分以上にしっかり用意されている。『腹はち切れるまで食べつくしなっ!』っておばちゃんもがんばっていた。
せっかくなので俺もロザリィちゃんとイチャイチャしながらパフェを食べる。互いに『あーん♪』する瞬間のなんと幸せな事か。ちゃっぴぃも当然のごとく俺の膝に乗ってパフェを『あーん♪』してもらいやがっている。口の周りを拭くのは俺の仕事だった。
でも、『もう、パパもついてるよ?』ってロザリィちゃんが俺のほっぺにちゅっ! ってしてくれた。『本当についてたのかな?』って意地悪して聞いてみたら、『もっとついてるところがあったね?』ってくちびるにちゅっ! ってしてくれた。
クリームに交じるハートフルピーチの香りが心地よい。朝からこんなに幸せでいいのだろうか。
ちなみに、特別な日だというのにギルは今日もジャガイモ。『うめえうめえ!』っていつも通り貪る。あいつにとっては日常こそが最高に素晴らしいものなのだろう。ミーシャちゃんもせっせとギルの口にジャガイモ投げていたし。
なお、アルテアちゃんは『思った以上に量が多かった。ほれ、口開けろ』ってフィルラドの口にパフェをぶちこんでいた。フィルラド超真っ赤。たぶんアルテアちゃんなりのサービスだろう。
ポポルとパレッタちゃんは『そのイチゴ俺のだし!』、『さっきおっきいチョコレート食べてたじゃん!』ってぎゃあぎゃあ言いながらパフェをはんぶんこしていた。一年通してなお、イマイチあの二人の関係がわからない。
ジオルドとクーラスは黙々とパフェ食ってたよ。『……うまいな』、『……ああ、うまい』って呟いてた。たぶん、ウチの女子なら『あーん♪』ってしてくれたと思うんだけど。あいつらはもうちょっと積極性を持つべきだと思う。
さて、午前中はゆったりしつつ身の回りの最後のチェックをすることに。マイフェイバリットチェアーや悪夢椅子なんかはそのまま置いておくから問題なし。食材の在庫はちょっぱやでハゲプリンに。
そうそう、親友銀行のお金をギルに渡そうとしたんだけど、あいつ、『えっ!? こんなにあるのか!?』ってその額にめっちゃ驚いていた。ジャガイモ換算じゃなくても理解してくれたことが素直にうれしい。
『怖いから預かっててくれよ親友!』って言われたけど、お金の管理はしっかりしないとならない。『どうしても不安ならミーシャちゃんにプレゼントでも買ってあげるか、親御さんへの土産になんか買えばいい』ってアドヴァイスした。俺ってば超いい人じゃね?
俺もいつか絶対【マデラさん銀行】からお金をおろしてやるんだ……! いや、宿での給料結構差っ引かれていたから、かなりの額がたまっているはずなんだよね。十年以上も徴収されていたわけだし。
お昼の時間ごろ、ステラ先生がやってくる。ひゃっほう。
『みんな、お片づけは出来た?』といつも通りの女神スマイル。一応役割として先生は危険物なんかが残っていないか確認しに来たらしいけど、当然そんなものなどあるわけがない。ギルのパンツや靴下だって入念に魔導封印を施しておいたし。
そんなわけで早々におやつタイム。ハゲプリンも食べ納めってことでみんなバクバク食っていた。もちろん先生用のジャムクッキーも忘れない。『寂しくなるなぁ……』って愁いを帯びた笑顔のステラ先生もマジプリティだった。
そうそう、確かこの時だったと思うんだけど、アルテアちゃんが『エッグ婦人たちはどっちが面倒みるんだ?』ってフィルラドに聞いていた。フィルラド、『ウチの実家はちょっと難しいかな……たぶん喰われる』と悲しそうな顔。
ヒナたちが猛烈な勢いで俺にすり寄ってきたのがちょう怖い。しかも、なんとあいつら自身からケツをフリフリして媚を売ってくる始末。いったいフィルラドの実家には何があるのだろうか。
とはいえ、ここに置きっぱなしにするわけにもいかない。『おまえんとこ宿屋なんだろ? エッグ婦人使えたりしないか?』とフィルラドは俺に話を持ち掛けてきた。
卵は別に間に合っているけど、エッグ婦人には材料提供をいっぱいしてもらったため、預かることにした。ヒナたちも必然的についてくるけど、そのエサくらいなら別に問題ない。せいぜい客寄せになってもらおう。
あと、ロザリィちゃんが『ちゃっぴぃはどうしよう?』と聞いてきた。ちゃっぴぃも『きゅぅ……?』って不安そうにこちらを見つめてくる。ロザリィちゃん、実家でちゃっぴぃに不自由ない暮らしをさせられるか不安らしい。
もちろん、『ロザリィちゃんさえ良ければこっちで預かるよ』と笑顔で返す。『ありがと!』って微笑んでくれるロザリィちゃんがマジプリティ。ちゃっぴぃも喰われないとわかったのか超嬉しそう。こいつも宴会の客寄せとして馬車馬のように働いてもらおうと思う。
そんなこんなで夕方にはちょっと早いかな……くらいの時間にみんなで街に赴き、最後の打ち上げを敢行することに。明日は早いからあまり遅くならないうちに行こうってことになったんだよね。
場所はもちろん例のメンテのバイトのところ。あ、あと今回もグレイベル先生とピアナ先生、あと寛大で心優しい俺はラギも招待した。
『ひいきにしてくれてうれしいよー!』とオーナー兼シェフのおねーさんはこの大人数にも限らず笑顔で迎えてくれる。昨日の午後に予約を入れたのに、わざわざ貸し切りにしてくれたらしい。『あとでメンテやってねー。それ込みでのお値段にしたからー』って言われなければ最高だったのに。
とはいえ、さすがは俺も認めた店だけあってサービスはいいかんじ。着席後すぐに飲み物のオーダーを取りに来てくれるし、持ってくるのも早い。おかげで入店五分もしないうちに乾杯の準備が整った。
『──くん、組長として乾杯のあいさつよろしくね?』ってステラ先生に言われたけど、『僕たちが今日と言う日を迎えられたのは担任であるステラ先生のおかげですよ?』って華麗に受け流す。
ステラ先生、わたわたしながらも、『一年間、おつかれさまでしたーっ!』って乾杯のあいさつをした。『うぇぇぇぇい!』って大歓声が響く。みんなのグラスがごっつんこしまくった。
そこからはもう和やかな宴会だった。みんなで騒ぎながら思い思いにしゃべりまくる。料理のほうはちょっとこじゃれたコース料理で、四人ごとに大きなお皿が一つ回ってくる。到着タイミングもいい感じで偏って出されることなく全員に満遍なく配られていた。
クソみたいな飲み屋だと大人数を捌く際、一部に皿が集中したりタイミングがずれまくっていたりで、食べられる奴と食べられないやつとで差が出まくるんだよね。その点ここは良くわかっていると思う。
料理の内容は、サラダ、サーモンのカルパッチョ、餃子、フライドポテト、ステーキ(!)、チャーハン、コロッケ、塩焼きそばとなかなかに贅沢&デリシャス。質と量のクオリティがそんじょそこらとは段違い。飲み物のお代わりや先生のお酒のお代わりにもすぐに対応してくれたし、大満足。
ミーシャちゃんは『おさかなおいしいの!』ってサーモンのカルパッチョをとても気に入ったようだった。リボンを丁寧に扱い、おいしそうに貪る。優しい女子が自分のカルパッチョを物足りなさそうにしているミーシャちゃんにあげてたのが印象的。
ジオルドは『ここのジュース美味いな!』ってオレンジジュースとかメロンソーダをがぶがぶ飲んでいた。ミルクティーとかジンジャエールも飲みまくっていたと思う。肉もがっつり食べてたけど、あいつの舌どうなってんだろ?
パレッタちゃんは餃子(この辺じゃあまり見ない)の包みを一枚一枚剥いて食べていた。『そのまま食べるやつだよ』って教えたんだけど、『だからこそ背徳的でクセになるなり』って笑ってた。最後に皮だけ食ってたけど、あれおいしいのか?
クーラスは『俺だってなぁ、俺だってなぁ! 努力しているし頑張ってもいるんだよ! なのに飛び切りのクレイジーが一人いるせいでこのザマだよ! 俺だって彼女欲しいよコンチクショウが!』って泣きながら周りに絡んでいた。どうやらうっかりラギが頼んだお酒(果実酒)をジュースと間違って飲んでしまったらしい。
将来宴会をするときはクーラスの隣はやめておこうと固く誓う。
ポポルは餃子の皮を全部剥こうとするパレッタちゃんとぎゃあぎゃあ言いながら餃子を喰っていた。で、慌ててふうふうせずに食べたのか、おもっくそ舌を火傷して涙目になっていた。
『ちょうどいい塩気見っけ』って涙をパレッタちゃんに舐められてたけど、マジであの二人なんなんだろうね?
アルテアちゃんは『初めてだけど、けっこう好きなやつだ』ってチャーハンをがっつり食べていた。『俺はこっちのほうが好きかな』ってフィルラドは塩焼きそばのほうを気に入る。で、『じゃあ、そっちのちょっと多めにくれよ』って互いに自分のぶんを相手に渡していた。気が合うのか合わないのかよくわからん。
ギルはもちろんフライドポテトを『うめえうめえっ!』って貪っていた。ジャガイモマスターであるギルを唸らせるとはここのポテトも侮れない。『コロッケもめっちゃうめえ!』ってギルは実に嬉しそう。ミーシャちゃんはこの段階でおなか一杯になりつつあったのか、『あたしのあげるの!』って一口だけかじったそれをギルの口に入れていた。
俺とロザリィちゃんもいちゃいちゃしながら食べた。『──くん、一年間おつかれさま!』、『ロザリィちゃんもおつかれさま!』って料理を二人ではんぶんこしながら愛の思い出を語り合う。
で、語っているうちに『ねえ、いつから私のことが好きになったの?』って聞かれたので、『せーの、で言ってみようか?』と返してみる。もちろん、『ひとめぼれ!』って二人で同じ言葉を紡いだ。
ああもう、ロザリィちゃんが好きすぎて困る。『うひひ……!』って体を摺り寄せてくるところか可愛すぎて逆に犯罪的。
先生たちも満足してくれていたっぽい。『…いい酒だ』ってグレイベル先生は冒険者顔負けの飲みっぷりを披露していた。それでなお酔っぱらった雰囲気を見せないからすごい。『…飲むってのは、やっぱりこういうのだよな』って呟いていたけど、よほど先生方の飲み会がトラウマなのだろうか?
天使ピアナ先生もめっちゃ飲んでいた。『ねえ、あんまり飲み過ぎるのは良くないよ?』ってラギに窘められていたけど、『だって今日はラギくんがいるから大丈夫だもん!』って聞かなかった。
二人のイチャイチャぶりを書くと泣きそうになるからここまでにしておく。あの二人、学生に戻ったかのようにはしゃいでいたよ。割とガチでマジで。
ステラ先生だけど、『みんなで宴会するのって楽しい……!』って一人感動しまくっていた。特に大皿料理をみんなで分け合うっていうシチュエーションがいいらしい。『ね、先生がやるから!』って率先してみんなに料理を取り分けていた。
めっちゃうれしそうでほっこりすると同時に、無性に悲しくなった。俺たちみんながその場を盛り上げようと殊更に陽気になったのは言うまでもない。
さて、宴会も中盤になるとだいぶお酒が回ってきたのか、いくらかろれつの回らなくなったステラ先生が『実は、テストのときのキスの練習はピアナ先生でしたんだよ~』って衝撃発言をした。
みんな飲み物吹いた。ミルク吹きのフィルラドだけでなく、男子も女子も吹いた。グレイベル先生もラギも、当事者であるピアナ先生も吹いた。
『な、なななな、な……!?』ってピアナ先生は真っ赤になってぷるぷる震える。『いっぱい、いーっぱいやったら怒られちゃったぁ~!』ってステラ先生は無邪気に笑った。『なんてこと言ってんだぁー!?』ってピアナ先生がステラ先生の口をふさごうとしたけど、グレイベル先生が首根っこ捕まえて止めた。
『ラギくぅん……!』って囚われのピアナ先生はラギを上目遣いで見つめる。『へえ、僕も聞いてみたいな』ってラギはいたずらっぽく笑った。生まれて初めてラギと肩を組みたいと思った。
で、いい気分になった酔っ払いステラ先生(なんか色気がすごかった!)は上機嫌で話しだす。
なんでも、テスト内容を考えていたステラ先生は、いつぞやのナターシャを思い出し、確実に、かつ奇抜に相手を行動不能にさせる方法として、例のキス(と分身作戦)を思いついたらしい。
が、キスなんてしたことないステラ先生は具体的にどうすればいいのかわからなかったらしく、どこかで練習せねばなるまいと思い至ったそうな。
とりあえず、本番でも男子にはできないから(めっちゃウブなので)、妥協(?)して女子の練習相手を探そうとしたんだけど、引き受けてくれそうな人がピアナ先生くらいしか思い当たらない。
ので、ピアナ先生の所へ行き、拝み倒してキスすることになったそうな。
『あれは! テストのためだからって! どうしても練習させてって言ったからでしょ!?』、『でもいっぱいちゅーしたのはホントだもーん!』と証言があったから間違いない。
で、最初はしぶしぶだったピアナ先生だけど、生徒のため、あとステラ先生が泣きそうになったため『ちょっとだけなら』って了承してしまったらしい。
『昔はいっぱいやってたし~?』、『五つにもならない子供の時だろうがぁぁぁぁっ!』って言ってたから、キスそのものはしたことがあったんだろう。
子供時代にいとこの女の子同士でキスをする……軽いキスなら自然ではあるのか?
さてさて、そんなわけでキスをしていたんだけど、当然のごとくディープなのはピアナ先生は嫌がったらしい。でも、研究熱心なステラ先生はディープを求めていたわけで、それならばと強硬手段に出たそうな。
そう、ピアナ先生を拘束魔法でガチガチに固め、身動きが取れないところで何度も何度も心行くまでディープキスしたわけだ。
動けず無抵抗な相手(意識は有り)に、ただひたすらにディープキスしまくったわけだ。
それはピアナ先生が自力で拘束魔法を打破するまで続いたらしい。もちろんピアナ先生は激おこで、ステラ先生はキスの研究をした後はすたこらさっさと逃げたそうな。
いつぞやの冬の日のアレは、そういうことだったんだろう。あの直前にそんなことをしていたとか、なんかちょっと興奮する。
なお、話を聞いたグレイベル先生とラギは『……』、『あ、あはは……』ってちょっと引いていた。
そうそう、『離せ先輩ぃぃぃ!』ってピアナ先生はずっと暴れてたけど、酔ったステラ先生にキスされそうになったら全力でラギの後ろに隠れていた。俺が代わりにステラ先生の前に出たら、『バカは休み休みにしとけ』って代わりにアルテアちゃん自らがステラ先生に抱かれに行った。
ステラ先生、抱きしめられて気持ちよさそうにスヤスヤしだす。『獣だと思えば扱いに困ることなどない』ってアルテアちゃんが凛々しかった。
だいたいこんなもんだろうか。全部書くと到底収まりきらないからこの辺にしておこう。とにもかくにも、めっちゃ盛り上がってみんな楽しんだってことが伝わってくれればいい。ステラ先生とピアナ先生、あとロザリィちゃんやミーシャちゃん他数名の女子が帰りに寝こけてしまったといえば、その楽しさが伝わると思う。
風呂入って雑談して今に至る。本当はもっと書きたいけど、長くなりすぎたし明日は出発だからここまでにしておこう。自分にもっと文才があれば臨場感あふれて光景が目に浮かぶような文章となるのに、読み返すとそんなでもなくて非常に口惜しい。
なんかちょっと感慨深い。こうして日記を書くのももうあとわずかか。少なくとも学校で書くのはこれで最後で、念のため宿につくまでの道中も書くから、あと四回で終わりのはず。
マデラさんに言われて始めたとはいえ、我ながらよく続いたものだと思う。日記をまともに続けている人って見たことない……っていうかもしかして俺だけなんじゃね?
ギルは今日も元気に大きなイビキをかいている。こいつの鼻に物を詰めるのも今年度は今日で最後だ。結局イビキを抑えることはできなかったけど、最後だしオーソドックスにジャガイモを詰めておこう。おやすみなさい。
※全テノゴミヲ滅却セヨ
20160201 誤字大幅修正。理由? 聞くな。活動報告を見てくれ。