嘘の夢の話 8月21日
旅館の窓から海を眺めている。時刻は朝早く、昇ったばかりの太陽の光で海面は光り輝き美しい。遠くに目をやると、水平線の方から巨大なドーム状の何かがこちらに向かってゆっくり進んでくるのが見える。海坊主だ、と私は思う。小さい頃読んだ水木しげるの妖怪図鑑で見たことがあるのだ。だがそれが近づくに従ってどうやら違うものであることがわかってくる。本で見た海坊主は黒くぬらぬらしていたが、今目の前の海にいるそれは表面がガラス張りで、その内側では無数の歯車や円盤が複雑に噛み合ってゆっくりと回転している。妖怪というより、宇宙船の類といった感じがする。
それに見惚れていると、急に背後の引き戸が開き、女将が入ってくる。女将は「赤ちゃんが泣くもんですから」と言い、私の許可も取らずに部屋の布団を全て持って行ってしまう。再び窓の外に視線を落とすと、この一瞬の間にあの船のようなものは跡形もなく消えており、先ほどまで晴れていたはずの空には厚い雲が垂れ込めていた。
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