コンテンツにスキップする

【コラム】米ロ会談、一枚上手プーチン氏の思うつぼか-チャンピオン

ウクライナおよび欧州首脳らは、15日に米アラスカで予定されている米ロ首脳会談で、トランプ大統領が再びプーチン大統領の手玉に取られるのではないかと懸念している。こうした不安はもっともだ。実際、交渉の達人としての評価を得たいのであれば、トランプ氏はきちんと準備が整うまで首脳会談を延期するのが賢明と言えよう。

  トランプ氏が米国の敵対国やライバルとの対話を試みること自体は誤りではない。通常の指導者なら回避するようなリスクも、トランプ氏はあえて挑む。だが、急ごしらえの会談が期待通りの成果を生むことはまれだ。

  米国側にこれほどの不透明感がある中、15日の米ロ会談の狙いについてプーチン大統領の視点から探るのが分かりやすいだろう。プーチン氏にとって今回の会談は、トランプ氏による制裁リスクを低減させ、戦争をより優位に進めるための絶好の機会となる。

  同様の構図は今年初めにも見られた。プーチン氏は、ウクライナ和平と米ロの経済関係再構築を渇望しているトランプ氏を巧みに利用した。トランプ氏が制裁緩和を含めいかなる譲歩を示そうとも、プーチン氏が虎視眈々と狙っていたのはただ一つ、戦略的機会だ。米国がウクライナへの軍事支援に乗り気ではない中、プーチン氏は単に論理的な選択肢を実行したに過ぎない。すなわち弱体化しつつあるウクライナ側の状況を突き、地上戦・空爆の両面で攻勢を強めた。最終的にトランプ氏も、プーチン氏の時間稼ぎに付き合わされていたことを認めざるを得なかった。

  トランプ氏が対ロ追加制裁の期限としていた8月8日を控え、ウィトコフ中東担当特使がロシアを訪問した。今回もプーチン氏の任務は米国の制裁を回避するために必要最低限の取り組みを見せつつ、どのような具体的な成果もロシアの立場を強化するよう仕向けることだった。現時点でその戦略は極めて順調に進んでいる。プーチン氏は何も譲ることなく成果を手にした。

  プーチン氏の最優先事項は、トランプ氏が提案していたウクライナのゼレンスキー大統領を含む3者会談を回避し、ゼレンスキー氏を協議の場から排除することだった。同氏が加われば実質的な交渉を伴うこととなり、ロシアの無関心ぶりを隠し通すのが難しくなるからだ。トランプ氏との2者会談に固執することで、プーチン氏には、トランプ政権にとって受け入れ可能な条件を提示する余地が生まれる。ただ、この条件がウクライナには到底受け入れられない内容になることは、プーチン氏は百も承知だ。これによりゼレンスキー氏が再び和平を妨げる存在となる。トランプ氏の矛先はゼレンスキー氏に向かい、プーチン氏への圧力は和らぐという構図だ。

  第2の目的は、国際刑事裁判所(ICC)が2023年に発布した戦争犯罪容疑による逮捕状を恐れ、国外渡航を控えるのけ者としてのプーチン氏のイメージを払拭し、もはや孤立していないことを国内外にアピールできる場所を見つけることだった。事実、今回の訪米が実現すれば、プーチン氏にとっては、ニューヨークで行われた国連総会への出席を除き2007年以来の米国本土の訪問となる。ロシア帝国にかつて属していたアラスカでの首脳会談は、プーチン氏の国際社会への復帰を印象付けると同時に、ロシアがかつて大国だったことを象徴的に示す場にもなるだろう。

  トランプ氏からの招待そのものが、ロシアにとっては勝利だ。米ロ会談によって対ロ制裁が先延ばしされる、あるいはウクライナとその支援国に不和をもたらす「和平案」が提示されれば、なおさらだ。だが、攻撃を恒久的に終結させる道を切り開くには、今以上の財政的・軍事的圧力、さらに入念な準備が不可欠だ。独ビルトの報道が正しければ、プーチン氏および側近が先週ウィトコフ氏と会談した際には、同氏を完全に翻弄した。

  ウィトコフ氏が何を誤解していたにせよ、その結果、議題に含まれていなかった領土交換について、トランプ氏が交渉対象であるかのように発言する事態となった。

  ロシアはまた、制裁を回避するために空爆の一時停止を提案する可能性もあるが、それは見せかけの譲歩にすぎない。2年前とは異なり、現在ではウクライナが新たに開発した長距離ドローンやミサイルが、ロシアのエネルギー施設や軍事資産に深刻な損害を与えている。現時点では、停戦は双方にとって歓迎すべきものかもしれない。

  ウクライナ国民も、プーチン氏の侵攻を終結させるには領土の一部を手放さざるを得ないことを理解している。ただし彼らが念頭に置いているのは、第2次世界大戦終結時に旧ソ連の指導者、スターリンがドイツから獲得したような譲歩だ。つまり、スターリンはドイツ東部の支配権を確保したが、西ドイツは主権を保持し、最終的には東ドイツを取り戻した。さらに重要なのは、ソ連がベルリン全域の占領を試みた後、西ドイツの平和的繁栄を黙認したという事実だ。

  しかしながら、プーチン氏がその種の合意を望んでいる兆候は全くない。この戦争で追求している本来の目的に何も貢献しないからだ。プーチン氏が目指すのは、ウクライナの非軍事化と支配権の確保、そして北大西洋条約機構(NATO)の干渉を受けずに欧州でのロシアの勢力圏を米国に認めさせることだ。プーチン氏がこの意図を隠したことはない。戦争の「根本原因」が解決され次第、停戦について話し合う用意があるとの発言が意味するところは、まさにこれに他ならない。

(マーク・チャンピオン氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Putin Is About to Outplay Trump Again in Alaska: Marc Champion

(抜粋)

    This column reflects the personal views of the author and does not necessarily reflect the opinion of the editorial board or Bloomberg LP and its owners.

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE