嘘の夢の話 8月22日
病院のベッドに横たわっている。自分から見て右側に部屋の入り口があり、反対側にある窓からは月明かりと外の通りを行く車のライトがちらちらと差し込んでくる。私はただベッドに仰向けになって、インクが飛び散ったような模様の天井をぼんやりと眺めている。
そうしていると、廊下から台車を押すような音が聞こえてくる。私は瞬時にそれが何か不吉なものであると悟り、早くどこかに行ってくれと祈る。だがその音はどんどん大きくなり、ついには私の部屋の前で止まる。そして部屋の扉がゆっくりと開かれる。扉の前にはカーテンが引かれているのでその人物の姿は見えないが、カーテンの下の隙間から安全靴のようなごつい靴を履いた爪先が覗いている。その人物はなぜか部屋には入ってこず、カーテンの向こうでただ直立している。
やがて、苦しむような激しい息づかいが聞こえてくる。見ると、部屋の前にいる人物はカーテンに顔をぴったり当てて呼吸をしており、こちら側に顔の輪郭がくっきりと浮かび上がっている。口の部分の布は呼吸に合わせ膨らんだり吸い込まれりしている。その顔面の数はどんどん増えていき、しまいにはカーテンの全面に無数の顔が浮かび上がり、まるでそれ自体が呼吸をしているかのようにカーテンは膨張と収縮を繰り返す。
突然、全ての恐怖心が消え、私は部屋の入口へと歩いて行く。カーテンを開けると、そこには誰もおらず、台車らしいものも見当たらない。ただ左右に長い廊下が伸びているだけである。私は部屋の鍵を閉め、ベッドに戻り横になる。すると夢の中なのにすごい眠気に襲われ、意識は一気に混濁していく。眠りに落ちる直前、再びあの台車を押す音が聞こえた気がしたが、もう怖いとは思わなかった。
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