私が見てきた作品での掲示板回って前者ばかりだったから……作者の正体みたり!人格者として知られる作者の本性はタフ語録を操るマネモブだったのかぁっ!
というわけで掲示板回はおまけ扱いなのであまり気にしないでネ
体育祭を終えて。
オレは登校中も周囲の人々から喝采の雨あられを聴きながら歩く――のは個人的にとてもイヤだったので、原付で走っていた。
雨の中でもオレの個性ならば濡れずに走れる。もちろん個性の日常使用は仮免持ちといえどいけないことだが、この程度は一般人でも個性を使用している。
そもそも個性の無断使用を完全に取り締まるのは無理だし、余程迷惑をかけなければ見逃されるのが普通だ。
バレてこそいないが、もしもバレたらオレのこの両足についても何か言われるだろうか。
「そう考えると原付で通学は不味い気がする」
学校に許可はとっているものの、そもそも下半身不随の人間が個性を利用してバイクを運転しているのは非常に危なっかしい話だし、もしも事故を起こそうものなら一発で退学どころか刑事罰モノだ。
「気をつけねえとなぁ……とはいえ雨の中でもバイク通勤して濡れないのは楽だね」
ついでに言えば、関西弁キャラの仕草もサボれるから楽だ。
最近麗日に「海原くんって京都出身なん? 訛りも少しちゃうね」と関西弁トークを振られて答えに窮しそうになった。
よくわからないんですよすみませんね!
学生向け賃貸アパートから原付で約30分の雄英高校が近づいてきた。
駐輪場に停めて下駄箱で靴を履き替えていると傘を差した緑谷と長靴に雨合羽という規則正しい格好の飯田が現れた。
「おはよーさん二人とも」
「おはよう海原くん! だが遅刻だぞ、予鈴十分前だ!」
「飯田クンも遅刻になるんやないか?」
「だから急いでいるのだ早くしたまえ!」
「あの、飯田くん!」
緑谷が飯田を呼んだ。
少しだけオレのことを気にする素振りを見せたので、オレは便所に行ってその場を去ろうとしたが、飯田の言葉に足が止まる。
「兄のことなら大丈夫だ。心配かけてすまなかった」
「……お兄さんなにかあったん?」
体育祭の日、飯田は早退していた。
家庭の事情としか聞いていなかったが、その理由は、兄であるヒーロー『インゲニウム』がヴィランに怪我を負わされたというものだった。
飯田が下手人の名を口にする。ヴィラン――“ヒーロー殺し”ステインの名を。
そこで少し思い出す。体育祭のあとに行われる職場体験にて、緑谷と飯田と轟の三人で凶悪なヴィラン、ステインを倒すという展開になるはずだ。
テレビでも実際にヒーロー殺しの話題が挙がっていて、またヴィランも容赦なく殺しているのでステインが現れた土地では犯罪率が低下したという話もされていた。
ステインは社会が間違っていると訴えてヒーローもヴィランもまとめて始末している悪党だ。
どう間違っているのかは覚えていない。
なんだったかな。
古の漫画を読んだ記憶を掘り起こしていく。
そうだ、ステインはオールマイトの熱狂的崇拝者であり、彼が自分の訴えを伝えてその気迫に誰もがたじろぐ展開があったはず。
『なんで俺がオールマイトと結婚できねーんだよ! なんとかしろよお前ら! 法の穴をついて花嫁衣装のオールマイトを連れてこい! なんのため高い弁護士費用を払ってると思ってんだ!!
キャプテン・セレブリティの弁護団でドリームチーム組むんだよ!! それで花嫁姿のオールマイトと結婚するんだ!!
あ゛ぁ゛!? お薬!? ちゃんと飲んでるよ虹色のやつ!!』
これだ。確かに誰もが聞いたらたじろぐ。たじろぐどころか目を合わせずにスマホを見るかあさっての方向に目を逸らす。
自分の理想を社会に叩きつけ、その欲望を叶えるために凶刃を振るう咎人がステインだ。
「ヒーロー殺しステイン……危険なやつやな。自分勝手で……」
「そうだね……早くヒーローたちに捕まって欲しいよ」
「ああ。奴は絶対に許せない悪だ。必ず……」
飯田は少し口ごもってから、再び「遅刻するぞー!」と言い放ち、オレと緑谷の背中をぐいぐいと押し始めた。
まだ時間に余裕あるのだが。
今日のヒーロー情報学はヒーロー名決めというヒーロー科に加入した者なら誰もが心躍らせるイベントとなった。
これには職場体験というカリキュラムが関係している。
雄英体育祭を経て、ヒーローたちは将来有望なヒーローの卵をサイドキックとして迎え入れるべく、一人につき二票、生徒を指名する。
雄英生たちは指名先(指名がない者は学校が用意した受け入れ可能なヒーロー事務所へ)に職場体験として一週間、ヒーローというものがどうしているのかを学びに行くというカリキュラムだ。
「んで、雄英体育祭後に集計した指名結果がこうだ。例年はもっとバラけるんだが、今年は特殊だな」
プロジェクターにより黒板に名前と指名数が表示される。
細かい数字は省くが、ざっくり言うとオレが指名のほとんどを占め、競合を避けたヒーローの指名が轟、爆豪の順で集中していた。
「ほとんど海原パイセンじゃねえか!」
「やっぱり優勝したら集まるよな、指名も……実力差出ちゃってるなー……結果に」
切島と瀬呂の驚愕と溜息に対して、相澤先生は「そういうわけでもない」と注釈を入れた。
「海原は仮免取得生徒……つまりセミプロだ。だからもし受け入れてもある程度裁量があるから、一年を受け入れる余裕がない事務所でも受け入れやすいのもあって指名が集中している。
もちろん上位ヒーローからの指名もあるが、上位ヒーロー=大手事務所というわけでもない」
「それでも実力を見られるんじゃないですか?」
「もちろんだ。この差は実力差でもある。お前らも上を目指せ。海原もこの数字に満足するなよ。あと、お前の場合は期間こそ限定されているがインターン扱いとなる。ちゃんとやれよ」
「はいはい」
「はいは一回だ」
「はい」
人を育てるには金も時間もかかる。
それでもヒーロー活動をしながら雄英に限らず多くの高校のヒーロー科の生徒を受け入れるのは、ひとえに引退後優秀なサイドキックを確保したいから。
そうなると仮免を取得して自由にある程度任せられる上に実力を雄英体育祭で見せたオレは指名しやすいということか。
世知辛いね、ヒーロー。
もちろんそれだけの実力差がまだまだあるということは否定しないが。
「そもそも指名されたら安心というものでもない。
将来性を期待して指名したが期待外れと思われたら指名されなくなることも珍しくない」
「大人は勝手だ……!」
「大人も必死なんやで、峰田クン」
「自分への指名がそのまま自分のハードルになるんですね!」
「そういうこと」
葉隠の言葉に頷いた相澤先生が言葉を続ける。
「話は戻るが、職業体験でヒーロー活動の第一歩を諸君には踏みしめてもらうにあたって、コードネームつまりヒーロー名を決めてもらう必要がある。
仮だからと適当につけると――」
「――地獄を見ることになっちゃうからね!」
「うおおミッドナイト先生!」
「キター!」
狙い済ましたかのように登場した“18禁ヒーロー”ミッドナイトにクラスの一部の男子が色めきだった。スタンバイしていたのだろうか。
ミッドナイト先生は教壇に向かうと宣言した。
「学生の時につけたヒーロー名がそのまま世間に浸透して認知されることも多いわ。しっかり考えることね!」
「今回はミッドナイト先生にネーミングセンスを査定してもらう。俺には無理だ」
寝袋にもぐる相澤先生。寝る必要はないのでは。
「まずは見本として海原くんに発表してもらいましょうか。
海原くん、いいかしら」
「あぁ、はい」
配られたフリップボードにさらさらと書く。
オレはもう既に決まっているから見本にちょうどいいのだろう。
教壇に立ち、フリップボードを生徒たちに見せつける。
「えー、軍艦ヒーロー『超ド級親戚のおじさん』」
「ちょっっっっと待ちなさい!!」
「どないしたん? ミッドナイトセンセ。変なヒーロー名ちゃうでしょ?」
「変よ!! それに登録したものと違うでしょ!! 見本を見せろといったけど大喜利みたいにするつもり!?」
「あ、そういうやつちゃうんですか」
「ちゃうわよ! ちゃんとした奴になさい!」
書き直すオレ。
「はい、ヒーロー基本法第一条第一項目『指定の教育機関を卒業し、国から適格と認められた者へ付与される資格を取得したもの』」
「ヒーロー!! 紛うことなきヒーローだけどそれ全部のヒーローに当てはまってるから!」
「ちゃんとしろって……」
「ちゃんとしすぎ!!
だから貴方が登録したヒーロー名を解説してと言ってるの!!」
「おい海原。真面目にやらんと除籍にするぞ」
「はいはーい。ボク一応関西人やで。ボケを振られてるかと思たわ」
怒られたので今度こそ本物を出す。
「“ウォーターヒーロー”ネイビス。ネイビーと
水に関連するヒーローであり、それでいてヴィランには
「このように、どんなヒーローなのかわかりやすくアピールすることが大切よ! この名前はシンプルかつ語感もよくて、水に関係する個性を持つヒーローということがわかりやすくていいと思うわ!」
「去年出した『アルティメットポセイドン六世』とか『超絶ウルトラスーパーウォーターマン』の方が強そうやと思っとったんやけどなぁ」
「ダサいわよ」
(ダッサ)
(ダサいな……)
(ダッセ)
(悪くねェな……!)
(うわダサいなぁ)
(ダサい!)
(ダッサ……)
(ダサいですわ……)
何故かオレの過去の案に対してみんな黙ってしまった。溢れるネーミングセンスに感銘を受けたのだろうか。
それから続々と生徒たちがヒーロー名を発表し、ミッドナイト先生が評価していく。
概ね高評価が続く。時々爆豪のセンスが爆発した素晴らしいヒーローネームが出てきたが尽く却下されてしまっていた。
「クソッ……何でダメなんだよ……!」
「ボクはかっこええと思うんやけど」
「ああ……!」
ヒーローネームの名付けを終え、職業体験を控えた放課後のこと。
「はぁ……飯田くん……大丈夫かな……はぁ……はぁ……!」
体育祭前からすっかり定番となったオレによる緑谷へのトレーニング、そのウォーミングアップの10kmのランニングを終えると、緑谷は滝のような汗をタオルで拭いながら浮かない顔をしていた。
「ヒーロー殺し……お兄さんのインゲニウムのこと……」
「大丈夫ではないやろなぁ。尊敬するお兄さんを傷つけられて冷静でいられるわけあらへん」
「それはそうなんだけど……職業体験先が、“ノーマルヒーロー”マニュアルのところなんだ」
「……うん?」
「……え? だから、マニュアルのところだよ、海原くん」
「いやそんなこと言われても……ボク知らんし……マニュアル……」
「え!? あ、ごめん!」
体育祭を終えて緑谷は『海原さん』ではなく『海原くん』と呼ぶようになった。
仲良くなったからか、彼に自信がついたのか、意外と雑魚だなと舐められたか……最後は冗談だ。
緑谷はスポーツドリンクを豪快に飲み干した。
「ノーマルヒーローマニュアルというヒーローは東京都保須市に事務所を構えるヒーローのことなんだ。苦手なことはなく、何でもそつなくこなす万能さが売りで事務所のホームページにある『現代ヒーローのマニュアル的な存在になりたい』という理念からくる市民に寄り添い誠実な行動は常にアンケートでも優秀な結果を得ていて、派手なヴィラン退治や災害救助こそないからヒーロービルボードチャートの上位にランクインしている訳では無いけど常に自分にできる活動を率先して行い他のヒーローとのチームアップもこなす幅広い活躍を見せるヒーローなんだ」
「…………へぇ、すごいなァ」
ヒーローWikipediaみたいな説明にオレはただ頷くだけしかできなかった。
人は、他者の凄まじい熱意を感じると、圧倒される。たぶん、ステインもオールマイトへの漲る愛によってヒーローすら圧倒したのだろう。そりゃ圧倒される。
「ヒーロー殺しステインは保須市でインゲニウムを襲った。飯田くんはもしかして、お兄さんの仇を討つために……」
「そうは言うても、ヒーロー殺しは保須市から移ってるかもしれへんで? 職業体験も数日先のことや。連続殺傷犯が同じ土地に残るもんか?」
「……ワイドショーでの報道だと、同じ地域で複数のヒーローを殺傷してるんだ。自分の主張を社会に伝えるため……らしい」
オールマイトとの結婚を認めろということか、それともオールマイトへプロポーズしているつもりか。
ステイン、やはり危険な奴だ。
ああは言ったが、今回の事件もやはり飯田、緑谷、轟がステインと激突することになるのだろう。
オレもかかわったほうがいいのか、それとも黙っていた方がいいのか、判断に困るところだ。
どうしたものかと考えているとふいに思い出した。
職場体験の指名ヒーロー一覧をスマホで確認すると、やはりマニュアルの名前があった。
マニュアルの個性が水を操作する個性らしく、それもあって指名した旨の説明がリストに載せられていた。
これなら自然とオレも関われそうだ。
「ま……飯田くんのことよりも心配すべきことがあるわ」
「え……?」
「ほら、見てみ」
視線を向けた先には地面に這い蹲る心操人使の姿があった。汗を大量に流し、聞いていると不安になる音色の呼吸を繰り返していた。
体育祭以後、彼の希望により、緑谷と共にトレーニングに参加させていたが、流石にヒーロー科で毎日鍛えている緑谷と比べて心操は基礎体力がまだ追いついていなかった。
訓練するための体力をつけるトレーニングから開始したのだが、今日はようやくへばりつつも10km走に付いてこられるようになっていた。
「ぜひゅ……こひゅっ……はっ……はぁっ……!」
「心操くん、いきなり倒れこむと苦しくなるから少し歩いた方がいいよ。はい、スポドリ」
「ごほっ……はぁっ……ありがとう、緑谷……んぐ、んぐ……!」
ヒーロー科編入をめざしてトレーニングを積みたい心操は体育祭後、オレを訪ねてきた。
相澤先生にも話を通し、普通科の授業と並行して心操は相澤先生による編入のため補講、そしてオレと緑谷の自主トレにも参加と中々ハードなスケジュールをこなしていた。
「心操クン、体壊したら元も子もあらへん。無理したらアカンよ」
「ごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ……!」
「……聞いとる?」
「ぶはっ……! 無理も何も、遅れを取り戻さなきゃならないし、追いつくだけじゃなくて追い越さないといけないんだ……他人より数を積み重ねないと質もついてこないだろ」
「心操くん……! そうだよね、僕もワンフォーオール・フルカウルを身につけたとはいえ、結局5%程度しか力を発揮できてない……頑張らないと!
このオールマイトスポーツドリンクとともに!」
「……緑谷はやっぱりオールマイトが好きなのか?」
「あっ、アカン」
「好きというかオールマイトはなんていうか僕の心を照らしてくれた太陽いやそれは少し大袈裟かなオールマイトはおにぎりみたいな感じだね毎朝出てきてもOKって感じで特に初心者にオススメするのはタンカー爆発事故のときに逃げ遅れた16人を48秒で救出し終えてさらに全員の服にはサインまでしてあげていて少し焦げたサイン付き作業服はオークションで700万円まで跳ね上がったというんだけど僕としては家宝にしてとっておくべきなんじゃないかなという気持ちもあるんだけど純粋にそこまで価値があると認められるのも納得で心操くんもオールマイト好きだよね多分好きだと思うよオールマイトを好きになろう10年でも100年でもオールマイトフォロワーでいようよでも迷惑をかけるタイプのファンと一緒にされ」
「緑谷、オールマイトの好きな技は?」
「もちろんデ――」
「少しベンチに座っていろ」
マシンガン通り越して絨毯爆撃並に隙のない勢いでまくしたてられたオールマイトトークは心操の個性によって封殺された。
緑谷は口をキュッと締めて背筋を伸ばしてベンチに座った。何も喋らない。
「やっぱりめちゃくちゃヒーロー向きの個性やで……」
「そうかぁ……?」
「せやで。今めっちゃ助かったもん」
「緑谷にそういう話題は地雷なんだな……」
「熱意というのはすごいで。ホンマに」
ランニングの休憩後は緑谷はフルカウルを使って個性無しの俺と組手、心操は回避や防御の体の使い方を練習した。
まるで青春を楽しむ男子高校生のようだ。
思わず微笑みたくなる心地を覚えるのとは反対に、身内を傷つけられ、心もまた傷ついているだろう飯田が心配になった。
職場体験初日。
A組の生徒たちはコスチュームを持ち、駅に集合し、それぞれのヒーロー事務所へ向かうために新幹線に乗り込んだ。
「飯田くん! どうしようもなくなったら……言ってね」
「うんっ」
緑谷と麗日の見送りに対して飯田は曖昧に返事をした。オレはその隣で黙ってその顔を見ていた。
復讐を考えつつも、葛藤する、若者の顔だ。
なんて声をかけようか、と考えながらオレは東京行きの新幹線に乗り込んだ。
「海原くんも東京方面か? ヒーローの数が多いから、他の皆もこの路線に乗っている者が多いようだが」
「せやで。飯田クンはどこのヒーロー事務所を選んだんや?」
「僕は……東京に事務所を構えるマニュアルさんを選んだよ。誠実な対応が売りのヒーローなんだ」
「へぇー……奇遇やなァ」
「え……?」
オレは手をひらひらと振りながら笑った。
「ボクも、マニュアルさんとこでお世話なんねん」
薄く目を開けてそのことを明らかにすると、あからさまに飯田は動揺を見せた。
まるで後ろめたいことを咎められた人のように。
やはり復讐とヒーローとしての理性で心が揺れ動いているのだろう。
「ボクは……」
飯田がぽつりと、語り出した。
その言葉はまさしく、思い悩む若人の悲鳴そのものだった。
蛙吹「緑谷ちゃん、海原ちゃんのことは君付けで呼ぶようになったのね。その調子で私も梅雨ちゃんって呼んでもらえると嬉しいわ」
緑谷「え、えっえっえっあ、あ、あ、あ、あ、ああああつ、つつつつつつつ、つ……梅雨入りヒーローっていい二つ名だね!!」
蛙吹「惜しいわね」
海原(ハニトラとか引っかからんやろか……)
麗日(お茶子さん……って……いやいや何考えてんだ私……!)