――オレがヴィラン側を選んだ理由は単純明快。
核の前で待つしか有効な戦術がないから、やることが決まってて楽なのだ。
もしも漫画ならオレの戦いぶりはカットされるか、ヒーロー側の二人が噛ませ役として扱われてしまうだろう。
まぁ彼らの出番はこれからたくさんあるはずだ。
ヒロアカの原作は記憶からほとんど無くなっちゃったけども、そういう作品だった気がする。
「と、いうわけで出てきてええよ。尾白クン」
「まぁ、待ち構えてるよな……」
「もちろん。葉隠チャンはどこかな? 隠れとるん?」
「さぁ、どこかな?」
現れた尾白が身構える。
戦闘というものをまだ経験していない立ち振る舞いは隙だらけ。精々格闘技くらいしかしてきていない、一年生が個性を使ってバリバリに戦い慣れていたらそっちの方が問題だ。
「尾白クンの個性は尻尾が生えた異形型なんやね。格闘では手強そうや」
「海原先ぱ……海原の個性はどうなんだ。わざわざ二対一を選ぶくらいだから、戦闘向きなんじゃないか?」
「ヴィランはわざわざバラしたりせんやろ。ヴィランの個性を推察するのもヒーローの役やで」
個性把握テストをやってないからオレの個性は誰も知らない。カンがいい奴、よく調べてる奴はわかるはずだが……緑谷がオレを把握していないということはクラスの誰にもバレてない。
入学前にオレの個性を目にしたことがある人はいてもおかしくないが、毎年『アレ』は三年生が注目されてるし、去年は当時二年生の『あの先輩』がやらかしたせいでオレの注目はそんなに高くなかった。
個性披露しちゃおっかなぁ〜と考えていたとき、尾白が突貫してきた。
「うおおっ! せいっ! はぁっ!」
「普通にええ動きやね」
「くっ、余裕だな……!」
「褒めてるで? 普通に戦えてるやん」
「なぜか胸が痛い……!」
尻尾を軸にキレのある蹴りやパンチが飛んでくる。
この時点でチンピラ程度なら軽くボコれるくらいの技術はあるだろう。
尾白、中々やるじゃないか。
オレは攻撃をいなしつつ、実力を確かめていた。
「防御するだけか? 時間はまだ一杯あるぞ!」
「いやぁ、反撃できんわぁ」
尻尾の攻撃は特に重い。
いい格闘センスだ。だが、まだまだヒヨっ子だ。
「隙ありやね」
「なっ、ガハァッ!?」
尾の攻撃を受け流した瞬間にパンチを鳩尾に叩き込む。一発で充分だった。
腹を押さえてうずくまる尾白に追撃はせず、距離をとる。
「流石に個性使わんとキミは捉えられへんわ」
「わわーっ!? つめたっ!? み、水?」
「ホイ確保」
「うわーっ、はやい!」
オレが個性を使うと人型のシルエットが浮かび上がる。
葉隠が近づいてくる頃を見計らい個性を使えば、ちょうど引っかかった。ラッキーだ。
膝を突いた尾白が咳き込みながら呟く。
「水……? 水を操る個性……!」
「正解。シンプルやろ? 色々できるんやで。まぁそれは秘密や」
「うおおおっ!」
葉隠を捉えるためにやったことは単純明快。水をぶっかけてシルエットを浮かび上がらせただけ。
そうやって確保したところに尾白が再び突撃してくるがダメージが残っていて動きにキレがない。
大ぶりの尾の攻撃を軽く躱して叩きつけるとそのまま確保テープを巻いた。
「ヴィランチーム(チームじゃないけど)WIN!」
オールマイトのアナウンスが響いた。
派手ではないが、堅実な圧勝というのも悪くない。
見せ場にはならなかったかな。
講評では満場一致で……というかある意味当たり前なんだけどMVPはオレだった。
オールマイトが講評する前に、オレに先達としてアドバイスを言うように求めてきた。
「んー、シンプルに連携が勿体なかったなぁ。尾白クンがボクに攻撃してたとき、葉隠チャン迷ったやろ?」
「ああ、うん……飛び込むべきか、邪魔になるからもう少し隙を見るかって……」
「元々二人同時にかかるつもりだったんだけど、葉隠さんと離れたらいる場所を詳細に把握できなくなっちゃって……」
「事前の準備不足やね。合図とか決めておいた方が良かったなぁ。シンプルに数の有利を活かし切れなかった感じやね。即席のチームを組むこともヒーロー多いし、そのスムーズな連携は今後大切やで」
「「はいっ」」
二人は素直に返事をした。
もちろん今の二人が取れる手段をどんな風にとってもオレが負けることは100%なかったが、まぁそこは仕方がない。
オレの講評にオールマイトは頷いていた。
「あとは窓からとか、囮作戦も狙っても良かったかもしれないね! 尾白少年は尻尾を使った機動力がある! 葉隠少女も隠密性が強みだから、奇襲の方法をもっと練ってもよかったね。個性の強みを押し付けることも大事だぜ!」
「「はいっっっ!!!!」」
オールマイトからのアドバイスだけあってオレのときより返事が大きかった。
微笑ましい。
授業後は自然と皆で個性の活かし合いの話になった。それぞれ提案したり、個性を話したり。
オレもそれに混じって話を聞いていた。
そういえば君たちはそんな個性だったなぁと古い記憶を呼び起こしていると蛙吹に尋ねられた。
「大海ちゃんは水を操る個性なの?」
「おおっ、確かそうだったよな。でもほとんど個性使わずに格闘戦で尾白を倒しちまったよな! 漢らしい戦いだったぜ」
蛙吹に続いて切島が追従してくる。
瞬く間にオレの個性の話に話題が移り、質問が集中する。
「ボクの個性は水分操作や。水を操る。それだけや」
「なんか地味だな」
「シンプルだよな」
「峰田クンや上鳴クンに比べたらなんも言えんわ。でも色々できるんやで。水を出したり、水を集めたり。水難事故で活躍できるで」
「ケロ……大海ちゃんも水難事故のヒーローを目指してるのかしら」
「ってことは蛙吹チャンも? せやね、ボクが活躍するならそっちかな思ってるねん。あとは火事現場とか」
「やることがハッキリしている個性というのは素晴らしいことだね! ボク、いや俺も負けないようにしなくては!」
わいわいと賑わう個性に関する実践的な話題に混じるヒーローとしての夢に溢れたトーク。
いいねいいね、若者はそうでなくっちゃ。
まぁ、オレにはそういうキラキラした崇高な夢はないんだけども。
平穏に日時は進み、今日のヒーロー基礎学はUSJでレスキュー訓練。
遊びにいくわけじゃない。著作権的に怪しい命名をこの学校がしているだけで、列記としたトレーニング施設だ。
「では皆さんにお小言を……」
今日授業を担当するのは救助作業で活躍するヒーロー13号先生だ。
個性は人を殺せる力があり云々という感動的な話。
そして皆が聴き入り、最後は拍手が広がった。
そういや去年もオレは聞いてたな。
A組ほど真摯にみんな聞いていなかった気がする。除籍処分を食らうクラスと物語の軸になるクラス、そりゃあ、違いもあるか。
「ひとかたまりになって動くな! 13号は生徒を守れ!」
そしてやってきました本日のメインイベント。
ヴィランたちが襲ってくるハプニングです。
みんなが叩きつけられる悪意に震える中、オレはそれこそアトラクション体験のようにおぉ、と内心で楽しんでいた。
生徒に混じって、適当にチンピラボコってイベント消化するか、それとも大立ち回りを演じるか悩むところだ。
「それと『ネイビス』! お前も他の生徒を守れ!」
「ネイビス?」
誰かが声を上げた。
それに対してオレは返事をした。
「了解。ウォーターヒーロー『ネイビス』、活動開始するで」
「ヒーロー……!? えっ、どういうことだ!?」
「いいリアクションあんがとな上鳴クン。というわけでみんなボクがいるところより下がろか」
ヴィランの主……死柄木弔が「オールマイトがいない……子供を殺せば来るのかな」と呟く。
オールマイトが標的ということに轟が用意された奇襲だと看破した。
この世界を生きてみてオールマイトを殺すとかいうヴィランは珍しくないが、「そんなもん無理やろ」と大抵返されて終わりだ。
だがオールマイトを殺すつもりで来たヴィランが一般人に毛が生えたヒーロー候補生を殺すことくらいわけが無いのも事実。
それを防ぐべく、相澤先生がヴィランたちのもとへ飛び降り、大立ち回りを演じる。
「すごい……多対一こそ先生の得意分野だったんだ……!」
「分析してる場合じゃない! 早く避難を!」
後ろで飯田に怒られる緑谷。
そら(呑気に分析してたら)そう(怒られる)よ。
やっぱり主人公ともなると多少ネジが飛んでないとダメだね。オレは好きだ。
みんなの前に立って先導すべく背中を見せて、落ち着かせるような声音で話した。
「ほな逃げよか」
「させませんよ。そして、私から逃げるなど不可能です」
黒いモヤのようなヴィラン。確かそこそこ重要人物だったが、どんな生い立ちだったかは忘れた。たしか黒霧という安直な名前のやつだ。
個性を使いワープしてくるなり、オレたちの前に立ち塞がった。
「おや……貴方は……」
「うん? ボクのこと知っとるん? ちょっと有名なんやで」
「ええ、昨年唯一の雄英の留年生。データにありました。落ちこぼれというわけですね」
「だはぁ、痛いとこつくわ」
後ろからそういえば落第生だったという不安視する視線が突き刺さる。
この留年はわざとなんだよと言いたいがそんなこと信じて貰えないどころか理由を問われたら苦しくなる。
三枚目気取って誤魔化した。
「私たちは敵連合。今回雄英高校に侵入させていただいたのは平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂こうかと思ってのことでして。しかしここにはいないということはなにか変更があったのでしょう。
それとは関係なしに私の役目は――」
身構えた瞬間、背後から飛び出してくる二つの影。
爆豪と切島だ。
「その前に俺たちにやられる可能性は考えてなかったのかよ!?」
爆炎で景色が覆われる。
学生、それも初めて戦いに臨む一年生でありながら躊躇なく突っ込めるのは、勇敢だ。いや、意外といけるかもしれない。
このシチュエーションはいわゆる「授業中にテロリストが襲来した!」という中学生男子なら誰もが妄想したシチュエーションだからだ。あらかじめこうしようと決めていたのかもしれない。オレはそれを笑わない。
だが、現実的には無謀であり、無策。
二人が飛び出したことで射線が塞がり、13号先生は個性『ブラックホール』が使えなくなる。
「生徒たちといえど金の卵……故に……散らして、なぶり殺す!」
黒霧からモヤが広がった。
生徒たちを散り散りにワープさせ、周囲に配置されたヴィランに囲ませて攻撃させるという作戦だったはずだ。
黒い霧が視界を覆う中、俺は個性を発動させた。
「うわっ、水!?」
「なんだこりゃー!?」
何人かの生徒を水流に乗せて黒いモヤから逃がす。
「なっ!? これほどの水……どこから!?」
「敵に種を明かす子はおらへんよ」
逃すだけでなく、一気に押し流した。
とはいえ、何人かワープに飲まれて転移させられてしまったらしい。
誰がどこに行くか、原作覚えてないんだよね。もしかしたら原作と違うメンバー、違う場所に飛んだかもしれない。
残ったメンツに声をかけた。
「ごめんなァ。ちょっと痛かったやろ」
「テメェクソ糸目野郎!! 邪魔すんじゃねえ!!」
「爆豪クンそんな叫ばんでもええやないの。はよ逃げぇ」
「誰が逃げンだよクソが!!」
「海原や13号先生を、相澤先生を置いて行けるわけねえだろ!」
「その通りだ海原くん! 君が本当は2年生だからとか、関係ない! 全員一緒じゃなきゃダメだ!」
やいのやいのと騒ぐA組生徒たち。原作じゃ爆豪あたりは転移していた気がするけど、押し流した時に巻き込んだのだろうか。
まぁ、どうでもいいか。
13号先生がその中で咄嗟に叫んだ。
「委員長! そのまま外へ助けを呼びに行ってください!」
「しかし、みんなを置いて行けません!」
「置いていくんじゃなくて、みんなを助けるために、走ってください!」
黒霧がモヤを広げる。
「何度も……逃がしませんよ!」
「二度も同じような策をとるのはアカンわ」
今度も俺が遮るために跳ぶ。
個性の水分操作を応用し、足底からジェットのように水を吐き出し、その水圧で高速移動をする移動技で、文字通り一瞬のうちに。
「なッ――!?」
黒霧の本体ともいえる銀色の金属。それを中央広場目掛けて蹴りを入れると、轟音が響き渡った。
そして、広場に砲弾のように着弾すると何人かのヴィランを吹き飛ばし、土煙が上がる。
「ダメですよ海原くん! 君も避難しなさい、生徒なんだから!」
「緊急回避ですよ13号センセ。生徒たちの安全確保したら安心してヴィラン確保できるやないの。ボクが引率役ってことやね。飯田クン、そのまま先に助けを呼ぶ係を頼むわ。今いる生徒はボクについてくるんや。一旦外に避難するで」
「わかった! 待っててくれみんな!」
「オイ、クソ糸目! テメェ指図してんじゃねえ!」
「おい爆豪、逃げんのは確かに漢らしくねえけどよ、行くぞ!」
「アァン!?」
走り出した飯田と、ブチギレてる爆豪、それを宥める切島。
オレは無視して13号先生に向き直った。
「先にみんなを連れ出しますわ」
「うん、お願い。僕が先輩……イレイザーヘッドの援護にいくので、海原くん――ネイビスはそのまま一年たちを、なっ!?」
突然飛来する黒い影。オレは咄嗟にそれを受け止めた。すごい速度で投げつけられたのは、手足があらぬ方向に曲がって血を大量に流す相澤先生だった。
オレがあれこれしたようで流れが変わったらしい。
呻く相澤先生を心配して13号先生が焦り、A組の生徒たちは恐怖と惨状に息を飲んだ。
「あーあー、やってくれたねお前ら……黒霧が吹っ飛んできたときは何かと思ったよ」
そう言って再び黒い霧から姿を現したのは死柄木、そして中央の広場に残っていたチンピラのヴィランたち、脳無、そしてよろめく黒霧。
入口の方に出現してしまったから、逃げられない。
飯田が既に外へ走っていたことは幸いだった。
「余計なことしてもうたかな」
A組が原作より危機というのと、ヴィランどもにとって、という二重の意味で。
「あ? お前が犯人かよ……クソ……モブが割り込むなよクソゲーになるだろ……さっさとガキども殺してオールマイトを凹ませてやろうと思ったのに……プランが台無しだ」
死柄木がガリガリと首筋を引っ掻く。
よくも崩壊という個性を持ちながらそんな真似ができると思いながら、オレは手をヒラヒラと振った。
「プランが破綻したら撤退が一番やで。ボクとしてはこのままお帰り願ってもええんやけど」
「コラ! 海原くん!」
「ヴィランを前に逃がしてやるとか、お前本当にヒーローの卵かよ。でもよ……まだこっちのコマは減ってねえだろ……そっちは頼みのプロヒーローのイレイザーヘッドはもうボロ雑巾。あとは戦闘向きじゃない13号とガキたち。なぶり殺しにできる」
「そら怖いわぁ。せやけど、今年の生徒たちは結構優秀らしいで。留年したボクよりもいい子たちなんちゃう?」
後ろではチンピラたちが指示もなく残った生徒たちに襲いかかっていたが、爆豪を筆頭に正面から返り討ちにあっていた。
数こそ多いが烏合の衆でしかない。囲まれて数に押されるかもしれないが、13号先生が援護に行けば致命的な被害は出ないだろう。
「13号センセ。そういうわけで、みんなのこと助けてあげてや」
「何を言ってんの! 教師の僕が食い止めるから――」
「何言うてるんですか。戦闘苦手な13号センセに食い止めさせても被害が大きくなるだけやないですか」
「うぐ……」
「去年のボクが留年するハメになった事件のときの方がしんどい相手やったで。ほら、はよはよ」
「……ネイビス! ここは頼みます! 危なくなったらすぐ逃げること!」
「おおきに」
13号先生が生徒たちに向かい、ブラックホールでヴィランを蹴散らしていく。そちらは問題なさそうだ。
オレは抱き抱えたままの相澤先生をゆっくり床に下ろして距離をとらせる。両腕は折られ、出血も酷い。はやく安全を確保する必要があるだろう。
オレが背中を向けると捕縛布が足に巻きついた。
「はや……く……逃げ、ろ……」
「相澤センセ、喋る元気ないやろ。すぐ病院に連れていくから、待っててや」
「ふざ、けるな……除籍に……する、ぞ……」
「昨年度唯一除籍回避した生徒なんやから大切にしてや」
オレは相澤先生の捕縛布を払って、脳無と黒霧、死柄木と向き合った。
「お前……相当な自信家だな……きっと何も苦労してなくて、自分の力を疑わずに生きてきたんだろ。自分がゲームの主人公と思っているようなヤツ」
「せやで。ボクは主人公や。あまりに強すぎて、プレイヤーが退屈して三十分で飽きるタイプや」
「むかつくなぁお前……余裕なツラが潰してやりたいよ……だから……行け、脳無」
オレは飛び出してきた脳無をにやりと笑って迎え撃った。
これから始まるのは、ヒーローたちによる劇的な物語ではなく。異物による呆れるほどつまらない駄作の物語だ。