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若手官僚コンサル移籍の波、私は

「お前、コンサルにならんか?」
省庁勤務まもなく、大手コンサルファームで働く友人から連絡がきた。率直にいえば入省した時点で「そういうこともあるだろう。」とは認識していたものの、入省2週目というあまりのスピード感に驚いてしまった。
と同時に、そうか、「省庁勤務」という経歴は、コンサルに繋がることが本当にあるんだ。と改めて襟を正した。


そしてそういう目で意識してみると、若い官僚たちの中で、入った後でイメージをたがえてしまった者や、色々考えてしまいがちな者らが否応なくコンサル成りを意識していることも、雑談や飲み会で聞いた話から分かってきた。


そして結論からいえば、後述のとおり私はコンサルファームに"移れなかった"。

ただ、コンサル成りを私もまた意識するようになり、「コンサル的なフレームワーク」について大雑把に内容を攫うことになった。それは直接的な意味では水泡に帰してしまったのだが、あるとき、現在携わっている業務の関係で、政策効果検証会に参加する機会があり、「大手コンサル」と友人づきあいではない場において相対することになる。何処であるとは申し上げないが、決して新興ではない最上級に近いファームであることを付言したい。


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1 “検証会”という名のロジックモデル紙芝居

「因果を明確化し、KPIを設定し、効果を定量的に測ることがEBPM(Evidence-Based Policy Making)の核心です。」とコンサルは熱弁を振るう。


投入・指標設定→活動→アウトプット→短期~長期アウトカム(インパクト)→効果分析──理想の因果階梯を色分けし、枠で囲み、矢印でつなぐ。
会場に映されたスライドは、美しいほど「教科書的なお手本」を、ほぼそのままトレースしただけのロジックモデルだった。


勿論、これを作成するにいたるまでにそれはそれなりのサラリーマン的な面倒な調整があったのであろうと想像するのは難くない。
が、資料の作成それ自体は、またそれを踏まえて論理的な言葉やトーンでもって人前で喋ってみせることは、一定の度胸とある程度の知力があり、適切なテキストさえあれば誰にでも再現可能なレベルだろう。


そして私はこの数時間に及ぶ紙芝居に、いったいいくらの税金が注ぎ込まれているのかを知っている。いわゆる世間で想像する「大手コンサル」が受け取る高額な年収を支払うのに十分な委託料だ。


なぜ政策の効果検証を自前でやらないのか。その委託料の半額で私が同じものを作りましょうか? と思わないこともない。

しかし意味は解る。


「第三者がわざわざやる」

そのこと自体に意味がある。言い訳と責任転嫁だ。

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2 “日本型 EBPM”という名の“言い訳装置”

これは門外漢の語る話でしかないが、EBPMと称する「日本型EBPM」は、本来的な米英型EBPMと名称を一にしていても実態は異なる。
具体的には、以下3要素が複合的に交錯している。

① マネジメント偏重

レビューシートで「事業目標達成率」「コスト削減額」を整理=財務管理色が濃く、箱書きと KPI 設定を評価の中心に据え、「因果の可視化」までは行くが因果推論までは踏み込めない→米英型では、マネジメントの比重を軽くし実証(RCT・DiD 等)によってアウトカムが改善したかどうかが論点となる。

② データ・人材不足

統計は所管縦割りで現場調査も精度が荒く、人事は短期ローテであり試験設計や計量因果に長期投入できる専門知識を持った人材が育たず不足している→米英型では、縦割り意識が相対的に薄く、Evaluation Officer や What Works Centre が横串で継続的に評価を担当する。

③「政治的な」利用

日本の予算編成は「前年度実績主義+概算要求交渉」となっており、成果に連動していない為、ロジックモデルと第三者コメントを我田引水して単に説明責任を果たすツールでしかない→米英型では、エビデンスが強いものに国費を投下する資源分配メカニズムとなっている。


今回の効果検証では複数の政策が対象となっていた(そのうちの一つが私の担当であるが、私は所属を明かしていないのでいずれの政策についても名称は伏す)のであるが、評価資料の構造は全て上述のとおり、同じだ。

数字や、飛び出す普段見聞きすることもない横文字の羅列は(勿論そういうものを遣う合理性も理解はしている)一見立派だが、いずれにしても入力データ欠損や定義ゆらぎで厳密な検証は断念し、要するに「とりあえず傾向が見えてます!」という、占いのようなことを言って終わる。知識のないものが聞けば単に占い的なことを言ってるに過ぎないことに気づけないような、もってまわったような言い方で。


そして担当者がその漠とした「傾向」を引っ張り出してきて、「第三者がこう言ってますから、次期はこう改善してみませんか?」と提案を行う。

要するに、“外部のプロ”というラベルがあれば、内部で言いづらい結論を政治的コスト最小で示すことができる。


古代の日本では、高名な占い師が亀の甲羅を熱して、その甲羅の割れ方で政治の吉凶を占ったという。それがより複雑で近代的なものになった感じだ。

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3 だから占い師は「高名」である必要がある

最初に「私はコンサルファームに"移れなかった"」と書いたが、要するにそういうことだ。


高学歴者の多い官僚の作ったものを裁く側に回るには、官僚と同等かそれ以上の経歴があり、相応の実績があるか、特殊な訓練を経ているだとか、そういうオーソリティが必要だった。そうでなくてはクライアントたる官僚に、自分の「占いの神聖」を担保することができない。


私にはそれがなかった。そして「官僚と同等かそれ以上の学歴・経歴」の人間を探すのなら、最初から官僚の中から人材を摘まんでくるのが一番てっとり早い。


そして占い師は、責任を転嫁するに足りる実体を持った「人間」でなければならない。AIがいくら発達し、同格の分析レポートを秒速で吐き出せるようになっても、「ChatGPTが効果なしと言っています」では政治も議会も納得しない。

血の通った「名刺」が必要だ。だからコンサルは自己紹介を欠かさない。それは実績を誇るためだけではなく、自分が責任の受け皿足りうる人間であることの証明として機能している。だから当面、コンサルの席は消えない。


私たち若い官僚の前には、いくらでも機会が転がっているように見える。そして若手は夢を見る。

一般職は、45歳で“穏便に整理”されていく早期退職の現実を目の当たりにする。
総合職もポストは減り、残業規制は厳しくなる一方で業務は増え、自分たちも同じロジックで消費されるかもしれないと肌で感じている。
そんな漠然とした不安の中、「コンサル」は光って見える。


本来的にはコンサルを内製化できる実力を持つ職員がいても、それは単に供覧用のアートに過ぎない。ハンコさえ衝いて貰えるなら中身は何でも良いし、下手に高度なものを出しても通らない。しかし外の世界では、同じものが、高い値段で売れる商品になる。


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4 まあ私は中でデータ整備を粛々とやります。

コンサルの友人には「せっかく声をかけてくれたのに経歴不足ですまん!」と謝りつつ、第三者に頼らず「効果なし」と言える未来が来るなら。そしてコンサルが実証に集中し、本来的なEBPMが出来るのなら、それにしくはない。


夢に向かって辞表を出そうかどうか悩んでいる若い同僚を横目に、私は少しでも去年よりもマシなポンチ絵が作れるよう、粛々とExcelをカチカチして暮らしている。

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