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戦争で未来を奪われた若者たちの苦悩を描く 今こそ観たい“戦争と若者”をテーマにした3作品【昭和の映画史】


■インパール作戦に駆り出される学徒兵を描く

 

 『日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声』は、敗戦からわずか5年後に製作された、戦後初の本格的な戦争映画である。インパール作戦に駆り出された学徒兵たちの、絶望的な状況を描いている。制作から75年が経って知名度も低下し、観たことのある人も少ないだろう。

 

 だがこの映画は、もはや二度と作れない名作なのである。インパール作戦は有名な消耗戦で、太平洋戦争全体が失敗だったことを象徴しているのだが。今はもう映画化を企画することすらできない。予算はかかるのに採算が見込めないから、映画会社も出資者も動かないのが現実だ。

 

 また戦体験者がいなくなりつつある今、この映画全体から滲み出る怨念にも近い悲しみは、二度と再現できない。この点で非常に貴重な映画なのである。監督の関川秀雄は、写実主義による重厚な演出で知られ、後にベルリン国際映画祭やベネチア国際映画祭でも賞を受けている。

 

 物語は、『ゴジラ』で有名な伊福部昭が作曲した音楽を背景に、「死んでしまった兵隊の思いは誰が伝えるのか」という問いかけから始まる。続いて流れるのは、投降を呼びかける連合軍の放送だ。それは繰り返し流れ、「戦争は終わりです。上官は逃げてしまいました。生きて故郷に帰りましょう」と呼びかける。

 

 続いて圧倒的な劣勢の中、飢えに苦しむ部隊の様子が描かれる。負傷者や病に倒れた者も多く、ほとんどが動けない。その中で、帝国大学仏文科の助教授と教え子が再会し、学徒出陣前の最後の授業で、モンテーニュの哲学を学んだことを懐かしく思い出す。だが、上官は助教授に屈辱的な行為を命じるのだった。

 

 圧巻は後半である。撤収命令が下ると、「足手まとい」とみなされた7人の兵士たちは手榴弾を渡され、「最後まで戦え」と命令されて置き去りにされる。彼らは目の前に突きつけられた「死」に煩悶する。

 

 足が片方しかないのに帰国を望み、部隊を追いかけて力尽きる者もいた。演じた俳優は実際の傷痍軍人である。最後まで死の意味を問い続けた哲学科の学生も、やがて自ら命を絶つ。死者が祖国へ向かうラストシーンは、日本映画史に残る名場面である。

 

 この映画は左右両派及びGHQの監視下、様々な困難を乗り越えて製作された。原作は、1949年(昭和24年)に東京大学出版会から刊行された戦没学徒の遺稿集『きけ、わだつみのこえ』である。「自惚れた国で興隆した国はない」といった、多くの名言が並ぶ。

 

 ただし、この書はごく一部のインテリ層の死のみを美化しているとの批判も受けた。また、戦争を肯定するような遺稿が意図的に排除されたのではないかという指摘もあった。そうした反省から、後に刊行された続編には、より多様な遺稿が収録されている。

 

 3作目は昭和28年(1953年)製作の『雲ながるる果てに』。特攻を扱った映画の代表作である。なんと美しい題名だろう。大学に来た将校に鼓舞されて入隊を決意した学徒兵たちの、悲しい運命を描いたものだ。入隊後、彼らは理不尽な暴力にさらされ、戦局の悪化とともに特攻への「志願」を強いられる。

 

 やがて米軍が沖縄に上陸。学徒兵は出撃を命じられ、覚悟した「死」を待ち続ける。しかし、雨が続き出撃は延期。死が一日遠のくごとに苦悩が深まっていく。ふざけて明るく振る舞いながらも、誰もが心の底では死と向き合い、もがき苦しんでいる。「果たして、悠久の大義に殉じることができるのか」と。

 

 脚本の直井欽哉と出演者の一人・西村晃は、実際に特攻から生還した元兵士である。後に任侠映画のスターとなる鶴田浩二や、『七人の侍』で若武者を演じた木村功など、華のある俳優が出演している。しかし、それに依存せずに淡々とした描写に徹し、美化されがちな特攻兵の心情に真摯に迫った。監督は、数多くの社会派映画を残した家城巳代治(いえきみよじ)だ。

『写真週報』(昭和18年12月15日号)/国立公文書館蔵

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川西玲子かわにしれいこ

1954年、東京生まれ。(公社)日本犬保存会会員。専門学校や大学で講師を務めた後、現在は東アジア近代史をメインに執筆活動を行う。主な著書に『歴史を知ればもっとおもしろい韓国映画』、『映画が語る昭和史』(ともにランダムハウス)、『戦時下の日本犬』(蒼天出版)、『戦前外地の高校野球 台湾・朝鮮・満州に花開いた球児たちの夢』(彩流社)など。Amazonに著者ページあり。

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