皆が寝静まったオクヘイマにて、一人の少女がオクヘイマから旅立とうとしていた。
そんな少女の背後から、全てわかっていたように一人の女が話しかけた。
「どこへ行くのです?キャス?」
「エイジリアへ」
「何のために?」
「彼を探す為に」
キャストリスがそう答えた途端、アグライアは自らの金糸を彼女に巻きつけた。
「……邪魔をしないでください」
「あなたをエイジリアへ向かわせるわけにはいきません」
「……でも──」
「あなたの話が正しいのならば、その男はすでにエイジリアから去っていた筈です。それが今日までここへ辿り着かないのなら、その男は既に死──」
「──黙って!」
キャストリスの冷静さを欠いた声に、アグライアはたじろいだ。
冷静さを欠いたまま、キャストリスは言葉を続ける。
「彼は初めて私と握手をした人、初めて私の頬に触れた人。そんなひとが、そう簡単に死ぬわけがありません!きっと、どこかで道に迷っているんです。彼は記憶がないのですから、私が迎えに行かないと─────」
「キャスちゃん」
金糸を引きちぎろうするような勢いで抵抗する彼女をアグライアのさらに背後から響いた声が止める。
声の主人はトリビーだった。
「そんなにその人が心配ならあたちたちが探してくるから、キャスちゃんは無理しないで、ね?」
「無理なんてしていません。私は彼を──」
「だって、キャスちゃんは『先に行ってる』って約束ちたって聞いたよ?ここでキャストちゃんがエイジリアに戻ったら、行き違いになっちゃうかも、それでいいの?」
はじめて揺らぎを見せたキャストリス、トリビーはそれを見逃さず交渉を始める。
「キャスちゃん、あたちたちに三ヶ月ちょうだい」
「三ヶ月……?」
「今日から三ヶ月、あたちたちがその人を探すから、キャスちゃんはここで待ってて。いいよね、ライアちゃん?」
「えぇ、それで気が済むのなら」
「……どうか、お願いします」
キャストリスの言葉は重々しい悲しみを含んでいた。
そして一ヶ月と半月の後、キャストリスは英雄のピュエロスにてトリビーたちを待ち続けていた。
その裏で、猫耳の少女が一人の男を見つけた。
「ゼノスってこはアンタだね?……裁縫女が探せって言う程だから、よっぽど厄介な相手なんだと思ったんだけど、思ったより弱そうだし死にそうなくらいボロボロ……って、本当に死にかけてない?」
「─────誰が死にかけだ、詭術の女」
「あれ?知ってるんだ、記憶喪失なのに」
「……オクヘイマへの道中、お前の噂を幾つか聞いた。残念だが、俺の手持ちはこの大剣一本だ」
「ちぇ、なら良いや。裁縫女はこの先、アンタに話があるみたいだから会いに行きなよ」
次の瞬間、少女は突風と共に姿を消した。
すると、先ほどまで少女がいた位置の向こう側に、金糸の如き金髪の女が男を見据えていた。