異物混入アカデミア!   作:伊良部ビガロ

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第3話 USJ襲撃事件 その2

 海原大海という生徒は、ヒーローになった未来を予想すれば間違いなく金の卵だと、相澤消太は捉えていた。

 個性の扱い方と能力、非凡な戦闘センスはもちろん、救助や救急に関する知識や法律の知識も豊富で、労せず困難を乗り越える姿を世間は天才と呼ぶのだろうなと見ていた。

 しかし。

 

(やはり、危ういな)

 

 朦朧とする意識の中で、相澤は腕で地面を突いた。震えながら視線を向けた先には脳無相手に立ち回る海原がいた。

 余裕そうに笑みすらうかべていた。

 

「キミ全然応えた様子ないなぁ。ひょっとして攻撃無効の個性なん?」

 

 あの脳無のパワーを以て放たれる拳は、まともに喰らえば頭蓋を血飛沫に消えるほどの威力を誇っている。

 膂力を肉体で味わった相澤にとっては、自分の生徒がその拳の乱打に身を躍らせているのは背筋が凍るような思いだった。

 

(お前は間違いなく強い)

 

 単純な正面戦闘ならば、自分よりも。

 それを感じていても海原大海という人物は高校生の子供であり、自分の生徒だった。

 

(去年のインターン中にヴィランとの戦いで大怪我を負った。相手のヴィランの詳細などは伏せられている。そのことは明らかに不自然だが、それはいい。

 だが、お前はまだ学ぶべきことが多くある生徒なんだ。戦いの恐怖も、ヴィランの恐ろしさも、まだまだ知らない)

 

 海原大海は笑っていた。

 拳をかわし、手を脳無にかざすと高水圧の斬撃が肉体を切り刻む。

 血飛沫が舞い、手足が転げ落ちる。

 だが不気味な肉の蠢きの後、手足がすぐに生えてくる。

 それでも海原は笑っている。

 

(お前は……なぜ戦う? 誰かを向こう見ずに守り、自分を犠牲にするような奴なら、去年の生徒と同じように除籍にしていた。

 だが海原、お前は……それがない。ヒーローを志す理念も無いまま、どうして命のやり取りができる?)

 

「んー、キミ、攻撃無効というよりは打撃無効なんかな。いや、無効なんて有り得へんな。確か吸収とかなら有り得そうやね。お兄さん、答え聞いてもええ?」

「あ……? 敵に情報を渡すやつなんかいないだろうが」

「答えてるようなもんやね、それは。ボクも戦ううちに思い出してきたわ」

「思い出す……? 何言ってんだお前」

「こっちの話や」

 

 海原はいつまでも無傷だった。紙一重で避けて、手足を水の斬撃で切り裂き、水流で押し流し、水の壁で打撃を押さえ込んでいた。

 相澤から見て、彼はあまりに冷静すぎた。

 一年の経験とか、戦闘センスだとか、そういう次元ではない。

 相澤が海原を除籍にしなかった理由。

 ひとつは、成績と能力にケチのつけようがなかったから。

 そしてもうひとつは、目を離すといつか何かとてつもないことを仕出かすのではないかという、漠然とした予感だった。

 

「うな……ばら……!」

 

 黒霧が黒い霧を生み出し、その中に死柄木が手を入れる。

 死柄木は五本の指で触れたものを崩壊させる個性を持ち、黒霧のワープゲートを利用して遠隔で崩壊させようとしている。

 それをさせないために抹消の個性を働かせようとするが、流れた血液が目に入り、目を開けなくなる。

 それでも海原は、

 

「見えとるで、お兄サン」

「ちっ、こいつ……!」

「おいたする手は……こうなるんやで」

「がッ!? あああぁぁぁ……!! クソッ! クソクソクソッ、チートキャラかよ! 脳無! そのノッポをさっさと殺せ!!」

 

 死角から飛び出してきた死柄木の手をかわすと難なくそれを手刀で叩き割った。

 手首が歪み、激痛に悶える死柄木が叫ぶ。

 既に脳無は海原に襲いかかっているが、手のひらに溜め込んだ水を逆に脳無の顔に翳していた。

 

「“多鬼(たき)”」

 

 その一言とともに“滝”を思わせる大量の水が脳無を撃ち抜いた。

 巨体が難なく押し流され、壁に大量の水とともに叩きつけられる。

 脳無と距離をとった海原は黒霧と死柄木に襲いかかり、肉弾戦を繰り広げる。

 相澤の抹消による援護すらなしで、立ち回っていた。

 

(ヒーローに能力は必要不可欠。力もない信念には何もなし得ない。だが……信念のない力は、何をもたらす? お前は……戦いを楽しみながらヒーローになるのか?)

 

 教師として、生徒が戦う姿には、不安が過ぎる上に、自分の不甲斐なさを呪いたくなる。

 だがプロヒーローとしての経験が告げていた。

 海原大海はこのヴィラン三人に負けないだろう、と。

 そしてその戦いから相澤が感じ取るのは、余裕ではなく、『真剣味のなさ』だった。

 

(海原……お前は本当に『生きて』いるのか?)

 

 朦朧とする中で、相澤はただ、海原への行く末を案じていた。

 

 

 

 オールマイト遅ない?

 吹き飛ばしたが戦線に復帰した脳無、手首を叩き割られた死柄木、ボロボロの黒霧を相手に立ち回りながら、ため息をつきそうになる。

 如何せん脳無はショックか打撃か、どちらか忘れたがそれを吸収する個性と超再生の個性を併せ持っていたはずだ。

 水の個性でなら前者はなんとかなるが、再生は正直手が思い浮かばない。

 死柄木か黒霧を大人しく出来ればじっくり脳無を料理出来るが、流石に難しそうだ。

 

「せいッ」

「がはぁっ!?」

 

 黒霧の本体にオレの拳が突き刺さった。

 肘から少量の水をジェットのように吐き出し、打撃の威力を底上げする小技だが、よく効いていた。

 蹴り飛ばしてから手を伸ばす死柄木の腕を水の斬撃で切り落とす。が、かわされた。

 身体能力を底上げする個性でもないのに随分と速い。フィジカルが優秀だ。

 

「速いなぁお兄サン。個性に頼るのはアカンとボクも思うから気が合うなァ」

「チートキャラはオールマイトで充分なんだよ……クソゲーを押し付けてくるな」

 

 しかし五本の指がオレを捉えるには至らない。

 そして、戻ってきた脳無がつかみかかってくるのをかわし、頭に置いた手を支点に逆立ちしながら片手をまた頭に向けた。

 

「もういっちょ……“多鬼(たき)”」

 

 大質量の水による水圧で地面に胸までめり込む脳無。

 普通なら背骨はひしゃげて頭蓋骨も脳も圧壊してるはずだがたちどころに再生していた。流石にタフだ。

 ワープゲート越しの奇襲を再び抑え、死柄木と黒霧をまた壁に叩きつけた。

 脳無、死柄木、黒霧が息も絶え絶えになりながら、オレを憎悪のこもった視線で貫く。

 

「怖いなァ、そんな睨まれたら敵いまへん。……ボクは学生やで」

「クソガキ……!」

 

 学生ごときに良いようにやられてるな、と煽られたと感じたのか苛立ちを隠さない死柄木。

 しかしガリガリと首筋や髪をかいてから、大きく息を吐いた。

 

「あー……クソ、ゲームオーバーかよ……オールマイトが追加されるんじゃ無理だろ……」

「最初からわかってたんやないの?」

「黙れ糸目ガキ……だからヴィランらしくやることにするよ。

 脳無! あっちのガキを皆殺しにしろ!」

 

 その声に応じて胸まで地面に埋まった脳無がすぽんっと勢いよく飛び出し、オレに背を向けてチンピラたちを制圧するA組の面々のもとへ突っ込んだ。

 

「ヒーローは守るものが多くて大変だなぁ!」

 

 へらへらという笑い声を聴きながらオレは跳んだ。

 脳無の突進を追い越すには至らない。

 

「みんな下がって!」

 

 13号先生が立ち塞がり、ブラックホールを発動させて塵にしようとする。

 だが、生命までは奪わないように制限された出力では脳無を止めることは不可能。

 

「ガッ!?」

 

 虫を払う時のような軽さで13号先生は吹き飛ばされた。

 あの程度でも防御力がなかったら骨の数本は簡単に折れているだろう。

 脳無は命令に従っているせいか、転がって動かない13号先生へトドメを刺すことなく、あくまで生徒への攻撃を続行した。

 最初の標的は、突出していた爆豪勝己。

 

「あ――」

 

 間違いなく彼は才能とセンスの塊であり、これから戦闘能力は伸びていくだろう。

 しかし、今この場において、脳無という力と速さの極地にあるヴィランに対しては力不足でしかなかった。

 脳無の拳が爆豪の顔面に迫る。

 

「――スマァァッシュ!!」

 

 その間に割り込んだのは、緑谷だった。

 一度は違う場所に飛ばされたのに、ちょうど戻ってきたらしい。

 莫大なエネルギーを稲妻のように迸らせた右腕が脳無に叩き込まれる。

 砲弾が爆ぜたような炸裂音にも似た鋭い打撃音が響いた。

 ショック吸収のせいで通じてはいなかったが、拳が振り抜かれるまでに一瞬の間隙が生まれた。

 流石は主人公にして継承者。爆豪を庇ったあたりまた色々と拗れそうでいいね。

 

「流石やね」

 

 水圧を伴った拳で脳無に複数の打撃を与え、仕上げに大量の水流で押し流して距離をとった。

 ちらりと緑谷を見ると、右腕は壊れていない。まだ全力を発揮すると体が耐えきれない状態のはずだが、反動は来ていないらしい。

 緑谷自身も驚いて、何度か右腕に視線を落としていた。

 

「平気?」

「あ、え、ハイッ!」

「テメェ、クソ糸目!! 邪魔すんじゃねえ、余計なことしやがって!! クソナード、テメェもだ死ね!!!! カス!!!!」

「はいはい、すまんな」

「死ね!!!!」

「そこはええんやで、と返すべきちゃう?」

 

 生徒たちを背中に庇いつつ脳無を見据えた。

 倒れ伏す13号先生を麗日と、障子や砂糖が駆け寄り、支える。

 重傷だが息はしているようだ。

 

「チッ、殺ったと思ったのに、ほんとやってらんねー……でも、守りながらどこまで戦えるかな?」

「――――その必要はない」

 

 響き渡る、入口の扉が吹き飛ぶ音。

 全盛期の力は失って久しいといえど、時代を個人の力で作り上げた最強のヒーロー。

 もう、大丈夫だなんて、ちゃちな安心なんてものはない。

 この世界におけるトップの存在である、彼が来て、本気がようやく見られる。

 待ちかねた映画の上映開始の瞬間より、オレの心は沸き踊っていた。

 

「私が来た!」

 

 お決まりのセリフとともに、オールマイトがエントリーした。

 

「楽しみだね……ナンバーワンの実力」

 

 思わず演技を忘れたオレのセリフが、静かに響いた。

 

 

 

 オールマイトが来てからは、あっという間だった。

 オレは簡単に脳無の個性である超再生とショック吸収を伝えて、死柄木と黒霧を相手どった。

 そもそも原作と違って、オールマイトの相手はフルボッコにしてある程度消耗させた脳無だけ。

 死柄木と黒霧は妨害させないようにオレが戦うどころか、隙さえあればここで無力化して『僕のヒーローアカデミア、堂々たる完結!』と打ち切りルートにぶちこんでやるつもりだった。

 

「クソ……クソクソクソ! 全然計画通りにいかないじゃないか……むかつく、本当にむかつくよお前ら……!」

「計画通りに行かないのが人生やで」

「そういうこと言うやつは大抵人生計画通りに行ってるやつなんだよ……恵まれてるやつは能天気でいいな」

「おおきに。刑務所でこれからの計画を練り直すとええで」

「うるせぇ……脳無!! 俺を守れ!!」

 

 死柄木を狙って放たれた蹴りに脳無が割り込んだ。

 その足を掴まれそうになったのを咄嗟に引き、また個性で高水圧をまとった拳で脳無を貫いて後ろの死柄木もまとめて狙う。

 

「“撃潮凰(うちしお)”」

 

 翼を広げた鳳凰をかたどった水の塊が高速で飛び立った。ぽっかりと脳無の胸をくり抜き、勢いを殺すことなく死柄木まで飛ぶがかわされる。

 

「させんッ!」

「死柄木、伏せて!」

「ひゃあ、危ない危ない」

 

 オールマイトの拳が死柄木に飛んだが、ワープゲートで防がれるどころかオレに飛んできて髪の毛を掠めた。

 ノンビリした声を出しているが、脳無よりも遥かにキレのある鋭いパンチだった。

 これが牽制か咄嗟の一撃かと思うと、凄まじい実力という他ない。

 ナンバーワンの拳の片鱗だけでその実力がまざまざとイメージできる。

 

「無事か海原少年!」

「大丈夫です」

 

 呑気なオレと焦るオールマイト。

 その隙に死柄木と黒霧が脱出を果たした。

 

「脳無、暴れろ!」

 

 その一言を残して。

 しかし、オレとオールマイトがいる状態で脳無一体というのはさほど問題のある相手ではなく、脳無の無力化はすぐに完了し、USJ襲撃事件は幕を閉じた。

 大怪我をしたのは相澤先生と13号先生。そして緑谷出久が指一本、骨折という怪我となった。他の怪我は打撲や擦り傷などの軽傷がほとんど。

 緑谷の怪我は個性の反動のため、ヴィランによる生徒への被害はそこまで大きいものではなかった。

 撤退後、騒然とする施設内。警察と教師陣が駆けつけ、次々とヴィランを制圧・拘束していく中、生徒たちもまた、自分たちにできる範囲で冷静に動いていた。

 轟は自ら氷で拘束したヴィランたちを凍結したまま渡し、芦戸と砂藤がその場を警察へと誘導していた。

 八百万は臨時で手錠を複製し、切島がそれを使って抵抗を続けるヴィランの腕を押さえ込む。

 爆豪は不満げに「いちいち指示すんな!」と毒を吐きながらも、逃げようとしていたチンピラの一人を確保。

 緑谷は蛙吹とともに13号先生を担架のそばまで運びながら、「ボクも、もっと冷静に動けるようにならないと」と呟いた。

 生徒たちの中には、怯えるだけだった者もいたが、それでも皆、仲間の指示に従い、それぞれの力でこの緊急事態を乗り越えようとしていた。

 彼らがヒーローを目指す者たちであるということが、確かに伝わってくるようだった。

 

「……適当に動いた割には、原作よりいい結果でよかったんじゃないかな」

 

 救急隊や応援で駆けつけた雄英の教師陣たちが生徒たちを保護し、生徒や相澤先生が制圧したチンピラヴィランや脳無を警察が拘束していくのを見ながら、一人呟いた。

 目の前に広がる光景は、悲しいほどに現実感がない、張り合いの無い世界だった。

 




主人公最強ムーブ始動。
最強系の調理をどうするか悩み中。
感想待ってます♡
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