288日目 キッズ☆ギル
288日目
枕元に金色のジャガイモがあった。何かあると面倒なので、その場で蒸かして処理しておいた。見た目の割りに普通の味。すまんなギル。
ギルを起こして食堂へ。雪は降っていないけど、非常に冷え込んでいて室内なのに息が白い。相変わらずこの学校のボロさ加減には驚きを隠せない。寝室には暖炉ついていないし、そのうち凍え死ぬ人が出るんじゃないかってたまに思う。
朝食後にあったかホットミルクを飲む。やっぱりなんだかんだでオーソドックスなのっていい。砂糖がちょこっと入っているのはそうだけど、もともとのミルクの質が良く、甘みがしっかり感じられる絶妙な逸品。ついつい二杯も飲んでしまった。
そうそう、ちゃっぴぃも『きゅーっ♪』ってホットミルクを飲んでいた。お口周りに真っ白なおひげができたというのに、あいつはそういうことをまったく気にしない。しょうがないから俺が拭いてやったけど、いつかは自分でできるようになってほしいものだ。
さて、休日かつ寒くて外に出る気がなかったため、今日はマイフェイバリットチェアーに揺られながら読書をすることに。最近めっきり読んでいなかったステラ先生からもらった本を読むことにした。
ぼちぼち読み進めていたら、【のっぽとちびの誓薬】なる薬の調合法を発見する。なんでもこれ、のっぽを羨むちびとちびを羨むのっぽが共同研究して作った薬らしく、条件に合致したもの同士で服用するとちびはのっぽに、のっぽはちびになるそうな。
実用性はともかくとして、なかなかに面白そう。材料は手に入りにくい……と書いてあったけど、その最たる例として挙げられていた夢魔の涎はいくらでも手に入る。ほかの奴はクラス財産を漁ったら見つかった。
そんなわけで、その後は昼を食べるのも忘れて調合タイムに入る。効果の割りにそこまで難しい手順はなかったため、特に問題なく完成させることができた。俺、時々自分の才能が怖くなる。
さて、誰を実験体にしようか……とあたりを見渡したところでお散歩から帰ってきたらしきギルとギルに肩車されているミーシャちゃんを見つけた。ちょうどおやつの時間だったこともあり、ロザリィちゃんとはんぶんこして食べようと作っておいた大きめケーキに薬を混入し、二人に渡す。
ミーシャちゃん、『なんかアヤシイの……?』って言いながらもギルとケーキをはんぶんこ。ギルのやつは『うめえうめえ!』ってケーキを食べる。ぼふんっていい音と光が迸り、『みぎゃーっ!?』って悲鳴。
ミーシャちゃんがナイスバディの背の高いおねーさんに、ギルがポポルと同じくらいの身長の子供になっていた。身長が変わるだけのはずなのになんかおかしい。やっぱり隠し要素としてギル・アクアを調合に使ったのがいけなかったのか。
『なんか視界が高いの! あと肩がいい感じに凝るの!』とご機嫌なミーシャちゃん。ギルは『俺の筋肉ゥゥゥゥゥ!?』って絶叫を上げる。それだけならまだしも、ポポルみたいにぐすぐす鼻をならして半ベソかきだしやがった。
さすがにこれには唖然。すでに十分立派な筋肉で、『俺よりあるじゃないか!』、『俺も勝てるかどうかわからない』ってクーラスとジオルドが事実を告げるも、『あの筋肉じゃなきゃやだぁ……っ!』って聞かなかった。
どうしたものかと思っていたら、半ベソをかくギルを『しょうがない子なの♪』ってミーシャちゃんがあやし始めた。大人のおねーさんの体がよほどうれしいのか、子供ギルを正面からぎゅって抱き締め、背中をさすさすとさすっている。女子の中では背の高いアルテアちゃんよりも背が高かったから、マジで大人のおねーさんの貫禄がすさまじかった。
ミーシャちゃん、そのままギルをだっこしたり膝枕したりと思う存分に楽しみだす。ギルのやつ、頭もすっかり子供になったのか『わぁい!』って恥ずかしがる様子もない。普通に胸に顔を埋めている。ギルの癖に。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。結局、寝る前に薬の効果が切れたんだけど、それまでずっとミーシャちゃんはギルを我が子のようにあやし、甘えさせていた。子供ギルもそれを受け入れていたため、本物の親子のようにしか見えないという異常事態だった。つーか、大人ミーシャちゃんが俺が今まで見た誰よりも大人だったため、見惚れる男子が続出していた。
あ、ミーシャちゃんが子供ギルの手を引いて女湯に入ろうとしたときはさすがに男子全員ガチで止めたよ。ギルも不思議そうにきょとんと首をかしげていたし、ミーシャちゃんも『うちの子はまだ一人でお風呂入れないの!』って言ってたけど、アレ、止めないと薬が切れたときに大変なことになってたよね。
元に戻ったギルは大きなイビキをかいている。子供の時の記憶があるかどうかは定かじゃない。少なくともミーシャちゃんは覚えていた。『うああ……やっちまったの……!』ってすっげえ真っ赤になって恥ずかしがってたよ。
とりあえず、微妙に余った【のっぽとちびの誓薬】を鼻に詰めておいた。実は、ロザリィちゃんから『私たちも……ね?』って誘われたんだけど、身長差が足りないから無理だったんだよね。代わりに情熱的にキスをして埋め合わせたけど。