泣き出す学生、沈黙するSNS…トランプ再登場で揺れるアメリカ。日本人留学生が感じた温度差

ハーバード大学の卒業式では「留学生がいなければ、ハーバード大学ではない」というステッカーを身に着けている人もいた。2025年5月29日撮影。
ハーバード大学の卒業式では「留学生がいなければ、ハーバード大学ではない」というステッカーを身に着けている人もいた。2025年5月29日撮影。1月のトランプ政権発足以来、アメリカでは留学生や移民に対する風当たりが強くなっている。
REUTERS/Brian Snyder
Advertisement

アメリカでは、1月のトランプ政権発足以来、外国人や移民に対する風当たりが強くなっている。中でもとりわけ議論になったのが、政府によるハーバード大学に対する留学生受け入れ資格停止や留学生のビザ停止などの決定だ。都内の私立大学で国際政治を専攻し、留学経験もあった私にとっても、トランプ政権による留学生への圧力は衝撃的だった。

日本でも、7月20日に実施された参院選では外国人政策が焦点の一つに。「外国人留学生優遇」との批判も挙がっていた。

選挙結果に対して、「極右政党が台頭」と日本の右傾化を報じる海外メディアもある中、先んじて右傾化が進んできたアメリカでは現地で何が起こっていたのか。当時の混乱を現地留学で目撃した学生たちの声を聞いた。

結果を受けて泣き出す人も…政治への関心の高さを痛感

2024年11月5日に投票が行われた米大統領選で、トランプ氏がハリス氏を破った。
2024年11月5日に投票が行われた米大統領選で、トランプ氏がハリス氏を破った。
Reuters

都内の国立大学に通うユウジさん(仮名)は、2024年8月から2025年4月までの約8カ月間、交換留学でボストンにある私立大学に通っていた。米大統領選前後の時期を現地で過ごす中で、現地の大学生たちの政治への関心の高さを痛感したという。

Advertisement

「選挙前には授業中に教授が投票するために必要な有権者登録※を学生に促したり、大学の構内で開票速報を見るパーティが催されていたりしました。

アメリカの大統領選は日本や東アジアに大きな影響を及ぼします。私自身は、新しいアメリカの大統領が、そのような地域に対してどのような政策を打ち出していくのかに特に興味をもって、選挙期間から経過を追うようにしていました」

※アメリカでは、投票権を得るために有権者登録をしなければならない。

ユウジさんが留学していた私立大学はリベラルな大学として知られていたこともあり、周囲の学生の多くはカマラ・ハリス氏を擁立した民主党支持者だった。

2024年11月、トランプ氏の勝利が決まると、学内では学生、教員共に大きく落胆する空気感が広がっていたという。ただ、選挙結果に対する受け止め方は、ルーツによってさまざまだった。

「(選挙結果が出た直後の)アジア系アメリカ人が多く受講している講義では、意気消沈したり、泣き出してしまう学生もいました。トランプ政権の圧力のターゲットとなっているマイノリティに対しては重い結果だったと感じました。」(ユウジさん)

一方、アメリカにルーツを持つ現地の学生たちの間では、中絶などをはじめとする女性に対する権利やガザ紛争に関する政策の観点から、選挙後にもトランプ政権に強い懸念や反対の声をあげる人もいたという。

影響は大学にも及んだ。

ユウジさんの通っていた大学では、いつの間にかDE&Iを推進するオフィスの名称がより“間接的”なものに変更された。

大学生が輪を作っている。
留学生の間でも、出身やルーツの違いで危機感に差があった。(写真はイメージです。)
Shutterstock

選挙後、日本人留学生に対する風当たりに変化はなかったのか。ユウジさんと同時期にメリーランド州の私立大学に約1年間の交換留学をしていたカナコさん(仮名:東京の有名私立大学在学中)は、

「私自身は政権交代で影響を受けた実感はありませんでした。ただ、(別の国からきた留学生の)友達の中には今後の生活に不安を感じる人も少なくなかったと思います」

と話す。

カナコさんが留学していた大学は、留学生が多く、中にはトランプ政権が作成した「入国制限の対象国リスト」に含まれている国出身の学生も多数いた。トランプ大統領就任以来、ハーバード大学などに対する締め付けが注目される中、学生の間では、「ハーバード大学の次は自分たちの大学も圧力の標的になるのではないか」と、不安の声があがっていたという。

大学側も、ビザの更新に不安があり、アメリカ国外に出られない学生などに対して、夏期休暇中の寮費を免除するなど、対応を取っていたという。

ただ、「日本人」留学生が置かれている環境は、こういった不安と混乱から少し距離があったようだ。前述したユウジさん、カナコさん共にアメリカに滞在する間、自身の身に危険を感じたり、先の生活に不安を感じたりしたことはなかったと話す。

比較的リベラルな大学で過ごしていた日本人留学生にとって、アジア人差別などを身近に感じる機会はそこまで多くなかった。むしろ、トランプ政権から入国制限を課せられた国々の出身者の焦りや困惑を見聞きする中で、日本は意味正反対の「同盟国」であるということを、改めて認識する機会になったと言えるのかもしれない。

「いつ私たちに矛先が向いてもおかしくない」

ハーバード大学の卒業式では留学生支援を訴える声もあがっていた。2025年5月29日撮影
ハーバード大学の卒業式では留学生支援を訴える声もあがっていた。2025年5月29日撮影
REUTERS/Brian Snyder

日本人留学生と対象的なのが、中国やインド、中東などにルーツを持つ留学生の状況だ。

中国出身でアメリカの有名私立大学に留学するリンさん(仮名)は、Business Insider Japanの取材に対して「パレスチナ問題について 『話さない』『SNSに投稿しない』のは当たり前」と冷静に状況を語る。

アメリカでは、トランプ政権誕生後、パレスチナ問題に関する政府の姿勢に対して反発や抗議する大学生などが当局に拘束されたり、ビザを取り消されたりする事例が相次いだ。

リンさんの大学では、当局の取締りが厳しくなっている現状を受け、教員から学生に対してSNSへの投稿に関する注意喚起があったほどだ。パレスチナ問題について言及しないことは、もはや常識化しているという。

実際、リンさんの大学では、パレスチナ人の権利を支持する趣旨の発言や家族とガザとのつながりを理由に、教員が当局に拘束された事件があったという。「アメリカは学術の自由が最も守られている国だと信じていただけに、そのショックは大きかった」とリンさんは語る。

ハーバード大学は、トランプ政権に対して取り消された約25億ドルの補助金を元に戻すよう裁判を起こしている。写真は審問中に集まったハーバード大学の支援者たち。2025年7月21日撮影
ハーバード大学は、トランプ政権に対して取り消された約25億ドルの補助金を元に戻すよう裁判を起こしている。写真は審問中に集まったハーバード大学の支援者たち。2025年7月21日撮影
REUTERS/Brian Snyder

リンさんの周囲にいる中国にルーツを持つ人たちのコミュニティでは、「その矛先がいつ自分たちに向いてもおかしくはない」ということが共通認識になっているという。

とはいえ一般的に、トランプ大統領が極端な政策を打ち出しても、実際の生活に影響が及ぶまで(つまりその政策が施行されるまで)には多少の時差があるものだ。リンさんもこの点を理解した上で、報道されるニュースを心配し過ぎないように日常生活を送っているという。

一方で、アメリカでの将来のキャリアについては不透明感が増している。リンさんは、専攻している分野に関連して、アメリカの政府系のインターンや就職先を探していたが、イーロン・マスク氏が率いていた政府効率化省(Department of Government Efficiency 通称:DOGE)による教育・医療の省庁縮小や補助金の削減を受けて、政府関連の組織へのインターンの機会が大幅に減っているという。アメリカ人でさえ職を得ることが難しくなってきたなかで、中国系の留学生が限られた採用枠を獲得することは簡単ではないと感じている。

「出身国とアメリカの関係性によって、個人の生活やキャリアが影響を受ける留学生は多くいる。大学卒業後の進路を変更する人やアメリカに留まることを諦める人も出てくると思います」(リンさん)

※商品を購入すると、売上の一部が販売プラットフォームよりメディアジーンに還元されることがあります。掲載されている情報は執筆時点の情報、または自動で更新されています。


Advertisement
X

あわせて読みたい

Special Feature

BRAND STUDIO