「よう」
「…こんばんは」
満月の夜、キャストリスの元に訪れたゼノス。
彼がキャストリスの隣に座ると、二人の間に暫くの沈黙が流れた。
「エイジリアを離れるって?」
「……えぇ」
「そうか。──怪我には気をつけろよ。お前は優しいやつだから、詐欺なんかも──」
「あ、あの!」
彼の声を遮ったキャストリスは、少し頬を赤らめて咳払いをした。
「……私と一緒に、旅をしてくれませんか?私と共に、エイジリアを出て──」
「俺は、このエイジリアに借りがある」
「そう、ですか……」
ゼノスは俯いたキャストリスの頭に優しく手を乗せた。
そして、安心させようとするような声色で
「……心配するな、半年もせずに精算する。そうしたら、お前の後を追うつもりだ。だから、先に行って俺が辿れるように道を作っておいてくれ」
「……わかりました。信じていますからね」
──────────
その言葉を信じて、キャストリスは旅立った。
行く先々で、異人の名を名乗る男に私の行く先を伝えるようにと頼み、そうしてタナトスに謁見するための旅は長く続いた。
そうして、長い長い旅を続けた果てにキャストリスはオクヘイマへと辿り着いた。
「エイジリアに、残してきた人がいるのです。彼は必ず私に追いつくと」
彼女はアグライアにそう話した。
「なぜ、その男を待つのですか?」
「あの人は、私が温かな抱擁を交わせるたった一人の人ですから」
アグライアは目を見開いた。
そんな人間がいるのか?果たしてそれは本当に人間なのか?
アグライアの脳内を様々な疑問が埋め尽くした。
そんなアグライアの様子を見て
「……私も、出会ったばかりの頃は驚きました。でも、本当のことなんです。彼は過去の記憶がないそうで……きっと、その無くした過去に理由があるんだと思います」
キャストリスはアグライアに覚えている限りの思い出を話した。
初めて会った日のこと、手を繋いだこと、隣で眠ったこと。
矢継ぎ早に思い出を語るキャストラスに、アグライアは
「……その男が善良な人物であることはわかりました。そう焦らずとも、私は何もしませんよ。我が師に、彼の特徴や背格好を話してみてはいかがですか?もし見かけたのなら、オクヘイマへ案内してくれるはずですよ」
と、彼女に提案をした。
それに頷いたキャストリスがトリビーを探しに行こうとしたその時、一人の兵士がアグライアの元に走って来る。
「アグライア様!ご歓談中申し訳ありません、緊急です!」
「……何があったのです?」
「エイジリアが……、暗黒の潮の前によって陥落したと──!」