異物混入アカデミア!   作:伊良部ビガロ

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第16話 期末試験 その2

「――八百万。緊張してんのか?」

「あっ、いえ……」

「ヤオモモちゃんリラックスが大切やで。ヒーローがピリついとったらアカンよ」

「そう、ですわね」

 

 住宅街を模したステージに立つのは轟焦凍、八百万百、海原大海の三人。

 普段通りクールな轟と普段通り飄々とした海原とは対照的に、八百万の顔色は優れない。

 担任にしてプロヒーローの相澤が相手ならば無理もないかと轟は納得した。

 

「俺に考えがある」

「お、いい流石轟クン」

「あっ……」

 

 ちょうど開始のサイレンが住宅街ステージに鳴り響いた。

 

『海原・轟・八百万チーム、演習試験レディ・ゴー!』

 

 開始と共に三人は走り出し、住宅街の路地を縫うように進みながら脱出地点のゴールへ向かう。走りながら轟が説明する。

 

「八百万、なんでもいいから個性で小物を創り続けろ。海原も水を出していてくれ。それができなくなれば相澤先生が近くにいると思え」

「了解や。相澤先生が出てきたらボクと轟クンで引き付けてヤオモモチャンがゴールへ向かう形でええんか?」

「ああ。いくら抹消が使えてもタネが割れてる相手には常に通用しないだろ。互いに視界の外に外れるように動けば片方は常に個性を使える状態を維持できる」

「ええね、それでいこか。ボクは索敵もしとくわ」

 

 海原の手のひらに水面が広がる。

 

「水の個性で索敵、ですか……?」

「水を操る個性やからね。水がどこにあるかある程度の範囲なら感知できるんよ。相澤センセは……ここから北へ400mの地点やね。結構速いな」

「捕縛布使って来てんのかもな。できれば奇襲したいが……」

「相手は捕縛布で上空を移動しとるからなァ。ある程度接敵を意識したら相澤センセも派手に距離を詰めてはこんやろ。先に発見することを目標にしよか」

 

 轟と海原が話し合い、とんとん拍子で分析と方針が決まっていく。その光景を見て、八百万は面を伏せた。

 この作戦は負担が偏っていること、自分にも作戦があることを言い出そうか迷うが、結局口を閉じたまま頷いた。

 八百万にとって轟と海原は格上の存在だ。

 USJ襲撃事件や雄英体育祭での大立ち回り、さらについ先日の保須事件での活躍はプロヒーローと遜色ない実力を発揮している。

 轟もまた、体育祭では騎馬戦で巧みな作戦を練り、本戦でも活躍した。

 その二人が決めた作戦ならばそれがベストだと、半ば思考停止にも近い選択を採った。

 住宅地を走りながら八百万はふいに口を開く。

 

「流石ですわね、海原さんも、轟さんも」

「何がだ?」

「相澤先生への対策や作戦もそうですが、即座にベストを決断できる判断力です」

「普通だろ」

「ボクは従っただけやで」

 

 ふいに八百万の脚が止まる。

 

「普通、ですか」

「どしたん、足止めるメリットはあらへんやないの。相澤センセの気配が読めなくなってもうた……水道でも開けてるんかな。水をばらまきながら来とるから精度が悪なっとる」

「すみません海原さん――雄英の推薦入学者。スタートは同じでしたのに、ヒーローとしての実技において私は特筆すべき成績を残せていません。騎馬戦は轟さんの指示下にいただけ。本戦では常闇さんになすすべなく敗退でした」

 

 苦し気な独白に轟はなんて返すべきか、言葉を探して――ドサリ、と海原が顔から倒れ込んだ。

 

「は――?」

「え?」

 

 蹲るわけでもない、糸を切断された人形のように、地球の重力にすら対抗できずに海原は地面に倒れ伏した。

 一瞬遅れて、顔面を打ち付けたことで鼻血を出しながら、海原が叫んだ。

 

「轟、八百万! 相澤先生がもう来てる!」

 

 いつものはんなりとした京都弁が剥がれるほどの焦りを見せる海原の頭上を捕縛布が通過した。

 捕縛布を辿って視線を向けると電柱の上に立ち、海原の捕獲に失敗して顔をしかめる相澤がもう一度捕縛を図っていた。

 

「チッ、回避……なのか? だがお前たち判断が遅い!」

 

 相澤が轟に接近する。個性が使えない轟は近接戦闘に応戦するが、戦い慣れていない土俵では動きに制限がない相澤相手に時間を稼ぐこともできず、一蹴される。

 

「八百万、行け!」

「そういう作戦ね。だが好都合だ!」

「くそっ!」

「轟クン!」

 

 轟が捕縛布に囚われ、電柱を利用して吊るされる。

 視界が海原から外れた瞬間、すぐに立ち上がった海原は膨大な水流を放った。

 しかし相澤は読んでいたかのように間一髪で塀の上に上がると、屋根の上に回避し、そして再び海原へ抹消の個性を使用した。

 水を放つことができなくなり、攻撃・防御の手段は近接戦闘のみになる。

 そのはずが、海原は体を支えきれず再び倒れ伏した。手をついて受け身をとるのが精一杯、そして倒れたあとも意識を失ったわけでもないのに、そのあとのアクションが一切なかった。

 流石の相澤も困惑を隠せない。

 

「ぐっ!」

(まただ……抹消と同時に、転倒? いや崩れ落ちている……急に電源が切れたみたいに。抹消と何の関係が? だが――)

「ガチでやりあうなら不安があったが、トラブルなら好都合だ!」

 

 瞬く間に海原の全身を捕縛布が覆う。如何に個性が強力で、身体能力も優れていようと両手両足を縛られてしまえば、海原でも即座の脱出は困難だ。

 相澤は轟の横に海原をつるした。

 

「はい確保。お前らアレだな。最近流行ってるとかいう……ぶらさがりキーホルダーみたいだな」

「吊るしキーホルダーやね、どちらかというと」

「言ってる場合か! こんな拘束、燃やすか凍結で――」

「やめとけやめとけ。怪我したいなら気にしないが」

 

 ポーチに手を突っ込み、地面に何かを放り投げる相澤。

 海原と轟の足下に広がったのは、黒く鈍く光るまきびしだった。

 布を焼き切るか凍結で解いても足へのダメージは免れない。もちろん着地より先に個性発動を狙ってもいいが、轟は足を地面につけて凍結させる必要があり、海原は水流で押し流そうにも発動させてから押し流すまでのラグで傷つかない保証がなかった。

 足を怪我すればそれこそ脱出は不可能と判断した二人は吊るされたままになる。

 

「それにしても随分負担が偏った策だな。女の子を慮るのは立派だが、もう少し話し合ってもよかったんじゃないのか。

 それと海原。試験後少し話がある」

 

 相澤はそれだけ言うと走る八百万を追った。

 捕縛布を巧みに操り、足場や布を巻き付ける建物や立体構造物がある場所で高い機動力を誇る相澤から八百万が逃げ切るのは、移動に使う道具を創造でもしない限り至難の業だ。

 とはいえ、二人は八百万を信じるしかなかった。

 内心で、最悪どちらかが足に怪我を負ってでも助け出せばいいか、という判断があった。

 

「……もう少し話すべき、か」

 

 轟が呟く。

 そして隣の海原の表情を伺った。いつも飄々と笑みを浮かべる海原は見たことない苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

「うお……!?」

「人の顔見てその悲鳴はひどない?」

(わり)ぃ……変な顔だったから」

「謝罪になってへんよ」

 

 気を取り直して轟はこれまでの自分の行動を振り返った。八百万への指示、海原との話し合い。

 

(そういえば、八百万は何か言いたげだったな……それと海原……そうだ)

 

「なぁ海原。相澤先生に個性を抹消されたとき倒れたよな。あれ……この前言ってた怪我の影響か?」

「せやね。個性で動かしてるから、個性を抹消されて動けなくなったんやね」

「そうか……相澤先生は知ってんのか? 八百万は知らねえみたいだったが」

「……知らへんね」

「……さっき、八百万はなにか言おうとしてた」

 

 そのつぶやきに海原は体をよじって視線を向けた。

 轟はその仕草を振動で感じ取りながら、言葉を続ける。体育祭で色んなしがらみを取り払い、迷いを捨て、職場体験ではヴィランとの実戦を経験した。

 そして今、また新たな気づきを得た。

 

「……一人で強くなったつもりで、戦うのってダメなんだな、って、思った。八百万に『これでいいか』『他に案がないか』って聞くべきだった。

 自分が正しい、最適解だと迷わずに信じていた。その結果がこれだ」

 

 相澤に指摘された言葉があとからじんわりと染み込んでくる。意外とあの人は教師なんだな、と今更ながら轟は顔を上げた。

 

「……海原があんま言いたくないのはわかる。けど……一緒に戦うことになった八百万には言うべきだったんじゃねえのか。……知っていたのに忘れてた俺が言うのもなんだけど」

「せやね。ボクも……アカンかったなぁ……」

 

 空を見上げる海原。轟からはよく見えないが、聞こえる声音が普段の余裕を崩さない海原のものよりトーンが低いことに気づいた。

 ヴィランとの戦いで本来ならばヒーローとして再起不能になるどころか日常生活すらままならない体でありながら、類まれなる精密性を持つ個性でヒーローになる夢を諦めていないその姿には、色んな葛藤があるのだろう、と轟は目を伏せる。

 こうして試験でも自身の弱みを吐かなかったことが、どれほど重いものを背負っているのか、想像したから。

 海原は呟いた。

 

「――個性で操ってるのが当たり前すぎて、抹消食らったら動けなくなるんを忘れてるのは……アカンわなぁ……」

「…………………そうか。忘れてたなら、仕方ないか……」

 

 轟は天然だった。仕方ないよな、と呟いて、そして怒ることはしなかった。

 二人の間に沈黙が流れる。

 もしもペアが爆豪だったなら、天地を揺るがす怒号と爆音が響き渡っていたことは想像に難くない――

 

 ☆☆☆

 

 相澤先生相手でもオレの戦闘能力なら超余裕! 秒で終わらせてやんよ! 最強はオレだオレだオレだ

オレだぁーっ!!

 

(……とか思っていましたよマジで)

 

 吊るされたままため息をついた。

 オレは脊髄を損傷して下半身が動かない。それを水分を操る個性で体内の水分や血管の電解質の濃度を操作して擬似的な電気信号を生み出して足を動かしていた。

 操作がほとんどオートマチックに感じるほど洗練された精密操作をマニュアルで行い続けていた。

 その結果、あまりに馴染みすぎて相澤先生の個性“抹消”を使われたら水の個性が使えず、その瞬間下半身に全く力が入らなくなってしまうことを忘れていた。

 

 ……恥ずかしい。穴があったら入りたい。掘ります。穴、掘ります。今から。

 

 試験は恐らくどうにかなるだろう。八百万はなんとなく自信を無くしているように見えるが、元々頭良くて個性も万能。

 何かきっかけがあれば打開策を閃く、というより轟のセリフを鑑みるに既に思いついてる素振りすらある。

 テスト通過はできるだろう。

 それよりも相澤先生に怪我の詳細がバレることの方が問題だ。

 患者の怪我というものはプライバシーが守られる。例えば授業中またはインターン中の事故の怪我を、教師であっても本人の同意なしに説明されることはない。

 本人が意識があるならば本人のみ、本人が意識不明あるいは意思の決定・表示が不可能な状態であれば、配偶者あるいは両親といった家族に治療に必要不可欠な範囲で病状の説明がされる。

 そこから教師に怪我の具合が伝わるかどうかは家族が伝えるか本人が伝えるか次第。

 オレは去年、入院中に面会したときは怪我の詳細ではなく治療やリハビリにかかる時間を説明して誤魔化した。

 事件の特殊性(、、、、、、)もあって相澤先生は気にする素振りはあったものの追求はしてこなかった。

 だが――

 

(流石に聞かれるだろうな。少なくとも抹消を使われてオレが倒れたことには明確な説明が必要か……今後授業で事故になるかもしれないと理由をつけられたら拒む根拠がないし)

 

 間違いなくこのあと聞かれる。

 もしも怪我の状態からヒーロー科除籍または退学などになったら今後の目標に大きく差し支えてしまう。

 

「もうちょい色々と考えなアカンかったな」

「ああ……」

 

 全然違う独り言だったが轟は試験のことだと受け取ったようだ。

 ぼんやりしていると、八百万の声が聞こえた。

 

「轟さん、海原さん、すみません! 私、やっぱり――」

「ヤオモモチャン、後ろ後ろ!」

「おい、相澤先生が来てるぞ!」

 

 既に視界に映り込む距離まで追ってきている相澤先生を見て、八百万はきょろきょろと相澤先生とオレたちに視線を交互に向けていた。

 明らかに慌てて、パニックになっている。

 

「八百万、何かあるんだよな!?」

「え――?」

「悪い、聞くべきだった! これでいいかって! 何か作戦があるんだよな!?」

 

 透き通るその声に八百万の混乱が収まる。しかし自信はないままで、俯きがちに呻いた。

 

「で、でも、轟さんの作戦でも通じなかったのに、私の作戦では――」

「いいから早くしろ! そういうのはお前の方が適任だったって言ってるんだ!

 学級委員決めた時、お前二票だったろ?」

 

 八百万が顔を上げる。真っ直ぐ、澄んだ目で見つめながら轟が叫ぶ。

 

「一票は俺が入れた! そういうことに長けたやつだと思ったからだ」

 

 轟の激励、決意した八百万の表情。

 もう二人は大丈夫だろう。そして相澤先生を前にして、一番足手まといになるのは間違いなくオレ。

 まだ個性は使える。オレは水を操作して自らを縛る捕縛布へ高水圧の斬撃を放った。

 

「ヤオモモチャン、轟クン! あとはまかせたで! ボクはここまでや」

「海原さん!?」

「お前まさか!?」

 

 ぶつりと切れる捕縛布。

 まだ相澤先生の個性はオレに届いていない。オレは両足で地面に着地する。ぶすりと足裏に突き刺さるまきびし。

 

「う、ぐぐ……! いったく、ない! コスチューム会社に頼んだ踏み抜き防止ブーツのおかげで、痛く、ない! 素足でレゴブロック踏んだ時の方が痛いわ!」

 

 嘘だ。めちゃくちゃ痛い。地味に。足の裏から血がダラダラ流れ出るのを感じる。

 痛みをこらえて水流を放ち、まきびしをまとめて洗い流す。それと同時に下半身の脱力と共に倒れ伏す体。

 しかしオレと轟が上下に離れたことで二人まとめて視界内に収めることが難しくなったはず。

 轟の氷結が捕縛布に走り、凍りつき、砕けた。

 

「海原さん、轟さん、目を閉じて!」

 

 生み出していたマトリョーシカ人形を八百万が相澤先生に投げつける。周囲を覆う見慣れない人形を相澤先生が弾くと、中から現れたのはさらに小さなマトリョーシカ人形、ではなく鉛色の筒状の物体。

 直後、炸裂音と共に瞼越しにでも白く染まる視界。

 閃光弾――相澤先生の視界が塞がれてオレの個性も自由に使用可能となる。光でちかちかする視界の中、轟と八百万が走るのが見えた。

 二人が無事離脱したならば、あとはオレが立ち向かうだけ。

 

「相澤センセ! 抹消の個性は使わんといてな!」

「使うに決まってるだろ」

 

 猛然と相澤先生に襲いかかる。一気に接近し、息もつかせぬ連打で防戦に回し、再び抹消が使用可能になるまでオレに引き付けさせる。

 

「チッ、めんどくさいのが自由になったな……!」

「なんやかんや周りを気にしないで戦える状況がボクは一番得意なんは、よく知っとるでしょう」

「だから三人に組ませたんだよ」

 

 捕縛布をかわし、拳と蹴りを組み合わせて有効打を狙う。相澤先生は防戦一方、しのいではいるが純粋な体格差によるパワーとリーチの差で格闘戦ではオレに分があった。

 ましてや水分操作で水をジェットのように噴射することで打撃力を上げている。

 抹消を使用しなければ相澤先生は真価を発揮できない。

 

(そろそろ抹消が使えるか――?)

「直接見ないとアカンのは種が割れとりますよ」

 

 水をオレと相澤先生の間に広げる。

 水をへだててオレと相澤先生が向き合うが抹消は効いていない。発動条件は直接相澤先生がオレを視認すること。

 もしも直接、という条件が不要ならカメラ付きドローンなり監視カメラなり使用すれば個性消し放題だが、それをやらないのは何よりの答え。

 

「痛いところ突いてくるじゃないか」

「防御のためだけやないで」

 

 水を操作し、水流が相澤先生を強かに打ち据えた。

 苦悶の声を漏らすが服の下にはプロテクターでもあったのか、咄嗟に堪えたのか、勝負を決める一撃とはならない。

 

「直接視認できなければ抹消の個性は使用できない。そして水があって俺には抹消する手立てがない。それならば――教師にもPlus Ultraさせてもらう!」

「うおっ!?」

 

 相澤先生が手に持っているのは鉛色の筒状の物体――八百万が創造した閃光弾。

 

「隠し持ってたんか!? 手癖悪いなぁ!」

「たまたま掴んだマトリョーシカに入ってただけだよ」

 

 それを相澤先生は水の壁に手を突っ込む。いくら分子の動きを操作したところで薄く広げた状態から固めるのにはラグがある。

 個性の精度云々ではない流体力学の限界だ。

 相澤先生の腕が水の壁を超えて俺の前に突き出される。

 

「やば……!」

「あんま大人を舐めるなよ」

 

 既に安全ピンが抜かれたそれは、防ぐまもなく800万カンデラの閃光と180デシベルの爆音がオレを襲った。

 

「ぐあーっ!? ヤオモモチャン、センセになんてもん投げつけたんや!」

「まったくだ。だが……隙ができたな」

「しまっ――!?」

 

 三半規管がやられ、視界も聴覚も機能しなくなったオレを抹消が捉えた瞬間、オレは再び膝から崩れ落ちる。

 その隙を逃す相澤先生ではなく、瞬く間に捕縛布にぐるぐる巻きにされた。

 

「んがーっ! んごご、んぐんぐ」

「別に口は縛ってないだろ」

「顔以外全部はやりすぎちゃいます?」

「足りないくらいだ。あとお前の場合自力で復活できそうだから……こうします」

「ギャーッ」

 

 バリバリという音というともに押し付けられたのはスタンガン。

 水を操ろうと人間の体は電気を通す上に、電気が走れば筋肉は痙攣し、自由に動けなくなる。そもそも閃光弾をモロに食らって三半規管もやられて立つことすら難しい。

 

「少し寝てろ」

 

 容赦なさすぎません?

 オレはしばらく道路の上でミイラのようになりながら痺れてびくんびくんと芋虫みたいになっていた。

 こうして相澤先生に一本取られてみると、やっぱり経験と場数の差は大きいな、と感心した。そして油断は簡単に敗北を引き寄せることも。せめて下半身が動けばいいのだけれど、そればっかりはないものねだりだ。

 

「説明どないしよ」

 

 憂鬱な気持ちになり、オレはため息をついた。

 ……太陽の下に捕縛布でぐるぐる巻きにされ、アスファルトの上に放置。これ熱中症になりません?

 じんわり汗ばんで気持ち悪い感触を覚えた頃に、八百万と轟が相澤先生を捕らえたアナウンスが響いてきた。

 無事に試験クリア、多少は役に立ったかと安堵してから気づく。相澤先生は捕縛されている(恐らくだが)。轟と八百万はオレがどの地点で戦闘不能になっているかわからない。

 

「アカン、熱中症になってまう」

 

 オレの悲鳴は住宅街に溶けて消えた。

 

 

 

 相澤先生による轟と八百万、オレへの簡潔な講評を終えた。八百万はふんす、と自信に満ちた表情をしており、講評を聞くに、彼女の作戦と活躍が大きく試験突破に寄与したらしい。

 オレに対しては作戦立案に対する消極性、自身の力を頼みに最終的にはどうにかできるという楽観性を指摘された反面、戦闘や足止めの選択では自ら動ける程度の犠牲を許容しつつ戦う姿を評価された。

 

「で、だ。抹消のときに見せたアレはなんだ?」

「……相澤先生、その、あんまり、言わせるのは……」

「なにか隠しているのはわかる。だが今後授業で抹消を使った際に予期せぬ事故に繋がる恐れがある。安全を預かる立場として原因は解明しておかなくてはならない。それとも、言えないのか海原」

 

 助け舟、轟号が戦艦相澤に秒で撃沈されたのを見てオレは観念して語った。といっても、インターンの怪我について手短に述べただけ。

 轟は少し目を伏せ、八百万は痛ましいものを見る目になった。

 

「しかし……個性で下半身を動かすとは……凄まじい精密性ですわね」

「流石に日常的に使えるくらい慣れるまでには時間かかったけどな。全然わからへんやろ」

「ええ、わかりませんでした……相澤先生?」

 

 にじり寄る相澤先生がオレの胸ぐらを掴みあげた。

 

「ちょっ、相澤先生!?」

「何してんですか先生!」

「お前らは黙っていろ!」

 

 怒声が二人の動きを止めた。

 オレより背が低い相澤先生に引き寄せられるように胸ぐらを掴まれたまま、無抵抗で、その顔を見つめた。

 

「お前――ふざけるなよ!!」

 

 怒鳴る相澤先生の顔は怒りに満ちていて、それでいて悲しみを帯びていた。

 




海原「ざけんなや 個性が練れん ドブカスが」


相澤先生、キレるの巻。次回相澤先生曇らせ。別にそういうことしたかったわけじゃないんですよ曇らせなんて心痛いから好きじゃないんですよ
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