飯田天哉には目標とする人物が三人いる。
一人は、東京に事務所を構えて多くのサイドキックを雇うターボヒーロー『インゲニウム』であり、自身の兄でもある飯田天晴。
ヒーローに憧れる切っ掛けであり、事実、大規模な事務所を経営するに至った身でありながらも「自分じゃ何も出来ないからサイドキックに助けて貰ってる」と飾らずに言う姿は、今も尚、目標であり続けている。
一人は、緑谷出久。クラスメイトである彼を初めて見たのは雄英の入学試験のときだった。そのときは飯田自身、緊張もあって、正しくあらねばならないという思いから少し行き過ぎた接し方をしてしまった相手だった。
しかし入試では打算を抜きに他者へ手を差し伸べ、その後の学校生活では常に誰も思いつかない手法で他者に追いつき、追い越そうと励むヒーローの素質に溢れた姿を見て、いつしか彼を目標としていた。
そして最後に、海原大海。
兄の天晴が夢であり、友の緑谷がライバルならば、海原は先達という捉え方をしていた。
留年という経緯はあれど、一年分多くヒーローになるための研鑽を積み重ね、さらに仮免を取得してヒーロー活動でも、自分を含めたクラスメイトよりも多くの経験を得ている存在。
体育祭では自分の能力を活かすこともできず敗北したことは悔しかったが、個性を自在に操る発想力や技術力を尊敬し、ヒーローになるための高い壁であり、追うべき背中だった。
そんな海原大海が、飯田の隣の席に座って車窓を眺めている。
「ボクも、マニュアルさんとこでお世話なんねん」
奇しくも重なった職業体験の受け入れ先。
海原ならばもっと上位のヒーローからの指名があったはずだと、言いそうになって、飯田は口を少し開いてから、再び閉じた。
(どの口で言うんだ)
飯田もまた、マニュアルよりも上位のヒーローや、個性の扱いを学ぶためにうってつけのヒーローから指名を得ていた。
マニュアルの指名を受けたのは、他ならぬ兄がヒーロー殺しに襲われ、半身不随の怪我を負ってしまった報いを、ヒーロー殺しに受けさせるためだけが理由だった。
むしろ水を操る個性のマニュアルと、同じく水を操る個性の海原の方が、まだ職業体験先に選ぶ理由として納得できる。
そして海原の薄く開いた瞼の奥の深い海を思わせる色の瞳に映し出され、自分がなぜマニュアルヒーロー事務所で職場体験をしようとしたのかも、バレている気がした。
「僕は……」
思わず漏れる言葉。
海原はヒーロー候補生として先輩であるという意識があったからこそ、飯田の口も自然と動いていた。
本当はずっと誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない、とすら飯田は思いながら、言葉をぽつりぽつりと語り出した。
「僕は……許せないんだ。ヒーロー殺し……ステインが……!」
「……そか」
「でも……ヒーローが個性を振るうのは、誰かを助け、誰かを守るため。決して私刑を行うためではない……わかっているんだ。
雄英高校ヒーロー科の生徒なら……いや、すべてのヒーロー科の生徒、それどころか大半の人間ならわかっているんだ。
……私欲のまま、復讐など、してはならない、と」
「うん……」
拳を握りしめる飯田。
爪がくい込み、血が滲み、痛みを生むが、拳の痛みよりも飯田はずっと激痛に苦しんでいた。
憧れであり、大切な兄が、再起不能となってから。麻酔が切れたばかりの朦朧とする意識のまま、弟へ向けた再起不能を自覚した言葉と謝罪を耳にした時から。
ずっと、胸が痛かった。
本当は少しだけ質問して、何故海原がマニュアルの事務所を選んだのか聞きたかっただけ。
そのはずがむしろ自分から話してしまって、そして一度話したら止まらなかった。
「わかっているんだ……だが……だが……!」
罪を告白するように飯田は言葉を絞り出した。
「憎いんだ……ヒーロー殺しが……!
ヒーローとして、他者を導くことを志す人間でありながら……心に憎悪ばかり溢れてくる。
理性で封じ込めようにも、僕は……奴をこの手で、殺したいとすら、思っている」
言葉を吐ききった飯田は両手で顔を覆った。
今の自分は恐らく醜い顔をしているだろうな、と鏡を見なくてもわかる。
そしてそんな本音を友であり、目標とする人物に話してしまった情けなさに腹が立った。
「――復讐かァ」
いつもと同じ、軽い調子で、口の中で転がすように海原が呟いた。
どんな顔をしているのだろうか、軽蔑しているのだろうか、憐れみを浮かべているのだろうか、飯田は怖くて顔を上げられなかった。
「……ボク、正直言うけどな。……復讐ってアカンことなんかな」
「…………え?」
思わず見た海原は車窓に目をやっていた。表情には怒りも侮蔑もなく、微笑みを携えたまま、いつもと変わらない様子だった。
「それは……ダメだろう……ヒーローとは、いたずらに個性を振るうためではなく、誰かを守るために……」
「せやな。でも、ボクは法律だとか倫理を理由に復讐してはいけない、とは言える立場にはないんや」
「どういう――意味なんだ?」
「ん? ああ……秘密や。ただ、『復讐は何も生まない』とか『許さなければ憎しみの連鎖が続く』とか、それっぽい綺麗ごとあるやろ?
でもボクは思うんよ。復讐とは――過去を清算し、再び歩き出すためにやる、って」
「だが、僕がヒーロー殺しを相手どり、例えば……始末したとしたら、世間は……許さない……だろう」
「飯田クンは真面目やね。まさにヒーローの卵や。
……それが答えや」
「……意味がわからない」
「ボクが復讐を肯定しても、飯田クンはそれでもやってはならないことだと主張する。つまり、キミは復讐に乗り気ちゃうんやろ」
「……わからない」
「それでええと思うで。『復讐のためにヒーロー殺しを逆にぶっ殺したい』『ヒーローを志す人間として、私情で戦ってはならない』という二つとも本音なんや。
ボクから言えるのは――プロヒーローが警戒しているのに何人も殺される、相当強いヴィランを前に、決意も定まっていない状態で相手どったら……」
新幹線が青空の下からトンネルに入ると、海原が車窓から飯田へ視線を向ける。
開いた瞼から覗く、深海を思わせるディープブルーの瞳は、どこまでも沈んでいきそうな神秘性と、危険を孕んでいた。
「――死ぬで、飯田クン」
「っ……!」
「やるにしても、やらないにしても、半端はやめとき。迷ったまま戦いに臨めば、負けるのは当たり前や」
ヴィランとの戦闘を知る人間の言葉としてはあまりにも重かった。
(迷い、か)
それきり、飯田は目的地に到着するまで押し黙っていた。
もしも職業体験中にヒーロー殺し『ステイン』と遭遇したら、どうすればいいのか、飯田は答えを出すことはできなかった。
☆☆☆
リビングを高速で飛び回る黄色い弾丸。
その正体は緑谷出久を職業体験で指名したヒーロー、グラントリノだ。
空気を足の裏から吹き出す個性を使い、縦横無尽に目にもとまらぬ速度で跳ねまわっていた。
(緑谷――こいつ、そこそこOFAを使いこなしてるじゃねえか)
「くっ、右、上ッ……!」
事務所に来るなり、グラントリノは自己紹介もそこそこに稽古をつけはじめた。部屋の中で実際に戦い、緑谷がグラントリノに一撃でも入れたら勝ちというシンプルなルールの中で、グラントリノは緑谷の実力を推し量っていた。
(まだ小僧の体が出来上がってねえから、OFAの100%の力を引き出したら自爆して怪我をするってのは俊典から聞いていたが、それでも少しずつ引き出すどころか、全身を強化して動けている!
しかも昨日今日できるようになった感じではなさそうだなこりゃ)
「おい小僧! いつまでも当てらんねえでどうする!? 俺が老衰でくたばるまで待つつもりか? 職業体験期間に天国から迎えの予約は入ってねえぞ!」
「くっ、まだまだ!」
言葉こそきつく煽っているが、内心では緑谷を評価していた。
分析と予測による攻撃で度々惜しい一撃が入りそうになっては、グラントリノは紙一重で躱していた。久々の全力回避を気づけば何度も繰り返していた。
「ここで……後ろ!」
「悪くねえが大振りすぎるのと間合いの取り方がなっちゃいねえ!」
(これも避けられ……!?)
「ふんっ!」
「ぐあっ!」
攻撃を躱された隙を突かれカウンターで壁に打ち付けられる緑谷。
床に倒れながらもすぐに起き上がり、グラントリノに向かって構えた。やられてもすぐリカバリーを意識した行動をとる少し戦闘慣れした様子を見て、自身の弟子、オールマイトの後進育成に励む姿を思い起こし、グラントリノは少し嬉しくなった。
「中々いい動きをするな小僧! オールマイトに中々シゴかれているようだな。
だがそのせいで体の使い方や間合いの取り方が自分よりデカい奴を相手取る癖がついちまってる。
俺みたいな小回りが利き、それでいて速い相手にその攻め方は悪手だ。ったく……俊典め、教え方がなっとらん」
「ああっ、いえ、オールマイトに教えてもらったわけじゃないんですよ!」
「なに……? 小僧、お前誰かにOFAのこと話しちまったのか!?」
「ちちちちがいます! そのですね……」
緑谷は海原大海という生徒のことを話した。
彼にアドバイスされてワンフォーオール・フルカウルを習得したこと、組手で格闘技術を鍛えてもらっていることなど。
グラントリノは海原の名前に心当たりがあった。
確か雄英体育祭の一年生ステージで優勝したと報道されていたはずだ、と。
「で、その兄ちゃんに鍛えてもらっているわけか」
「そうなんです! オールマイトが悪いわけでも海原くんが悪い訳でもなくて、戦う相手と技術が一定なことを失念していた僕が悪いというか」
「いや俊典はなにしてるんじゃ! 継承者を育てるために雄英高校の教師になったというのに……あのバカは! 今度説教してやる……師匠に顔見せにも来んしな」
(あのオールマイトをここまで言うなんて……! オールマイトが怯えていた理由が少しわかる気がする)
「……それで。海原とかいう奴に鍛えて貰っているんだったな。確か、結構ノッポで手足が長い奴だよな。
まぁ体格差とリーチの差もあるそいつとずっと組手しちゃ、自然とそういう癖も付くわな」
学生同士の自主トレの一環故にグラントリノは深く言うことはなかった。
しかし詳細を聞くと、海原の個性は水を操るものだというのに、緑谷のワンフォーオールの特訓のために、彼は個性を使わずに格闘しているという。
「体育祭の動きを見たが奴の実力は少し抜けてるな。一年分の経験の差って話じゃねえ。
全力を見てないからなんとも言えんが、戦闘に関しちゃトッププロに並んでやがる」
「そ、そんなに、ですか……! 確かにUSJ襲撃事件のとき。相澤先生や13号先生が負けるほどの相手と余裕で戦って、オールマイトと共闘すらしていました……」
「金の卵って奴だな。普通なら越えるとか考える相手じゃねえが……次代の平和の象徴になるってんなら話は別だ。
その海原って兄ちゃんを越えられるように強くなれ、受精卵小僧!」
「はいっ!」
「もういっちょいくか! ……の前に、朝飯を食うぞ! 鯛焼き何個食いたい、小僧?」
「朝ご飯に鯛焼きですか……」
「俺は甘いのが大好きなんだ!」
テーブルについたグラントリノは足をぱたぱたと振りながら楽しみに待つ。
緑谷が冷凍鯛焼きを電子レンジにセットする背中を見ながら、話題に上がった海原という男について考えた。
(俊典に比肩するほどの力を持った学生……まぁいわゆる天才って奴かもしれん。本来なら未来は安泰だと考えるべきなんだろうが、引っかかる。
小僧のOFAの制御に力を貸した、それでいて学生の範疇に収まらない戦闘能力。
……
☆☆☆
マニュアルの元での職業体験は代わり映えのないパトロールの日々だった。
保須市街の今は平和そのものだ。
ヒーロー殺し出現によって厳戒態勢となった保須市街ではヒーローたちが常に巡回していて、ヴィランが出ようものなら瞬く間に袋叩きになるような状態だった。
ヒーローたちが纏うピリピリとした感情が空気に乗って街に広がっているようで、忙しない印象を覚えながらも、ヒーローがいるためにトラブルはほとんど起きない。
日も沈み始めた頃、オレは飯田と並んでマニュアルの後ろを歩いていた。
「普段は活動依頼の電話を事務所で待っていることが多いんだけどね。ヒーローはできる限りパトロールするように要請があったんだ。
いつもとは違うけど、ヒーローのパトロールは大切だよ。“天哉”くんはなんでか、わかるかな?」
指導者として質問するマニュアル。ヒーロー名をシンプルに名前の“天哉”にした飯田はヒーローコスチュームのフルフェイスヘルメットの中から答えた。
「ヒーローが街の中を歩くことで、安心感を与えるためです」
「正解。さすが雄英生、そしてインゲニウムの――あっ、ご、ごめ……」
「いえ……兄のことを賞賛して頂けるのは誇らしいですから」
表情は窺えないが、普段の飯田を見ている、近しい者が聞けば声のトーンが下がっていることはなんとなくわかる。
「い、いやー……でも、まさか天哉くんと“ネイビス”にも来てもらえるなんて。雄英体育祭のベスト8と優勝者がうちみたいなサイドキックもいない事務所に来るなんて想像すらしてなかったよ。
二人とも、もっと上位のヒーロー事務所から指名あったでしょ」
「ボクにとって強さとかどうでもええんです。世の中の人達にヒーローとしてどのように接したらいいのかを学びたい思たんです。
それにマニュアルさん、同じ水の個性を持っとりますし」
さらっと嘘をつく。
この世界の名前も知らない民間人なんて割とどうでもいい。
ただクラスメイトの飯田が心配だったのと、この世界を引っ掻き回した先にある目的のために必要だっただけだ。
受け入れてくれたマニュアルには悪いが。
そんなオレの内心を知る由もないマニュアルは嬉しいこと言ってくれるね、と笑った。
「天哉くんは……」
「僕も同じです……ヒーローに詳しい友人がいて、誠実な対応をする素晴らしいヒーローだと、評判を聞いて」
「……なぁ、天哉くん。君、ヒーロー殺しを追っているんだろう」
「…………それは」
飯田の返答に力はなかった。
オレも言葉を閉ざして歩みを進めていた。
「正直、ウチに君みたいな優秀な子が来る理由が思いつかなくて。いや、来てくれたことは嬉しいんだぜ? ただ……ヒーローが私怨で動くのはやめた方がいいよ」
「……!」
「我々ヒーローは逮捕や刑罰を行使する権限はない。個性使用規制の中で個性の使用を許されたのがヒーローだ。
だから、ヒーローは決して己のために力を使ってはならない。もし、私利私欲のために個性を使えば、それはとても重い罪になる」
マスクで表情は見えないが、俯いていたのはわかった。
否定する反論もない飯田に気まずくなったのかマニュアルは慌てて取り繕った。
「ごめんねクラスメイトの前で! 海原くんも急にこんな話をして悪いね、一応これ職業体験だから! ヒーローとしての心構えとか、そういう指導みたいなやつだから!」
「いいえ。興味深く聞かせてもらいましたわ、マニュアルセンセ」
「含みがあるよ海原くん! あ、いや、ネイビス!」
オレが茶々を入れるとあははと笑うマニュアル。
「――ご忠告、感謝致します」
「わ、わかってるなら大丈夫だから。さ、行こうか」
飯田が拳を握りしめるのを見た。
葛藤しているのが、なんとなく感じ取れた。
復讐するかどうか悩むなんて、なんと善良で心優しいのだろうか。
やはり飯田はヒーローになれる存在なのだと、感じていた。
パトロールを続けていると、当然、夜になる。今夜も代わり映えのない、酔客の喧嘩すら起きない平凡な夜が始まるはずだった。
平和だった保須市に悲鳴と轟音が響き渡り、炎が街の光をかき消す。
通信が入り、マニュアルが答えた。
「ヴィランが!? わかった、すぐ行く。天哉くん、ネイビス、走るよ!」
「はい!」
「ちょい待ち、マニュアルさん。ボクならもっと早く現着できるで。ボクに先行する許可をくださいな」
「だけど、君は学生で……」
「なんのための仮免、なんのためのインターン扱いだと思っとるんですか。一応指示貰わへんとボクも動けへんのです」
「……わかった。ネイビス、先行を許可する!」
「了解。飯田クン、先に行くで」
「……ああ」
オレは足から水をジェットのように吹き出して空を飛び、火災現場にたどり着く。
既に何名かのヒーローが現場に到着していたが、そこは地獄のような有様だった。
「なんだこいつら……ヴィランか!?」
「く、なんてパワーだ!」
崩れた瓦礫を足元に、暴れ回るのは脳味噌を剥き出しにした怪人、脳無。
一体がヒーロー相手に掴み合い、力で弾いたかと思えば、豪腕を振るい、ヒーローを吹き飛ばした。
「あのスタンドアローンが力負けしただと!?」
「保須でもパワーならナンバーワンのスタンドアローンが……!?」
聞いたこともないヒーローだ。
映画なら噛ませ犬キャラだろうな、と失礼なことを思いながら着地する。
「インターン生、ウォーターヒーロー『ネイビス』。現着したで」
「っ!? インターン生って……学生を守る余裕なんてこっちはないんだ! さっさと避難誘導に回ってくれ!」
そう言いながらも消火活動にも、脳無の撃破も難しそうなヒーローの様子を見てため息をついた。
この世界、ヒーローが多すぎて能力もピンキリだ。
シンプルに警察や消防士のような画一的かつ組織による事件・事故解決を図った方が良くないだろうか。
「あきまへんで、兄さん方に姉さん方。ちゃんと実力は見抜かんと」
腕を振るえば水流が意志を持った生き物のように轟々と燃え盛る火へ飛び込み、かき消していく。
炎の光が消えていく。
「あああぉぉおおぉうッ!」
「また脳無。これで
オレを脅威として認識したのか、戦っていたヒーローを無視して突貫してくる脳無。
「“
「ごぶっ、ごぼぼぼぼぶぼぼぶぶぶ」
一直線に飛び込んできた脳無はオレの前に広がった水球に飛び込み、苦しげにもがいた。
水で拘束し、ついでに溺れさせる。脳無は動く死体でしかない。始末したところで問題ない。
「はい一匹。あと何匹おるん?」
「これが……学生の力……!?」
「雄英体育祭優勝者とは聞いていたけど、ここまでだなんて」
恐れ慄くヒーローたち。そんな暇あるかいな、とぼそりと呟くと、スマホに緑谷からのメッセージが届いた。
路地裏の現在地情報だけの送信。
「……近いなぁ。ヒーロー殺しでも出たんか?」
「危ない!!」
「何が?」
「ギュアアアアッ!!?」
背後から四足歩行で迫ってくる脳無に二本の水の槍が突き刺さる。
再生能力こそ持っているようだが、肉体に水の槍が突き刺さっていては押しのけて欠損部位を回復させることも出来ないだろう。
もがく脳無へのトドメに、剥き出しの脳味噌にも水の槍を降らせた。
「学生……だよな……躊躇なくいったぞ……」
「とんでもないやつだ……」
「ここまで力の差があるのかよ」
ヒーローたちのか細い悲鳴。
ちらりと横目で見やるが、立ち姿や振る舞いだけで大した能力はないとわかった。
ヒーロー殺しの応援に引き連れてもむしろ足手まといになるだけだ。
「応援にでも……お?」
翼を広げた脳無が空を飛び、ヒーローを捕まえていた。
流石に放置しては沽券に関わるか、とオレは飛び立ち、手のひらを脳無に向けた瞬間。
「下がっていろ!」
オレのすぐ横を高熱の赤い流星が通り過ぎた。
それは炎だった。
炎は翼を持つ脳無の頭部に直撃し、燃やされたことで脳無が生物らしからぬ悲鳴を上げて地面に落ちる。
放されたヒーローは現れた乱入者にキャッチされた。
「む……キミは……今年の体育祭優勝者の」
炎を放ったのは、No.2ヒーロー、エンデヴァー。彼はヒーローを抱えたままこちらに振り返った。
「ご存知? ボクはインターン中の仮免ヒーロー、ネイビスいいます。エンデヴァーさんに会えて光栄ですわぁ」
この人も出張っているのか、と驚くも、轟がヒーロー殺しとの戦いに参戦するなら職業体験先のエンデヴァーも保須に来るのも当然か、と納得した。
色々と引っ掻き回してAFOと最終的に戦うことが目的な以上、エンデヴァーに実力を知ってもらえるのは今後の作戦に影響する。
オレはにこやかに笑みを浮かべた。
「でもNo.2が横取りなんてあきまへんで」
「……そうか、すまない。だがお前はあくまで学生でありそしてヴィランは獲物ではなく確保するべき相手だ。
ゲーム感覚なら今のうちに捨てておけ」
軽い挑発はあっさり流された。大人だ。めっちゃ大人だ。
でも確かに少し腋臭っぽい。外だからあまり感じないけど。そりゃ轟も不安になるってものだ。
オレはヘラヘラ笑みを浮かべつつ、避難誘導にでも従おうかと思ったときだった。
遅れてマニュアルが走って現着した。そして慌てた様子で叫んだ。
「ネイビス! 飯田くんがいない!」
あっやべっ忘れてた。
ヒーロー殺しに襲われたので遅刻です