新潟県の地方紙「新潟日報」上越支社の報道部長が、ツイッターに「闇のキャンディーズ」という名前で、新潟水俣病3次訴訟の原告側弁護団長の弁護士を中傷する書き込みをしていた事件が話題になっている。

 はじめのうちは、よくあるネット上の炎上騒ぎの延長に見えた。それが、全国紙の記事になり、NHKをはじめとする地上波のテレビ局がニュース枠で伝える事態となって、現在では全国レベルのニュースに化けている。

 「新潟日報」が自ら報じた続報によれば、新潟日報社は、同社の報道部長(53)がツイッター上で新潟市の弁護士を中傷する書き込みをしたとして、10月25日付けで同社上越支社報道部長の職を解き、経営管理本部付けとする人事を決めた。さらに過去の書き込みなどについても調べた上、一両日中にも社としての対応を決定し、公表する意向だという(こちら)。

 事件の外形だけを見ると、これは、ある新聞社の社員が引き起こした暴言事件に過ぎない。それが、意外な大事件になっている。今回は、ネット上での罵倒合戦の行き着いた結末を通して、ネット言論の現在位置を概観してみたい。

 「闇のキャンディーズ」氏がツイッターに書き込んだ罵倒は、いったいどんなものだったのだろうか。
 全国紙の記事が紹介しているのは、どこのソースを見ても

「こんな弁護士が3次訴訟の主力ってほんとかよ。患者さんがかわいそう」
「はよ、弁護士の仕事やめろ」

 といった程度の言葉にとどまっている。
 これらを見る限りでは、

「たしかに言い過ぎなんだろうけど、この程度の暴言で職を解かれるものなのか?」

 と思う人が多数派だと思う。事実、私は当初、そう思った。

「これって、要するに自己保身のためにトカゲの尻尾切りをはかった地方新聞の過剰反応なんじゃないのか?」

 と。

 ところが、タウン誌やウェブ媒体の記事を見に行ってみると、より粗暴な言葉が採録されている。

「クソ馬鹿ハゲ野郎」
「こいつを自殺させるのが当面の希望」

 これはひどい。
 これを新聞社の報道部長が書いていたと思うと、さすがにびっくりぽんだ。

 というよりも、こういう言葉を見ると、むしろ、全国紙やテレビの地上波が、ごく控えめな暴言しか紹介していなかったことの不自然さに思い至らざるを得ない。どうして主要メディアは、あんなにヤワな記事しか書かなかったのだろうか。

 理由は、第一義的には、言葉が下品過ぎて掲載の基準に達しなかったということなのだと思う。たしかに、「クソ馬鹿ハゲ野郎」は、全国ニュースで流すにはキツい表現だ。紙面が汚れてしまう。そのまま言葉どおりに掲載したら、読者のうちの何割かは、新聞社の品位の下落に失望することだろう。とはいえ、個人的には、新聞各社がごく上品な罵倒しか載せなかった裏には、同業者への配慮があったはずだし、さらにいえば、新聞記者という自分たちの職業のイメージを毀損したくない感情があずかっていたのではなかろうかと思っている。

 さて、「闇のキャンディーズ」氏の暴言は、実は、まだまだこんなものではない。
 昨日来、ツイッターアカウントの過去発言を掘り返してみた限りでは、およそ信じがたい罵詈雑言がいくらでも転がっている。

 どういう暴言なのかというと、「オダジマがコピペをはばかるほどのものだ」という一言をもって理解してもらうほかにない。そう、私は、途中でサルベージ作業を断念した。理由は、胸が悪くなったからだ。私は、「闇のキャンディーズ」氏の言葉を自分の文章の中に混入させたいとは思わない。特に、赤ん坊を題材にした脅迫はひどい。なんという言葉の選び方だろうか。

 早々に結論を述べると、この人はどうやっても擁護できない。

 本人は、当初、「酒を飲んでツイートしていた」と弁解していたようだが、そんなことは情状酌量の材料にはならない。話が交通事故なら、「酒を飲んでいた」ことは弁解にならないどころか、罪が一段階重くなる理由になる。誰が書いた文章であれ、酔っ払って書いたということが、何かを免罪する理由にはならない。書き手が文筆を業とする記者であるならなおのことだ。 

 ネット上では、「闇のキャンディーズ」氏が、「匿名」で発言していたことが、彼の罵詈雑言をエスカレートさせた主たる原因であるとする立論が人気を集めている。

 私は必ずしもそう思っていない。

 匿名であることが、暴言を吐く上での心理的負担を軽減していたことは間違いないところだとは思う。とはいえ、彼があれほどまでに苛烈な暴言をあれほどの頻度で繰り返さなければならなかった理由は、「匿名」ということだけでは説明がつかない。

 事実、ほとんどの匿名アカウントは、常識の範囲内で発言している。匿名ゆえの気楽さからカジュアルな暴言を振りまいている人たちにしたところで、「礼儀知らず」であったりはするものの、「闇のキャンディーズ」氏ほどに悪質ではない。

 「闇のキャンディーズ=報道部長」氏が、常識はずれの罵詈雑言を吐き散らしたのは、基本的には、本人の個性のしからしむるところではあるのだろう。ただ、彼がああいう言葉を使ったのは、彼がそういう場所にいたからでもある。

この記事は会員登録(無料)で続きをご覧いただけます
残り3505文字 / 全文文字

【年間購読で7,500円おトク】有料会員なら…

  • 毎月約400本更新される新着記事が読み放題
  • 日経ビジネス13年分のバックナンバーも読み放題
  • 会員限定の動画コンテンツが見放題