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301日目 魔法造成実習:後期期末テスト(キス・デビル・サバト)

301日目


 ドアノブが輝いていた。どういうこっちゃ。


 ギルを起こして食堂へ。今日はステラ先生のテストだからか、我がルマルマのメンツはそれなりに気合が入っている。ゲン担ぎと言うことでルマルマの誓い(ギルのジャガイモの大皿から一人一個ジャガイモを取って食べる)を行い、結束力を高めた。


 書くまでもなく、ギルは『うめえうめえ!』ってジャガイモを食べていた。そろそろ食べ納めだし、存分に食べてればいいと思う。


 あと、食後に『今日は頑張ろうね!』ってロザリィちゃんと熱い抱擁を交わす。ぬくやわこくて、さらにはいい匂いがして超幸せ。『きゅ! きゅ!』ってちゃっぴぃがうるさかったからついでに一緒に抱きしめておいた。


 なお、気合を入れたかったのかミーシャちゃんも『死なない程度にぎゅってしてほしいの!』とギルに甘えだす。ギルのやつ、めっちゃ赤くなって動揺していた。あいつが抱きしめたっていうよりかは、ミーシャちゃんがギルの首にぶら下がったって方が近いけど。


 今日のテストはステラ先生の魔法造成実習。『みんな、準備はいいかなっ?』って杖をコンコンしながら出席を取る姿がマジプリティ。今日も大きなお胸とロリロリしいボディがたまらない。なんでこうも毎日美しくて可愛いのだろうか。もはや真理のレベル。


 で、肝心のテスト内容だけど、意外と言えば意外、当然と言えば当然のごとく──



『今からみんなには先生と戦ってもらいます! 今回は先生もちょっとだけ本気出しちゃいます! 基本的なルールはこないだと同じで、クラス全体でどれだけ先生に対抗できたのかをクラス全体の総合評価とします!』



 ──と言われた。


 もちろん、俺たちも前期の俺たちじゃない。あの時よりかは善戦できる自信がある。なにより、先生がそう宣言した直後に連射魔法、罠魔法、召喚魔法、具現魔法、変化魔法、射撃魔法、呪、刃魔法、音魔法、雲魔法、針魔法、鍵魔法、食魔法、環魔法、連結大魔導陣、その他もろもろが容赦なくステラ先生にぶち込まれた。


 いや、わがクラスメイトながら躊躇いの無さが凄まじい。いきなりあんなの浴びせられたらたとえ上級生でもお陀仏……というか、先生だってタダじゃ済まない。魔法の匂いは凄まじかったし、互いの魔法が異常反応しあって半ば暴走チックな魔法現象すら起こしていたし。


 地面が揺れ、土煙と爆炎が上がり、しかしそれでもみんなが油断なく杖を構えている。案の定、『──やっぱり──くんは優しいんだね。前にも言ったけど、──くんのそういうところ、先生けっこう好きだよ?』と声が。


 同時に、いつぞやの闇の魔法弾が俺とギルにぶち込まれてきた。俺は吸収魔法で威力を弱めてかき消し、ギルは『二度も通じないっすよ!』と拳の一撃でそれを粉砕する。


 煙が晴れた先には、やっぱり無傷で妖しく笑うステラ先生が。しかも、俺が最初の奇襲に参加しなかったことをしっかり見抜いている。まあ、だからこそ俺に闇の魔法弾をぶち込んできたんだろうけど。


 『じゃあ、まずは前期の復習してみよっか?』とステラ先生は火、水、雷、風、闇の魔法矢を作り出す。『させるかッ!』とアルテアちゃんの射撃魔法やクラスメイトの魔法が飛んだけど、『その発想、すごくいいよ!』ってステラ先生は構築途中のそれを瞬時に展開して迎撃。


 しかも、そもそもの構築速度が段違いで、壊すそばから新しいのが作られていく。五色の魔法矢はポポルに近いレベルの連射速度で広域発射(たぶん手加減している)され、まさに矢の嵐(ホーミング性能付き)となって襲い掛かってきた。


 明らかに前期よりも規模が大きい。全然言葉通りじゃない。でもそんなお茶目をするステラ先生もマジすてき。


 とはいえ、俺たちだってただ黙ってみているわけじゃない。アルテアちゃんとポポルが射撃魔法と連射魔法で『はぁっ!』、『ららららららっ!』って撃ち落とし、ジオルドが『舐められたもんだな』って嵐山老仙の颶扇を具現魔法で具現化して押し戻す。


 当然、対処しきれなかったのもあるんだけど、『こっちは任せるの!』とミーシャちゃんがクレイジーリボンを展開して迎撃&防御し、『こういうシチュエーションもいいよね♪』ってロザリィちゃんが俺にキスして【愛するものを護る】愛魔法を発動。俺たちを中心に結界を張ることで間接的に後ろのクラスメイトを護る。


 前は三割倒れたのに、今回はみんな無傷。ステラ先生は『よくできましたっ!』って女神スマイルを浮かべていた。


 そしておもむろに、『狙いはすごくいいよ!』と振り返りもせずに後ろに魔法を放つ。フィルラドがドサクサに紛れて召喚魔法で呼んだシャドウウォーカー(ステラ先生の背中を取っていた)が消し飛んだ。


 シャドウウォーカーの消失と共に連鎖起爆するはずだった大怨呪罠魔法(クーラス&パレッタちゃんの合体魔法)も高出力ゆえに一緒にかき消える。


 わかってはいたけどさすがに手ごわい。特に奇襲からの自爆コンボを見破られたのが痛い。なんであれがバレたのかいまだにわからない。


 で、小康状態になったので、『やっぱり、どうしても先生と戦わないとダメですか?』と一応は聞いてみる。俺だってできれば女神ステラ先生となんて二重の意味で戦いたくないし。


 が、ある意味予想通り、『もちろん。──くんのそういうところは美徳だけど、魔系としては褒められないよ? ……ちゃんとやってくれないと、きらいになっちゃうからね?』と言われる。


 さすがにそれは嫌だ。愛のために愛する人と戦わねばならないなんて、なんと運命は残酷なんだろう。


 とはいえ、やらねばならぬのならやるしかない。『僕は、先生に杖を向けたくないです。でも、それが先生のためならば、僕は先生のためだけに、自らの良心を裏切ってでもやってみせます。本意でないということだけは、わかってください』と、本当の思いだけは宣言しておく。


 が、『──すぐに、そんなこと言えなくしてあげるんだから。魔系は死んでも杖を離すなって先生の教え、ちゃんと守ってね?』とステラ先生。そして、先生は妖しく舌なめずりをしながら(めっちゃせくしぃでどきどきした!)杖を振るった。


 煙が晴れた先。その場で杖を振るったそのままの格好のステラ先生がいた。


 そして、『んふふ……♪』って俺たちの真ん中にもステラ先生がいた。


 まずい。一瞬で懐に入られた。というか、どうやってここに来たのか誰もわからなかった。しかも、ステラ先生が二人もいる。


 最初は幻覚か……と思ったけどそうじゃない。あの生々しくも妖しい雰囲気は決して幻覚じゃ再現できない。『──やっぱ、一番厄介なのは愛魔法かな?』とステラ先生はロザリィちゃんをロックオン。


 そして、瞬きの合間にロザリィちゃんに肉薄。顎クイ。『んふっ♪』って笑って──


 ──思いっきりぶっちゅぅぅぅぅ! ってやった。もちろんオトナなマウストゥマウス。


 『~っ!?』ってロザリィちゃんが声にならない悲鳴を上げる。息が苦しくなったのか、手足をバタバタとしている。ステキすぎる二人がディープなちゅーをしているところに不覚にも神を感じた。しかもめっちゃ長い。


 正直俺たちも何が起こったかわからず呆然としていた。やがて先生が口を離すと、ロザリィちゃんは腰が抜けたのか、そのままへなへな、ぺたんと真っ赤な顔のまま座り込んでしまった。


 『……あ……あ……!』と、眼が潤んでいる。何が起こったのか本人もわかっていないらしい。とりあえずお姫様抱っこしてステラ先生から距離を取る。


 『その次は……やっぱりミーシャちゃんのリボンかなぁ?』ってステラ先生は次なる獲物を定めた。ミーシャちゃん、動く暇すら与えられずに顔をガシッとつかまれる。近づくくちびる。『にゃああああ!?』って悲鳴。


 目をぐるぐる回した犠牲者がまた一人生まれた。すっげえうらやましかった。


 『ロザリィちゃんたちには刺激的すぎたかな?』ってステラ先生は追撃の様子も見せずに妖艶に笑う。なんか今日のステラ先生、せくしぃさが半端ない。背筋がぞくぞくする。マジ最高。


 で、ロザリィちゃんとミーシャちゃんの様子を見たんだけど、見るからに放心状態で戦闘に参加できそうにない。おそらく、ディープキスという精神的動揺の隙になんらかの魔法要素を注入されたのだろう。


 そして、ウブなステラ先生が女の子相手とはいえディープキスなんてできるはずがない。つまり、ロザリィちゃんに襲い掛かったステラ先生は魔法でできた分身ってわけだ。


 その証拠に、もう一人のステラ先生は顔を真っ赤にして『あうあう……!』って顔を押さえていた。そんなステラ先生もマジプリティだった。


 さて、本体と分身の区別がつくのなら話は早い。本体を叩きさえすれば分身も消える。まあ、それが実際かなり難しいんだけど。


 『我に敵うと思うなや?』と妙に自信ありげなパレッタちゃんがキス魔ステラ先生への囮を買って出る。『積極的な子、嫌いじゃないよ?』、『キスなんかに負けないもん!』と二人が向き合った。


 パレッタちゃんは自分からミーシャちゃんにキスしたこともある猛者だ。なによりパレッタちゃんだ。俺たちも安心して本体ステラ先生へと攻撃を加えようとする。


 が、後ろから『ひゃあぁぁぁんっ!?』とパレッタちゃんの悲鳴。振り向けば舌なめずりするキス魔ステラ先生と腰が砕けて立てないパレッタちゃん。『先生のキスには勝てなかったよ……!』ってパタリと倒れた。


 『もう、しょうがないにゃあ……!』ってキス魔ステラ先生は次の獲物を物色する。次々にルマルマ女子が先生の毒牙にかかって行った。


 根性ある女子がキスされながらも『私ごとやれぇぇぇぇッ!』って自らを巻き込んでキス魔ステラ先生に拘束結界を張ってくれたけど、先生はぶち込まれた魔法をしっかり結界で防ぎ、さらっと拘束から抜け出す。


 『キァァァァァ!』ってあのヴィヴィディナも襲い掛かったけど、『おくちを付けてからでなおしてこーい!』って神聖魔法で爆散された。


 さすがにヤバい。みんなに戦慄が走る。あのキス魔ステラ先生を止める策がまるで思いつかない。幸いと言うべきか残念と言うべきか、キス魔ステラ先生は女子ばかりにキスしまくっていたため(そもそもキスしかしてこなかった)クラスそのものの損傷速度は低い。


 しょうがないので、アルテアちゃん他無事な女子メンツがキス魔ステラ先生を出来得る限りひきつけて置くうちに男子が本体ステラ先生を攻撃することに。


 つーか、ステラ先生を二人同時相手なんて不可能だし、本体を叩いて分身を消すくらいしか方法がなかったともいう。


 『……初めてくらい、普通にしたい。マジで頼むぞ』ってアルテアちゃんがガチな顔で言ってきたのが印象的だった。どうやらアルテアちゃんとフィルラドはまだらしい。そりゃそうか。


 で、『さあ、こっちはこっちで本気でやろうか!』とほほ笑むステラ先生と対面。


 まずは暗黒魔法による疑似魔法生物(ヴィヴィディナリスペクト)を多重展開しステラ先生に攻撃。先生がただの魔力弾だけでぶち抜いたところを精霊憑依でタイタンの剛腕を召喚し握りつぶす。


 が、『この前と同じ触種かな?』って先生はしっかりかわした。でもそこまでは予想通り。移動先に固定魔法陣を足場にしたポポルが先回りしており、俺の多次元魔法体を連射魔法で砕き鬼のような魔法片の雨を浴びせる。


 もちろんこれだけじゃ仕留めきれないけど、やっぱり着地点にクーラスが先回りして大規模罠魔法を展開。しかも平面じゃなくローブの機能をフル活用した立体空間多重展開罠魔法。ついでに俺が付与魔法をかけてグレートな仕上がりにしておく。入った瞬間即アウトのヤバいやつになった。


 罠と連射の激しい攻めだったけど、ステラ先生は余裕の表情を崩さない。光のヴェールを身にまとい、暗黒禍鏡で魔法を跳ね返した。


 その隙を見て『おおおおおッ!』ってジオルドが【 】を具現魔法で具現化。【 】の名に相応しいまさに何もない虚無。あまりにもデカすぎるそれをジオルドがステラ先生に振り下ろす。


 瞬間、すべてが消えた。音も匂いも気配もなにもかも。だけど、次に見えたのは後ろからステラ先生に締め上げられるジオルド。『ちょっとあせったよ!』って、ステラ先生はグランウィザードのローブをはためかせている。


 『……そんなことだろうと思いました』とジオルドは笑い、逆にステラ先生に抱き付いた。『役得ってやつですよ! ……やれぇッ!』って吠える。


 『おうよ!』とフィルラドが召喚魔法を発動。『うぉあッ!?』とアルテアちゃんが召喚された。『頼むぜアルテアちゃん!』とフィルラドの胸からケツフリフリしてギルギルしくなったヒナたちが飛び出す。


 アルテアちゃん、すぐに状況を理解し『任せろ!』とヒナたちを射撃魔法でストライク。ヒナたちはジオルドをさけてステラ先生にぶちこまれた。


 ……と思ったら、超硬魔導結界に防がれている。爆発四散したヴィヴィディナが触媒にされていた。ポイされるジオルド。


 『おかえしだよ!』ってステラ先生は結界を自らぶっ壊す。あり得ないことに、砕けた破片が多数の槍を形成し、周囲にくるくる飛びだした。そして、俺たちに襲い掛かってきた。


 たぶん、槍の数は五百を超えていたと思う。一本一本が大きな樹くらいの大きさがあって、目の前全部が結界槍で埋まったっていえば、どれだけの恐怖を感じたのかわかってもらえるだろうか。


 クーラスが倒れた。フィルラドも倒れた。ポポルも『ふぎゃあああ!?』って言って倒れた。ジオルドはすでに気絶一歩手前。ほかの男子も根こそぎ槍に倒された。


 倒されなかったのは、吸収魔法で槍の魔力をかきけした俺と、神速の筋肉で槍の群れに真正面からつっこんだギルだけだ。


 『うっそぉ!?』ってステラ先生が槍を戻して強固なる結界にするも、もう遅い。『本気でやれ、親友!』とギルの背中にひっついた俺が叫ぶ。『任せろ、親友!』とギルはその拳に黒く禍々しい魔力を宿した。


 吸収魔法と寄生魔法が混じり、共鳴しあう。迎撃のために投射された槍やヤバそげな魔法は俺たち二人の魔法でその大半の威力をそがれた。


 『ちょ、ま、それはシャレにならな……!』ってステラ先生の驚く顔がマジステキ。なんでステラ先生ってあんなにかわいいんだろう?


 で、俺の吸収魔法を込めた拳とギルの寄生魔法が込められた拳がステラ先生に直撃する。直前に戻した槍は吸収&寄生されて魔法物体としての用をなさなかった。


 さすがに吸収魔法とあの寄生魔法の両方をくらってタダで済むはずがない。身体的外傷そのものは最後の魔力で防いだらしいけど、先生はポカンとしたまま俺たちを見ていた。


 そう、立っているのは俺とギル、そしてキス魔ステラ先生と本体ステラ先生だけ。かつ、本体ステラ先生は俺とギルに杖と拳を突きつけられている。


 完全勝利でこそないものの、魔喰の触種とかを使うことなくステラ先生を追い詰めることができた。


 ──そう、その時までは思っていた。


 先生さ、なんかいきなり笑顔でしゃべりだしたんだよ。


『本当に、本当にみんな強くなったね! あの日、ガイダンスで初めて会った時よりも……! ううん、こないだのテストの時よりもずっと! 先生が思っていた以上に、先生なんかの想像をはるか超えて強くなっている! 先生はそれが、とってもうれしい! 先生やっててよかったって、心の底から感じている!』


 うん、ここまでは普通だよ。実際、みんなめっちゃ強くなってたし。最後の槍だって、ヴィヴィディナ触媒じゃなかったらみんな防げたと思うし。あと感動の涙を眼に浮かべて話すステラ先生めっちゃかわいかったし。


『まさか分身してるのにここまでやるとは思わなかったよ! 今回は本当に、今出せる力のギリギリまで使ったんだもの! ご褒美を特別に上げたいくらい!』


 うん、正直に言うけど、この『ごほうび』ってところに俺ってばすごく期待した。だって、上目遣いで真っ赤な顔してさ、すっごくまっすぐ俺を見てくるんだもの。


『とりあえず、──くんへのごほうびはこれが一番かな?』


 うん、ステラ先生の可愛いお顔が、女神も裸足で逃げ出すくらいのステキな笑顔が、戦いが終わった後だというのになお香る甘いにおいが、そんなそれらが俺の顔に近づいてきたとき、もう天国に迷い込んだんじゃねって思ったよ。


 で、先生のくちびるが俺のくちびるに触れた瞬間、崩れ去ったことに絶望したよ。目の前にいたはずのステラ先生がボロボロとかき消えていく様に絶望したよ。


『──やっぱり詰めが甘いのは課題だね?』


 って後ろから聞こえたの。耳元で囁かれてぞくぞくしたの。体中の力が抜けて、立っていられなくなったの。


 『うぉぁぁぁっ!?』ってギルも倒れて苦しんでいた。俺も体中の魔力が漏れ出て力が入らない。この感覚、非常に身に覚えがある。


 倒れているはずの、分身であるはずのキス魔ステラ先生が、黒く禍々しい魔力を手のひらに宿して、俺たちを見て笑っていた。


 分身はキス魔ステラ先生じゃなくて、いつものステラ先生だった。


 俺たちが必至こいて倒したのは、倒したところで何の意味も無い分身だった。


 『みんなのこと、先生は良く知っているつもりだよ。みんなが先生のことをどう思っているのかも、先生知っているつもりだよ。だからこそ、みんなは引っかかると思ったんだ。……えへへ、驚いちゃった?』ってステラ先生はポンポンポン、と俺とギルの体に魔喰の触種を植え付けてくる。


 『なん(でそれを)……!?』って言ったところ、『この前やられたの、ちょっと悔しかったから。先生も逆解析して魔法として再現してみたんだ』って笑顔で答えてくれた。心と心が通じ合ったみたいでちょううれしい。


 とはいえ、あれはそう簡単に再現できるような代物じゃない。が、そんな俺の考えもお見通しなのか、『こないだギルくんのお薬をつくるときに取得した魔法要素をちょっと応用したの。あと、──くんの吸収魔法要素も使っているかな。だから、耐性のある二人でも結構効くでしょ?』って言われた。


 しかも、『──くんの髪の毛、こないだロフトで寝ているときもらったから。……先生の髪の件、これでおあいこにしてあげる』って囁かれた。


 ヤバい。バレてる。いや、ガチっぽい感じじゃなかったから大丈夫だと信じたい。


 それにしても、まさかステラ先生が俺たちのテストのためだけにそこまでするとは。魔系は目的を達成するためならなんでもするクレイジーだってわかってたけど、俺、やっぱり心のどこかでステラ先生は女神なんだって思ってた。もちろん今も女神だけど。


 『ほら、魔力が切れるまでになんとか抵抗してみようよ? 先生、──くんとギルくんがそれをどうやって突破するのかすっごく興味ある!』と、ステラ先生は無邪気に笑う。


 でも、正直俺もギルも体を浸食されまくって力が出ない。辛うじて腕を動かすくらいはできるけど、それでも魔法なしステラ先生を倒すことはできない。


 ぶっちゃけ、後は時間経過でゲームオーバーな状況だった。さすがにステラ先生が発動した魔喰の触種を、たかだか一年生である俺やギルが破れるはずもない。


 もはやここまで、いやいや結構健闘したかしらん、と正直諦めかけていた。クラスメイトはみんな倒れているし、分身が消えたとはいえステラ先生はぴんぴんしているんだもの。


 だけど、あきらめなかったやつがいた。俺とステラ先生の会話という、その時間を有効活用したやつがいた。


 突如、濃密で禍々しい魔力があたり一帯を覆う。ただでさえだるくて苦しいというのに、さらに全身を尋常じゃない圧迫感が襲う。


 『な、なんなの!?』ってステラ先生がびっくりした目でこっちを見てきたけど、俺だって何が何だかわからない。


 そして、先生が杖を構えなおすその瞬間に黒く歪な禍々しい鎖が俺、ギル、ステラ先生をまとめておもっくそ縛った。どうやらかなりの魔法耐性があるらしく、『う、そ……!』ってステラ先生でも抜け出せない。体に鎖が食い込むステラ先生がめっちゃせくしぃだった。


 『なんとかしたからなんとかしやがれ! 組長だろうが! 勝手に諦めてんじゃねえよ!』って叫ぶクーラス。右手を血まみれにして、地面に何かを刻んでいた。


 ここでようやく気づく。いつのまにやら、地面に大きな魔法陣が。その要所要所に倒れたクラスメイト。そしてその中心に俺たち。


 間違いない。クーラスのやつ、倒れたクラスメイト、そして俺たち自身を触媒にして罠魔法を発動させやがった。


 俺が先生と話している間に、四散したヴィヴィディナがクーラスの漆黒の意思を汲み、クラスメイトの位置をさりげなく動かしていた。さらに、自らの体をも同時に魔法陣と化し、クラスメイトを触媒として活用できる支度を整えていた。


 何が恐ろしいかって、倒れ伏したクラスメイトを触媒に使うという発想と、組んだ魔法陣に浮気デストロイの特徴があった事だろう。クーラス単体での魔力じゃ決してここまでの規模のものは出来なかったはずだ。


 ルマルマ全員の魔力で構成された罠魔法に、さすがのステラ先生も身動き一つできない。が、それは触媒として扱われている俺も一緒。無防備ステラ先生が目の前にいるのに、何もできない。


 この状態でなお何とかしろって言ってくるクーラスは、本当に酷いやつだと思う。


 だから、俺は俺の精神に潜ませていたちゃっぴぃをここで解放した。


 『ふーッ!』とちゃっぴぃはやる気満々。『全力でやれッ!』って精神を通して命令する。ちゃっぴぃは魔法的拘束からいまだもがくステラ先生に近づき、『きゅーっ!』って声をあげ、そして──


 ──思いっきりぶっちゅぅぅぅぅ! ってやった。もちろんオトナなマウストゥマウス。


 もうね、その時のステラ先生はすごかったね。いやさ、ちゃっぴぃってあれでも最上位の夢魔の魅惑種じゃん? まあ、要は夢魔としてめっちゃすごいってことじゃん?


 教えたわけでもないのに、ものすごくキスがうまいんだよ、あいつ。


 ステラ先生超顔真っ赤。まんまるおめめをさらに開いて、指先がピンと伸びている。耳なんかイチゴと同じくらいに赤い。


 『~っ!? ~っ!?』ってバタバタしても、『きゅーっ♪』ってちゃっぴぃはオトナなキスをこれでもかと続ける。


 本職のプロである夢魔のキスだ。魔法生物学的な観点で見ても、これ以上にない精神攻撃になっていただろう。


 『~っ!? ~っ!?』ってステラ先生はさらにぺしぺしとちゃっぴぃを叩いたんだけど、そもそも力が入らないのか、なされるがままにキスをされる。つーか一回も息継ぎできていない。


 普段はガキっぽいちゃっぴぃだけど、夢魔としてのキスはそれはもう殺人的なレベルでヤバい。種族特性としてそうなんだからどうしようもない。『魔系は死んでも杖を離すな』って言ったステラ先生なのに、とうとうポトリと杖を落とした。


 『きゅーっ♪』と、ようやくちゃっぴぃが満足したとばかりに口を離し、妖しく唇を舐める。ステラ先生、ロザリィちゃんたちと同じようにぺたんと座り込んで目の焦点があってなかった。


 で、『ふにゃああ……』ってそのまま目をぐるぐる回して倒れてしまった。ウブなステラ先生には刺激が強すぎたのだろう。ウブじゃなくても倒れていたと思うけど。


 俺の記憶があるのはここまで。魔法陣中心の触媒として使われていたからか(あと魔喰の触種も喰らっていたし)、ここで力尽きて気絶したっぽい。


 目覚めたのはドクター・チートフルの医務室。驚くべきことにルマルマ全員が担ぎ込まれていた。ステラ先生に倒された上に、魔法陣触媒として使われたからみんな消耗が激しかったらしい。一番ひどかったのは無茶やらかしたクーラスだったけど。


 『まさかステラ先生がここまでやられるとは……キミたち、いったい何をしたんだ?』ってドクター・チートフルがすごく不思議がっていた。まさかディープキスでオーバーヒートさせたなんて言えるはずもない。


 ちなみに、俺たちを運んでくれたのはグレイベル先生、ピアナ先生、ラギだそうだ。


 ちゃっぴぃのやつ、最初は敗者が倒れ伏す戦場に立ってご機嫌だったらしいんだけど、みんなが動かないのを見て、ぴすぴす泣きながらピアナ先生のところに駆け込んだのだとか。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。ステラ先生とお話ししたかったけど、『精神的ショックが大きすぎるため今晩は面会謝絶。罰が当たったのよ!』ってピアナ先生に言われたため会えず。また、女子たちは雑談中、なにかいろいろ吹っ切れた(?)様子で今日のキスについて話していた。


 一部の女子に至ってはちゃっぴぃにキスの仕方を教えてくれと聞きに来る始末。どうなってんだろうか。


 さすがに長くなりすぎた。眠い。というか疲れた。こんな時でも真面目に日記をつける俺ってすごいと思う。なんかまとまりが悪い気がするけど気にするな。


 ギルの鼻には最後の力を振り絞って採取したステラ先生の髪の毛……はもったいないから、ちゃっぴぃのヨダレでも詰めておこう。おやすみ。

20160131 誤字修正

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