沖縄県・石垣島在住のカメラマン、西野嘉憲さん(55)が、南房総市の外房捕鯨(庄司義則社長)のミンククジラ漁に密着して撮影した写真集「鯨と生きる~北海道編~」(立夏書房)を出版した。捕鯨船で撮影した船員や捕鯨作業の様子、捕ったクジラの解体風景など、沿岸捕鯨の現在を捉えた写真が収められている。
大阪府富田林市出身。早稲田大学に在学中、趣味の昆虫採集で石垣島を訪れた際、地元農家の人に世話をしてもらったことをきっかけに、一次産業に興味を持つように。大学卒業後、広告制作会社に就職したが「自分の好きなテーマで写真を撮りたい」と退職。2005年に、きっかけをくれた石垣島に移住し、一念発起してフリーランスのカメラマンとして活動するようになった。
現在は、雑誌やテレビ番組の素材撮影などに当たりながら、日本の伝統的な漁業や狩猟をテーマに全国で取材。沖縄の潜水漁や奥飛騨のマタギなどをテーマにした写真集を10冊出版している。
西野さんが捕鯨にフォーカスを当てたのは「日本の伝統漁業を語るうえで欠かせないと感じたから」と語る。
関西で捕鯨といえば、太地町(和歌山県)と思い、11年に現地に足を運んだ。だが、乗組員以外は乗船できなかったり、反捕鯨団体の勢いがすごかったりで、一筋縄ではいかなかった。当時は、太地のイルカ漁を批判する映画も公開されていて、緊張状態が続き、うまく取材できなかったという。
一方で、関東でツチクジラ漁をしていると知り、12年に外房捕鯨の庄司社長に取材依頼。庄司社長からは「素人を乗せるのは簡単なことではない」と言われたものの、折れずにアプローチを続けること4年。ようやく乗船取材の許しを得られたという。
16年6月、同社の捕鯨船「第51純友丸」の船頭から「2頭だ。捕れたら降りろ」と乗船許可が下り、房総沖でのツチクジラ漁に密着。4日間というわずかな期間で収めた船員たちの船上生活、漁港での解体作業、和田浦の港町に暮らす人々の様子をまとめた“千葉編”の写真集「鯨と生きる」(平凡社)を17年に出版した。
2冊目となる今作は“北海道編”。24年4月~6月、再び純友丸に延べ10日間乗船。根室海峡、恵山沖、松前沖で行われたミンククジラ漁に密着した。乗船中、5日間で5頭が捕獲され、延べ1万回以上シャッターを切ったという。
純友丸と共に漁に出た太地町漁業協同組合の「第7勝丸」の捕鯨の様子も収録。クジラを探す船員や捕鯨砲を放つ砲手の姿、解体の様子などの写真に西野さんによる解説や情景描写が盛り込まれている。
西野さんは「“北海道編”は、捕鯨を知る入門編のような位置づけで作った。手に取った人に、捕鯨がどんなもので、どのように行われているかを、写真と読み物で分かりやすく仕上げた。捕鯨や鯨食文化が息づく安房地域の人たちにも読んでもらえたら」と話す。
“北海道編”は、A5変型版のフルカラー60ページ仕様。捕鯨シーンなどの映像を収録したDVD付きで、税込み3300円。書店での取り寄せか、ウェブで購入できる。
問い合わせは、立夏書房(nishino2258@gmail.com)へ。
(清水利浩)
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