本記事を読む前に、以下の記事を必ずお読みください。
めでたしめでたしと書いたのはそのままの意味で、ウィザードリィの版権問題はもう解決しており、良いところに収まっている、という意見です。
現在の版権はわかりやすい形で約2社に分かれ、彼らは持っている権利を生かし、長年動きの止まっていた一作目のリメイクを行い、そして北米主導のリメイクながらも日本に対しても十分な販売展開を行いました。
限定版の発売に際し、現在権利を保有しているシロテック兄弟も、メディアを通じて日本向けにコメントを発しています。
過去の権利をめぐる動きには一定の疑問を残してはいますが、2024年現在とくに心配するようなことはないでしょう。
そのリメイクの出来に文句があるぞということなら、まあないわけじゃないとして。
今回は現在の話ではなく、「過去の疑問」についての話、ついに書いていこうということです。前の記事を書いたあと、そのような心境になりました。
この記事で書くこと
本記事の目的は、過去に「グレーゾーン」などと呼ばれてきた「ウィザードリィ版権問題」とは何だったのか、それをつきとめることです。それは過去の話です。現在そのグレーゾーンは存在しないものと考えています。
しかし、これは日本だけの認識ではなく、どうも本国北米方面でもよくわかっていないらしいことが、直近のインタビューで明らかになってきています。
1作目『狂王の試練場』のリメイクが2023年に発表されるまで、ウィザードリィ5までの過去作は約20年ほど移植もリメイクもされてきませんでした。その原因はなんであったのか。
その問題が解決していることを今ここで新たに示し、余計な不安を払しょくすることができればよいと考えています。
それから、今後の希望も少しは書くことです。
やはり、憶測をそれなりに含むものとなります。多くの疑問を本記事では提起しますが、その回答があるとは限りません。
- この記事で書くこと
- 版権の移動図
- サーテック誕生
- アンドリューとの対立
- ロバートとアンドリューの権利表記
- 国産ウィザードリィ軍団
- 展開グレーゾーン
- 2002 最後の復刻
- Wizardry日本に行く
- 複雑!ゲームポット
- 連絡先の消失
- 手さぐる版権
- ルネサンスとは何だったのか
- 世界樹前、世界樹後
- 本国でのWizardry
- 究極の権利
- サーテックの帰還
- 権利者の影
- チェックが甘すぎる
- 最後の試練
- 正体不明の権利者
- ウィザードリィの復活
- 新たなる謎
- 新キャラクター、FRPG Corporation
- 蝸牛くもに賞賛あれ
- あとがき
版権の移動図
まずは、版権の在処について、おおざっぱな動きを図にまとめた。
Wizardryの権利は複雑、みたいによく言われてますが、こうして主要な権利の動きだけにまとめてみると、そんなにややこしくないことがわかる。
重要な権利者は、約4ライン。現在はドリコムとサーテックの2ラインのみ。
省略してる部分もあるけど。
ウィザードリィの重要な権利は、当初から制作・販売を手掛ける旧サーテック社(Sir-tech Software)にあった。
そのサーテック社は解散するまでに、別の会社(1259190 OntarioとSirTech Canada)に権利を移すなどしたが、これらは全て分社のようなものであり実態は元のサーテック社と同じ。なので、本図では省略している。
2006年には「Wizardryのタイトルの権利」など、重要な権利が日本の企業「アエリアIPM」に譲渡される。この企業についてはのちほど。
2020年からは日本のドリコムが多くの権利を持っている。
解散した元サーテックの経営陣は重要な権利は失ったものの「#1~5の著作権」は売らずに保持し、現在に至る。その後に『FRP Assets』などに名前が変わったりしたらしいが、実態はずっと同じサーテックである、という認識でいい。
彼らは現在はSirTech Entertainment Corpなどの名前に変わり、存続している。
ややこしかったのはここだ。サーテックは消滅後、表舞台から姿を消し、行方不明になっていた。だが実際はそこにずっとあって、現サーテックにそのまま受け継がれている。
つまり消えたと言っても一時的に見えない位置にいただけなのだが、それが判明するのに時間がかかったのが、ややこしかった。
それは過去の話であり、経緯が判明した現在はそういうことはない。だから、複雑ではなかった。
一部の権利は、サーテックだけでなく、初期作品の作者であるアンドリュー・グリーンバーグとロバート・ウッドヘッドの手にもあった。90年代からサーテックと裁判で対立していた原作者アンドリュー・グリーンバーグは「#1~4の著作権の一部」をサーテックと共同で持っていた扱いだったようなのだが、最終的には和解し、持っていたぶんの権利をサーテックに売り渡し、失ったようである。
かくして「#1~5の著作権」は、現在サーテック周辺に集約されている。
これ以外の重要な権利のほとんどはドリコムにあり、両者は連携できる関係にある。そこにグレーなものはもうない。
もう1人の原作者ロバート・ウッドヘッドも#1~5の一部の権利を持っていたが、これはアンドリューよりも前にサーテックに売って失っていたらしい。そのため上図では省略した。
サーテック誕生
サーテック社の日本での知名度は高くはなかった。特にファミコン版だと、箱を見てもサーテックの名前は細かい文字でちょこっと書かれてるだけ。かなりの割合でウィザードリィはアスキーのゲームと認識されているだろう。
ですが原作の発売元はサーテックです。まずこれを覚えましょう。
ウィザードリィの作者として、ロバート・ウッドヘッドとアンドリュー・グリーンバーグの2人の名は歴史に残ったが、発売元であるサーテック社のほうにも制作・販売その他に関わっているスタッフが何人もおり、多くの権利を会社としても所有していた。
そんなサーテック社の印象は、日本ではあまり良くはない。理由は以下のようにまとめられる。
- 好印象を持つほど(日本で)会社の実態が知られていない。
- アンドリューと揉めた。ブラッドリーも離脱した。
- 日本独自展開のウィザードリィの内容をちゃんとチェックしていた気がしない。
- 会社が潰れた。
そのサーテック社の設立経緯から再確認していこう。
サーテック初代社長は、経営者で投資家のフレデリック・シロテック氏。
彼の投資先のひとつが、ジャニス・ウッドヘッドさんの会社。あるときジャニスさんとフレデリックさんは、自分たちの会社で使うための会計ソフトをジャニスの息子のロバート・ウッドヘッドに作ってもらうことになった。
そこから生まれたビジネスソフト「Info-Tree」を市販するために生まれたのがシロテックソフトウェア、のちのサーテック社である。
その創設に参加したのがシロテック氏の息子たちだった。会社の実務を担っていたのは、経理・運営の担当のノーマン・シロテックと、マーケティング担当のロバート・シロテックの兄弟。
(フレデリック社長はサーテック社にいることは少ないと、82年のログインのインタビューに書いてあった)
重要な関係者にロバートが2人いるので注意してください。ウッドヘッドとシロテックの2人のロバートを混同していると思われる資料もたまにあります。
ビジネスソフトを売るために始まったはずのシロテック社だったが、近い時期にロバート・ウッドヘッドが制作した「Galactic Attack」も売り出したところ結構売れたため、ゲーム会社にシフトすることになった。要するに初期のサーテック社は、ロバート・ウッドヘッドありきの会社だった。
その頃まだ大学に籍があったロバート・ウッドヘッドは、学内にあったPLATOという端末でもプログラムをやっていたし、ゲームでも遊んでいた。
その端末の管理者をやってたのがアンドリュー・グリーンバーグだった。当初は遊びに来るロバートを追い出す立場だった。仲もよくなかった二人だが、やがて意気投合。
そのころまでに、アンドリューは数年前から友人たちと共にWizardryというゲームを作っていたのだが、市販には至っていなかった。
ロバート・ウッドヘッドはWizardryは自分の作りたいものと方向性が同じと考え、協力することになる。既にPaladinというRPGを作り始めていたウッドヘッドだが、それは中止。BASICで開発されていたWizardryをPascalで作り直すことになり、内容もかなり変化した。
完成したWizardryはロバート・ウッドヘッドとアンドリュー・グリーンバーグの2人が権利を持つ作品となり、サーテックから発売されることになった。そしてたちまち大評判になった。
つまりロバート・ウッドヘッドとサーテックがもともと身内だった。そしてロバートは大学時代には既にプログラマーとして実績もあった人物。
対しロバートとアンドリューは出会ってから日が浅かった。それぞれD&Dにハマっていたのも別ルート。
アンドリューが友人と身内で開発していたWizardryに、後からサーテックが乗っかって参加した形になるようである。
だから、ロバート・ウッドヘッド参加時点で、既に市販も考えていた可能性が高い。
一方でWizardryのタイトルを考えたのは、アンドリューか、アンドリューの友人の誰かかもしれない。
ロバートとアンドリューは良き友人となったが、アンドリューの友人たちとロバートはそれほど近くはないみたい?
彼らは少なくともWizardry3までの開発には関与しているようなのだが、ロバート経由ではあまり情報が入ってこない。
ロバート・ウッドヘッドは日本との関わりが強く、過去から何度も来日しており、奥さんも日本人で、日本語でのインタビューが他の人物よりかなり多い。
このことで、逆にアンドリューやシロテック兄弟を含む他のスタッフの関わる部分が見えにくくなっています。
ですが少なくともサーテックは「学生が作ったゲームを売っただけの会社」ではありません。
そう思ってる人がいるかもしれないので釘を刺しておく。
実際、ロバート・ウッドヘッドの離脱後も、サーテックはゲームの制作販売を継続し、Wizardryを継続させた以外にもJagged Allianceシリーズで一定の成功を収めていた。
アンドリューとの対立
だがWizardryのシリーズ継続について、アンドリュー・グリーンバーグは1992年以降サーテック社とライセンスをめぐり長い係争を行うことになる。
おおむねは以下のように理解している:
Wizardry発売時、アンドリューはサーテックからWizardryとタイトルのつくゲームからライセンス料をもらえる契約と、派生作品を出す際はアンドリューの許可を取る契約をしたが、91年になって支払われなくなり、無断で派生作品の制作も行われるようになった。それで提訴。
この裁判はサーテックがいろいろ言い逃れをしたり、アンドリューの主張も全面的には認められなかったり、サーテックが途中で潰れるなどして非常に長引いたが、2012年ごろについに決着。
アンドリューは支払われなかったライセンス料に対する和解金をサーテック側から受け取った。
ただしアンドリューの持っていた権利はサーテック側に売る形になり、失った。
アンドリューは自分の権利を売ることに苦しんだものの、和解条件には満足していると伝えられている。
というような理解に至るまでの、具体的な判例を見ていこうと思います。全部英語のうえ、20年に及んだという裁判の情報は全てが判例として残ってるわけではない。私は日本から読める断片だけで考えるしかないのだが、2005年のものは過去の経緯をまとめた記述があり参考になる。
注意:私は法律の専門家ではないし英語も得意ではないし、アメリカのゲーム業界の慣習も知らん。
「がんばって読んだよ」としか言えない。それなりに読み解いたつもりであるが、正確性の保証は全くできません。
素人理解じゃなくてちゃんとした説明が欲しい方は、アメリカの法律に詳しい人に読んでもらってください。
以下JUSTIA、FindLawなど、インターネットで公開されている裁判記録より。
Andrew Greenberg, Inc. v Sir-Tech Software, Inc. (2005年2月15日)
この2005年の決定には、裁判の前提となる過去の経緯を振り返る内容が含まれている。
原告Andrew Greenberg,Inc.(アンドリューの法人格。略してAGI。以下本記事では全部「アンドリュー」とする)は、1981年にWizardryおよびその続編、派生作等の製造・販売についてサーテック社と契約した。
サーテックはWizardryからアンドリューに対しライセンス料と売上の一部を支払う契約で、また派生作品にもアンドリューの著作権が存在すること、アンドリューとの合意なしにはソースを開示しないことや権利を譲渡できないことなどが決められた。
だが1991年になるとサーテックはウィザードリィのシリーズ展開を続けながらアンドリューへの支払いを停止した。
1992年にアンドリューはサーテックおよび子会社のSvane, Inc.を提訴。
のちにセントローレンス群(ニューヨーク)にあったサーテック社は解散されたが、Wizardryの権利は、同じシロテック家が立ち上げた1259190 OntarioとSirTech Canadaに移譲されていた。これでアンドリューの訴訟対象が移動した。
サーテック側はもはやニューヨークに存在しないため、ニューヨークの裁判所には管轄権がないと言い逃れをしたが、実際サーテックはニューヨークで業務を継続しているなどの根拠から、最高裁はその言い逃れは認めなかった、という評定。この点についてはアンドリューの主張がおおむね認められた。
In re Sir-Tech Software, Inc.(2005年1月19日)
和解勧告のようです。アンドリューおよびロバート・ウッドヘッドが2004年の和解案に反対している経緯などが書いてある。
2001年にサーテックは連邦破産法第11条に基づく救済を申し立てたが、2003年に第7条、すなわち経営再建ではなく、倒産に向けた申し立てに変更された。
Wizardryの権利は、同じシロテック家が立ち上げた1259190 OntarioとSirTech Canadaに移譲されていたのだが、これがアンドリューの訴訟から逃れるための移譲であるということも指摘されている。
それでカナダのサーテックは合計40000ドルを支払う和解案を出した。これで和解しろという裁判所からの勧告。
この以前に25000ドルの和解案が出されており、アンドリューとウッドヘッド以外の債権者からは反対されなかった、と書いてある。
アンドリューは増額された40000ドルの和解案にも異議を申し立てた。ウッドヘッドもそれに同調した意見を提出。
しかし、和解に反対しているのは債権者の中でも主にアンドリューだけであることなどが指摘される。またサーテックは破産申請より前にも自社の事業や著作権の販売を試みたがうまくいかなかったこと、既にWizardryの資産価値は50000ドルと評価されていること、また本当に40000ドル以上の価値があるならアンドリューが引き取ることができるのにそうはしていない、などが書かれている。
アンドリューとウッドヘッドは評価額が低いと主張するばかりで、Wizardryをよく知る作者でありながらその証拠を提出できなかった、など和解金を受け取る側であるアンドリューに辛辣な指摘が書かれているのが印象的。
訴訟の長期化により費用もかさむことなど、あらゆる方面から考慮して40000ドルの和解案はこの時点で最善の案であり、アンドリューとウッドヘッドの反対は認められず和解に向かうよう書いてある。
重要な情報がある判例は上記2件だと思うが、他にも少しある。
Andrew Greenberg, Inc. v. Sir-Tech Software(1997年12月31日)
かなり古い経緯が書いてある。1991年にアンドリューはウィザードリィ7を開発していたサーテックとD.W.ブラッドリーを提訴するも、ブラッドリーに関するものは棄却。
92年4月に改めてサーテックに対する会計請求を行う。
92年8月にはサーテックの側もブラッドリーのゲーム開発を妨げたかどでアンドリューを提訴するも、サーテックは有効な証拠を提示できず、7の発売が遅れた原因はアンドリューではなく、ブラッドリーの仕事は進んでおり、遅れは開発規模の大きさやサーテック自身にあると判断され、敗訴。
Greenberg v. Sir-Tech Software(2002年9月5日)
アンドリューは1992年にサーテックと子会社Svaneを提訴。だがサーテックは98年に本社を閉鎖し、権利の一部をカナダの1259190 OntarioとSirTech Canadaに移していたことなどについての文書。
Andrew Greenberg, Inc. v. Sir-Tech Software(2003年12月11日)
すいません、何の何に対する決定なのか私の理解が追いつきません…
Andrew Greenberg, Inc. v Sirtech Can., Ltd.(2011年2月16日)
サーテック初代社長のフレデリック・シロテック氏は1989年に退職したのちカナダに移住。98年の移譲とは無関係だ、という主張だがこれは認められなかった、というようなことが書いてあるようだ。
だいぶ私の英語力と法的理解が追いつてない箇所がありますが…
それはそうと、いくつかよくわからない点が残る。
こちらは裁判資料ではなく、2019年にアンドリュー・グリーンバーグのコメントを掲載した記事。訴訟は1992年に始まり、20年を要したとある、つまり2012年ごろに終わったらしい。
和解に際しアンドリューの持っていたぶんの権利はサーテックに売られた、とある。
なおロバート・ウッドヘッドの持っていた権利も一緒に売られたようなことが書いてある。
…ウッドヘッドは証人としては登場したが原告ではなく、持っていた権利も90年代にはサーテックに売られてた、だと思うんだが、たぶん…
サーテックも2012年時点でサーテックという名前だったかはわかんない。
疑問1:
サーテック時代に売られた製品の権利表記を見る限り、アンドリューはこの和解までの期間は「#1~4の著作権の一部」を持っている扱いだったようだ。これはサーテックの立場に基づく表記なのかもしれないが…
だが裁判資料の和解条件には、アンドリュー側の権利を売ることは書いてなかった。アンドリューが争っていたのは「Wizardry」全体の契約についてであり、#1~4のシナリオ個別の著作権についての記述は、読めた範囲にはなかった。
2005年の和解勧告に、このぶんの権利をサーテックに売る(買い取らせる)ことも含む解釈なんだろうか。それとも別の決定がその後にあったのか。
疑問2:
強めの和解勧告が出たのは2005年であるが、訴訟は最低でも2011年までは続いていたことが確認できた。裁判に20年を要したというのはおそらく本当である。だがその期間は何を争っていたのだろう。
周知の通り、2006年にはサーテックの持っていた権利は日本に売られている。
アンドリューが争っていたのはWizardry全体についてだ。普通に考えて、2006年の時点ではアンドリューに無断で権利を移譲できたとは考えにくい。移譲後もアンドリューの訴訟が売却先の日本に向くこともなかった。
だからサーテックとアンドリューで何らかの合意はされたうえで売却されているのではないかと思うのだが…どういうふうになっていたのだろう。その後の4~6年は何を争っていたのだろう。
もしくは、20年と言っても重要な和解自体は2005年にされていて、そこから調整に5年以上要した?
とにかく2005年には話はまとまりつつあって、少なくともサーテックの持ってる権利を売却することは可能な状況だった、と考えておくことにする。
で、このアンドリューの話、裁判で争っていたのは個々の著作権についてではないようで、実は本記事の主題には少ししか関わらなかったりするんですが…
少しだけ関わってくるので、予備知識としては覚えておいてください。そして皆様も裁判文書を読んで内容を確認してください。私の代わりに。
裁判の結果については、上記2019年の記事でアンドリューはこう言っている。
>“Losing control of the franchise was sad for me,” said Greenberg, but “we were quite satisfied” with the terms of the settlement. “It had been long after the last big [Wizardry hit], so it was unlikely that we’d see a lot of money in the long term [if we hadn’t settled].”
「フランチャイズのコントロールを失うのは私には悲しいことでしたが、」「私たちは(和解条件には)満足しています。」「ウィザードリィが最後にヒットしてからかなりの時間が経っており、長期的に見て和解しない場合に大金が得られる可能性は低かった」
悲しいことだった(sad for me)とは言っているが、和解条件には満足しているとも語る。私たち(we)ということは、アンドリュー個人ではなく関係当時者も含むか。
Wizardryは元はアンドリューが主導したタイトルであり、作者としての思いはお金だけの問題だったとは思えないのですが、しかし満足していると言っているのも事実。
アンドリューが亡くなった現在、これ以上の真意が伝えられる機会はおそらくもうないでしょう。当事者ではない私の立場では、今はこの通りに受け取っておくのみです。
サーテックのほうは、裁判ではごちゃごちゃ手を使ったものの、権利の取得は合意のもとで行われたもので間違いない。
それにサーテックもまた、最初から著作権者としての権利を正当に持っていたものだった。残された権利は一部とはいえ、彼らの手に残ったのは、あるべくしてある結果だろうと、私は考えるものです。
ロバートとアンドリューの権利表記
時間は戻り、92年。
この年以降に日本で売られたウィザードリィ#1~4の権利表記にはAndrew Greenberg, Inc.があるが、#5以降や派生シリーズについては基本的にアンドリューの表記はない。アンドリューは#5の著作権を持っていない扱いになっているらしい。
91年の外伝1にはシナリオの著作権は書いてないが、ロバートとアンドリューの両方の名前があったりする。
88年のオリジナルの#5だと、ロバートの名前はないがアンドリューの名前がある。「アンドリューがWizardry全体の権利を持っていた」扱い、まさに訴訟が発生する91年までは続いていたのではないかと私は見ている。
逆に88年の#5にはアンドリューの名前しかないのだが、92年に売られたPCエンジンとSFCの5からはアンドリューの名前が消え、ロバート・ウッドヘッドの名前がある。93年の『Wizardry Trilogy2』(PC版567のセット)でもそうなっている。
これは、アンドリューのWizardry全体の権利が92年ごろに消えて、対してロバート独立後、まだロバートに権利がある扱いだった時期の5に表記されているのではないかと…
アンドリューの権利が消えたことと裁判と関係があるのかどうか知らない。
80年代のものでも、ロバートの権利は書かれていたり、いなかったりする。ロバート・ウッドヘッドは5までは関わっており、サーテックを離れたのはそれ以降。#6以降でロバートの名が書かれているものはない。
その後、98年のリルガミンサーガ以降だと、旧シリーズでもロバートの名前が書かれているものはない。そこまでに権利をサーテックに売ったのだろうか?
本人や周囲の言い方からすると、どうもロバート・ウッドヘッドはサーテックの社員だったのか、それに近い専属的な契約をしていた…だから88年には名前が省略されていた、だと思うのだが、いま参照できる経歴を見ても、そこが明確に読み取れなかった。
対してアンドリューは最初期からサーテックに所属していないようだ。サーテックとの距離の差が、権利表記にも現れている様子。
また6と7にはD.Wブラッドリーの権利も書かれていたが、これもいつのまにかなくなっている。ロバートと同様にサーテックに権利を譲渡したのかもしれない。
以上、細かい事実は確認できないまま書いたが、アンドリューの権利が及ぶのは#1~4という扱いであり、そしてサーテック社外で権利を長期間保持し続けたのはアンドリューだけであったようだ。
国産ウィザードリィ軍団
サーテックの経営が怪しくなってきたと思われる90年代末。この時期に日本版ウィザードリィも新しい展開を始めた。
「ウィザードリィ外伝」以外の日本独自シリーズ『ウィザードリィ エンパイア(GBC)』が登場したのが1999年。
ここから日本独自派生シリーズが多数出現していくが、その多くにFour Winds(フォーウィンズ)という日本の会社が関わっている。これはデータイーストのサターン版ウィザードリィ6&7に関わった会社なのだが、サーテックはこのフォーウィンズにウィザードリィのライセンスを一部貸し与えたようなのだ。
99年以降の派生シリーズのかなりの数(エンパイアシリーズ、BUSINシリーズ、Xthシリーズ、クロニクル、サマナー、アスタリスク)が、このフォーウィンズを経由してサブライセンスされたものである。
おそらく、この会社を経由することで派生シリーズを作りやすくなったのだろう。窮地にあったサーテックの意向に沿ったサブライセンス事業なんだと思う。
(戦闘の監獄や携帯電話版など、フォーウィンズを通さず直接サーテックがライセンスしているらしいタイトルもある)
でね、サーテックがちゃんとしてないなと思うのはここなんですが。
この90年代以降の日本展開の、特に98年以降はサーテックは内容のチェックをちゃんとやってないと思われる。
振り返ると、80年代のサーテックは、82年にスタークラフトが連絡を取ってきたときから、日本展開には気を配っていた。
ファミコン版の出来にも満足し、北米にも逆輸入し、「ウィザードリィのすべて」の英語版も制作した。
そうやって日本は信頼を得ていった結果、90年代からのチェックは甘くなっていったのではないかと。ファミコン版#1~5の内容のノベライズやコミックなどの書籍の権利表記もサーテック社しか書いてなかったりして、いい加減だし。
展開グレーゾーン
その話を続ける前に、こちらの記事をご覧ください。
やっと前回の記事につながりました。
これを書いた後で、『ブレイド&バスタード』をちゃんと全部読みました。あらためて、現在ドリコムが使用できる「旧作に由来する内容」は以下のようになっていると考えられる。
- 旧呪文名は問題なく使用できる。
- 地名、登場人物、アイテム名などの固有名詞も使用可能(外伝シリーズも可)。
- 過去作とのストーリー上のつながりも直接的な表現で記述できる。
これらは「#1~5のシナリオの著作権」に含まれていないと考えられる。
「誰も権利を主張できない程度の固有名詞」なのかもしれないし、「ドリコムが持ってる権利のほうに含まれている内容」なのかもしれない。または表記してないが現サーテックと合意で使用許可をもらっている内容もあるのかも。
そこの確認は私にはできないが、とにかく使える範囲はかなり広いことはわかった。
おそらく『ブレイド&バスタード』が現在のセーフラインそのもの。
そして過去作の権利表記を見てきた限り、これらは91年のGB版ウィザードリィ外伝の時代からそうだった可能性が高い。
『ウィザードリィ外伝』シリーズは、どうやらサーテックのタイトルの権利のみで作られていて、外伝1や3や4にはリルガミンもそのまま出てくるが、「旧作のシナリオ単体の著作権」とは関係なし。
ところで、99年以降にフォーウィンズ社に与えられたライセンスにはタイトルの権利しか書いてなく、『#1~5の著作権』は含まない。(『#6以降の著作権』もないと思う)
そこで前回の記事でも触れたフォーウィンズ版権作品、PSのエンパイア1『古の王女』になる。
本作は1~5の著作権を使わずに、ウィザードリィというタイトルの権利のみで旧ウィザードリィらしいゲームを作ったゲーム、という理解である。
これは「タイトルだけWizardryのものを日本で独自に売らせる仕組み」であり、係争中のアンドリューの著作権にも触れない。サーテック側の意向もあったかもしんないし、そこまで考えてやってないかもしれないが。
少なくともこのフォーウィンズ登場後の体制では、「#5までの内容」にタッチしないよう、それなりに注意が図られていた。すなわち「呪文名」と「特定の固有名詞」の不使用だ。
外伝の前例を見るに、ルール上はそのくらい使用しても大丈夫だったんじゃねえかと今の私は思ってるが、ともかく回避していた。大丈夫と思いつつその判断がおかしいとも言わない微妙な感じは前回の記事に書いた通りですが…
やっぱり大丈夫じゃなかったから回避してたのかもしれない。わかんない。
だがその中でも『古の王女』、回避はしてるがどうもグレーなラインを積極的に踏みに行っているタイトルでもあった。
具体的には「カシナート」「ミルダール」「カント」「ニルダ」といった強めの固有名詞が出てくる。
そして呪文名。他社ならスリープにするところを、古の王女では「カティドレイ」など、明らかな旧作呪文のもじりで、それっぽく再現という回避策。
「ボルネーゼ商店のタック」のようなうさんくさいネーミング。誰かと似た名前の古き龍。
そしてストーリー面も、本作は明確に本編シリーズの過去として作られているのだ。
第1作の数百年前ってパッケージにモロに書いてあるもんね。
ゲームを終えると、カシナートの街は王女リルガの名にちなんで改名したことが示唆される。(続編では町の名前をプレイヤーが決められる)
要するにリルガミンになったと匂わせている、というかほとんど断言してるに等しい。リルガミンという名前を出さずにリルガミンを出す回避技。あくまで決めるのはプレイヤー側だという誘導的配慮で。
1から5の固有名詞はほんのちょっとしか使ってないし、著作権的には触れない範囲でセーフと思われるし、そもそもサーテック的にはモロに出してもセーフだった可能性は高いと私は思ってるが、「ちゃんとチェックしてたか」という点については疑う。チェックする余裕も、セーフなラインを示す余裕もなかったのではないかと。
こういう事例を知ってたので、私はサーテックは監修を大雑把にやってたという認識なのだが、この古の王女については日本側もどうかしてるとは思うぞこれは。
何らかのブラックゾーンを認識したうえで、グレーなところをわざわざ狙い撃ちしている。
エンパイアの例は、後の時代の「グレーゾーン」の指針を形成したと考えられる。呪文名…トゥルーワードの変形なら大丈夫?
「カシナート」は出してもいい固有名詞?
リルガミンはNGゾーン?
ロゴは新しいほう?
そこからの日本版ウィザードリィは、各社で版権に抵触しない範囲でゲームシステムを真似したり改良したり独自路線を作ったりということを繰り返し、みんなでなんとなく共有認識を使いながら拡散していった。
軸となるナンバリングシリーズこそ8で終わったものの、ブランド自体は続いていたのだ。
それが2006年までの状況。
いよいよ問題の中心に切り込む。Wizardryの権利が日本に渡ってから何が起きたのか。
なぜ初期シリーズの復刻ができなくなっていたのか。
2002 最後の復刻
#1から5の復刻は長いこと行われておらず、それは版権のせいだろうと悲観視されていたのだが、そういうグレーだなんだという話が広まっていくのは2006年より後のほうでして。
サーテック存在時代、最後に1作目が復刻されたのは2001年のGBC版とWSC版…ではない。
リルガミンサーガのWindows版の最終バージョン(デジキューブ販売。DWQQJ-00072)がもう少し後の2001年11月に売られている。
そして、ニューエイジオブリルガミンのWindows版は裁判の最中の2002年。もちろんアンドリューの名も記載されている。この年までは「旧作の権利」の使用に問題はなかったことが確認できる。
いや、もしかしたら問題はあったのかもしれないが、なんか乗り越えていた。
そこから復刻はないのだが、2006年までの期間についてはそんな不自然な話でもないだろう。
もちろん当時もファミコンソフトの移植というのは行われていたが、Wiiのバーチャルコンソールでさえ登場したのは2006年末だし。
GBC版から5年、まだウィザードリィを復刻するタイミングではなかったわけだ。
ウィザードリィブランドはエンパイアなどの新シリーズに逃げる下地は作られたうえで、2002年にはまだアンドリューの関わるタイトルの販売は継続できていた。
まあWin版ニューエイジオブリルガミンの廉価版は出てないみたいだし、何かサーテック側に(裁判などで)問題が起きて2003年から2006年までの期間は移植ハードルが高くなっていた可能性は否定できない、というくらいには考えておく。仮定が多い話ですけどね。
Wizardry日本に行く
2006年11月にサーテックから日本にWizardryの重要な権利が移された。
そこには「#1~5の著作権」が含まれていない。だから日本人は#1から5を売ることができない。
超簡単な理屈。
ここで日本人が#1から5を売りたいと思ったら、やることは一つしかない。#1から5の権利を持ってる人を探して、権利を貸してもらえばいいだけのことだ。
その#1~5の権利は、サーテックがまだ持っていた。
既に判明している通り、旧サーテック=シロテック家は「#1~5の著作権」を売らないで手元に持ってたのである。現在に至るまで、ずっと。
売ることができなかったのか、売りたくない気持ちがあったのか。それはわからない。こうなった理由に裁判が関係していたのかどうか、今回探した範囲の情報ではよくわからなかった。
#1~4の著作権はアンドリューとサーテックの両方にあることになっており、サーテックの一存では売れなかった可能性は高い…と思ってたのだが、2006年時点でもまだ和解成立していなかったのか、それは前述した通り不明瞭。
アンドリューとの争いに関わるはずの「Wizardryのタイトルの権利」のほうは、2006年に日本に売れたのである。
そのへんに疑問は残るが、現状では「アンドリューとサーテックで権利が分配されていたから、2006年時点では売りたくても売れないものがあった」が比較的有力な理由と考える。
※アンドリューが持ってたのは#4までで、「#5の著作権」はもともと持っていない扱いだったようなのだが、表記のほうが間違ってると判断されたのかもしれないし、サーテックとしても1から5はセットにしたい気持ちがあってもおかしくないので、ここは深く追求しないことにする。
もちろん、この説明では重要な疑問が何も解決していない。
なんで日本人はサーテックに連絡しなかったの?
#1から5の権利はサーテックにそのまま残っていた。アンドリューとは争っていたかもしれないが…
アンドリューとサーテック両方の許可を得て、その権利を借りることはできそうなものじゃない?
2002年までの復刻では、サーテックが引き受けていたのか日本側でアンドリューとも連絡を取っていたのかは知らないが、それはできていた。
そしてまだOnline展開中の2012年ごろには裁判の決着もついて、残った権利はシロテック家に集約されたはずである。いよいよシロテックだけから権利を借りればいい状況では?
この疑問の回答も、近年明かされた情報で明確になっている。
日本の権利者は権利がまだ旧サーテック=シロテック家に残っていることも知らなかったし、その連絡先も知らなかった。だから権利を借りようとコンタクトを取ることさえできなかった。
少なくとも2016年末まで、日本人はシロテックの所在を掴んでいなかったのだ。
いや、おかしいだろう。
サーテックから権利を買ったんじゃないの?
何が起きたというのだろう。サーテックが地球から去っていたわけでもあるまいに。
複雑!ゲームポット
ここでサーテックから権利を買った日本の前権利者アエリアの話をしようか。いやゲームポットか。GMOかもしれない。
Wizardryの権利が日本に渡ったのが2006年11月。買ったのはオンラインゲームも手掛ける株式会社アエリアの連結子会社の「アエリアIPM」であった。
ASCII.jp:アエリア、“ウィザードリィ”の全世界での商標権を取得
アエリアIPMは、その前月の2006年10月にできたばかりの会社だった。アエリアの沿革に、その設立目的は版権管理とされ、当初からWizardryの版権の取得と管理のために作られた子会社だったと考えられる。
と同時に、アエリアは最初からオンラインの展開をやるつもりだったようだ。2007年には、子会社のゲームポットによるWizardry Onlineの制作を発表。
だがオンラインの開発途中の2008年2月25日、アエリアIPMはゲームポットの子会社に移動、その3日後の2月28日、ゲームポットはソネットからの株式公開買い付けを受け入れ、その後アエリアの子会社から外れることになる。アエリアの2008年のIRリリースを参照。
どうやらアエリアはゲームポットをウィザードリィごと売るために、権利会社の位置を動かしたようだ。
2009年の『Wizardry 生命の楔』の時点では権利表記からアエリアの名前が外れて「IPM」になっている。親会社の変更とともに社名も変わったようだ。
それからしばらくは、Wizardryの権利は子会社のIPMにあったが、2013年7月の『戦乱の魔塔』のAndroid版の頃には「ゲームポット」自身が権利者に変わっている。この頃にIPMはゲームポットに統合されている?
そのゲームポットはというと、2012年にアエリアとソネットの共同保有するAGGP HOLDINGSの子会社に変わっており、モバイル事業だけジーピー・モバイルとして分割されAGGPに残り、Wizardryを持っていたゲームポット部分は2013年にGMOインターネットの子会社に移り、2014年には「GMOゲームポット」に改名。2017年には親会社の「GMOインターネット」に吸収され、ゲームポットはこの世から消滅した。
ゲームポットという会社に何が起こっていたか、わかりやすいまとめがgamebizにもあった。
わからん。なんだこの阿弥陀みたいな図は。
Wizardryの版権よりよっぽど複雑じゃねえか。
すなわちドリコムの前権利者、アエリアIPMからGMOインターネットまでの変遷、「Wizardryの権利」の所在地は最初からゲームポット周辺にあり、大きな動きはなかったのだが、親会社は何度も入れ替わってる。名前もその際に変わったり変わらなかったりしている。
2024年のインタビューで、ノーマン・シロテック氏がこんなことを言ってる。
>Now the company we sold them to is no longer around, and they flipped it. And it's gone through, I guess, several flips ever since. And the current owners of those rights is, I think, [a Japanese company called] DreCom.
「私たちがそれら(タイトルと678の権利)を売った会社はもうそこに存在せず、彼らはそれを転売しました。それ以来、思うに、何度か転売されています。そして現在のそれらの権利の所有者は、ドリコムだと思います。」
flip(不動産等の転売)という表現が使われている。
サーテックからの権利売却後、実際に大きな動きがあったのは2020年にドリコムに売られた一度だけで、何度も変わってはいない。
シロテック兄弟(それと、このインタビューを聞いてる関係者)は、日本展開をある程度は観察しており権利者表記がコロコロ変わってることは知ってた可能性が高く、そして残念ながら経緯を正確に理解してない疑惑がもたれる……
いや、これはゲームポット自体がぐるぐる動いてたのを正しく理解してるとも言えないか?
本国側にしてみれば、権利を売ったはずのアエリアIPMがすぐになくなり、そこから日本人の中で転売されまくってたように見えてるのでは。今でも。
むしろ、その認識のほうが実情に合ってるんじゃないか…?
ゲームポットはともかく、親会社のアエリアとソネットについてはウィザードリィをゲームポットごと手放したり半分取り返したり切り刻んで売ったり、そんなに大事にしてたようには私には思えない…
アエリアがどういう思いで権利を買ったのかは知らないが、結果だけを言うなら2年も経たないうちにソネットに放り出している。「手ごろな価値で使い道がありそうなIP」くらいにしか思ってなかったんだろう、という言い方しかできない。
まして、サーテックに残っていた権利などどうでもよかったのでは。
2013年にAGGPホールディングスから切り離された「ゲームポットのモバイル以外の部分」を手にしたGMOは、その後ゲームポットを吸収しつつ約7年はウィザードリィの権利を保持していたが、2016年のオンライン終了後は新作を展開することもなく、権利は2020年にドリコムの手に渡る。
この移動の経緯は知らない。
ドリコムに来てから、まだ4年。
連絡先の消失
現サーテックは、どうやらゲームポット時代の動きを正しく理解してない。
その逆に、ゲームポットも元サーテックである「FRP Assets」の存在を、2016年末にNHKの番組「ドラゴンクエスト30th~そして新たな伝説へ~」が放送する時まで全く知らなかったらしいと伝わっている。
前回紹介したインタビュー。
>Wizの事情に詳しい人であればご存じのように,実はWizardry 1~5に関しては,まだ権利が本国でもグレーゾーンなんですよ。そんな状態なので,我々としてもどう扱ったものか,と。
本国でもグレーゾーンだと。これはサーテックとアンドリューが争っていたことを言ってるのだろうか…?
誰が権利持ってるかということなら、グレーだったのは「アンドリューとサーテックのどっちの権利か」という点だ。
「アンドリューとサーテックで互いの持ってる権利の範囲について認識の差があるかもしれないからグレー」ということはあったかもしれないが、そういうことを言ってるようには見えないかな…
そして、他に権利者がいないことはサーテックに聞けばわかったと思う。
サーテックとの連絡が取れていればの話だが……
ゲームポットで実際にゲームを制作していた人たちに関しては、本当にサーテックの連絡先を知らなかった。このことは後年の関係者の発言などからまず間違いない。
またも想像の多い話を書くが。ゲームポット自体がぐるぐる回っていたことは既に確認した通り。
大きな動きはなかったと言ったが、親会社が入れ替わってるのは軽い話ではない。
権利を買おうと判断したのはアエリアの人間だろうし、その人がソネット傘下の時代にもまだ関わっていたか、これが極めて怪しくなってくる。
裁判中とはいえ#1から5の権利がサーテックに普通に残っていたという基本的な事実、そのサーテックの連絡先、買った権利の適用される正確な範囲、これらのいずれも2011年前後のゲームポットが理解してない、知らなかったのだろうと私は疑っているわけだが、どこかで重要な引き継ぎがなされてなかったのでは。
もちろん仲介者がいたという可能性もある。サーテックとアエリアは誰か中間業者を経由して直接連絡は取っていなかったのかもしれない。だから正確な権利について伝達ミスがあったとか。そういうことも考えられなくはない。
で、その「仲介者が誰か」の引き継ぎはされてないと…
※仲介者の存在を示すものとして、ゲームプロデューサーのBrian Fargo氏がWizardryの権利を日本に売った(He sold the Wizardry franchise off to Japan)と書いている記事があるのだが、同一の情報が他に見当たらず信憑性が不明。
ブライアン氏のことをよく知らない私には判断が難しい記事です。氏は#1リメイク初期のパートナー探しにも関与しており、氏が所属していたinterplay社も一部のウィザードリィの販売をしていたことがあるようなんですが…
手さぐる版権
引き継ぎについての疑惑を述べたが、「#1から5の権利がない」という事実だけは強く伝えられていた。
ゲームポットは呪文名が自社の権利に含まれていないと認識しており、「カタカナ呪文名ならセーフ」という謎の理論で乗り切ったつもりでいたわけだが、こんなことをやったゲームはルネサンスでもごく一部だけで、基本的には使用回避されていた。これが「グレーゾーン」ということだろうか。
もうひとつ言及されているのがロゴだ。Wizardryのロゴは大きく分けて2種類存在しており、剣の長さで判断できる。
第1作から使われている旧ロゴでは、剣がWの字を突き抜けていない。92年の7以降のシリーズでは剣がWを突き抜けている新ロゴに変更された。「6以降」ではない。
発売当初の6は旧ロゴだ。遅れて移植されたSFC版では長いロゴになってるので、シリーズの変化と連動はしているが、これは「92年以降」のロゴである。
2000年代の日本展開およびゲームポット時代のほとんど全てのタイトルで、この突き抜けているバージョンが用いられた。
旧ロゴが使われていたのはGBC版など「5以前」の移植のみで、シリーズが違うことを示していた、ように見えた。
で、先のインタビュー。
>4Gamer:
>それでWizardry Onlineのロゴは,剣が長いバージョンなんですね。(※)
剣が長い理由は版権がらみであると認識されているようだが…
ここはグレーも何もない。タイトルの権利は全て、完全に、全く問題なくゲームポットにあったはずだ。
2013年のSteamで配信されたウィザードリィ6は新ロゴに改められているが、タイトル画面や説明書では旧ロゴである。
そして、新たに出た情報。
>ドリコムはシリーズ全体の商標関連も所有しているため、剣を短くすることは権利的には問題なく、実際、前述した『五つの試練』においても、発売前にドリコム様の提案もあり、2006年版からのロゴの変更が行われていたりします。
ドリコム方面からの情報では全く問題ないという見解。もちろんドリコムが新たに権利を得たということもない。
しかも五つの試練についてはわざわざ提案して変更したことが明らかになった。延期発表前の2021年6月の時点で短いロゴですが、同時期に出ている画面写真には長いロゴのものもあり、発表直前で変更した様子?
92年にロゴを変更したサーテックは新シリーズであることを意図して変更したのか、特に深い意味はないのか、意図は謎だが、短いロゴの権利が旧シリーズの著作権に含まれていたということは、どうも一度もない。
仮定するなら、旧シリーズに属さないものは長いロゴに統一してほしい!と、作者的な目線からの要望ならあったかも…
呪文名と違って、これには元から著作権的な理由は全くないのではないかと。
ちなみに呪文名が削除されてるというウィザードリィRPG復刻版でも旧ロゴです。こちらフォーウィンズ版権とのこと。
つまりフォーウィンズは、ロゴについてはわかってて使い分けてたはずだ。ゲームポットはわかってなく、手さぐりで版権が使える範囲を定め、別にしなくてもいい自粛をやっていた。その根拠自体は1998年ごろの各社の展開を見ての判断ではないだろうか。ウィザードリィRPGの復刻までは知らなかったのだろう。
6のSteam版が出た後は、自社にロゴの権利が問題なくあることに気づいたかもしれない。
けっきょく旧ロゴのほうが人気があったんだと思うが、ドリコムは新作も全て剣が短いロゴに統一をしている。
678セットは長いロゴのほうが適切な気もするのだが…あるいはこれも「ドリコム以降」を強調するブランドイメージの統一なのかも。
ルネサンスとは何だったのか
ところでアエリアは自社でウィザードリィを作るだけではなく、他社のウィザードリィに対するライセンス事業も引き継いでいた。
2007年に販売されたWizardryとしては、エンパイア3のPSP版とエクス2のベスト版がある。
1月発売のPSP版エンパイア3では、変更が間に合わず1259190 OntarioとFourWindsの表記がされているが、実際にはAeria IPMのライセンスで制作されている。かつて存在した公式サイトにその旨を明記。
どうやら権利の移譲と同時にフォーウィンズ社を経由するルートもなくなったのだが、「#1から5じゃないもの」についての再販、移植、そしてダウンロード版への移行は行われていた。
その権利は2008年にゲームポットごとアエリアから切り離される。
アエリアを離れソネット傘下になったゲームポットはオンラインの開発を続けていたが、そのさなかの2009年に始めた新展開がWizardry Renaissance(ウィザードリィルネサンス)である。
これが、かつて存在したルネサンス公式サイトの説明がよくわかんないんだが…
>Wizardryから27年・・・非常に残念なことに世界からWizardryは忘れられています。>そこでWizardry30周年となる2011年までに、全世界のプレイヤーに再びWizardryという"ブランド"を広く認知頂けるよう、立ち上げたのが【Wizardry Renaissance】です。
>コンピュータRPGが我々に与えてくれた、あの緊張感、高揚、悲壮感・・・それを、現在の技術で蘇らせたいというのが【Wizardry Renaissance】のコンセプトであり、Wizardryの本質だと考えています。
ウィザードリィブランドの低迷を憂いているようだが、その前にこれは何をやりたいんだ。コンセプトとか書いてあるが具体的でない。要領を得ない。
ルネサンスが実際にやろうとしたことは、要はWizardry Onlineと世界観を共有して複数のゲーム会社が作品を展開する、つまりシェアワールドだったようだ。
そのようだ。
現在も参照できるものだと、この記事に少し書いてある。
>バックボーンの神話があって、開発各社が、そこから話を切り出して各々の『ウィザードリィ』を作ればいい、くらいにしか考えていなかったのですが、
>『Wizardry ~生命の楔~』。こちらの制作中辺りですね。先に、外部の方に世界観を作ってもらったのですが、何かが違う感がして私が作り直しました。書き出したのが、4年前の2009年で、
>元の資料は、ゲームを作る各開発会社さん向けに用意したものなので、門外不出です。
IPM=ゲームポットの自社による開発だけでなく、他社による日本独自ウィザードリィの展開は続けられたが、そこに共通の世界観をつける方向で動いていたようだ。
その第一作が2009年11月発売、Genterpriseの『生命の楔』。どうやらこれの制作途中の2009年にルネサンスの構想が固まってきたようで、ゲームポット側から内容に手を入れたと…
それ、開発の後半くらいじゃなかろうか。
>同作品の世界にも、“ルネサンス”の設定が多く含まれていますが、一部の設定内容は反映できませんでしたね。むしろゲーム側独自の要素が濃いといいますか。
そう言ってるのは、ゲームポットの動きが遅かったから変更が間に合わなかったんだと思う。
反映されてない要素の一つが、たぶんノームのデザイン。
ドワーフとキャラかぶってるノームという種族の再解釈、エクスでも行われていたが、ルネサンス世界のノームは山羊や羊のような角を持つ種族という、従来と全く違うデザインになっている。
だが、『生命の楔』のノームはこのルネサンス標準ノームでもなく、垂れた犬耳の種族になっている、とのこと(ネット上に画像はわずかだが確認できた)
『生命の楔』は、ルネサンスとして作ってなかったのか。あるいは「ノームを獣人に変える」くらいの方針は決まっていたのかもしれないけど、まだ共通設定が未完成だったのだろう。
ちなみに同時期に発売した『囚われし魂の迷宮』では、ノームは「頭部に小さい角が1本か2本ついて、耳が尖ってない種族」になっている。これはルネサンスの設定と矛盾はしないのかもしれないが、やはり監修が間に合ってない感が強い。
(Wizardry Schemaにも同じ小角タイプのノームがいるが、耳は尖ってる)
これら亜種ノーム、ルネサンスの設定上でどう扱われてるかは知らない。
この件より、ゲームポットはライセンス事業を継続しながら、新作の内容はチェックしており、通すだけではなく口出しもしていたことがわかる。そこはサーテック時代のゆるい体制とは違う。
かくして、2006年以降も、他社からもウィザードリィを発売できる体制は残されたものの、内容はルネサンスの世界観に基づき、以前のような独自路線は制限を受けた、と思う。
2009年以降、ゲームポット時代に発表されたウィザードリィ、再販・移植作品を除いてほぼ全てルネサンスに属していた。
唯一、ルネサンスに属さない例外はゲームポット自身がモバゲーでやった『東京迷宮-ウィザードリィ0-』。これがわずかな画面写真しか記録の残ってない全く謎のゲームなのだが、2011年時点でルネサンスの版権表記がなく、世界観も違うようだ。
他社も同様にルネサンスに属さない独自作品は出そうとしなかったのか?出せなかったのか?
いや、別にゲームポットの監修、権利者としておかしなことじゃないです。
自社のタイトルを冠したIPを他社が借りにくる。そりゃ内容の念入りな監修をするのは当然。
権利者であるゲームポットは、IP所有者として当然の権利を当然に行使したのだろうと考えられる。バラバラの世界観の派生シリーズを増やしまくったサーテックのほうがどうかしてたと。
世界樹前、世界樹後
また時間を戻すが2000年代の前半。エンパイア一作目の登場した1999年から2006年まで、日本では複数のメーカーから毎年のように何らかのウィザードリィが発売されて、サーテックの危機的状況に反してかなり元気だったようにも見えた。
だが、これにも影がある。
実はこの時期に3Dダンジョン(マス目タイプ、grid-basedのもの)というジャンル自体どんどん減っており、かなり珍しいものになっていた。ここにほぼウィザードリィしかないという状態まで行っており、ジャンル自体は全く健康とは言えなかった。
そういうの作りたい日本のメーカーは、まず迷わずにウィザードリィを作ってたわけですね。
この状況が変わるのが、2006年7月に『世界樹の迷宮』の制作が発表されて以降。そこから数年の間に、世界樹の影響を受けたものも、そうじゃないものも登場し、3DダンジョンRPGは急速に復権していく。
だが、それまで元気に見えたウィザードリィは権利が日本に移った直後の2007年と2008年には何も出なかった。その2年の間に、日本版ウィザードリィから派生して立ち上がったダンジョンRPGシリーズが3つもある。
そのひとつがスターフィッシュの『エルミナージュ』。明らかなウィザードリィエンパイアの後継作で、エンパイア3からゲーム素材の再利用もしている。
ひとつがウィザードリィエクス2のゲーム内容を再利用した派生作(詳細は現在も不明)である『剣と魔法と学園モノ。』
そして、そのウィザードリィエクスのスタッフが独立して立ち上げたエクスペリエンス社の『ジェネレーションエクス』から始まるDRPGシリーズ。
そのエクス自体も元はPSのエンパイア1と2のスタッフ。これら全部同じ『古の王女』から直接派生した勢力なのだ。
だが、こうして3Dダンジョンが流行りだしたタイミングで始まった十数年のルネサンス時代、「3DダンジョンRPGの新作Wizardry」は、2009年から2011年の約2年の期間で2シリーズ、約4本しか出なかった。
それがGenterpriseの『生命の楔』と『忘却の遺産』。アクワイアの『囚われし魂の迷宮』『囚われし亡霊の街』(あと『ウィザードリィ パーフェクトパック』に追加ダンジョン)。
ルネサンス時代はこれで全部。あとはこれらの移植のみ。
ウィザードリィを意識して生まれた世界樹の迷宮、そこから始まったちょっとしたDRPGブーム。Wizardryはそれに乗ることができなかったのだ。
ウィザードリィルネサンスの枠組みの中では、「3Dダンジョン以外のウィザードリィ」も各社から2014年までに登場したが、2015年以降はそれさえも移植のみとなり、サービス・販売も順次終了。
2020年までに、ルネサンス作品で販売が続いているのはアクワイアのシリーズのみとなっていた。
正直に言って、ルネサンス、すなわち「Onlineと同世界のゲームを各社で作れる」というシステムに周囲が上手く乗っかれていたようには見えないのであるが。
『戦乱の魔塔』はサービス期間2年半くらい、『Wizardry Schema』は3年近くは続いており、それなりだったのかな。
中核たるWizardry Onlineについては、2011年から2016年まで5年ちょっとは続いたわけで、ある程度は上手く行ってたのか。ルネサンス設定自体が、このゲームを想定して作っていたものに間違いなく、その点の使い勝手は良かっただろう。
終わった理由も、ゲーム自体の損益だけでなく、親会社側の都合のほうがよっぽどありそうというか…具体的な売上は知らないけど。
この枠組みの中で生まれた「3Dダンジョンではないウィザードリィ」、それなりには認知されていたが、2016年にはルネサンス公式サイトも消滅。2017年にはWizardry Schemaも終了し、GMOゲームポットもGMOインターネットに吸収され、消滅した。
それ以降のGMOインターネットは、ウィザードリィの権利を細々と貸し、終了したWizrogueの再生移植(後に販売終了)などができていたが、新作を展開することはなかった。
ルネサンスという枠組みはもう停止していたが、囚われし魂の迷宮だけはSteamに移植され、現在も生き残っている。むしろ現役で販売されている代表的作品となっている。
ルネサンスに属さない五つの試練や、PSP版エンパイア3のダウンロード版など、サーテック時代から生き残っているものもごくわずかにあった。
本国でのWizardry
ここまでの流れが、海外からどう見えていたか。
既に書いた通り、2006年まで日本では結構元気だったウィザードリィだが、本国での展開は90年代には既に停滞していた。ウィザードリィ外伝以降の日本独自に制作されたウィザードリィはほとんどローカライズされることなく、ゲーム機への移植も5を最後に海外では販売されず。
サーテックからはWizardry8とNemesisが出たのみ。
この時代、日本からの移入はBUSINの英語版『Wizardry: Tale of the Forsaken Land』のみ。
その状況でWizardryそのものは忘れられていたことはなく、8は高い評価を得たが、サーテックが持たず、かくしてWizardry版権は日本に売却される。それが2006年。
このサーテックの崩壊、権利の移動に、アンドリューの裁判はたぶん大きな影響はない…
裁判と関係なく、サーテックは安定していなかった。会社をカナダに動かしたりしたのも、裁判逃れも目的のひとつだった可能性は多いにあるが、他の何らかの延命策かも。
日本で結構売れていたウィザードリィ外伝が英語化されなかった理由は知らない。BUSINだけローカライズされていることから考えても、Wizardryそのものが権利上展開しにくかったということはないと、今の時点では考えている。
ともかくサーテックは持たず、つぶれた。その現場を誰よりも見ていたのはシロテック兄弟だったはずだ。
ゲーム業界で力尽きたシロテックだが、裁判は継続し、長い時間をかけてアンドリューとは和解。アンドリューが持っていた著作権はついにサーテックに集約された。だがその権利は使われることなく、しばし眠りにつく。
彼らは日本でウィザードリィが作られていることは見知っていたが、もはや本国の誰にも、それをどうこうする権利はなかった。
ゲームポット時代も英語のWizardryが売られていないわけではない。2011年にはPS3の『Labyrinth of Lost Souls』(囚われし魂の迷宮)。ただし『囚われし亡霊の街』は販売されず。
Wizardry Onlineは2013年1月に英語版が開始されるが、わずか1年半で終了。
それからWizrogueのSteam版が英語で出てきたがいつの間にかなくなっていた。
ルネサンス期、世界からWizardryは忘れられてはいなかったが、状況が改善したということはまったくなかった。
究極の権利
サーテック社がなくなったのち、売らなかったぶんの権利を保持していたシロテック家はFRP Assetsなどと名乗っていたようだが、ウェブサイトなどはなくゲーム業界で表立った活動はしなかった。目立つ場所にもおらず、潜伏していた。
他の事業をやってたんだと思うが、私は詳しく知らないです。
シロテック家はアンドリューの持っていた「#1~5のシナリオの著作権」を集約したものの、使おうとはしなかった。どうやら誰かに売ることもなく、そのまま手元に残していたようだった。
他にもプログラムの権利などを持ってるかもしれない。
この権利、もはや売っても大した金額はつかなかったはずだ。なぜならこれには「Wizardryを作る権利」が含まれない。肝心のタイトルの権利がないのだ。
シナリオの著作権だけあっても使い道がない(これはアンドリューが持っていても同じだっただろう)。
これは日本に売り渡したタイトルの権利と合わせることで、初めてまともな効力を発揮するのだ。これだけでは何もできない。
しかし、重要な権利でもあった。
いつの日か、第一作目から始まるこの伝説的シリーズが復刻されるときには、必ずこの権利が必要になる。
これは究極の権利であり、その価値をシロテック兄弟は理解していたと思う。
だがその日が来ることを待っていたのかどうか。日本人はシロテック家に一向に連絡を取ってこなかった。
シロテック家にしろ、ゲーム業界から離れて久しく、いまさら自分からウィザードリィの復刻のために日本に連絡を取るようなことは、しばらくなかったわけだが。売った先のアエリアはすでになくなり(なくなってない)、自らアクションを取る気にもならなかったと思われる。
手元に残った1から5の著作権を、使うあてもなく十年ほど腐らせているしかできなかったはずなのだ。
でもこの権利、実際は日本のゲームポットの現場にいた人にとっては、かなり欲しい権利だったはずなんですよ。ゲームポットでは旧呪文名と旧ロゴの権利がここにあると思ってたようだし、旧作の復刻だって考えてなかったわけじゃないだろう。
だが、ゲームポットは残念ながらシロテック家の連絡先を知らなかったのでした……
だから、なんでそうなった?
表舞台から消えて潜伏していたFRP Assetsとかいう組織だが、探せば簡単に見つかる位置には存在していたようで、ロバート・シロテック氏も2014年頃に動画でインタビューを受け、権利を自分たちが持ってると言ってる。
この動画の16分40秒あたりで、「(日本サイドが持ってる権利について)私たちが持ってる1から5を除いて」と、さらっとだが言ってる。シロテック兄弟はロバート・ウッドヘッドやBrian Fargo氏ともつながりが残ってたようだし。シロテックって変わった苗字だし(かつてシロテックソフトウェアがサーテックに改名したのは、シロテック家の自宅に電話が直接かかってくるのを止めるためだとか)
つまり、ゲームポットはグレーだなんだと言いつつも、権利者を探してはいなかった、探してみるという発想そのものがなかったということになる…
ウィザードリィに思い入れがあるゲームポットの開発現場の人ならともかく、会社の上のほうや、権利を売り買いしてた親会社たちにしてみれば、「#1~5の著作権」なんて全くおいしそうに見えなかったかもね…
現場が要望しても上が探させなかったということさえありえる。
だって使えないはずの呪文名はカタカナなら使えることになってたし。呪文名やロゴが変わったところでオンラインの内容に大した影響なさそうだし。
旧作を復刻しても儲かるかどうか。
GMOインターネットとなっていた元ゲームポットは、2018年ごろにようやくシロテックのもとを訪ねたらしいと伝えられているが、交渉の内容、目的は不明。
その結果も特に伝えられていない。
サーテックの帰還
けっきょくこの状況に動いたのは本国側、シロテックのほうだったようだ。
2024年のインタビューによると、ゲーム業界から離れていたシロテック兄弟だったが、旧作の復刻について何度か話を持ちかけられたという。(GMOもその中に含むのだろうか…)
やる気になったシロテック兄弟はパートナーを探した。Brian Fargo氏を通じて知り合ったJustin Bailey氏からDigital Eclipseを紹介され、リメイクに着手。日本のクリエイターにも連絡を取った。
当然ドリコムも協力のもと、2023年にアーリーアクセス版発表。
リメイク版の開発期間は2年だと伝わっている。だからデジタルエクリプスが実際に動き出したのは、ドリコムが権利を取得した翌年の2021年の中ごろと思われる。
この動きは、ドリコムへの権利移行とは無関係…とは言い切れない。アエリアIPMからどんどん移動していた状況は、日本人でも調べないと把握できない動きだった。
だが、ドリコムの権利取得は英語でもニュースになっており、すぐ見つけられたはず。日本で何度も動き回った権利が、2021年時点ではちょっと調べたらすぐわかる状況になっていた。
権利者の影
GMO時代の後半以降、何度かウィザードリィには版権関連と思われるトラブルが起きているのだが、その中でサーテックが関わっている可能性が高い事例はひとつ。ドリコム体制後、2021年のSteam版『五つの試練』延期関連の一連の事例のみ。
(GMO時代にあった呪文名の変更トラブルや発売延期は、特に関係はないと今の私は考えている)
2021年6月にアーリーアクセス版の配信日が発表されたSteam版『五つの試練』だったが、直後に謎の延期。その文面に気になる表現。
五つの試練は旧作#1~5と無関係であるというアピールと、「現権利元(商標と#6-8著作権所有者)」つまりドリコムとの問題は一切ないというアピール。
ということは、ドリコムではない何者かと問題が起きたのだ。
そして、予定していた機能が一部削除されるかもしれないという。
同時に、五つの試練の兄弟作といえる『戦闘の監獄』と『慈悲の不在』のiOS版で、ダンジョンの線画表示ができなくなるという不可解な措置が取られた。もしや削除されるのはこれか?
ドリコムでないとすれば、この問題はおそらく#1~5の権利者、すなわちシロテック家、旧サーテックが関わっている可能性が高い。この2021年6月こそまさにリメイク版の開発初期、サーテックがドリコムに連絡を取った時期と思われる。
その可能性が高いとは思うんだけど、これも今回は断定できない情報があるので、まあちょっと後で詳しく書く。
結果を言えば。
『五つの試練』は約半年延期されたが、2021年12月に配信され、特に機能が削除された様子はない。線画モードもあった。
エディタ機能の搭載はかなり遅れたが、これは開発上の遅れと思われ(延期している間に練り直す時間があったのだろう)、このトラブルとは直接関係ない雰囲気。
iOSの戦闘の監獄と慈悲の不在については、線画機能は2022年10月に復活していた。どうやら暫定措置に過ぎず、これも問題はなかったようだ。
「Wizardry外伝〜戦闘の監獄〜」をApp Storeで
いったい何が起きたのか。いや、起きなかったのか。
延期された半年の間に何らかの合意がされたのだと思う。詳しいことはもちろん私にはわからないけどね。
『五つの試練』に問題はなかった。
『五つの試練』はストーリー面では旧作と全く無関係、独立したものだが、そのゲームシステム、ビジュアルともに、旧作#1~5を強く思わせるゲームなのは明らかであった。ていうかファミコン版のモンスター絵を使ってるし。
線画ダンジョンだってそうだ。Ultimaにさえあった線画ダンジョンの権利がWizardryにあるとはとても思えないし、それを既にデジタルエクリプスと組んでいたであろうシロテック側が主張したとも私には思えないのだが……
しかしそういうことを話題に出されたら、確認は必要だったとも思う。果たして本当に全てが旧作の著作権に触れてないと、誰に断言できるのか?
最低でも、各々の権利の及ぶ範囲の確認くらいはする必要があったはず。
『五つの試練』、もとは2006年までに旧サーテックと直接契約した由緒正しいもんなのだが、旧サーテック末期のチェック体制の甘さは既に指摘した通り。
その「何が旧作の権利であるか」という致命的な問題に対して、ゲームポットも自社が持ってる権利をよくわかってないままグレーゾーンを攻めるようなことをしていたわけで。
チェックが甘すぎる
また時間を戻すのだが…
ドリコムのポータルサイトでは未掲載なのだが、2002年ごろからSuccessが携帯電話で複数のウィザードリィを展開していた。『Wizardryトラディショナル』のほか『Wizardry』、『月額版Wizardry』など、きわめて記録に残りにくいタイトルで、ゲームスタジオがオリジナル作品を作っている。
これらはフォーウィンズ経由せずサーテックと直接契約の様子。トラディショナルの残ってる画面写真から旧呪文名(カタカナ)を使用していたこともわかる。
その中のひとつに、2003年の『従量版Wizardry』というタイトルがある。
これはオリジナル作品ではなく、原作初期シリーズ#1~3をそのまま移植したもの、らしいのである。特にシナリオ部分は完全に同じ。
その後、2004年に『Wizardry Original』というタイトルで#1から3が再移植されたようだ。2と3の記事が残ってた。
復刻は2002年まで行われていたと書いたが、それは嘘です。まだ行われていました。
ただし、これらは明らかに原作のシナリオを移植したものだが、権利表記にアンドリューの名前も、シナリオの著作権も何も書いてない。サーテックの権利だけで移植してることになってる。
ええ…?
まさか日本語訳すればセーフとかいう理論でもあるのか?
どういう方法を使ったのかは全くわからないが、私が想像したことは書いておくべきだろう。これは何かとてもまずいことをやっているのではないかと私は考えている。
旧サーテックは内容チェックしてこれを通したんか。しとらんのじゃないか。
しかも、この話はまだ終わらないのだ。サーテックの権利が日本に動いた後の2009年。
サクセスネットワークス,iモード向けにアレンジされた「Wizardry -Original- SCENARIO #1,#2,#3」を配信
>“Wizardry(R)” is a registered trademark of IPM Inc. All rights reserved. (C)SUCCESS NETWORKS
IPMの持つタイトルの権利のみで移植できてしまった。#1~5の権利はグレーゾーン、いやもっと明確にブラックじゃないのか。
ゲームポットは新作ウィザードリィについては内容のチェックを行っていたが、既存作品の移植についてはその限りではなかったようだ。
つまり、過去に売られていたものであれば内容を再チェックするようなことは全くなかったのではないか、ということである。
Wizardry Original、どう考えてもおかしい。こんなものがそこにあるはずがない。これが許されているなら、ゲームポットはもっと大っぴらに旧作ベースの世界を展開できたはずだからだ。できたわけがない。
どうしてこれが大丈夫なのか、私には全くわからない。
わかるなら誰か教えてくれ。
サクセスの携帯電話シリーズがいつごろまで販売されていたか、それもわからなかったが、iモードの衰退もあり、それほど長く売られてはいないと思う。
最後の試練
『五つの試練』は2006年、権利が日本に売られる前に発売された。当時のサーテックのチェックは相当甘かったと考えられるが、日本側のほうはわかってる人、つまり旧外伝シリーズを手掛けた徳永剛さんが作ってるので、過去作の権利に抵触しないことは十分配慮されていた。
呪文名は変更、特徴的な固有名詞は不使用、ロゴも新ロゴのほう。#1~5の権利に触れそうな部分は回避していた。#6以降の種族も入れていない。『古の王女』よりもずっと安全なラインにいる。そのつもりだったはずだ。
だが実際、明らかに旧作ベースのゲームシステム、ファミコン版と同一の末弥純の原画から作成されたグラフィック、そして線画ダンジョン。
これらの権利が本当に#1~5の内容に触れないのか、厳密なチェックを旧サーテックは怠っていたのではないか。私はそう疑ってる。
そして、それは権利移行後もである。アエリアIPMだかゲームポットだかは五つの試練の販売継続を認めていたが、その内容をやはり再チェックしていたと考えられない。
15年後、2021年。GMOから権利を渡されたばかりのドリコムも、ひょっとしたら新サーテックの側も、それぞれの持ってる権利がどこまで及ぶものなのか、正確に理解していなかった可能性がある。
サーテックとゲームポットが適当にやってきたぶんのツケが、なぜかドリコム移行後の五つの試練にかぶさってきた。
そういうことだと、僕は考えている。
憶測ですよ。おそらく真実は誰も語ることはないだろうから、憶測で書いてしまうけど。
この権利の確認は簡単な話ではなく、最低でもアエリアに権利を売った2006年当時の資料は見直す必要があっただろう。そうだとすりゃ半年くらいかかったのも仕方ないかと思う。iOS版の線画の復活に1年かかってるのは知らん。
何があったかは結局憶測でしか書けないのだが、結果の部分を見る限り現在の権利関係は全てクリアになっており、『五つの試練』については堂々と世界で売れる状況が整ったと考えられる。
ウィザードリィ版権問題、ここに堂々完結。
正体不明の権利者
でまあ、これが本当にシロテックだけの話なのかという疑問はあるんですが。
こちらはデジタルエクリプスのスタッフである Stephen Frost氏とIan Sherman氏のインタビュー。この動画の1時間5分あたりで権利についての言及がある。どこかでドリコムとサーテックのライセンスホルダーを引き合わせて、それぞれの持っている権利の確認をしたらしいと。
そして、Wizardryがその事例だと言ってるわけではないのだが、40年も前のゲームだと権利を持ってると思ってた人が持ってなかったり、その逆があったりがよくあるという話をしています。
Wizardryがそうだと言ってるわけではないのだが…そうなのかもしれない?
『五つの試練』の延期時にはまだシロテック家の存在が広まっておらず、日本では「謎の権利者」の存在が仮定されていた。
この「謎の権利者」は果たしてシロテックだったのだろうか。
謎の権利者は謎であり、サーテックと別にいた可能性も残らないか?
あるいは、逆のパターンは?まさに動画で言ってる通り、権利を持ってないと自分では思ってた関係者が、実は重要な権利を抱えてたということはないか?
それが何かを無自覚に妨げてたということはないか?
動画の発言は一般論として言ってるだけで、ウィザードリィがそうだとは言ってないようです。
謎です。私はここで見えない何かを仮定しました。
しかし、この仮定の存在が実在するかどうかに関係なく、権利の確認というのが簡単な話ではないのは、それは間違いないです。
こうなったのも、元はといえば自社の権利を小分けにした挙句に潰れたサーテックが悪いのか。だが、その状況に乗っかってエンパイアなどを作り、そして盛り上げていったのは日本側だった。
その結果として生まれた「15年も前に違う国の2社に分割されたうえ、どこからどこまでを持ってるかお互いよくわかってない権利についての話し合い」なんてのが推定半年以内で終わったのは、かなり早く済んだという気はするな…
ただし、その話し合いがすごく悪いタイミングで起きてしまったので発売延期という形で見えてしまったということで、普通はこういうのは見えないところで交渉され、処理されてるものなんじゃないだろうか。
ウィザードリィの復活
2022年になり、ドリコムでは旧シリーズの呪文名や固有名詞をふんだんに使用した小説『ブレイド&バスタード』の展開を開始。英語版も販売。その裏では、2021年中に旧サーテックとの調整が終わっていたと考えられる。
そして2023年にリメイクの発売と共に、生まれ変わった新サーテックも表舞台に帰ってきた。ウェブサイトとかはないようだが。
本記事ではかなりの疑問点を生み、多くの仮定をし、憶測もかなり書いた。だが結論の部分だけははっきりしている。過去の版権問題についての謎はまだ残っているが、どのような仮定をしても問題となるものは解決しているという考えは揺るがない。
過去の謎はもはや謎ボイのコンである。忘れたい。
もはや心配するようなことは何もない。そう思う。
重要な問題は解決したと思われるものの、ドリコム移行から4年が経過した現在もWizardryの本数はあまり回復していない。いまだ新規の3Dダンジョン作品はWizardry Variants Daphneのみ。
とはいえ、ゆったりしたペースだが、ドリコムは自社でダフネとブレバスを展開するだけでなく、他社ウィザードリィへのライセンスも継続している。
新たにドリコムからライセンスを得たのが『エターナルクリプトWizardry BC』と、『Wizlite』。
そして現在も販売している作品についても、ひととおりポータルサイトからリンクしている。
エンパイア3のPSP版はリンクしてないな(2024年末の時点でVitaからまだ買えることは確認。だが版権表記がIPMのまま更新されてない。スターフィッシュの公式サイトも遥か昔に消えた)
ドリコムの方針として、「ウィザードリィ」の世界観の統一を今のところ意図していないようだ。
例として各作品のホビット的種族について、五つの試練では以前ホビットだったのが「ホブ」に改名。ブレバスは「レーア」。Wizliteでは「グラスランナー」。リメイク版#1では「ハーフリング」。
ドリコム体制下では、囚われし魂の迷宮の「ポークル」に統一されることはなかった。
※WizliteはグループSNEからグラスランナーの使用許可を取ってるようです。
※一応言っておくが、「ホビット」の使用回避はWizardryの版権とは別問題。
もうひとつはノームという種族。
Wizliteは、従来通りの普通のノーム。男はヒゲで、女はヒゲじゃない。
囚われし魂の迷宮は既に述べた通り、小さく細い角のタイプで、標準のルネサンスノームとは違う。
ではブレバスは?
旧シリーズとのつながりが明確に意識されているこのブレイド&バスタードで、まさかのルネサンス準拠の角ノームを採用していた。
しかも本文を読むと小さな角のタイプと、『生命の楔』の犬耳ノームにも言及があった。
ブレイド&バスタードは、断片だけとはいえ失われたルネサンスさえも回収する気なのか。
新たなる謎
権利関係のごたついてた部分については解消したと思うが、ごたついてなさそうな部分には疑問は残っていたりする。
そのひとつに、ウィザードリィルネサンスの権利がどこにいったのかというのがある。これはどうやらドリコムが一緒に持って行ったと考えるのが自然か。
アクワイアのウィザードリィの総合サイトには現在Drecomの権利表記がされているが、以前はGMOゲームポットと共に「Wizardry Renaissance」という表記がついていた。
これはGMOインターネット時代末期、2020年のSteam版の配信時に既にルネサンスの表記はなくなっていた。ルネサンスの枠組み自体が放棄されたか。
ともあれ、ルネサンス関係の諸権利のうちゲームポットが持っていたぶんについてはドリコムが持っており、ブレバスにもルネサンスノームを憂いなく出せる、ということではないかと…
その気になればルネサンスの続きも作れるのだろうか?作りたいメーカーがあれば…
過去作についてはもっと重要な疑問がある。ファミコン版の権利は今どこにある?
ウィザードリィ1作目の権利はサーテック周辺とドリコムの2社が主に所有しているが、過去の移植作品には移植したメーカーの権利がさらに付随する。
しかしファミコン版を発売したアスキーのゲーム部門が既にない。
ファミコン版ウィザードリィの権利は、どうやら少し前まではアスキーの事業を継承した角川ゲームスにあったようだ。
だが角川ゲームスも2023年までにいくつかの権利を放出したのち、解散した。デモンゲイズなどの多数のタイトルの権利はDragami Gamesに。メタルマックスはCygamesに。だが角川本体に残ったゲームもある。その中でも元アスキーのタイトルであれば、『オホーツクに消ゆ』に、2024年時点でKADOKAWAの表記があることが確認できる。
ウィザードリィはどうなったんだ?まだKADOKAWAに残ってるのだろうか。それとも、他社に移譲されたのだろうか。
ヒントとなるものは見つけた。
復刻された日本語版ウィザードリィ678に、SFC版『Wizardry VI 禁断の魔筆』が追加収録されているが、これに角川の権利表記が付随していない。
Wizardry Legacyの権利表記は、
>©Drecom Co., Ltd.
>Wizardry™ is a trademark of Drecom Co., Ltd.
>©D4Enterprise Co.,Ltd.
>©2023 MSX Licensing Corporation All Rights Reserved.
ドリコムは当然。
D4エンタープライズは移植、販売の担当。
ここで謎なのは「MSXライセンシングコーポレーション」。これは西和彦氏がアスキーから譲渡されたMSX関連事業を手掛ける会社。一部アスキーのMSXタイトルの権利も持っているらしく、Project EGGで配信している。
考えられるのはPC-98版の6と7、これもアスキーから発売されたものだが、この翻訳版についての権利をもしかしたら角川ではなく、MSX Licensing Corporationが持っているのかもしれない。
そして権利表記がこれだけしか書かれていない以上は、SFC版6の権利は、この3社のどれかが持っていると考えるのが自然…どれだ?
MSXライセンシングコーポレーションなのか?実はドリコムが持ってるんと違うか?まさかD4が手に入れた?
どれもありえなくはない…
完全に謎だが、SFC版を復刻できたことだけは確かで、「アスキーにあったSFC版6の権利」を、「この3社のどれか」に角川ゲームスから移譲されている可能性が高い、と今のところ考えている。
で、ファミコンとSFCの1から5の権利はどこだ?
思い当たったのがダフネのアイテム名や、リメイク版1にファミコン版のマップが実装されていることだ。
迷路の構造くらいなら「誰かの権利の及ばない要素」なのかとも思ってたが、あるいはファミコン版の権利をドリコムがこっそり持ってて、特にややこしいこともなく実装できてるとか…?
そうかもしれない。
SFC版6の移植ができた理由、事情を出して大丈夫なら公式サイドがどこかで教えてほしいところではありますが、アスキー版ウィザードリィの復刻、少なくとも不可能ではないことが確定した。
#1~5や外伝シリーズについても根本的に違いはないだろう。アスキーのウィザードリィの権利はKADOKAWAもしくは、角川から譲渡されたどこかの会社には必ずあり、普通に考えて所在もつかめるはず。
初期シリーズの場合は、さらにサーテックの許可が必要だが、それも不可能ではないだろう。復刻に権利上の大きなハードルは、ない、たぶん。
つまり権利上のハードルは低いとして、難しいのは予算や需要のほうだろうと考えるのだが…
Wizardry Legacyにはもうひとつ謎があって、日本語版ウィザードリィ8はアスキーじゃなくて、ローカスから発売していたものだ。
このローカスの持っていた権利や、Wizardryとの関わり方については私はちゃんとわかってません。当時もリルサガの再販がローカス以外から出ていたり、ローカスがどうもPC版7やGBC版にも関わってたり、過去の時点でローカスの立場と権利がよくわからない。
新キャラクター、FRPG Corporation
2024年4月25日のドリコムのリリース。
>著作権表記:
>Wizardry™ is a registered trademark of Drecom Co., Ltd.
>Proving Grounds of the Mad Overlord Copyright © (1981-2024) by FRPG Corporation. All rights Reserved.
>Proving Grounds of the Mad Overlord is a copyrighted program licensed to SirTech Entertainment Corp by FRPG Corporation.
>Proving Grounds of the Mad Overlord has been licensed to Digital Eclipse Entertainment Partners Co., by SirTech Entertainment Corp.
「FRPG Corporation」というものからサーテックに#1の著作権とプログラムのライセンスを与えていることになっている。
2023年にはこんな名前は見かけなかったぞ!完結後に突然追加される新メンバー!?
この団体については過去の「FRP Assets」と名前が似ていることから、これも実質サーテックの派生団体と思われる。証拠はないが間違いない。どうも権利を小分けにしたり別会社に移したりするのはサーテックの癖みたいなもんなのだろうか。
これによる今後への影響は別にないと思うが、そういう変化がありました。
また先のシロテック兄弟のインタビューで、このリメイクに関わった重要人物であるJustin Bailey氏がこんなことを言ってる。
>I actually own Robert Woodhead's rights to the classic Wizardry 1 through 5.(Wizardry1から5に対するロバート・ウッドヘッドのぶんの権利は私が持っています)
1から5の権利のうちロバート・ウッドヘッドが持っていたぶん?その権利をジャスティン氏が手に入れたようなんである?
ロバートがとうの昔に手離していたと思われる権利?それはどこからどこまでの権利なんだ?
リメイク版の権利表記にJustin Bailey氏の名はない。これは氏が所属するデジタルエクリプスが権利を持っているということなのか、それともJustin氏はFRPGかサーテックのどっちかに同時に所属してる扱いなのか、単に表記を省略しているだけなのか?
(本記事では各種権利表記をかなり根拠にして話してきたが、これは実は厳密に書く義務はない。だが信用していかないと記事の前提が崩れる)
行方のはっきりした#1~5の権利について、また謎が増えてしまった。
繰り返すが重要な権利者の所在がはっきりしてる以上は、心配するようなことは起きないと思うが、権利表記にはまだ意識を向けておいほうがいいようだ。
なおJustin氏が権利を持ってることについては、こちらの記事でも前述のインタビューを根拠に言及されていました。当面は共通認識となっていくことでしょう。
蝸牛くもに賞賛あれ
ちょっとネタバレになるかもしれないが、ブレイド&バスタードの話を最後に。
ブレバスはファミコン版ウィザードリィの話題をかなり積極的に使っているのだが、読み進めるとそれだけでなく、外伝シリーズの設定も意味を持ってくる。
アルマールや緋蓮の地名はなんとなく使ってみただけなのかと思ってたが、どうもそれだけで終わらない雰囲気が出てきた。
読者に外伝4や3のストーリーを覚えているやつがどれほどいるだろうか。私は覚えてるぞ。英語版じゃ誰もわからんのじゃないか…
それだけでなく、メーカーから見捨てられるような形で霧散しつつあったルネサンスも断片は回収しようとしている。
もしかしたら、作者の蝸牛くも先生はこうして作品を盛り上げることで、元ネタの需要のほうも何とかしたいのかもな、と思います。
その対象にはルネサンスも含むのだと。
(なお思い入れが強いという『リルガミン冒険奇譚』の設定も具体的に使用しているようなのだが、私がそちらがよくわからない。
一方でエンパイアをはじめ、ドリコムがシナリオの著作権までは持ってないシリーズの回収は避けているのでは…と思った。
ルネサンスと外伝4と世界樹の迷宮がわかる蝸牛くも先生がPSエンパイアを知らないとはとても思えないので)
あとがき
本記事を書いてる私は記者でもゲーム開発者でもなく、本記事に登場する人物、各メーカーとも何の利害関係もありません。
そして記事の作成にあたりネット上のさまざまな場所から情報を集めていますが、本件で関係者への聞き取り取材などは一切行っておりません。
一部ソースを明記していない記述がありますが、それらもネット上から入手した情報であり、一般に公開されていない情報は使用しておりません。
書籍類から得た情報はログイン誌のインタビューくらいです。
また私は21世紀以降のウィザードリィの動きには疎く、言及した中にも実際にプレイしていないタイトルも多いです。各タイトルの権利表記については、未所持のものはe-bayやヤフオクなどに出ていたパッケージ、奥付の画像を参照しています。調査に漏れやミスがありましたら教えてください。
記事の作成に至る経緯として、特にYBさんからX(元twitter)で多くの情報や助言をいただきました。ここで謝意をお伝えします。
ですが記事の内容は私が考え構成したものであり、内容についての責任は私にあります。
憶測部分は憶測だとわかる書き方をしていますが、事実誤認等の問題がありましたら指摘をお願いします。