そして黒歴史だけが残った。
高校時代は眉毛がなかった。黒歴史しかなくて消えたい。同窓会に呼ばれて行くことになったが、合わせる顔がない。俺なんかといてもつまらないから他の人と話しなよとナチュラルに思う。自意識に苦しめられている人の気持ちが痛いほどわかる。当時は個性的に生きているつもりだったが、思い上がっていた。俺なんかに時間使わせてごめんなさいと思う。話す前から「違うんです」と言いたい。違うんです。やめてください。何も言わないでください。自己防衛が止まらない。俺なんかといてくれてありがとうと当時の家族や当時の友達に思う。よくこんな人間といてくれたなあ。
故郷の新潟には黒歴史しかない。四十歳にもなったしそろそろ大丈夫かと思ったが、全然大丈夫じゃなかった。恥。恥が津波のように押し寄せる。何もできない。何もしたくない。生きていける気がしない。性格に難がある。性格に難があるくせに、それを直そうとしていない。直す気がない。悲しくなって心の友に「助けてください」と電話をした。心の友は自転車に乗りながら電話に付き合ってくれた。途中、心の友が自転車のカゴにスマホを置いたままどこかに消えて、一回通話が途切れた。数分後、心の友が「ごめん!うっかりしてた!」と言った。心の友に救われた。誰にでもおっちょこちょいな部分があることに救われた。
間違いが許されない世界で生きていける気がしない。誰にでも弱い部分があるのだと思うと救われる。俺だけじゃない。俺だけじゃないと思える。心の友は美形なので「君は美形だからいいよ。俺なんか眉毛なかったんだぜ」と愚痴った。心の友は経歴はぐちゃぐちゃだけど見た目は無害そうで人当たりが良い。私から見ると、地に足がついているようで羨ましい。こちとら生まれた時から竜巻旋風脚をしているようなもので、地に足がついた試しがない。美形な友が羨ましい。羨ましいを通り越して憎いと言ったら「寝ろ」と言われた。こういう時は寝ろ。寝るか風呂に入れ。最悪なのは酒を飲むこと。暴飲暴食してうだうだ起きて、変なことを書いたり、友達に変な連絡をしたりするのが最悪。心の友の言葉には説得力があった。心の友よ、ありがとう。なんで俺なんかと友達でいてくれるのだ。こんなにも最悪な人間なのに。
俺なんかとか私なんかとか言う人を見ると「そんなことは言うな」と説教をする側に私はいた。それがどうだ。今は「俺なんか」にまみれている。今なら自信を持って「俺なんかといてもつまらない」「俺なんかに時間を使わせたら悪い」「俺なんかが邪魔をしたらいけない」と思えるし、胸を張って言える。性格に難がある。こんな人間のどこがいいのだ。面倒臭いだけじゃないか。なんで俺なんかといてくれるのだ。メリットがない。奪われるだけだ。と、ここではたと気づいた。私はコミュニティが無理なのだ。仕事らしい仕事をせず、呼ばれた場所に移動を続けていた私にコミュニティなんかなかった。だから生きてこれた。地元はコミュニティだし同窓会もコミュニティだ。私の弱点はコミュニティだ。ドラキュラは大蒜に耐えられない。坂爪圭吾は忍辱に耐えられない。コミュニティが無理な私は、生きる力を失った。
普段は何をしているのですかと聞かれても「何かしてなくちゃダメなんですか?!生きているだけじゃダメなんですか?!」と叫び出してしまうくらいには情緒不安定の私は、新潟に育てられた。ここが私の故郷であり、好きとか嫌いとか通り越して愛憎がある。故郷を愛すると自分を愛せる。私は自分が憎い。自分を殺したくなるほどの激しさに襲われている。家族との仲はいいが、故郷との仲は最悪だ。友達がいない。友達ができる気がしない。村八分の予感しかない。何も信用できない。自分がダークマターに思えてくる。新潟に俺の居場所はない。はなから人間を信じていない。出て行けと言われる前から「出て行け」と言われているような気がする。地元の友達とバーベキューをしている時が一番幸せだと思えるリア充の諸君、よく見ておけ。これが地獄を棲家とする男のメンタルだ。俺が消えればいいのだと素直に思うが、消える訳にも行かないので、結局取り乱す。人間社会に背を向けて、新潟の曇天に取り憑かれて、犯罪者予備軍になった。そして誰もいなくなった。誰もいなくなって、黒歴史だけが残った。
おおまかな予定
8月13日(水)新潟県新潟市界隈
以降、FREE!(呼ばれた場所に行きます)
連絡先・坂爪圭吾
LINE ID ibaya
keigosakatsume@gmail.com
SCHEDULE https://tinyurl.com/2y6ch66z
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