プロローグ
よろしくお願いいたします。
プロローグ
サイド 福矢 亮太
はたして、今日はハロウィンだっただろうか。
『よ、吉田さんです……か?』
『は、はい。吉田ですけど』
画面に映っている女性アナウンサー。夕方に駅前で明日の天気とかを放送しているのだが、その姿はいつもとかけ離れている。
元々顔立ちの整っている人だったが、今は妖精を彷彿とさせる美女が立っていた。褐色の肌に金色の髪。切れ長の紅い瞳。長い髪の隙間から伸びる耳は長く、先端がとがっている。あと服の上からでも分かるほどスタイルが凄くよくなった。
ぶっちゃけると、漫画やアニメに出てくるダークエルフだ。そんな感じの人が立っている。これだけなら、『ああ、なんかコスプレしてる美人さんだな』で済む。だが、この人は今まさにカメラが回っている前で姿が変わったのだ。ちなみに生中継。
一瞬頭痛がしたと思ったら、いつの間にか姿が変わっていた。驚くほどの素早い着替えか、それとも脇で隠れていた人と入れ替わったのか。……それとも、本当に姿があの一瞬で変化してしまった?
まあ、スタジオの人達がやけに驚いているものの、そういうコーナーか何かなのだろう。
だが自分の姿を確認したアナウンサーは明らかに動揺しているし、スタジオも慌ただしい。まあ、ただの暇つぶしでつけただけなので、面白いのならなんでもいい。
結局カメラはスタジオの方に戻ってしまい、いつも通りのニュースに移っていく。結局あのダークエルフのコスプレは何だったのか。
ふと、頭のどこかで『あれはコスプレではない』と感じている自分がいる事に気づいた。自分はこんなに妄想豊かだっただろうか。
撮り溜めたアニメでも見よう。そう思ってリモコンに手を伸ばすと、違和感を覚えた。袖が短い。はて、この服は特に小さいわけではなかったはずだが。
不思議に思いつつも、大した問題ではないと流そうとした。だが、頭の中にやたらひっかかるのだ。
もしかして、『自分の身に何か起きた』?
馬鹿馬鹿しい想像だが、ちょっとだけドキリとした自分もいた。これでも、日頃から転生ものの小説を読んでは『自分ならどうするか』とか『どんな魔法を使おうか』とか色々妄想している身だ。それに、男子中学生たるもの特別な力とか目覚めているかもと期待するのは普通の事だろう。
「ステータス」
家族に聞かれたら恥ずかしいので、小さく呟いていみる。まあ、こんな事をしても何も起きないのだが―――。
「はぇ!?」
目の前に半透明な板の様な物が現れた。え、待って、え?
慌てて目をこすり、次に夢かと思って頬をつねった。それでも板は見えているし、夢も覚めない。これは、もしかして現実なのか?
「よっっっっしゃぁ!」
思わずガッツポーズをしてしまった。だってステータスボードだ。数多の異世界物で出てくる代物であり、創作物の代名詞と言っても過言ではない。
これでテンションが上がらない男子中学生はいない。
「え、えっとぉ……」
とにかく、ステータスを確認してみよう。これでへっぽこな事が書かれていたり、『ドッキリでした』みたいな事が書いてあったら泣く自信がある。
福矢 亮太 種族:人間 レベル:1
筋力:10 耐久:10 俊敏:10
器用:10 魔力:10
スキル
・全耐性・超感覚・サンダー・万象一閃
固有スキル
・世界樹の加護
「これは……」
どうなんだ?凄いのか?凄くないのか?
というかスキルってなんだよスキルって。やっぱりあれか?ゲームと同じ感じと考えていいのか?
全耐性……超感覚……サンダー……だめだ、全然わからない。あれか?字面から想像していいのか?
スマホみたいにタップしたらなんかわからないかな。というかステータスボードって触れるのか?
試しに触れてみると、なんとそれぞれについて説明が表示された。新設設計だな。
『全耐性』パッシブスキル
打撃、刺突は勿論の事、酸、熱、呪い、その他あらゆる攻撃に対して耐性を得るらしい。マジか。
『超感覚』パッシブスキル
限定的な未来予知。自身及び仲間への危険を察知可能。また、空間把握能力の強化。なんというか、一種の超能力的な?
『サンダー』アクティブスキル
なんか、電気が出るらしい。いやどういう事だよ。なんか、魔力?を消費して手から電撃が出せるらしい。魔法……なのだろうか。
『万象一閃』アクティブスキル
肉体に多大な負荷をかける代わりに、概念、魔力など、物理的な強度以外の守りを突破可能。また、『不死』や『不滅』の概念を一時的に無視する事が可能。らしい。そもそも概念、魔力による守りって何。もしかして全耐性とか?
『世界樹の加護』パッシブ・アクティブスキル
スキル所有者の肉体を常に万全な状態で保つ。あらゆる呪い、毒、病、精神、時空干渉を無効化。いかなる負傷も治癒可能。また、筋力・耐久・魔力の値に+5の補正がはいる。魔力を消費する事で他者にも一時的に付与可能。
……なんというか、とりあえず状態異常系相手にガンメタはっているのはわかった。というか、戦士タイプなのか魔法使いタイプなのかわからない。ステータスも同じ数値ばっかりだし。いや、俊敏と器用以外はここに+5されるのか?……それでも結局どっちなのかわからないんだが?
まあ、弱そうなことは書いていないし、当たり、と考えていいのだろうか。
「ふ、ふふふふふ……っしゃああああああ!」
なんか笑いがこみあげてきた。遂に、遂に自分はファンタジーな力を手に入れたのだ。漫画やアニメの主人公に仲間入りだ。これが嬉しくないわけがない。
「うるさいわよ亮太!」
「あ、ごめん」
台所からリビングに母がやってくる。
「……ん?あんた、背伸びた?」
「え、そりゃあ日夜伸びてんじゃね?」
「いや、そうじゃなくって……あと、なんかシュッとした?」
「マジで?」
試しに自分の腹回りを触ってみる。ちょっとふよふよしていた腹が、綺麗なシックスパックに変わっている。わお。
もしや、世界樹の加護とやらの力だろうか。まあそれはさておき。
「母さん!僕なんか魔法が使えるようになったぽい!」
「はいはい。よかったねぇ」
物凄い雑に返された。いや、まあそりゃそうか。誰だって突然こんな事言われても冗談か頭が逝っているかのどちらかとしか思わないだろう。
なら実演してみせたらと思った。……のだが、サンダーは室内で使ったら大惨事になるやつでは?最悪火事とかなったりしない?なんとなくなる気がする。これは超感覚の力だろうか。
「ふざけてないで、勉強しなさい」
「あ、ちょ」
そう言って母は洗濯物をとりに行ってしまった。
「ぬう……」
だがせっかく手に入ったファンタジーな力だ。誰かに自慢したいし、これが現実だと確認したい。
母は真面目に聞いてくれそうにないし、父はまだ仕事だ。なら、友人にでも伝えてみよう。何かしら反応があるだろう。
そう思ってスマホを手に取ると、その友人達から通知が来ていた。
『どうしよう。俺が俺でなくなった』
『わあていあtないがいgきたこれ!』
どちらも意味がわからない事が書いてある。本当になんだ。
「落ち着けお前ら。いったいどうした」
『リトルが消えて二子山が出来て谷も出来た』
『そのあおdwじゃくぁぁたbb』
「いや本当になんだよ」
友人の一人、相川昭はリトルがどうこう言った後地形の話をしているし、もう一人の友人、滝本雄太に至っては言語中枢がバグってんのかとしか言いようがない。
「もっとわかりやすく言え。というか雄太に関しては日本語で喋れ」
そう返信してやると、二人から写真がきた。ほぼ同時とか結婚しろ。式には出てやるから。
そう考えながら添付された写真を見てみると、思わず声を上げてしまった。
「は……?」
昭から送られた画像には、美しい銀髪をボブカットにした碧眼の美少女が映っていた。男物のTシャツの上からでもわかるほど抜群のスタイルをしており、まるでエロ漫画から出て来たみたいだ。一瞬『サキュバス』という単語が頭に浮かんだほどだ。涙目なのも庇護欲をそそる。
そして、雄太の方もタイプは違うがかなりの美少女が映っている。腰まで伸びた黒髪に青みがかった瞳。凛々し気な顔だが、今はドヤ顔を浮かべている。かなり整った顔をしているので、そういう表情でもかなり可愛く感じてしまう。スタイルはYシャツ一枚しか着ていないからかかなりよくわかる。すらりとした手足に、服を押し上げる大きな胸。こちらもまるで男の理想を詰め込んだみたいだ。なんとなく『人間じゃない』みたいに思ってしまうぐらいには。
だが、同時に不思議な感覚を覚えたのだ。初めて見た顔のはずなのに、まるでよく会っているかのような既視感。そのせいか、無意識に指が動いていた。
「なに、女装アプリかなにか?」
送信してから、自分は何を書いているんだと思った。これは明らかにアプリで加工した物には見えないというのに。
『加工してねえよ。リアルでこの姿になっちゃったんだよ!』
『やっと指がまともに動くようになった。どうだ。これが私の考える理想の美少女だ』
「はあ……?」
本格的に二人が何を言っているのかわからなかったが、何故か嘘を言っているようには思えなかった。
「なに、漫画みたいにTSしたと?」
『俺だってわかんねえよ!何がどうなってこうなったんだよ!つうか母さんまで姿が変わっちまうし誰か説明してくれよ!』
『私の場合はTSとは違うな。イメージした姿になれたってだけで』
ますますわからない。だが、昭は混乱しているのに対し雄太は比較的落ち着いているのだろうか。こっちはこっちで微妙に口調が安定していない。そもそもこいつの一人称は『私』ではなかったし。
「手足にしびれとか、眩暈とかは?頭痛がしたり平衡感覚に乱れは?」
とりあえず素人考えだが、これらに該当したら即病院に行くべきだと考えて聞いてみた。……いや、よく考えたら肉体がこんだけ変わった段階で医者にかかるべきでは?
『そんなことより俺のリトルがぁ!まだ未使用なんだぞ!?お前みたいに一生実践を経験しないだろう無用の長物とは違うんだよ!』
『今の所そういうのはないでござるな。で、あるが。念のため病院に行くのが吉かもしれんでござるか』
「とりあえず昭は小指を一生箪笥の角にぶつけてろ。あと雄太はお前本当に大丈夫か?」
ついに『ござる』とか言い出したぞ。もしかして思ったより混乱しているのか?いや、まあ混乱してもしょうがない状況だが。
「とりあえず、家族と相談したうえで病院に行け。僕じゃよくわからん」
『承知でござる。母上と父上に報告してから医者に頼るでござるよ』
『うう……金髪巨乳美女で童貞卒業する予定だったのに』
「お前じゃどのみち無理だからとりあえず現状を受け入れろ」
『がんばる……』
どうやら二人とも病院に行く流れになったらしい。ソファーに体を預けながら、ため息をつく。
ステータスだの魔法だの言っていられる状況ではなくなってしまった。まだ頭が混乱している。普段なら面白い冗談だとしか思わないのだが、どうにも冗談の類には思えなかった。では二人の言っている事が真実だとして、自分はどうすべきなのか。
医者でもなければ科学者でもない。そもそも頭がいいわけでもない。スキルやらなんやらあるようだが、それが本当に使えるのかもよくわからない。
「はあ……」
天井を眺めて、もう一度ため息をついた。
読んでいただきありがとうございます。
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