第80話
家の周りは小さな広場になっていて、白骨化した遺体は家の前でうつ伏せの状態で転がっていた。
着ている服は腐食したのかボロボロでわかり難いが、背中の一部分が不自然な破れ方をしている。それは剣やナイフで刺された跡のようにも見える。
そう考えると誰かに殺された可能性が高いな。
この遺骨が家の主のものだとすると、こんな所に隠れ住んでたことを考えるとなにか訳アリなのだろう。殺されたのはそれ絡みか……弱いとはいえこの場所に幻惑魔法が掛かっている。ただの野盗が”偶然”この場所を見つけて襲ったとは思えないが……情報が足りん。遺体の方は後回しにして先に家の方を調べるか。
一応警戒しながらドアノブに手を掛ける。扉は完全には閉じておらず、ギィ…と音を鳴らしながらゆっくりと開いた。
家の中には当然誰も居らず、荒らされた跡がある。戸棚やドアは全て開けられ、床には本や小物等が散らかっていた。
やはり野盗の類いだろうか? 俺はそう思いながら家へと入る。落ちている物を避けながら歩く度に埃が舞い、床が軋む。
先ずは一通り家の中を見て回る。
テーブルの上には大きさの違う皿が二枚と、木製のフォークが二つ。小さい皿は…もしかして子供用だろうか?
ベッドのある部屋には子供の玩具が入った箱、床に散らばっている本の中には絵本もあった。
外の遺体は大きさからして間違いなく大人のものだ。ならこの家にはもう一人子供が住んでいたはず、一体どこに?
できれば無事であってほしいが……あの遺体の状況から亡くなってから数ヶ月は経っている。その間、この森の中で子供が一人で生きていけるとは思えない。
だが家の外にも中にもそれらしい遺体は見当たらない。
「……ん?」
なにかこの家の住人についての情報はないだろうかと辺りを見渡すと、床に散らばった一冊の本に視線が引き寄せられた。
タイトルの無い青い表紙の本。それを手に取ってページをめくる。
「…………」
一通り読み終えた俺は本をそっと閉じてテーブルの上へ置いた。
正直……なんといえばよいか。
結論から言うと情報はあった。その本はこの家の住人の……おそらくだが外にあった遺体が生前につけていたであろう日記だった。
その日記にはとある親子の生活の様子が記されていた。
父親の名はダルテ。
母親の名はシーラ。
娘の名は……―ニナ、という。
最初はただの偶然だと思った。
だが、娘のニナはまだ少し舌足らずずで、この日記をつけていたダルテのことを”おとーしゃん”と呼んでいたそうだ。
髪の色や仕草なんかの特徴も一致している。
つまり、あの遺体はニナの……。
一体どのような経緯でダルテ達がこの場所に隠れ住むことになったまではわからなかったが…この親子は”女神教”から追われていたらしい。
情報屋が気を付けろといっていたあの”女神教”。
女神の恩寵であるスキルや
だが
その裏ではスキルは人の何処に宿るのかを調べる為に、様々な非人道的実験を行うイカれた連中だったらしい。
人為的にスキルを持った子供を作る為に、色々な境遇の人間を無理矢理集めては口にするのもおぞましい実験もしていたとか。
…それが一体どのような内容だったかまでは書かれてはいなかったが。
どうやってダルテとシーラがその”女神教”から逃げてこれたのかは詳しくは記されてはいなかった。
生活に必要なものはダルテが身分を隠して近くの町で買っていたらしい。金はダルテが魔法を使えた為に稼ぐのは難しくはなかったようだ。
元々シーラは妊娠していたらしく、この場所で生活し始めて間もなくニナを産んだ。だがそれから間もなくシーラは病気で亡くなり、家の直ぐ横に埋葬したそうだ。
…さっきは遺体に気を取られて気が付かなかったが、確かに窓の外にお墓らしきものがあった。
シーラが亡くなって直ぐの頃はかなり落ち込んでいたようだが……産まれたばかりのニナとの生活は悲しむ余裕もないほど大変だったようだ。
だがそれ以上に幸せだった。
日記の内容からそのことが伝わってきた。
……この小さな家には沢山の愛があった。
埃だらけのベッド
『シーラが亡くなった時はとても辛かった……だが、悲しんでばかりもいられない。私には彼女が残してくれた大切な
色褪せてしまった玩具箱
『ああ……また散らかしっぱなしにして。ちゃんと片付けないともう玩具を買ってこないよ?』
『やーっ!』
柱につけられた傷
『ほら、そこに立って……おお! ニナ、前に比べてこんなに背が伸びてるぞ!』
『になしゅごい?』
『うん。ニナは凄い! お父さんが言うんだから間違いない』
『えへーっ』
並べられた食器
『になもおてつだいー』
『でもお皿落としちゃったら危ないよ?』
『だいじょぶ!』
『うーん……そうだ。じゃあフォークを並べてくれる?』
『はーいっ』
母の墓
『ぅー……おとーしゃん』
『どうしたの?』
『おかーしゃんまだねんね? になおかーしゃんにあいたい』
『……ごめんね。シーラは疲れてるんだ……だからもう少しだけ寝かせてあげよう?』
『ぅー……』
小さなテーブル
『ふう…やっと出来た。なんとか明日の誕生日には間に合ったな。この人形、ニナは喜んでくれるかな? いつも一人で寂しい思いをさせちゃってるからなぁ……本当なら沢山友達を作って遊んで欲しいんだけど……』
『ニナ。誕生日おめでとう、私達の大切な娘。ほら、誕生日プレゼントだよ』
どこをとっても
父と娘の思い出が溢れていた。
そして日記の最後にはこう記されていた。
『ずっと、ずっと……これから先も、あの子の成長を見守っていきたい』
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