アベノマスクめぐり「国のうそ見抜いた」 判決が賠償まで命じた理由
やりとりはほぼ「口頭」だったため、原告が求めるような文書はない――。巨額の国費を使った「アベノマスク」をめぐる情報公開請求訴訟で、大阪地裁は5日、そんな国側の主張を一蹴した。公文書を扱う姿勢を厳しく批判した判決を、原告側は「市民感覚」に沿うと高く評価した。
「初めから不開示という結論があったからこそ、国はうそにうそを重ねる弁明に終始した。裁判所がそこを見抜いてくれた」
原告の上脇博之(ひろし)・神戸学院大教授(憲法)は判決後の会見で、そう喜びを語った。
「不存在」と言っていた業者とのメールが裁判になって見つかり、上脇教授に問い合わせもせずに開示請求の範囲を狭めてそれは開示対象でないと言い……。
判決は、そうした国の対応について「不開示の判断を維持するために、限定的な解釈を事後的に考え出して主張した」と批判。国が言う「保存期間1年未満の文書」でも公文書に変わりはないのに、最初から「1年未満」を理由にして対象から外していたとも指摘し、賠償まで認めた。
上脇教授も「ここまで認めてくれたのは、いかに国が法令を順守せずにやってきたかという(裁判官の)気持ちの表れだと思う」。原告弁護団の坂本団(まどか)弁護士は「業者とのやりとりが口頭だったという当初の国の主張がそもそも常識外れ。一般人の感覚に沿った判決だ」と評価した。
判決が確定すれば、国は開示するかどうかを改めて判断する。上脇教授は「国民への説明責任」という情報公開法の趣旨を踏まえ、「政権の都合ではなく、国民の知る権利に応える。この原点を忘れないでほしい」と語った。
国の情報公開・個人情報保護審査会の委員を務めた森田明弁護士の話
「不存在」とされた文書をめぐる裁判では原告側に存在の立証責任が求められ、覆すことが難しいとされるが、判決は国の対応を丁寧に検討して「あるはずだ」と明言した。大胆な判断と言えるが、文書を探そうとせず、審理途中に開示請求の解釈を限定するなど「極力出さない」という国の不誠実な対応も考慮したのだろう。政治的な問題に対して情報公開に後ろ向きな国の姿勢に、一石を投じるような判決だ。
大量の在庫は掃除グッズやコットンに…
アベノマスクの8千万枚超の在庫はその後、どうなったのか。
厚生労働省によると、会計検査院から多額の保管費がかかっていると指摘されたのを受け、2021年12月に無料配布の方針を示した。すると自治体や介護施設、障害者施設、個人などから在庫を大幅に上回る約2億9千万枚の希望があった。一部の不良品は処分して、22年5月末ごろまでに配送を終えたという。
その後、マスクは形を変えていった。子どものよだれかけ、介護用のガーゼ、掃除グッズ……。コースターや化粧水用のコットン、スプラウトを育てるシートなど、様々な利用法を公開するSDGsコンサル会社も現れた。
独自に全国からマスクの寄付を募り、児童養護施設や高齢者施設へ配ったり、シリアの難民キャンプなど海外の子どもたちへ送ったりした団体もあった。
「デジタル版を試してみたい!」というお客様にまずは1カ月間無料体験
- 【提案】
備蓄米の放出について、同様に「文書はない」「メールは廃棄した」とならないよう、今のうちから「記録を残せ」と国会で求め、答弁を得ておいていただきたいです。 別記事(※)では、農林水産省に申請が認められて契約手続きに入った大手小売り61社のうち、複数社が契約をとりやめたことが報じられ、「政府側が店頭に早く並べることを重視して手続きを急いだため、契約の内容について双方に認識の食い違いが生じるなどして、取り消しにつながったとみられる」と書かれています。トップダウンで成果を急いでいることは、備蓄米の放出も布マスクの供給も同じです。無理が出やすい状況だからこそ、しっかりと記録を残して検証ができるように、今から備えておく必要があるでしょう。 (※)卸売業者間でコメ価格下落、随意契約の影響か 小売に波及する可能性:朝日新聞2025年6月5日 https://www.asahi.com/articles/AST653PGQT65ULFA014M.html
…続きを読む