異物混入アカデミア!   作:伊良部ビガロ

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職場体験編終了


第14話 職場体験 その3

 

 突如現れたヴィランによる大規模なテロにより、保須市街は突如として混乱に陥った。ヒーローたちの目は炎上する市街地と、破壊を繰り返すヴィランに向けられていた。

 その騒ぎの裏では、雄英高校ヒーロー科によるヴィランとの戦闘が繰り広げられていた。

 

「緑谷!!」

「ハァ――……個性の使い方が大雑把だ! 言われたことはないか、強力な個性にかまけるな、と!」

「轟くん上だ!」

 

 ヴィランの名はヒーロー殺しステイン。約四十名のヒーローを殺傷する超凶悪ヴィラン。彼は保須市でヒーロー”インゲニウム”を再起不能にしたあと、場所を移動することなく、自身の啓蒙活動(、、、、)にいそしんでいた。

 オールマイトの登場により劇的に低下した犯罪発生率。平和の象徴と個人が呼ばれる有史以来誰にも達成したことがない前人未到の偉業によって平和が保たれている。

 しかしそれと同時に、ヒーローという職業の人間が飽和し、人を助ける崇高な意思が、金稼ぎと名声を得るための手段に成り果てた現状を憂い、憎む者がいた。

 それがステインだ。

 贋物と断じたヒーローを殺害し、ヒーローという在り方を社会に問い質す思想犯は、今夜もまた標的のヒーローを殺害しようとしていた。

 

「やめてくれ……君たちには、関係ないだろっ! 僕は決めたんだ……復讐すると! ステインを捕まえて、インゲニウムの名を堂々と継ぐ! 過去を清算するために!

 僕がやらなきゃいけないんだ!」

「やめてほしけりゃ立て! なりてえもんちゃんと見ろ!」

「っ……!」

「私欲で力を振るう将来見込みゼロの子供……ハァ……嘆かわしいほどの蒙昧だ。拝金主義の贋物が蔓延るから、こういう子供が生まれるんだ」

「どの口で物を言っているんだ、ヒーロー殺しステイン!」

 

 当初、飯田がステインを倒すべく奇襲を仕掛けるが返り討ちに遭う。ステインの個性『凝血』――対象の血液を経口摂取すると、その対象の動きを一定の時間止める能力――によって動けないところへ駆けつけた緑谷、さらに緑谷の連絡に気づいた轟が増援にやってきた結果、二対一で相対している。

 それでもなお、二人は押されていた。

 

「ハァ……お前も良い。そしてお前も……殺すわけにはいかん。生きて人を救え」

「今、救わせろよ! ”デトロイト――”」

「ダメだ緑谷、下がれ!」

「っ、ぐあっ!?」

 

 情報が錯綜するほど目まぐるしく戦況が動く。連携が拙いわけではない。

 むしろ中距離から氷結と炎熱で攻撃を仕掛ける轟と、近接戦闘で攻撃を仕掛ける緑谷は互いを邪魔することなく動いていた。

 それ以上に巧みに立ち回るのが、ステインだった。

 緑谷をいなして血液を舐めとって動きを封じると、轟の攻撃を時に躱し、時に切り払って防いでいる。

 多くのプロヒーローを殺害するその実力に、雄英生徒の三人はこれが本物のヴィランかと、冷や汗を禁じえなかった。

 

「ハァ……甘い、挙動が大雑把だ……寝ていろ!」

「轟くん!!」

 

 ステインの白刃が轟に迫った刹那、個性による拘束が解除された飯田の”レシプロ・バースト”による超加速の蹴りが刃をへし折った。

 

「すまない……関係のないことに巻き込んで……血を流させて。だからもう、二人を傷つけさせない!」

 

 ――再び立ち上がった飯田の活躍と、轟の奮戦、そして個性が解けた緑谷の捨て身の攻撃によって、ステインは撃破された。

 意識を失い、氷塊で倒れるステインをロープで縛って確保しようとしたその瞬間、

 

「まだ……だ……ハァ……!」

「……! 飯田、緑谷、離れろ! そいつまだ動けるぞ!」

「あっ!?」

「な……!」

 

 短刀を振るステインから転げるように距離をとる飯田と緑谷。

 

「粛清……ハァ……する……贋、物、は……ハァ……!」

「まだ動けるの……!?」

「なんて、執念……!」

 

 ステインは折れた肋骨が肺に刺さり、呼吸の度に血で肺に濁音を響かせていた。

 それでもなお、飯田と、最初に標的にしたヒーロー『ネイティヴ』を狙ってふらふらと短刀を揺らしている。

 轟がもう一度氷結で拘束を、と踏み込もうとしたとき。

 

「――やーっぱり緑谷クンやねえ、騒ぎの中心は」

 

 ビルの上に黒い影が浮かび上がっていた。

 目を細めて微笑を貼り付けたその姿は散歩でもしているかのような穏やかな雰囲気をまとっていて、とてもじゃないが混乱の最中にある保須市の夜に相応しくない風貌だった。

 

「初めまして、ヒーロー殺し”ステイン”。ちょっとお話聞けません?」

「――海原くん!」

 

 ぴょんと飛び降りたその人影は影の中に降り立ち、ゆっくり歩いて姿を見せた。

 紺色の簡素なバトルコスチュームを身にまとっているのは、雄英高校一年海原大海だった。

 

「貴様、は……ハァ……贋物、か、本物、か……ハァ……!」

「本物? あぁ、オールマイトのことかいな。ちゃうよ、ボクはオールマイトちゃうで。なれるもんでもないしな」

「……志の低い、贋物が……」

「なんや代替品で我慢しよう言うんか。オールマイトのこと好きなんとちゃうの?」

「何を言っている……ハァ……! 彼は唯一無二の英雄……ハァ……下らない次元で話すな……!」

 

 海原はウンウンと頷いた。

 

「好きですらない推しなんやね。ちょいわかるわ」

「ハァ……何を言っている……!」

「でもなステイン。お前の主張には足りないもんがあるわ」

 

 緑谷も飯田も轟も、もちろんネイティブも困惑し、水を差せなかった。

 確保すべき超危険なヴィランとわかっていながら、暢気に話している海原。そしてステインもまた、血が混じった咳をしながら睨みつけていた。

 

「足りないもの、だと……?」

「せや……ステイン。キミには愛が足りんわ」

 

(((なぜそこで愛――!?)))

 

 全員の内心の声が一致した。

 

「なにを……言っている……?」

「いくらオールマイトと結婚したい言うても、相手のことを尊重しない一人相撲じゃ、いつか自分も不幸になるんやないの?」

「何を言っている……?」

 

 ――すげえ、ステインが本気で困惑してる。

 海原を除く全員が動揺を隠せない。

 ステインは朦朧としながらも、短刀と、地面に落ちていた折れた刀を拾った。

 

「気狂いの類か……ハァァ……嘆かわしい」

「っ、海原くん!」

 

 一息に距離を詰めるステインを見て、緑谷が遅れて声を上げた。

 だが海原は微笑みを浮かべたまま刀を躱し、そして蹴りを顔面に直撃させる。苦悶の声と共にステインが大通りまで飛ばされ、そして反対側の民家の塀を砕きながら倒れ伏した。

 

「万全の状態のキミとやってみたかったわ」

 

 振り抜いた足を下ろす海原。折れた肋骨が肺に突き刺さり、呼吸すら満足にできないステインが勝てないのは当然どころか、立って突進することすら不可能な体でよく挑んだとすらいえた。

 最初に襲われていたネイティヴも体の自由を取り戻し、ロクに戦力にならなかった代わりに傷が深い緑谷を背負った。

 

「焦凍! 無事か!」

 

 そこへ駆けつけてきたエンデヴァー。遅れてグラントリノや、保須市のヒーローたちも集まってきた。

 

「グラントリノ!」

「新幹線で座っとけつっただろ!」

 

 グラントリノからの蹴りと小言を貰いながら緑谷が謝っていると、悲鳴が上がった。

 倒れていたステインを確保しようとしていた保須のヒーローが突如意識を取り戻したステインに切り裂かれた苦悶の声だった。

 

「エンデヴァー……ハァ……! 贋物……! 粛清、せねば……!」

 

 満身創痍で、動くどころか、治療無しでは命の危険すらある肉体を引きずりながらステインは睥睨する。

 

「誰かが……やらねばならんのだ……誰かが、血に染まらねば……!」

 

 ステインが一歩踏み出す。緑谷が震え、轟が腰を抜かし、飯田は呆気にとられた。

 他のヒーローたちも一歩も動けない。海原も冷や汗をたらりと落とした。

 

「ヒーローを取り戻さねば……ハァ……! ならんのだ……来い……来てみろ贋物ども!

 俺を殺していいのは、オールマイトだけだ!」

 

 折れた刀、ボロボロの肉体、そしてヒーローたちに囲まれた数の不利。

 それらを受け止めながらもステインは気迫だけでヒーローたちを圧していた。

 誰も戦闘態勢をとらない、とれない。

 

「……? ……立ったまま、気絶している……!」

 

 いずれかのヒーローの呆けた呟きが放たれるまで、誰もが動けなかった。

 その中で海原もまた、例外なく戦慄していた。

 

 ――ステイン、お前は。

 

 冷や汗をかいたのは一年ぶりだと、内心で呟きながら海原はようやく確保されるステインをじっと見た。

 

 ――オールマイトと結婚するどころかヤンデレ拗らせてたのかよ、しかも殺られる方。

 

 海原だけ、周囲と違う受け取り方をしていた。

 

 ☆☆☆

 

 結局飯田、緑谷、轟は保須総合病院に入院することになった。職業体験でいきなりヴィランと、それも名前をつけられるほどの凶悪犯と戦闘となり生きて帰れるだけでも幸運と言えるだろう。

 オレは怪我をしていないため翌日にはマニュアルのもとで短期のインターンに励んでいた。流石に昨日の今日で暴れまわるヴィランはいなかった。夜になると酔った勢いで揉め事を起こして警察とヒーローの世話になる人間がせいぜいだった。

 しかし――

 

「見て、あれネイビスじゃない!?」

「嘘!? 本当だ……まだ学生なのに一瞬でヴィラン倒しちゃったんでしょ!?」

「ネイビスありがとー! 応援してるぞー!」

「スマホで撮影してたけど速かったぜ、ほかのヒーローよりも!」

 

 パトロールするだけで声をかけられ、サインや握手を求められる。

 急にアイドルの如き歓待を受けるのにはわけがあった。

 先日のヒーロー殺しステインの逮捕の報道と共に、保須市に現れたヴィラン――脳無三体――を制圧したことが報道されていた。

 ステインとの交戦については、本来まだ個性を使用できない立場の飯田、緑谷、轟を庇うために居合わせたエンデヴァーが逮捕に導いたというカバーストーリーが作られ、報道されたため、三人の怪我は事故として処理された。

 しかしオレは仮免を持っており、個性を使用した戦闘行為は認められているため、問題視されることはないどころか、大々的に報道されてしまった。

 新聞やネットニュースは『新時代のニューヒーロー爆誕!』『伝説の始まり!!』『ヴィランを呑みこむ母なる海、ネイビス!!』『実績よし、実力よし、顔面よし!!』などなど好き放題煽りまくっている。もともと雄英体育祭優勝で名が知られているところにこの事件が起きたことで一時的にフィーバーが起きていた。

 いやー困っちゃうね。

 未来は安泰だと言われても卒業後にヒーローを熱心にやるつもりはあまりないのだが。

 

「はい、押さないでねー今パトロール中だからねー彼まだ学生だからねー」

「マニュアルさん、すんません、邪魔してもうて」

「いやいやいや、正直すごい子にインターン来てもらっちゃったなーって改めて感じるよ……個性も同じだからサイドキック来てもらおうかと思ったけど、僕のところじゃ持て余すね」

「そんなことは……」

「ネイビス、サインください! きゃー、本当にイケメン!」

「ごめんな姉サン、今忙しいねん」

「ネイビスくん、そう言いながら髪かきあげてアピールしないの」

 

 職場体験の残りはほとんどファンの対応で終わってしまった。実質数日の短期インターンだったが、エンデヴァーやグラントリノを含めた世間に実力をアピールする目的は達成できたし、そこそこ楽しめたので文句なしだ。

 緑谷や飯田たちの怪我が少し心配だが、今後に差し支えることはないだろう。

 オレは職業体験を終えると、お土産を買い込んで新幹線に乗る――前に。

 

「せっかく東京来たし競馬でもやってくか」

 

 未成年に見られないように服を着替えて、休みを利用して競馬を観戦した。

 お土産は買えなくなった。

 

 ☆☆☆

 

『緑谷出久のおかげで減給と教育権剥奪! すぐ体が動いちまうところは本当にお前そっくりだよ俊典!』

「私の教育が至らぬばかりで……申し訳ありません」

 

 オールマイトは――ガリガリの姿、トゥルーフォーム姿ではとても世間のイメージと結び付けられないが――電話越しの相手に頭を下げていた。

 かつての師匠、グラントリノからの怒りの小言を受けては反論もなく陳謝するばかりだった。

 それからはヒーロー殺し『ステイン』についての話題となった。

 彼が持つ強い思想と強迫観念による威圧感、それらがネットニュースやネット動画で世間に垂れ流されていく。そしてステインが敵連合と繋がりを持っていることが示唆されたことで、ただの荒くれものでしかなかったヴィランが一つの意思のもとに集まり始めることをグラントリノは懸念した。

 そしてそのシナリオを描いた人物――オールマイトの師匠にして、先代のワンフォーオール継承者、グラントリノの盟友である志村菜奈を殺し、オールマイトに後遺症を残すほどの大怪我を与えた男――オール・フォー・ワンではないかと語った。

 

「オール・フォー・ワン……まさかあの怪我で生きているとは……!」

『お前に憧れるあの子にも、折を見てしっかりと話したほうが良いぞ』

「……はい」

 

 まさか職業体験先でヒーロー殺しステインと遭遇し撃破してしまうとは、とオールマイトの内心は驚愕に満ちていた。

 無論、ヒーローとして、そしてワンフォーオールの力を少しずつだが使いこなしている緑谷を認めているが、ヒーローを多数殺傷したヴィラン相手にクラスメイトと共に倒してしまうのは青天の霹靂だった。

 随分と危険、無茶をするな、と冷や汗すら浮かぶ。怪我こそしたものの無事でよかったと安堵したのも束の間のことで、グラントリノから小言を頂戴することになってしまった。

 

「教育するとともに、緑谷少年にもきちんと伝えます」

『教育、それだよ俊典! それはそうとお前、小僧になに教えてんだよ!』

「な、なに、とは!? 個性の使い方をメインに教えていますが……あとは授業内ですがヒーローとしての基礎を」

『戦い方だよ! 聞けば小僧の個性の使い方は俊典、お前じゃなくてクラスメイトに教えてもらったらしいじゃねえか! 師匠としてお前が教えないでどうする!』

「は、はいっ、申し訳ありません!」

『ったく……! ちょっと変なクセがつきかけてはいたが、教えている奴はセンスあるな』

「ええ、海原少年というのですが……体育祭で優勝した。緑谷少年も仲良くしているようで、よく見てもらっていますよ」

『知っとる。しかも保須市の事件で今や有名人だ。あの脳無とかいう化け物三体をのしちまいやがったってな。お前さんも脳無ってのと雄英でやったんだろ?』

「ええ……動画を見るに、個性や能力が違うようですが。海原少年は凄まじい力を持っています。USJ襲撃事件では私が駆け付けるまで時間を稼いだどころか、主犯格の死柄木と黒霧というヴィランを含めて互角以上に戦っていました。

 正直、私も助けられました……彼の助力がなければ脳無一体を倒すのにどれだけ力を使ってしまったか」

『それほどか……水を操るってぇシンプルな個性でよくやる。最近の若いヤツは……』

「グラントリノ、使い方が変では?」

『どうでもいいだろ。で、その海原って兄ちゃんなんだが』

 

 グラントリノの声のトーンが変わった。

 先ほどまでは怒っていたが、一転して真剣みを帯びた。

 しかしオールマイトには海原という生徒がグラントリノの気にかかる関係性がよくわからなかった。

 

「海原少年がなにか?」

『……流石に杞憂だとは思うが、敢えて言っておく。……オール・フォー・ワンとの繋がりはないよな?』

「……!? い、いえ、流石に……教師になるにあたって、生徒のプロフィールには目を通しましたが、違和感はありませんでした。考えすぎでは……そもそも、何を根拠に……?」

『そういう経歴を詐称させるのに長けているのがヤツだとは思うがな。俺も根拠はないし、カンですらねえ。ただの確認だ。

 ……緑谷の、というかワン・フォー・オールに近づき、使い方を教えた事実が気になっただけだよ。それだけなら偶然でも全然おかしな話じゃねえ。

 ただ、海原の実力が突き抜けすぎていてな。……なんか裏があるんじゃねえかという疑念と、もしも敵になったらやべえって思っただけだ。何もないならそれでいい』

「はぁ……わかりました。それとなく気にかけてみます」

『それはそうとお前もたまには顔を見せに来んか! 教育についても言いたいことがやまほどある! 俺がお前を鍛えたときはそんな適当だったか!?』

「え? わりと適当にボコボコにされていたような」

『わかった俺から会いに行こう』

「すすすすすみません!! 時間を作って会いに行きますので!! あっそろそろ授業の時間だすみませんグラントリノまた電話しますお疲れさまでぐはぁ!!」

『俊典、話はまだ――』

 

 オールマイトは血を吐きながらまくしたて、そのまま電話を切った。

 やはりいくら平和の象徴やナンバーワンヒーローと呼ばれるようになっても、かつての師というものは恐ろしいものだった。

 野球部を卒業したのに今でも顧問を見ると胃袋がキュッとなるような感覚。もちろんオールマイトは野球部にいたことはないので、例え話だが。

 

「海原少年……か」

 

 オールマイトの呟きは誰にも拾われずに宙に溶けた。

 

 ☆☆☆

 

「「ハハハハハハ!!!! マジか!! マジか爆豪!!」」

「笑うな! 癖ついちまって洗っても直んねえんだ……! おい笑うなぶっ殺すぞ!」

「やってみろよ八二坊や!!」

 

 瀬呂と切島の爆笑する声。

 オレはその声につられて視線を向けると、そこには見事に8:2のヘアスタイルになった爆豪勝己が怒りに震えていた。

 

「瀬呂クンも切島クンもアカンで。人の髪型笑うんは。正直、ボクは似合っとると思うで。なんだか落ち着いた気品ある感じでブッフォオ耐えられへん!!!!」

「んだとコラァ!!」

 

 爆発音とともに髪型が戻ると切島と瀬呂が笑い、オレも笑いが止まらず机に突っ伏した。

 爆笑の中で、クラスメイトたちが自分たちの職業体験の感想を話し合っている。

 蛙吹は密航者のヴィランを捕える活躍を、耳郎はヴィランが隠れるアジトの索敵で役に立ったことなどを話し、褒められ、照れていた。

 

「お茶子ちゃんはどうだったの? この一週間」

「コォォォ……とても、有意義、だったよ……シュッ、シュッ……!」

「目覚めたのね、お茶子ちゃん」

 

 麗日は堂に入った構えで拳を繰り出していく。中々のキレだ。

 そんな麗日を見て上鳴が驚き、峰田はトラウマを刺激されたのか「女の本性には悪魔が棲んでいるのさ」と震えていた。峰田は何を見たのだろうか。

 

「それより大変だったのはお前ら三人、とパイセンだよな!」

 

 上鳴の言葉に注目が集まる。

 オレは笑いすぎてこぼれた涙を拭った。

 

「ボクは別に大したことないで」

「えー! パイセン、新聞にもニュースにもなってたじゃん!」

「すごいよね、映像と写真見たけどめっちゃ決まってた!」

「それほどでも……あるで?」

「出たパイセンのどや顔!」

「海原ちゃんは仮免を持っているだけあって派手に動いたのね」

 

 芦戸と葉隠、蛙吹の注目を浴びてオレはおどけてピースサインを左右の手で見せつけた。

 といってもただの雑魚を片付けただけだ。正直三人がかりとはいえステインを相手にした彼らのほうがすごいと思う。

 

「危なかったのは緑谷クンたちやで」

「そうそうヒーロー殺し!」

「命あってよかったぜマジで」

「心配しましたわ……」

「エンデヴァーが助けてくれたんだってな」

「流石ナンバー2ヒーロー、すごいね……」

 

 クラスメイトたちからの注目を浴びて、轟は少し俯きながら「そうだな。助けられた」と短く肯定した。

 

「めっちゃ怖えよな……尾白、ヒーロー殺しの動画見た?」

「あ、ああ。ネットに出回っている奴か。すぐ削除されてはアップされていると聞いたけど」

「あれ見てると、一本気あってかっこよくね? って――おぼふ!」

「それはアカンよ上鳴クン」

 

 ちょっと強めの肘鉄を上鳴の鳩尾に打ち込んだ。

 幸いなことにオレを咎める声は上がらなかった。

 

「お、お゛お゛……! 思っちゃう奴がいて、同じようなことする奴出そうって話だったんだけど……!」

「えっ、あっ、ごめんな上鳴クン。今度おすすめのAVやるわ」

「その話詳しく。オイラも同行する」

「峰田クン」

 

 馬鹿やってるオレと上鳴と峰田を尻目に飯田は目を伏せた。

 

「確かにかっこいいと思う人もいるかもしれない。俺も正直、その信念に思うところはあった。だが、その結果選んだ手段は明らかに間違いなんだ」

 

 拳を握り、飯田はハッキリと言い放った。

 

「私利私欲で人を殺傷したことは変わらない。俺も、正直言って、復讐を考えた。でも、それじゃヒーローとして胸を張れない!

 だから俺は、これ以上被害者を出さないためにも、改めてヒーローの道を進む!」

 

 その言葉に緑谷は笑みを浮かべた。

 オレも安堵したように薄く笑みを浮かべる――窓ガラスに映る自分の顔はちょっと悪い笑みに見えた。

 いつもの調子を取り戻した飯田は委員長としてキビキビと動き出した。

 また一歩、自分の目標も前に進んだわけで、オレは次に起こるイベントに思いを馳せるのだった。

 




主人公の目標もまだ明らかにはなりきらず進んでいきます。
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