第二話 変わりゆく世界
第二話 変わりゆく世界
サイド 福矢 亮太
あの動画が出回って、世間の関心は一気にダンジョンに傾いた。テレビではどの局もダンジョンについてばかり。日本国内にもどれだけダンジョンがあるとか、危険だから入るなとか、それ一色だ。
当然の様にクラスの話題もダンジョンについてもちきりだった。皆、サッカー中の事故については触れたくなかったのもあったのかもしれない。おかげで、自分に対するスキルの追及もされることはなかった。
不謹慎かもしれないが、心の底からホッとした。結果だけ見れば、あの生徒は命に別状はないようだし、今の所なにかしら後遺症らしいものも見受けられないと先生が言っていた。
なら、自分は悪くない。むしろ治療しようとした分良かったのでは?まあ、今後は同じ状況になってもあまり手を出さないようにしようとは思うが。
そんなわけで今日も淡々と授業を受けるのだが、未だ友人達は学校に来ていない。しょうがないとは思うが、それでもクラスに話し相手がいないというのは地味につらい。とりあえず全力で存在感を薄くして、注目されないように過ごした。
そんな感じで一週間が過ぎたのだが、驚いた出来事が二つ。
一つ目は、例の生徒が学校に復帰した事。後遺症もなく、今まで来なかったのは出血量が酷かった事もあり検査の為だったとか。ここまではいい。だが、なんと彼はレベルが1になっていたのだ。
怪我をするまで間違いなくレベル0だったのに、いつの間にかレベルが1になっていた。この事に、多くの生徒がざわめいた。なんせ、大半がレベル0なのだから。
それにより『サッカー部に蹴られるとレベルが1になる』とか『臨死体験をするとレベルが上がる』とか色々な噂が持ち上がった。
ちなみに、怪我をした生徒は自分がスキルを使った事は知らないらしい。少しだけムッとしたが、下手に目立って睨まれるよりは、今まで通り教室の隅にいる方が楽だ。それに、自分から言い出すのも恩着せがましくてかっこ悪い。
そんなこんなで、レベルを1にあげる方法を色んな生徒が模索し始めるわけだが、自分にはあまり関係のない話だ。
二つ目の驚いた事。むしろこちらの方が自分には重要である。
友人二人が遂に学校へ登校してきた。ただし、雄太がスカートをはいて。
昭は普通にズボン姿だったのだが、雄太はスカートを履いていた。しかも、二人ともうちのクラスではなく、急遽空き教室に用意されたクラスに移された。
うちの学年だけでも性別が変わってしまった生徒が十人以上いるらしい。三学年合計すれば四十人近いとか。
なのでそれぞれの学年ごとに性別が変わってしまった生徒を集め、三つのクラスに分けてそこで授業を受ける事になったそうだ。なんでも、元々のクラスだといじめの標的にされかねないから。だそうだ。
うちの学校にしては早すぎる対応だ。どうやら、一年の中に教育委員会で発言力のある人の息子が、娘に変わってしまったのが原因らしい。
ともかく、友人達と別のクラスになってしまった上に雄太がスカートを履いてきた事でこっちはパニックだ。
休み時間、廊下でやじ馬をやっている生徒をかき分けてその教室に向かう。
「わお……」
教室の中を見て、なんでこんなにやじ馬がいるのかわかった。
教室内にいるのは五人ほどだが、全員が見目麗しい美少女だった。テレビで見るアイドルやグラビアモデルだって足元にも及ばないスタイル抜群な美少女ばかりがいるのだ、そりゃあ人も集まる。元が男だったというのも、興味本位で見に来る理由にはなるだろうが。
「亮太!」
そんな中、銀髪の美少女がこちらを見つけて笑顔を浮かべる。ヤバい、一瞬恋に落ちかけた。落ち着け、あれは昭だ。去年奴が腹に油性マジックで落書きして腹踊りをしていた姿を思い出せ。
「おう、久しぶり」
努めて普段通りに振る舞う。こいつにトキメキを感じたとか屈辱以外の何ものでもない。
「とりあえず、熱とか眩暈とかは大丈夫なのか?」
「ああ、それは何ともない。性別以外はびっくりするぐらい問題ねえよ」
苦笑を浮かべる昭に、なんと声をかけたものか迷う。
「それより、見てくれよ。雄太が……」
「雄太ではないでござる。優子と呼んで欲しいでござるな」
「変なんだよ色んな意味で」
若干涙目で雄太を指さす昭。うん、まあ、これは変としか言いようがない。
雄太はキッチリと女子の制服で身を包み、長い黒髪を紫色のリボンでポニーテールにまとめている。見た目はどこからどう見ても凛々しい系美少女だ。あと胸がでかい。
「とりあえず……口調は結局ござるにしたのな」
「いやツッコむ所そこか!?」
「だってそれ以外が下手にツッコミづらいし……」
性別に関する事とかデリケートすぎて踏み込みづらいし。
「うむ。やはりここは武士娘スタイルで行くと決めたでござる。拙者の中では武士娘ブームが到来している故」
「あ、そう……」
何故かドヤ顔を浮かべる雄太に、こっちが困惑する。
「とりあえず、武士娘って普通ござるとか言わないと思うぞ?」
「どうした亮太!お前のツッコミの切れはそんなもんじゃなかったはずだぞ!」
「そうでござる!フクヤンからツッコミを抜いたらただのモブ顔しか残らんでござる!」
「お前ら表出ろや」
人が気にしている事を的確についてきやがった。やっぱこいつら見た目が変わっても昭と雄太だわ。
「で、その……雄太」
「優子でござる」
「……優子は、もしかして、精神が女性だったりするのか?」
ここで聞くのは躊躇われる。出来るだけ小声にしたが、本来ならこういうのは人の耳がない所でするべき話だ。だが、ここで踏み込まなければ、たぶん一生踏み込めない。
「別に、そうであったからって僕たちの関係が変わる事はない。けど、お前がどう接して欲しいかとか、あるなら……」
「いや、拙者の心のチン●は健在でござるが?」
「んんんん?」
「今でも恋愛対象は女子でござる。むしろ、理想のタイプは黒髪ロングポニーテール巨乳武士娘でござる。つまり、今の拙者でござるな」
「ごめん、どういう事?」
「だから変だって言ったじゃん……」
隣で頭を抱える昭だが、いやこんな方向に変だとは普通思わないじゃん……。
「えっと、つまり……どういう事?」
「拙者は常々思っていたでござる。はたして、拙者の理想とする女子は実在するのかと。万に一つ実在したとして、彼女と出会い、恋仲になれる可能性があるのかと」
「いやないな。うん。その可能性はない」
「断言するなでござる!」
だってお前彼女いない歴=年齢な非モテじゃん。いや自分もそうだけど。というか女子にモテる要素皆無だったじゃん、元のお前。
「そんな時でござる。レベルやスキルというのが現れ、拙者は『ドッペルゲンガー』になったのでござる」
「ドッペルゲンガー?」
「うむ。いやぁ、突然のっぺらぼうのマネキンみたいな姿になった時はマジでビビったでござる」
「「えっ」」
ゆう……優子の発言に昭と二人固まる。え、マネキンって何、こわ。
「感覚的にわかったでござる。『あ、これ自分がイメージした姿になれるぞ』と」
「お、おう……え、いや、大丈夫だったの?」
「まあ言うほどは混乱しなかったでござるよ?その時、拙者はすぐにイメージしたでござる。理想の自分を」
「お前、そんな冷静に考えとか出来たの?」
いや、むしろ冷静になれていなかったから女の姿になったのか?ちょっとわけが分からない。
「そして、この拙者にとって理想となる美少女の姿になったでござる」
「い、いや、お前はそれでいいのかよ」
昭が明らかに動揺している。そりゃそうだ。誰だってそうなる。自分だってそうなっている。
「まあ、拙者の話はこれぐらいで。それよりフクヤン。拙者は説明を求めるでござる」
「え、僕?」
なんだ。正直見た目だけなら自分だけ特に変化はないぞ。いや、何故かムキムキボディにはなったけども。この二人に比べると誤差だろ。
「なんでそんなモブ顔のままなんでござるか?ヤル気あるんでござるか?」
「なんのだよ。知らねえよ。つうかあんまモブ顔連呼するなよ泣くぞ」
なんどそんなモブ顔モブ顔いうん?
「だってフクヤン、四角めの顔に一重のジト目。ぶっちゃけ絵描き歌に出来そうなぐらいモブ顔でござるし。てっきり少しはモブっぽくない顔になっているかと思ったのに……」
「あ、それは俺も思った」
「昭ぁ!?」
予想外の攻撃に心がゴリッと削られた。泣きそう。
「あ、もう休み時間終わりそうでござるな。巣に帰るでござるよモブ顔」
「おう。実家に帰れモブ顔」
「僕なんかしたかなぁ!?なんか怒らせる事したかなぁ!?」
何故か滅茶苦茶モブ顔と貶された後、すごすごと教室へと戻っていった。
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。