この記事の続きを読むためには琉球新報デジタルを購読してください。
この記事の続きを読むためには琉球新報デジタルを購読してください。
続く学知の植民地主義 旧帝大による琉球人遺骨盗掘問題〈1〉
今年5月、京大から今帰仁村教育委員会に対し、遺骨を墓に戻さないことを条件にして29体の琉球人遺骨が移管された。移管された遺骨は私たちが裁判で返還を求めた遺骨であり、今回の移管は大阪高裁判決を受けてのことであると言える。ニライ・カナイぬ会は、今帰仁村歴史文化センターにおいて慰霊祭を挙行し、遺骨返還に向けた対話を館長との間で行った。
他方、豪州先住民族の遺骨は無条件で返還された。今年6月、東大は7体、国立科学博物館は1体、京大は2体の遺骨を豪州の先住民族コミュニティーに返還した。また今年7月、北海道の民族共生象徴空間(ウポポイ)の慰霊施設に安置されていたアイヌ民族の遺骨19体、副葬品が小樽のアイヌ民族等の団体「インカルシペの会」に返還された。返還式典では東大として初めて謝罪が行われた。
京大は遺骨返還訴訟において遺骨の保管権原を示すことができなかったのであり、村教委に対して「再風葬」を禁じることはできない。大阪高裁判決は京大に対して原告と対話するよう求めたが、移管に関する協議の場から原告を排除した。遺族、原告を排除した「移管協議書」は無効であり、我々を含めた三者間の協議を行うべきである。
盗掘される前は遺骨であったが、京大に96年間保管されたら「学術資料」になるのだろうか。遺骨はあくまで遺骨である。京大は、先祖の遺骨をモノとして扱っており、これは現在の琉球人に対する差別を反映している。
そもそも琉球人遺骨は京大研究者が盗掘したものであり、京都大学や今帰仁村教育委員会は保管権限をもっておらず、元の墓に戻さなければならない。彼らは遺骨が元の墓に返還される時まで敬意を払って遺骨を保管する社会的責任がある。世界最大の人類学の学会である、アメリカ人類学会が2024年に公表した研究倫理に関する報告書には次のような記載がある。「先祖の遺骨に関するあらゆる研究、教育、保護、展示は、遺骨の利害関係者による詳細なインフォームドコンセントに基づいてのみ実施される必要がある。もしインフォームドコンセントが得られなかったら、先祖の遺骨やヒト組織に関する研究、展示は実施されるべきではない。(中略)科学的知識や研究は倫理的取り扱いよりも優先されるべきではない」「アメリカ人類学会は、研究の実施、論文の出版に関して子孫コミュニティーから詳細なインフォームドコンセントと許可が得られたという確証を、全てのジャーナル投稿者に求めるべきである」。
移管された遺骨はインフォームドコンセント(十分な説明と同意)を遺族から得たものではない。研究倫理に基づかない研究はジャーナル(学術雑誌)に掲載できない。京大研究者が琉球人遺骨を研究した場合に予想される国内外から批判を回避するために村教委に遺骨を移管したのであろう。村教委は琉球の慣習を否定し、国内外から非難されてまで遺骨を研究したいのだろうか。一日も早く、元の墓に戻し、子孫の供養を受けるべきだと考える。
(松島泰勝、龍谷大学教授)
研究目的で持ち出された琉球人遺骨を東京大学も保管しているとして「ニライ・カナイぬ会」などが返還を求めている。京都大、台湾大は保管していた遺骨を今年5月までに沖縄側に移管した。背景に琉球遺骨返還請求訴訟で「遺骨はふるさとに返すべきだ」と付言した2023年の大阪高裁判決がある。遺骨返還を巡る国内外の状況について、松島泰勝龍谷大教授に寄稿してもらった。
1963年石垣島生まれ。龍谷大学経済学部教授、ニライ・カナイぬ会共同代表。博士(経済学)。専門は島嶼独立論、琉球先住民族論。著書は『学知の帝国主義』『琉球 奪われた骨』『琉球独立への道』『琉球独立宣言』など。
この記事の続きを読むためには琉球新報デジタルを購読してください。