異物混入アカデミア!   作:伊良部ビガロ

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第4話 雄英体育祭 その1

 敵連合襲撃事件から休校となるも、登校が再開された日の朝。

 轟焦凍は机に頬杖を突いて、騒がしいクラスメイトの話を耳に入れていた。正確には、同じ話題を全員が語っているため、意識しなくても自然と耳に入ってくる、というべきだった。

 ホームルーム前の話題は当然、地上波で大ニュースとして報道された襲撃事件に関するものばかり。

 

「ねえねえ昨日のニュース見た!? クラスのみんな全員映ってたよね、一瞬! 私全然目立たなかったけど……」

「確かにな」

「葉隠さんはあの恰好じゃ目立ちようがないもんね……」

 

 葉隠、障子、尾白がニュースの一幕を語れば、

 

「しっかし、どのチャンネルもおっきく扱ってたよな」

「びっくりしたぜ」

「そりゃあ無理ないよ、プロヒーローを輩出するヒーロー科が襲われたんだから」

 

 上鳴と切島、耳郎の席が近い者同士が話した。

 

「もしもオールマイトが来なかったらどうなってたことやら……相澤先生や13号先生ですら重傷を負うようなヴィラン相手に……」

「やめろよ瀬呂! 考えただけでもちびっちまうだろ!」

「うっせーぞカス!!」

「ヒエッ」

 

 瀬呂の語る懸念に対する峰田の悲鳴に爆豪が怒鳴る。

 オールマイトによって、圧倒的なパワーとタフネスを誇ったヴィラン、脳無は撃破された。

 その活躍はすべての生徒が目にしていた。

 生ける伝説にしてナンバーワンヒーローの活躍を目の当たりにして、自然と言葉に力がこもった。

 

「流石オールマイトだよな。あのヴィランを撃退しちまったんだから!」

「あの実力、驚嘆に値する。だが……」

 

 砂籐がオールマイトの真似をするようにパンチの素振りをしながら賞賛すると、常闇が頷いた。その直後に、クラス全員の視線が海原に向いた。

 

「その強力なヴィラン相手に、海原ちゃんは互角……それ以上に戦っていたわね。一年先輩なだけともいえるのに」

 

 クラス全員の内心を代弁したのは蛙吹。

 轟は自然と視線を海原に向けていた。

 クラスメイトたちも海原に目を向けていた。そして、注目の的となった海原は笑みを浮かべて振り向いた。

 

「アハハ、ボクもただの留年生ってわけじゃないんやで」

「でも勉強できずに留年したんだろ?」

「言うやないか上鳴クン。逆に言えば、どんなに動けても単位とれないと留年するのがルールやで」

「うへぇ……キビシーなぁ雄英……!」

「いや、どこの高校でもそれは一緒でしょ」

「耳郎ちゃん、ナイスツッコミや」

 

 海原の飄々としたその態度が逆に実力の差を感じさせる余裕に思えた。

 一年間の差、と内心で転がすように轟は呟く。

 相澤先生も13号先生も、戦闘向きではないとはいえプロヒーローだ。プロ二人がなすすべなくやられたヴィランを相手に大立ち回りを演じ、それどころか最後にはオールマイトと肩を並べて戦ってみせた。

 本来であれば二年生だった生徒がそれほどの実力を持つものなのか。

 そもそも、海原が留年するほど勉強ができないようには見えなかったし、あれほどの実力があって留年するものか、という疑念があった。

 

 ――アイツ、何者だ?

 

 へらへらと笑う海原は、一見すると気の抜けたただの生徒だ。

 しかしあの身のこなしや個性の扱い、そして時折戦いの中で一瞬見せる眼差しや、研ぎ澄まされた雰囲気が、どうにも同じ生徒とは思えなかった。

 轟はそこまで考えてから、歯噛みした。

 

 あいつと俺に、それだけの力の差があるって感じてんのか……?

 

 弱気になっていた自分を叱咤して、心を燃やす。

 自分にはやらなくてはいけない使命がある。逆に言えば、海原を越えられれば、あの憎い男を越えるという目標にも手が届く。

 

 ――海原……!

 

 轟の視線は氷のように冷たく、恐ろしいほどに燃え滾っていた。

 

 ☆☆☆

 

「おはよう」

「「「相澤先生復帰はええーーーーっ!!??」」」

 

 包帯ぐるぐる巻きの相澤先生が現れるとクラスメイトたちは沸き立った。

 両腕をギプスで吊り、顔面のほとんどが包帯に巻かれている。今どきそんな包帯の巻き方するかよ、と突っ込んではいけない。

 多分、個性の進化に伴い、医療の技術も変わってきたのだろう。

 

「俺の怪我のことはいい。そんなことより、まだ戦いは終わっていない」

「敵……!」

「ま、まだヴィランがいるのかよぉ……」

 

 その言い方はヴィランがいると思わせるのでは。

 なんだかんだ相澤先生ってお茶目なところがあるような気がする。

 

「雄英体育祭が迫っている」

「「「クソ学校っぽいのキタァァァァ!!!!」」」

 

 そこから始まる雄英体育祭についての説明と、そしてヴィラン襲撃への不安に対して相澤先生が話を始めた。

 ――雄英体育祭。

 この世界に転生してから、その行事が如何に注目されるかというのは肌で感じてきた。

 テレビで何日も前から特集が組まれ、そして当日は放送局が放映権を争って、ドラマ並の熱いやりとりが行われているとすら言われている。

 オレもこの時期にテレビをつければ雄英体育祭の話題で持ち切りとなっていて、驚いたのを覚えている。

 学校の行事にこれだけ注目が? と思うかもしれないが、甲子園やインターハイといった学生スポーツの大会でも国中が注目していたのは知っている。

 このヒーロー社会で、注目がオリンピック並みになるのも不思議では無かった。

 特にヒーローになることを控えた三年生の部が最も盛り上がりを見せる。海外のブックメーカーもギャンブルの対象にしているくらいだ。

 去年、オレはそれで痛い目を見た。

 

「でも、ヴィラン襲撃があったのに体育祭なんて平気なんですか?」

 

 耳郎の心配に対しても相澤先生が答えた。

 襲撃事件があっても開催することで警備体制が磐石であることをアピールする目的があること、そしてヒーロー科にとって体育祭はプロヒーローへのアピールの場でもあり、将来に向けて大切な行事。

 一年に一度しかないチャンスを考えれば、易々と中止は出来ないとも語った。

 相澤先生は最後、雄英体育祭に向けて準備するようにと告げて、ホームルームを終えた。

 クラスは体育祭に向けてのやる気に満ち溢れた空気となっていた。

 特に麗日あたりのテンションが凄まじいことになっていて、クラスメイトたちも自然とそれに引きづられて士気が高まっていた。

 

 そして、授業の合間のこと。

 

「なぁなぁ! 海原パイセンって去年体育祭出てたんだよな? どんな成績だったんだ?」

「パイセンって……上鳴クン、先輩呼びは別にいらんて……」

「おお、俺もパイセンの成績聞きてぇ! 参考になるだろうしな!」

「アタシも聞きたーい、教えてパイセン!」

 

 上鳴に続き切島、芦戸が切り出してくる。パイセン呼びはこのまま定着するらしい。

 堅苦しく先輩呼びよりは砕けたくらいが面白いか。

 それはそうと、どうやって自分の成績を話そうか、少し考えてからオレは緑谷を見つけた。

 

「うーん……緑谷クンは去年の体育祭の結果、覚えとる? 一年の部やけど」

「えっ!? えっと……だめだ……二年生の部で突然脱ぎ出した先輩のことと、三年生の部の決勝の徳川さんと石田さんの天下分け目の決戦と称された戦いの印象が特に強くて思いだせない……!

 徳川さんの個性『タヌキ』があんなに色んなことができるなんて……でも石田さんの戦い向きじゃない『茶道』の個性でああやって互角に渡り合えるのはさすが三年生の経験で培われた個性の使い方による戦い方の技術というほかなくて、前評判に反して石田さんが熱々のお茶で攻め続けた中で隙を見て徳川さんの『焼き味噌ボンバー』が顔面にクリーンヒットしたことがターニングポイントに……」

「緑谷クンは覚えてないみたいやね。注目高い言うても、三年生が一番注目されてて一年生はやや劣るからなァ。逆に一年生の部を見るのはコアなファンやヒーローが多いから目が肥えてて、しっかり見られもするらしいけど」

「マジかぁ」

「俺も活躍してテレビに映らないとな!」

「瀬呂、お前一発芸とかしたらいけんじゃね?」

「持ちネタねえよ。峰田の方こそいけるだろ。キャラデザがコミカルだし」

「それよりパイセンの成績はどうだったのー!?」

 

 ヒーローオタクの緑谷が覚えてないなら印象にないのだろう。

 オレは生徒たち全員がいるのを確認した。

 

「ボクの去年の成績は……一位や。一年生の部を優勝。いやぁ、運がよかったわぁ」

「「「一位!!??」」」

 

 へらへらと笑いつつ言うと、全員が声をハモらせた。息ぴったりだな。まだ入学して一ヶ月程度なのに。

 声を上げる生徒たちに隠れて、爆豪と轟がぴくりと反応していたのが見えた。彼らからしたらわかりやすい強敵であり越えなくてはならない壁。

 物語として見ても、実力が一枚上と描写されたキャラクターってやつだ。

 

「オイオイっ、去年の優勝者が一年の部にいるとか反則だろ! オイラたちじゃ相手にならねーよ!」

「峰田クン、何言うとるんや。それ、ヴィランの前でも同じこと言うんか? ヒーローが」

「それとはこれとはちげぇだろぉ! 瀬呂も砂藤もそう思うだろ!?」

「まー、強敵だとは思うけどなぁ……でもパイセンの言う通りだろ」

「そもそも、パイセンがいようといまいと、一位を目指したら自然と強敵とぶつかる。

 むしろ越えるべき壁ってやつで、燃えてくるじゃねえか!」

「えぇー! 上鳴もずるいと思うだろ!?」

「ちょっと思わなくもねーけど……アリなのか、パイセンが参加するのって」

「何言うとんのや。ボクは二年生に進級する資格なしと判断されたから、一年生をやり直してるんやで。

 つまり先生らからすれば『実力は二年生になるには足りてない』って扱いや。そら一年生の方に出るやろ」

「あんな実力あっても進級できないっておかしくなーい!? オールマイトと並んで戦ってたじゃん、パイセンは!」

「何度も言うけど、単位が足りなかったら進級できないのが高校や……優勝者だろうと関係ないってことやね。芦戸チャンも気をつけるんやで」

「イヤーッ、勉強ヤダーッ」

 

 オレは本当に勉強できなくて留年したわけではないが、それを語るのはもう少し後でいいだろう。

 今はまだ謎多き実力者ポジでいい。かっこいいね。楽しくて笑みがこぼれてしまう。

 せっかくこんな世界に来たのだから、好き放題しないと、損だ。

 

「やっぱオイラ納得いかねー。海原パイセンは三年までに四回のチャンスがあるわけだろ?」

「峰田ちゃん、あまり言うのもよくないわ。本来であれば一年早くヒーローになれたのを逃しているわけでもあるし、海原ちゃんにそういうことを言うのは可哀想よ」

「ええねん梅雨チャン。それはそうと峰田クン」

「な、なんだよ……別にオイラ、パイセンが出るのが嫌だって訳じゃなくて公平性を考えてだな……」

「雄英体育祭優勝するとめっちゃモテるで」

「海原パイセンが出ようと出なかろうと関係ねえぇーーっ!! オイラが優勝する!! そしてオイラがハーレムを形成し、キャッキャウフフな楽園の酒池肉林を築く!!」

「最低だわ峰田ちゃん」

 

 実際のところ、モテる。

 校内の普通科やヒーロー科の中でも文字通りスターみたいな扱いだし、学外でも顔が売れるから他校の女子生徒にすごいナンパされた。

 既に彼女がいたから特に相手にしなかったが、雄英体育祭のブランド力は一年生の部だろうと凄まじかった。

 まぁ、一ヶ月もすれば雄英体育祭旋風みたいなのは落ち着き、チヤホヤされることは減ったが。

 

「とはいえ、負けるつもりはあらへんで。不名誉やけど、(多分)史上初の二年連続一年生の部の優勝を目指すわ」

「本当に不名誉だ……」

「二年連続一年って響きがもうおもろいな」

 

 いい突っ込みだ、A組たちよ。

 

 ☆☆☆

 

 とある日の放課後にA組が普通科の生徒やB組の見世物になるイベントがあった。

 注目を浴びることで不利になるのでは、という不安の声を爆豪の「上に上がりゃ関係ねえ」という一言が一蹴した。

 クラスメイトたちはそれを受けて、みんながやる気を漲らせた。

 個性を鍛えたり、肉体を鍛えたり、サインの仕方を勉強したりと多種多様な努力を雄英体育祭に向けて重ねていく。

 そんな中、我らが主人公緑谷出久に接近を図るべく、放課後に緑谷へ声をかけた。

 

「緑谷クゥゥン、ちょっとええかな」

「う、海原さん! なんでそんな呼び方を……」

「さんは要らんて。緑谷クンも体育祭に向けてトレーニングするんやろ?」

「うん……僕の個性は出力が大きすぎるから、体を耐えられるようにフィジカルを鍛えようと思って、これからジムに行くんだ」

「ええね。シンプルな増強型個性はとにかく鍛えるのが大切や」

「砂藤くんや障子くん、尾白くんともこの前ジムで一緒に鍛えてたんだ。やっぱ二人ともあの体格をしてるだけあって、筋トレの仕方に詳しくて勉強になったよ。海原……くんも今日は筋トレ?」

「せやね。そうしようかと思ったんやけど……緑谷クンはもったいないなぁ」

「もったいない……?」

 

 緑谷が目をぱちくりさせている。頭の回転が早い割に意外とこういうところは鈍い。

 そこが憎めない愛嬌ともいうべきなのか。

 オレは「個性のことやで」と言うと表情が暗くなった。それだけ自覚しているのだろう。

 

「緑谷クンの個性は超パワー……シンプルやね」

「う、うん。最近発現したばかりで体が出力に耐えきれないんだよね」

「そこが違和感あるなぁ。個性の発現が遅かった、は珍しいとしても、肉体が耐えきれないってのが変やね」

「そ、そうかな」

 

 動揺している緑谷。オールマイトとの関係やOFAの個性の秘密に迫られていると感じているのだろう。

 このリアクションでよく原作で隠し通せたものだ。

 この世界の常識である『個性は譲渡できるものではない』という認識があるから、個性を譲り受けた可能性に誰も思い当たらないどころか発想すらないのが普通なのだろうけど。

 

「考えてみ。個性が発現しなかった理由が『幼い体には危険だから無意識に抑えてた』とした場合、まだキミの体は耐えきれてると言えないやろ。

 四肢爆散するレベルが開放骨折、粉砕骨折、筋断裂レベルまで耐えられるようになったから個性が発現した……いやいや、肉体にとっては超がつくほど重傷やん。理屈が通らんな?」

「う……そうかな……初めて発動したのが試験のときだったんだけど、あのときは無我夢中で、火事場の馬鹿力ってやつだったのかも……」

「それはあるかもなァ。日常生活であまりに個性が活きる機会がなくて、個性使わずに生きている人だってぎょうさんおるし、緑谷クンの超絶パワーも日常じゃ使わんしな」

 

 ちなみに知り合いには日本時間で午前三時から午前四時の間だけ爪が五センチ伸びる個性を持つ人がいた。

 その時間帯、大半の人は寝てるし、五センチ伸び縮みするくらいで何かに使える訳でもない。ちなみに発覚理由は赤ちゃんのときに抱いて寝ているお母さんの肌をチクチクしてたせいらしい。

 

「そ、そうだよね、うん、僕もきっと普段使う必要がないから発現しなかったんだと思う!」

 

 緑谷がオレの発言で上手く誤魔化せると感じたのか、乗ってきた。

 残念、そこが目的なのだ。

 

「使う……か。緑谷クンは最近個性が発現したからピンと来ないやろうけど、個性ってそういうもんちゃうで」

「えっ? そういうもん……どういうもん?」

「そもそも緑谷クンが個性を使う時、どうしてるんや?」

「それは……電子レンジの中で卵が割れないようにイメージして、それを凝縮した力を放つような……」

「爆発しそうなものを抑え込んで、最後には爆発させて個性を使う……ってことやね?」

「そう、そんな感じ!」

「全然ちゃうで」

「ちゃうの!!??」

 

 めちゃくちゃ驚く緑谷。思わず関西弁で返すくらいショックを受けている。おもしろ。

 

「せやなぁ……個性に対する認識がアカンわ。よし、せっかくや。ついてきな」

「え、え、あ、うん!」

 

 

 

 緑谷を連れてきたのは雄英高校の体育館のひとつ。

 個性訓練に使える場所で、申請すれば生徒も自由に個性を使って特訓ができる。

 体育祭が近いだけあって多くの生徒が岩山に自らの肉体や個性をぶつけて特訓しており、熱気に包まれていた。

 そのうちの一画に体操着に着替えた緑谷を連れてきた。

 

「緑谷クンのイメージだと溜めたものを放つような感じやけど……話を聞く限り、爆発しないものを抑えてから爆発させている……ってことやん。それ、使う時と場所を選びながら暴発させてるのと一緒やん」

「……! 暴発……でも、僕はちゃんと使おうと思ってるし、日常で勝手に発動したりはしてないよ?」

「せやな。けどな、個性って必殺技ちゃうねん。個性ってのは身体機能なんやで。特に増強型は筋肉の延長線にあるものと考えてもええ」

「筋肉の……延長線……必殺技じゃない……?

 僕は個性を発動するときにイメージをして……発動……?」

「変やなぁ。増強型の個性なんやから、条件を満たせば個性は使えるのになんでわざわざ発動なんて考えるんや? 緑谷クン、歩くのにいちいち『大腿四頭筋や下腿三頭筋を発動』とか考えへんやん」

「だ、だよね……増強型個性のヒーローが個性を使う条件は色々だ……お酒を飲むヒーローもいれば時間で決まるヒーローもいるし、筋力じゃなくて心肺機能が向上するヒーローもいる。とにかくなんらかの条件を満たして使っているだけで……別に個性そのものが必殺技ではない……」

 

 ブツブツと呟き始めた緑谷。

 リアルブツブツ緑谷を見れて少し感動だ。

 中々の集中力を賞賛したい反面、思考に埋没する姿は若干異様ともいえる。ちょっと怖い。

 

「増強型個性は……筋肉と一緒……つまり出力を調整できる……そうか……今までオールマイトのイメージをしてついパンチやキックに100%の力を乗せていたけど、出力を絞って放てばいいんだ!」

「おっ、そういうことや。緑谷クンのあの自壊するほどのパワーを100%としたら、自壊せん程度に発動すればええねん」

「そうだね……そうだよね! なんでこんな単純なことに気づかなかったんだろう……!」

 

 オールマイトは原作でも教えるのにあまり向いてないと言われてたし、この結果になるのはさもありなん。

 ナンバーワンヒーローどころかひとつの時代を作る偉人からしたら、できない人間に教える方法を考える方が難しいか。

 オレもあらかじめ緑谷出久の個性が成長する流れを覚えてなかったら教えられなかっただろう。

 シンプルな発動型個性であるオレの水分操作は、特に意識しなくても水は操れた。そこからさらに深く水分について理解し、意識していくうちにさらなる精密性や出力を得られたわけで、コントロール出来ない相手にわかりやすいヒントは与えられなかったに違いない。

 

「ほな緑谷クン。イメージを変えよか。蛇口を捻って水の出る量を調整するように、最初は一滴絞り出すくらいのつもりで」

「うん……やってみるよ」

 

 緑谷は大きく息を吸ってから、拳を岩に叩きつけた。

 ただの学生には出せない素晴らしい速度のパンチは岩をわずかだが、たしかに削った。

 

「できた……! 腕も少しビリビリするけど、動くし、折れてない! やったよ海原くん!」

「おめでとう緑谷クン。何パーセントくらいのつもりやったん?」

「本当に1%あるかないかのつもりで打ったんだ! そしたら上手くできたよ!」

 

 目をキラキラさせて拳を見つめる緑谷。

 若人にとって成長した自分を見ることができるのは、それはそれは嬉しいことだろう。

 

「ありがとう海原くん!」

「おおきに」

「でも……どうして個性の扱い方なんて教えてくれたの? その……僕が個性を使えないままの方が、体育祭も有利なのに」

 

 いい質問ですねぇ。

 これは答え方でキャラ立ちが変わる大事な場面だ。

 主人公を導く師匠キャラのような振る舞いをすべく、オレの脳は0.1秒で計算し、行動をとった。

 

「ボクにとってそんなこと、不利にも有利にもならへんよ」

「うぐ……」

「そんなことよりもなぁ。緑谷クンは将来いいヒーローになる気がすんねん」

「僕が……いいヒーローに……?」

「うん。いつか、色んな人たちの救いになるようなすごいヒーローになれると思っとるんよ」

「えっ、いや、いやいやいや! 僕なんて全然ダメで個性のコントロールもできなくて!」

「技術や経験なんてこれから積み重ねていくもんや。そこやないで、ヒーローに大切なのは」

 

 オレは緑谷に背中を向けた。

 正直本心ではこの世界におけるヒーローというものは職業の一環でしかないと思っている。それでも誇りを持って仕事に携わる人間なら大なり小なり、プロフェッショナルとしての意識を持っているだろう。

 そのプロフェッショナルとして大切なものを持つことが、いわゆる素質になる。

 

「ヒーローに大切なのは誰かを助けたいという思いや。緑谷クンはそこを持っとる。だからいいヒーローになるために、その手助けをせなアカン、って思ったんや」

 

 振り向きながら笑みを向けると緑谷は照れながらも何かを決意したような表情で頷いていた。

 やる気のある若者特有の希望に溢れた表情だ。

 

「んじゃ、少し個性のコントロールも進んだことやし。緑谷クン、ほら」

「え?」

 

 オレが指をくいくいっと曲げると緑谷はきょとんとしている。

 

「なにしとるんや、かかってこいって言うとるんや。個性のコントロールは無意識レベルにできないと実戦じゃ戦えへんよ」

「あ……うん! よろしく!」

 

 緑谷が走ってくる。

 未来の主人公にして選ばれし人間という存在。オレは身構えることなく緑谷を迎え撃つのだった。

 

 ――はやく強くなってくれへんと困るんや。“目的”のために。

 

 オレは薄く目を開きながら、緑谷の拳をかわして五発ほど連続で叩き込むのだった。

 




主人公、緑谷の師匠ポジを狙うの巻。
緑谷爆熱ゴッドフィンガー修得フラグ(嘘
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