広島出身の映画監督 西川美和さん 戦争テーマの撮影現場に密着

「ゆれる」や「すばらしき世界」などで知られる広島県出身の映画監督、西川美和さんが戦後80年となることし、自身にとって初めてとなる戦争をテーマにした映画の製作を進めています。

なぜいま、この作品を撮るのか。

撮影現場での密着取材から見えてきたのは、戦争を経験した国に生まれた作り手としての決意でした。

ことし4月からおよそ3か月にわたって新作の撮影にあたった西川美和監督。

今回、その現場に特別にNHKの取材が入ることができました。

作品のタイトルはまだ発表されていませんが、終戦直後の東京を舞台に、戦争で親を失った“戦争孤児”たちを取り上げた作品です。

自分を守るため性別を偽る少女や、靴を磨いて日銭を稼ぐ少年たちなど、戦争がもたらした理不尽な状況の中でも、子どもたちがたくましく生き抜いていく姿を描いています。

戦争孤児を描くことについて西川監督は、「もともとは普通の家庭に育った子どもたちがある日、親の愛情や教育、文化を無理やり取り上げられた状態で生きていくしかなくなる。そんな絶望的なところから、なんとしても生きようという強さを描きたいなと思いました」と話していました。

西川美和監督は2002年に映画監督としてデビュー。

2006年に公開された「ゆれる」がカンヌ映画祭の監督週間で上映されるなど、国内外から高い評価を得てきましたが、戦争をテーマにした映画を撮るのは初めてのことです。

今回の映画では空襲や戦闘などの直接的な表現ではなく、“子どもたちの目線で見た戦争”という形にこだわりました。

広島県出身の西川監督は、幼いころから繰り返し戦争体験を聞いてきて、それが大切なことだと感じる一方、どこか重苦しく、目を背けたくなる気持ちがその表現方法の背景にあるといいます。

西川監督は「親から戦争の話を聞くと、辟易として、嫌だなと思っていました。一方で、今回の映画のキャストの子どもたちなんかも、本当に知らないんだなと話を聞いていて思います。だから、どんな表現があれば今後伝わっていくのか、その取っかかりのようなものでもいいから作ってみたいと思いました」と話します。

しかし、自身も戦争を体験していない中で、どこまで当時の状況をリアルに表現できるのか、という難しさもありました。

たとえば、腹を空かせた孤児たちが食事をするシーンの撮影では、キャストの子どもたちが行儀よく一口ずつご飯を食べ始めたのを見て、「もうちょっとどんぶりに口をつけてかき込むように」などと演技の指導をしました。

西川監督は「私自身が飢えた経験がないのに飢えた子どもたちの身体性をどう彼らに説明できるのかという。体験した世代、体験した人から聞かされた世代、体験してもいないし、聞かされてもいない世代というようになっている。聞かされてきた世代の私たちが我がことのように語り継ぐのは難しいのですが自分なりの角度から探して描いていく仕事だと思います」と話していました。

そして、製作にかける思いについて「大きな戦争を経験した国に生まれた作り手としてどんどん遠ざかっていく戦争が一体なんだったのか、どうして起きたのか、なぜ人は巻き込まれていくのかを、体験した国にあとから生まれたものが繰り返し検証するのは価値ある作業だと思います」と話していました。

映画の撮影は終わりましたが、公開時期は未定だということです。

(科学・文化部記者 小田和正)
(8月13日「おはよう日本」で放送)

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