異物混入アカデミア!   作:伊良部ビガロ

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第6話 雄英体育祭 その3

 心操人使にとってヒーロー科は選ばれた者たちが集う、陽の当たる場所だった。

 ヒーローになるべくして生まれた個性を持っている人間たち。人は生まれながらにして平等ではない。

 自分の“個性”が如何にヴィランのように悪辣で、そしてヒーロー科の生徒たちの“個性”が如何にヒーローらしいものか、第一種目の障害物競走で目の当たりにしていた。

 その中でも――海原大海。彼は別格だった。

 雄英体育祭で有利に立ち回るためにヒーロー科メンバーの個性や成績の情報をそれとなく集めていたが、海原が留年生ということを知った。

 留年という事実はコンプレックスになるだろう。

 心操が持つ個性“洗脳”は声をかけた相手が返事をした時に発動し、洗脳する個性。返事を確実にしてもらう為には、思わず反応してしまうような事柄を押さえておくことは勝率に直結する。

 さらに去年の雄英体育祭一年生ステージをチェックし、戦いぶりも探り――格の違いに心を打ちのめされた。

 

「こういう奴が、ヒーローになるんだろうな」

 

 一年生ステージでは他を寄せ付けず全ての種目で一位通過。決勝のスポーツチャンバラでは両手と口に竹刀を加えて三刀流で優勝。ちなみに試合では個性でゴリ押し。三刀流にした意味は見た目だけだった。

 個性の強さ、戦闘センス、判断力、派手さ。

 優勝後、二学期には本来二年生で取得するはずの仮免を飛び級で合格。

 心操が求めて止まない全てを持っていた。

 

「なんでこんな化け物が留年してんだよ。一年のステージに出るなよ」

 

 二年生のクラスに行き、留年理由を聞いてみた。

 インターン中の大怪我により単位が足りなくなったが故の留年だという。

 化け物だと感じた海原ですら大怪我を負うのがヒーローの世界かと、自信をなくした。

 それでも自分は、ヒーローになりたい。ヒーローになり、人を救いたい。その姿に憧れてしまったのだから。

 勝たなくては――海原を越えられなければ、ヒーローにはなれない……と第一種目から海原の様子をチェックしていた。

 一位になるだろう、と確信があった。しかし、

 

『一位は緑谷出久ゥーッ! 二位が轟焦凍で三位は爆豪勝己、去年優勝している海原大海は四位だ! 油断か、余裕か、それとも今年の一年は大豊作の年なのかァーッ!!』

 

 結果は四位。

 上位三人が強かった? いいや違う。

 

(あいつ……手を抜いてやがった……!)

 

 その気になれば追いつくことはできたはずなのに、四位の確保がわかるとあとは流していた。

 

 ――むかつく。

 

 心操の心に怒りが灯る。

 海原が余裕そうに笑って、当たり前のように過ごしているその場所は、望んでもたどり着けない場所なのに、まるで余興と言わんばかりに笑みを浮かべている。

 勝利に興味が無いのなら、寄越せ。

 利用させろ。

 

 第二種目の騎馬戦でチーム決め交渉の時間が始まった瞬間、心操は海原の背中に歩を進めた。

 その背中に、声をかけた。

 

「よぉ。留年したアドバンテージがあるのに勝てないって、どんな気分だ?」

 

 ゆらりと海原が振り返る。

 怪訝そうな顔。当然だ。普通科の石ころなんてお前は知らないだろう、と心操は嘲笑を浮かべ、怒りによる返事を呼び込む。

 海原が口を開く。

 

「いやに喧嘩腰や……ね……」

 

 勝った。

 化け物にも個性が通じる。

 こいつを利用して目立ち、決勝でも勝ち抜いてやる、と渇望を燃やす心操。しかし、有り得ないはずの声が返ってきた。

 

「っ、と――頭痛いわァ……キミ、精神干渉系の個性やね」

 

 洗脳されたはずの海原の目に光が戻っている。

 心操の心を絶望が覆い尽くした。

 

 ☆☆☆

 

 背後からかけられた言葉に返答したら、一瞬意識が飛んだ。留年したことを煽ってきたみえみえの挑発をしたのは誰かと思った瞬間だった。

 そして、一瞬飛んだ意識が覚醒する。直後に脳がキリキリと痛みを訴えた。

 

「っ、と――頭痛いわァ……キミ、精神干渉系の個性やね」

「なんでお前……個性が効かない……!?」

 

 目の前には、以前A組に宣戦布告をしに来た普通科の生徒。

 紫髪の少年の言葉と、精神に干渉する個性という二点で気がついた。

 体育祭編で普通科からヒーロー科編入を目指して戦う生徒、心操人使その人がオレに個性を使ってきたのだと。

 確か原作では……どうやって勝ち抜いていたんだっけ。

 決勝ステージのタイマンバトルで緑谷出久に倒されたのは覚えている。その後も見せ場が結構あったはずだが、如何せん記憶が朧げだった。

 

「キミは……普通科の生徒やね。

 いきなり精神干渉系の個性を使うなんて、張り切っとるなぁ」

「っ……悪いな、俺はお前たちヒーロー科みたいなヒーロー向きの個性じゃないんだ。こうでもしないと勝てないんだよ」

「充分ヒーローに適性のある――ああ、今のが二回目の発動やね。発動条件はキミの問いかけに対象が返答することやな。

 流石に二回目はもう効かへんよ。ごめんなァ」

「はぁっ……!? お前、水を操る個性じゃないのかよ……!」

 

 心操の二回目の個性を個性で弾く。

 初回こそ不意を打たれたのもあって一瞬引っかかったが、二回目はほぼ反射で防御した。

 

「水を操る個性……まぁその通りやで」

「なら、なんで……!」

「脳神経の水分を操ってんねん。神経細胞の電気信号は電解質のやり取りを介して発生する――ボクの水分操作の個性で電解質の濃度を操って、脳神経の電気信号の異常を見つけて治しとるんよ。

 流石に精密性を要求されるから、何回もやられると頭痛(あたまいた)ぁなるけどな」

「マジもんの化け物じゃねえか……!」

 

 心操の表情が曇る。

 個性を使い、洗脳してチームを組む予定だったのだろう。この個性なら終了間際に得点が多い騎馬チームに声をかけたら上位進出は簡単だ。

 それが頓挫したわけだ。

 

「キミ……名前聞いてもええ? ボクは海原大海。一年A組や」

「知ってるよ……俺は心操人使。……普通科だ。それでどうする? 俺の個性を周りにバラすのか?」

「まさか。そんなもったいないことするわけないやん」

 

 騎馬チームは緑谷と組もうかと思った。頼れる先輩ヅラしつつ、ド派手に盛り上げるために。

 しかしここで心操に接触されたのも何かの縁だ。

 ここで心操の個性をバラして敗退させるなんて、つまらない。

 オレは彼に右手を差し出した。

 

「心操クン……ボクと組まへん?」

「正気かお前? いきなり洗脳の個性をかけるようなやつに」

「オモロいやん、個性で支配下に置いて、チーム戦を自分の力だけで勝ち抜こうとする奴。

 ボクはそういうオモロい奴と組みたいんや」

「面白い、ね……アンタみたいな既に黙っててもヒーローになれるような奴は余裕だな。こっちは普通科からヒーロー科に編入することに必死だってのに」

「せやね。余裕や、この騎馬戦は。ボク一人で個性乱発してれば少なくとも上位四チームには入れるで」

 

 あと二人、組む人間が持つポイント次第だが、最初から上位四チーム以内のポイント数を持っていた場合、オレがエリアの端っこから大量の水流をぶちかまし続けていれば維持できる。

 もしもポイントが上位四チーム以内に入っていない場合は、オレが騎手の場合は騎馬の三人にしっかり動いてもらう必要があるが、オレが騎馬をやればこれまた水で攻勢をかければハチマキを奪い取ることも容易い。

 今の生徒たちとオレの間には個性の相性や戦略、戦術では埋められない差が存在している。

 はっきり言って、オレと組むだけでほぼ勝ち確定だ。無論、見せ場をすべてオレに譲ることになるから、体育祭の結果を考えると本末転倒になるが。

 とはいえ、オレとチームを組むよりも、第一種目で二位、三位と目立つ活躍を見せた轟と爆豪に交渉するA組のメンバーが多く集中していた。

 寂しい。

 

「どないするん、心操クン?」

「……俺の個性はヴィランに向いているような個性だ」

「せやろか? 使い方次第やろ」

「ずっと言われてきたよ、洗脳は便利だ、犯罪に使えるって。わかってるんだ……使い方次第なのは。それでも俺は、ヒーローになりたい。

 今の時点でお前らヒーロー科よりもずっと後ろにいる俺は……手段なんか、選んでられない」

 

 心操は俺に歩み寄ると、差し出した右手を掴んだ。

 

「絶対に勝つ! でも、海原、お前のおんぶにだっこで勝つ気はないからな」

「ええやん、その顔……グッとくるなァ」

 

 我らが主人公、緑谷を助けてやろうかと思ったがいつのまにかチームを組んでいるし、心操を仲間に加えられたのは僥倖だ。

 体育祭前の特訓期間があるのに寂しいじゃないか、緑谷よ。

 彼のことだから、(第一種目で海原さんに助けてもらった……今度は、助けがなくてもやれるってことを見せなきゃ……修行してもらった意味がない!)とか思ってそうだが。

 

「あと二人を組むが……海原にアテはないのか。俺は普通科にいて知り合いなんてヒーロー科にいない」

「うーん、ボクは身長190cm以上あるからなぁ。騎馬を組むにしろ、騎手をやるにしろ、ガタイの良さは必須やね。心操クンは騎手やりたいん?」

「俺の個性は声さえ出せれば問題ないから、お前の方がいいんじゃないのか? 騎馬は苦しくなるが……仲間さえ欲しければ洗脳で集めるが……誰でもいいんだろ? 仲間は」

「どうせやるならオモロい子とやりたいやん……洗脳ってなにしたら解除されるん?」

「強い衝撃を与えられると解除される。騎馬戦だと強い接触があるかもしれないから、それが危ない」

「なるほどなァ」

 

 オレは作戦を練る。オレはなんでもできるがどちらかというと中遠距離での戦闘が最も力を発揮できる。心操は初見殺しの搦め手。となるとあとの二人は近距離戦闘型が欲しい。

 A組で近距離戦闘に強いタイプというと、何人か思い浮かんだ。

 

「切島クン……は爆豪クンと組んでもうたな。体格を考えると障子クン、砂藤クンやけど……心操クンが騎馬に回るなら尾白クンも優秀やな。よし、心操クン!」

「なんだ?」

「まず一人目や。障子クンって生徒が……あの子や。声かけてきぃ」

「あの腕が複数ある異形型の奴か? なんで俺なんだよ。同じクラスのお前の方が仲間になれるだろ。

 そもそも俺は体育祭前にわざわざA組に宣戦布告してるんだぞ。今更仲間になってくれって……」

「何言うとるんや。今どきのヒーローは商売敵だろうとチームアップするのが当たり前や。普通科でも必要とあらばチームを組めるとアピールするのは大切やで」

「言いくるめられてる気がするが……わかったよ」

 

 障子目蔵という生徒はオレと変わらない身長を持ち、異形型個性の持ち主なだけあって体格もいい。

 個性“複製腕”は背中から生えた腕や目、耳を生やすことも出来、体格から生み出されるパワーに限らず、索敵も可能という万能性を持つ。

 仲間となればとても心強いだろう。

 心操が声をかけるのを背後から腕を組んで見守る。

 気分は初めて公園で遊ぶ我が子が他の子に声をかけるのを見守る微笑ましい気分だ。

 

「あのさ……えっと……障子、だよな」

「む……お前は普通科の……チーム決め交渉の話か?」

「ああ。俺は心操。普通科C組だ」

 

 心操は少し気まずそうにしている。障子はマスクから表情を伺うことはできないが、目を見るに決して悪感情を抱えているわけではない。

 

「作戦があるんだ。同じクラスの海原と既に組んでいて――」

「待て、言う必要はない。悪いがチームを組むことはできない」

「っ、確かに宣戦布告をした俺に対して悪感情があるのはわかる、だけど」

「勘違いするな心操」

 

 障子が複製腕を広げた。その背中にはA組の淫獣の評価を既に欲しいままにしている峰田実がちょこんと乗っていた。

 

「俺は既にチームを組んでしまっている。先約を優先させてもらう。その状態で作戦を聞くのはフェアじゃないだろう」

「悪ぃな、心操だっけ? オイラは峰田。オイラたちの作戦だとお前を入れるのも無理だから、チームは組めねえんだ……騎馬戦の時は容赦しねーぞ!」

「あ、ああ、そうか……わかった。……ありがとう」

「何故礼を……?」

「いや、他意がないとわかったから、安心して……が、頑張れ、よ」

「お前もな、心操。健闘を祈る」

「今度おすすめのエロ本送ってやるからな」

「それはいい」

 

 お祈りメールを貰って帰ってきた心操の表情は断られたにしては晴れやかだった。

 

「どうしたん? 嬉しそうやん」

「……A組の連中は偉そうな奴ばっかりだと思ってた。他人をモブって見下して」

 

 それは一人だけだ。

 

「でも……なんかな。意外と……爽やかな奴らだったよ」

「エロ本勧められたのにか?」

「ヒーローになりたいからってのはもちろんだけど、ヒーロー科に入りたくなった」

 

 エロ本の下りは聞かなかったことにしたらしい。

 心操の表情が少し穏やかになっていた。

 

「心操クン、今にも満足して死にそうな顔しとるで」

「どんな顔だよ! で、あとの二人はどうするんだ。チーム決めは何も進んでないぞ」

「せやね。尾白クンと砂藤クンが狙い目やね」

「わかった……また俺か?」

「当然」

 

 砂藤と尾白の元へ向かった心操。先程よりもぎこちなさはとれて、比較的スムーズに話が進んでいた。

 ヒーローを目指す戦いの舞台の中であっても……むしろ、共通の目標があるからこそ、話しやすい部分もあるだろう。

 ましてや男子高校生同士ともなれば、なおさら。

 心操が砂藤と尾白を連れ立ってオレのもとへ帰ってきた。

 

「おいおい海原パイセン! とんでもなく強力な個性持ちを確保してるじゃねーか!」

「洗脳の個性については聞いたけど、乱戦の中では超優秀だよね……くっ、派手だな……!」

「アハハ、雄英からしたらヒーロー科に入学させないのがもったいないって感じやね」

 

 入学試験はロボットの撃破数を競う内容だったため、対人特化個性の心操では分が悪い。

 とはいえヒーローになってからはパニックになる個性暴発者や人質をとるヴィランを簡単に無力化できるし、活躍の幅が広い。

 相澤先生も『あの入学試験は非合理的だ』とボヤいていそうだ。

 心操は面映ゆそうに頬をかいた。

 

「俺の個性を聞いてそういうリアクションを取る奴らは初めてだよ……ヴィラン向きとか、犯罪に使えるとか、そういう事ばっか言われてたのに。皆そうなのか、A組は」

「中学のときの連中なんて何も考えとらんやろ、ヒーロー云々のことなんて。雄英の生徒たちと比べて本気でヒーロー目指しとるかどうかの違いやない? 知らんけど」

「あ、パイセンの本場の関西弁仕草」

「本当に言うんだなぁ……」

「大阪弁がメインであって京都弁じゃ言わないんじゃないのか?」

 

 さっそく砂藤、尾白、心操が打ち解けている。

 それはそうとインチキ京都弁がバレそうで少し焦る。はやく標準語で喋りてぇ〜関西弁めんどくせぇ〜!

 

「それで、騎馬の構成はどうするんだ。砂藤と尾白、海原としては騎手に向いてるのは誰なんだ」

「俺が騎手は厳しいな……俺の個性は“シュガードープ”。糖分をとるとパワーアップするんだが、三分くらいすると頭がクラクラしてくる。今回の競技は十五分だから、一回個性を使うとかなりまずい」

「俺の個性は尻尾で、見ての通りだ。騎手や前衛になると尻尾を活かせないから、後衛がいいな」

「ボクはどこでもええけど、体格がいいからなァ。心操クンが騎手の方が機動力上がるんやない?」

「となると……俺が騎手でいくか」

 

 話がまとまる。前衛がオレ、後衛が砂藤と尾白だ。

 A組でもかなり武闘派でありながら砂藤(パワー型)尾白(テクニカル型)オレ(万能型)と別れた騎馬ができた。

 

「ボクが考える作戦としてはシンプルに近づいて心操クンの個性でもぎ取るのがええと思うんよ。

 範囲攻撃、中距離攻撃は軒並みボクが封殺できるし、騎馬では当たり負けしない」

「パイセンの案で俺はいいと思うぜ」

「俺も異論は無いよ。とはいえ……問題は」

 

 砂藤と尾白、そしてオレの視線が心操に向く。

 向けられた眼光にたじろぐ彼の両腕を尾白と砂藤が掴み、オレが太ももを揉む。

 

「うわぁっ!? なにしてんだお前ら!」

「普通科だから仕方ないとはいえ、この筋肉はまだまだお子ちゃまだな……」

「関節の柔軟性、肉付きもヒーロー科でやるには足らないな。ハチマキで取り合う時が少し不安だね」

「鍛えてはいるけど一般的な男子高校生の域に収まる程度やね。心操クン、フィジカルは大切やで」

「いきなりだなお前ら! 仕方ないだろ増強型でもなんでもない個性なんだから!」

 

 心操の悲鳴じみた声は負け惜しみに近い発言だったのだろう。

 しかしA組の中でも特に筋肉に一家言ある二人の目の色が、ぎらりと変わった。

 

「いいか心操! ヒーローたるもの個性にかまけるのはダメだ!」

「砂藤の言う通りだよ! 俺も尻尾の個性だけど、はっきり言って尻尾があるだけの普通の個性だ。でもフィジカルを鍛えることで近接戦闘において手数を増やすことが出来た!」

「俺だっていくらパワーアップしても元の力が弱ければ意味がねぇ。わかるか心操、筋肉なんだよ……ヒーローは筋肉、そしてフィジカル! どんな個性でもこれをつけないとダメだ! 相澤先生を見ればわかる」

「あの人はすごいな……細身だし、清潔感ないからパッと見分からないけど無駄のないしなやかな筋肉を纏っているのがわかる。

 研ぎ澄まされた刀のような肉体の持ち主だ……!」

 

 二人とも筋肉の話になると早口になるな。

 心操がオレに指を指した。

 

「あいつは、海原は細身だろ!」

 

 そう言われては黙ってはいれない。

 オレは無言でジャージを脱ぎ、タンクトップ姿になると、二の腕から肩にかけての筋肉を見せつけた。

 

「どや」

「うおっ……細身に見えて服の中すげえ……!」

 

 心操の驚く声に砂藤と尾白は『素人はこれだから、俺たちは肉体を見なくてもわかるぜ』とばかりに手のひらを広げてやれやれといった仕草を見せた。

 

「パイセンの肉体はすげえ。バランスという意味では爆豪もいい線いってるが、柔軟性がありながら分厚い筋肉が体を満遍なく覆ってる。

 増強系でもないのにあの体はただストイックに鍛えて手に入れられるものじゃねえ……着替えの度にミケランジェロの彫刻を思わせる肉体美……特に上腕二頭筋と三頭筋のコンビネーションは金を払ってでも見たいやつがいるぜ」

「武闘家として見ても、文句なしだね。相澤先生が研ぎ澄まされた刀なら、海原パイセンは質実剛健な両手剣……鞘に隠されながらも抜けば誰もが息を飲む豪壮さがある。

 まさに戦うための筋肉だよ。俺もこんな筋肉を手に入れたい……着替えの度に体を覆う広背筋の逞しさに、武闘家として挑みたくなってしまうよ……!」

「キミら、ボクの着替えそんなにチラチラ見てたん??? 次から一人で着替えるわ……」

「A組は……皆こうなのか?」

 

 オレはジャージを羽織り直した。他の女子たちが見ていたらしく、俺が振り返るとみんなが恥ずかしそうに目を逸らした。

 興味津々な子が多いようだ。

 

「真面目な話、フィジカルを鍛えとかな、キミの個性を使う前にやられてまうから。ヒーロー科編入を目指すんなら、きっちり鍛えとき」

「あ、ああ、わかった……」

「心操、プロテインはボディビルヒーロー“ダブルバイセプス”監修の倍々マッスルがおすすめだ。ストロベリー味は美味いぞ。初心者にもおすすめだ」

「俺はジェットヒーロー“ムテキシャトル”監修のジャックルパウダーがいいと思う。チョコレート味は定番だよ」

「わかったから騎馬を組むぞ!!」

「すっかり仲良くなったようで、ええやん」

「とりあえず下半身からだな。自重トレーニングのスクワットがいい」

「ああ、俺もそう思う。まずは土台を固めないと怪我の元になる」

「使うべきジムは?」

「もちろん雄え――」

「雄英の設備がそろ――」

 

 砂藤と尾白の目から光が消えた。心操の洗脳が決まった。

 やはり強力な個性だ。

 

「始まるまでの二分、このままでいいよな」

「クククッ、ええやん。おもろいなぁ、キミら」

 

 心操はウンザリとしつつも、楽しそうに見えたのは気のせいではないだろう。

 すべての組が騎馬を組んで、準備が完了する。

 

「あ……ん? もう始まるのか!」

「え……あれ、寝てたかな? よし、行くぞみんな!」

 

 二人が洗脳から目が覚め、気合いの声を上げる。

 既に騎馬戦開始が目前に迫っており、観客の声はスタジアムを文字通り、ビリビリと揺らしていた。

 プレゼントマイクが声を張り上げる。

 

『さぁ上げてけ鬨の声! 血で血を洗う雄英の合戦が今!! 狼煙をあげる!!』

 

「心操クン、キミの決断は間違ってなかったで」

「どうも。終わったあとにもう一回言ってくれ」

「マッスルスリーとマッスルルーキープラスワンチーム、いくぜ!!」

「後方は尻尾でカバーするから、思い切り前に行こう!」

 

「いくよ、麗日さん、発目さん、常闇くん!」

「はいっ」

「ンフフフフ」

「ああ」

 

「……俺は、クソ親父を……!」

「いきますわよ轟さん!」

「範囲攻撃ならまかせとけよ!」

「スピードなら誰にも負けない……必ず勝つぞ、轟くん!」

 

「全員ぶっ殺す……!」

「殺すな殺すな、ハチマキ取れよ!」

「やれやれ……こいつ大丈夫かよ」

「とにかく派手に決めよーっ!」

 

『スリー! ツー! ワン! スタート!!』

 

 騎馬戦が幕を開ける。

 ナンバーワンへの渇望を隠さない参加者たちの、熱気が今、混ざりあった。




次回予告

砂藤「やっぱりパイセンはぶぶ漬け如何どす? とか言わないのか?」
尾白「よく聞くよなそのセリフ」
心操「京都の帰りを促すための言葉みたいなやつだったか……」
海原「そもそも遊びに来てくれた人に帰って欲しいと思う場面てそうそうないやろ」
峰田「おーいパイセン! 京都の芸者遊びを教えてくれよぉーっ! ウワッ!! あっちぃなんだこれ!!」
砂藤「本場は茶漬け投げるのか……!」
心操「もったいないな」
海原「ただのお湯やで」
峰田「アッツ、アツ、アツゥイ!」



更衣室
UNBR「アッそうだ(唐突) おいSTU、OJRァ!」
STU「えっ何?」
UNBR「お前らさっきオレが着替えてるところチラチラ見てただろ(因縁」
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