宇宙ステーション「ヘルタ」が反物質レギオンの災害を退け、復興の作業もひと段落した頃。
ボイスチャットの相手から聞いた想像を絶する一言に、俺は脳内で両親へ仕送り中止の手紙を書く準備を始めていた。
前略、お父さん、お母さん。
僕は宇宙ステーション「ヘルタ」をクビになるかもしれません。
書き出しはこれに決めた。
なんでこんなものを書かなければならないのか、話は数ヶ月前に遡る。
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俺はレイン、ごくごく普通の宇宙ステーション「ヘルタ」の職員だ。
今日も今日とて、宇宙ステーションの職員として復興作業に従事した俺はいつも通り定時に帰り、日々の癒しであるゲームを始めた。
リリースしたての新作のオンラインゲームだ。
ゲームはかなり昔からやりこんでいることもあり、ほとんどのジャンルを少なくとも中級者以上の腕前でプレイできるのは、俺の密かな自慢だった。
特に今プレイしているゲームはシリーズ前作をやり込んでいたこともあり、そう簡単には追いつかれないほどの腕前があると自負している。
そうしてオンラインのマッチを十数回繰り返した頃、一つ前のマッチで味方だったプレイヤーからフレンド申請が届いた。
それを承認すると
『その武器見たことないんだけど、数値はどれくらい?』
『装飾品は何を使ってる?』
など、矢継ぎ早に十数個ほどの質問が飛んできた。
一つ一つ文字チャットで返すのが面倒だった俺は、いっそのことボイスチャットをしないかと誘った。
すると相手は返信すらせずに一瞬でボイスチャットを繋いだ。
かなり玄人向けの質問もしてくるので相手も俺と同じようなくたびれた男だろうと思っていたが、ボイスチャットから聞こえてきたのは
「…もしもし、聞こえてる?」
若い女性の声だった。
「なに?男だと思ってた?」
「…あっ、えっと、ま、まぁそう思ってたよ。あんな質問飛ばしてくるもんだから」
「あはは、残念。女の子でした〜」
あんまりにテンパったせいでこの時の記憶は曖昧だが、結果として俺と彼女は頻繁に連絡を取り合いながら様々なゲームをプレイする仲になった。
俺は宇宙ステーションでの疲れを彼女との会話で癒していたし、彼女も楽しそうに相手をしてくれるものだから、俺は少し舞い上がっていた。
それこそ日々の仕事よりもその後の彼女との会話を楽しみにするレベルで、きっと俺は彼女を親友だと思っていた。
そうして彼女との交流が数ヶ月続いて今日、彼女とのゲーム中のこと
「……で、私の同僚があんまりにも時間をかけるからもう少しでミスしそうに───」
「……なぁ」
「なに?」
「いつも同僚の話が出てくるけど、働いてるのか?詮索しちゃ悪いかもしれないけど、働くような歳じゃないだろ」
「そんな若いと思ってるんだ?まぁそうだよ。それでも働いてるの……何してるか聞きたい?」
「差し支えなければ」
そうして、彼女の口から耳を疑う言葉が飛び出すことになる。
「星核ハンターだよ」
「………………え?」
「っぷ、気づいてなかったの?」
ボイスチャットの向こうから笑いを堪えたような声が聞こえる。
「私のユーザー名、よく見てみて」
「Silver wolf……銀狼!?」
「そう!当たり〜」
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そして現在、全身から血の気が引いていくのを感じていた。
この場所の管理人であるヘルタと銀狼の間にいざこざがあったことは風の噂に聞き及んでいる。
さらに、それは銀狼の敗北で終わったと聞いた。
俺がステーションの職員であるとバレたらどうなってしまうのだろう。
俺はどうしたらこの危機を逃れることができるのかと思案する。
「……どうしたの?怖気付いた?」
この状況を前に俺が思いついた唯一の活路は、そう……
「お願いします……ハッキングはやめてください」
懇願だった。
仕方ないじゃないか、相手は賞金がつくレベルのスーパーハッカーだ。
そっちは専門じゃない俺に相手が務まるわけがない。
すると
「…えぇ?するわけないでしょ、ただの友達だし、やっても良いことないし」
「ほ、ほんとに?」
「うん、別にしない……あ」
彼女は唐突に何かを思いついたような声を発した。
「ハッキングされたくなければ、私とフレンドを切らず、明日以降もこの時間にログインすること。いい?」
「あ、あぁ」
「じゃあ、明日からもよろしく〜」
そう言って彼女は通話を切った。
残された俺は、これからのことに想いを馳せてため息を吐くのだった。