「日本人ファースト」で傷つかないように 教員らが声明、署名も開始

山本知佳

 7月の参院選で広まった「日本人ファースト」の言葉が子どもたちの間で広がり、傷つく子が出てしまうのではないか――。海外にルーツのある子の教育に関わる教員らから、心配する声が上がっている。

 海外ルーツの子どもの教育に関心のある教員らでつくる全国在日外国人教育研究協議会(全外教)は9日、「言わない・言わせない『日本人ファースト』」と題した緊急声明を発出。また、全国の教育委員会に対し、すべての子どもたちが孤立せず平等に学べるよう、学校への適切な指導を求める署名を始めた。

 参院選では「日本人ファースト」などの言葉が使われ、外国人政策の是非が争点化。複数の候補者や政党が排外主義的な主張を展開した。

 全外教の会長を務める神奈川県の高校教員の舟知敦さん(63)は、「子どもたちが、排外主義的なことを言ってもいいと学んでしまったのではないか」と懸念する。これまでも、北朝鮮のミサイル発射のニュース後に、朝鮮半島ルーツの生徒がいじめられた例を見聞きしたことがあるという。

 舟知さんによると、特に小学生のうちは、言われた言葉が嫌だと思っても差別だと気づけなかったり、親にも相談しづらかったりする。また、言う側も差別の意図を持たないまま何げなく発言してしまうこともあると指摘する。

 「学校や教員はもちろんだが、教育委員会にも、行政として排外主義に立ち向かう姿勢を見せてほしい」と話した。

 署名は、オンライン(https://chng.it/ZqW5d6jxV5別ウインドウで開きます)で行っている。8月中には、各教育委員会に提出する予定という。

 日本の小中高校に通う海外ルーツの子は、今や珍しくない。2024年度の学校基本調査によると、外国籍の子だけで少なくとも約15万人いる。単純計算でも、1校に約4人いることになる。日本国籍で両親のどちらかが外国籍という子らを含めると、もっと多いとみられる。

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山本知佳
社会部
専門・関心分野
教育、大学、海外ルーツ、ジェンダー
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    鈴木江理子
    (国士舘大学教授=移民政策)
    2025年8月13日17時43分 投稿
    【視点】

    子どもたちと日常的に接する教員が問題意識をもち、声明を発出したことは、とても心強い。  2021年に実施された日本財団の18歳意識調査では、小学校の同じ学年に外国ルーツの子どもがいたと回答した若者が32.5%、小学校の同じクラスにいたと回答した者が24.9%を占めている(https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2021/20211221-65839.html)。現在の小学校や中学校、高校ではこの比率はより高まっているはずだ。  つまり、多くの子どもたちにとって、海外ルーツの友だちは身近な存在であり、国籍や民族、名前や外見に「ちがい」があったとしても、共に学ぶクラスメートであるという点では「同じ」である。  「日本人ファースト」という言葉は、同じであるはずの子どもたちに差別や分断をもたらしかねない、極めて危険な発言である。  私もいち早く署名をしたが、この報道によって、一人でも多くの署名が集まることを期待している。

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    福原麻希
    (医療ジャーナリスト・介護福祉士)
    2025年8月13日20時45分 投稿
    【視点】

    参政党の神谷代表は「日本人ファースト」について「自国民を第一に考える政治が必要」と主張していた。そして、その後「選挙のための言葉。排除を意味するわけではない」と言うが、「自国民を第一に考える」は分断を推し進めると批判されている。日本人にとっても、外国人にとっても失礼極まりない。言葉の意味は受け取り手が自分の持つ情報で判断する。誤解を招いているというのであれば、撤回してほしい。 私も「日本人ファースト」は差別の言葉と受けとめ、子どもたちだけでなく、社会において排他的風潮ができうると考える。神谷代表は「区別」と言い直したそうだが、国連は「区別は差別」と明確にしている。言葉が社会の空気をつくり、それが価値観を醸成することは、ある程度の年齢の人は誰でも経験している。子どもたちが無意識に「日本人ファースト」という言葉を使わないよう、社会が明確に差別を否定する必要がある。

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