渋沢栄一の思想を今に繋ぐ。水戸英則理事長が明かす二松学舎の教育改革
近年、少子化やグローバル競争の影響で、多くの私立大学が厳しい経営環境に置かれています。大学同士の競争が激化する中、伝統校である二松学舎大学も例外ではありません。しかし、日本銀行出身という異色の経歴を持つ水戸英則氏が理事長に就任して以降、この大学が注目を集めています。
渋沢栄一の「論語と算盤」に象徴される思想を受け継ぐ二松学舎大学は、果たしてどのように現代の課題に向き合っているのでしょうか。本稿では、水戸氏の経歴や教育哲学を紐解きながら、私立大学改革の方向性について考えてみたいと思います。
二松学舎大学が直面していた課題
日本の大学教育は今、大きな転換期にあります。特に18歳人口の減少による学生数減少は深刻で、地方はもちろん都心部の私大でも経営難が現実のものとなっています。
二松学舎大学もまた、長い歴史で培った伝統的な漢学教育を現代の教育ニーズにどう適合させるかという課題に直面していました。単に昔ながらの講義を続けるだけでは、入学希望者の確保も難しい時代です。伝統を守りつつ大学を変革する…それは言うは易く行うは難しであり、大学内部にも強い危機感があったのでしょう。
こうした背景から、経営改革のプロとも言える水戸英則氏が理事長に迎えられました。日本銀行でキャリアを積み、地方銀行の役員も務めた水戸氏が大学運営に携わるという異例の人事は、それだけ二松学舎が直面していた課題が大きかったことを示唆しています。「待ったなし」の状況で、水戸氏はどんな舵取りを行ったのでしょうか。
水戸英則氏が行った主な改革
では、水戸理事長は具体的にどのような改革を進めたのでしょうか。まず掲げた柱の一つが「文武両道」の精神です。二松学舎には創立以来、学問(文)と人格形成やスポーツ(武)を両立させる伝統が根付いており、水戸氏もその精神を強調しました。
これは単に勉学と部活動の両立を励ますだけでなく、学問と人間教育のバランスを取るという教育理念でもあります。二松学舎は漢学(中国古典)を重んじる伝統校ですが、その良さを守りつつ現代的な教育手法を取り入れています。例えば、大人数での画一的な講義ではなく、少人数教育を徹底し、教員と学生の距離が近い対話型の授業を展開しました。
また、水戸氏の金融界での経験を生かした取り組みも見逃せません。経済社会の変化に対応すべく、金融リテラシー教育や産学連携に力を入れたのです。2024年には大手金融機関のみずほ銀行・みずほ証券との包括連携協定を締結し、大学・高校・中学校にわたる金融教育プログラムを充実させました。結果として専門家による講義やワークショップが実現し、学生たちはお金の仕組みや資産運用について実践的に学べるようになりました。これは渋沢栄一が提唱した「論語と算盤」すなわち道徳と経済の両立にも通じる部分であり、伝統校ならではのユニークな改革と言えるでしょう。
さらに企業との連携も強化し、インターンシップや共同プロジェクトなど実社会で役立つ実学的プログラムを拡充しています。その結果、学生は在学中から社会に触れ、自らの将来像を具体的に描ける機会が増えました。 加えて、デジタルトランスフォーメーション(DX)にも積極的に取り組みました。教育の質を高めるには時代に合った環境整備が必要との考えから、オンライン授業の導入や学内システムのIT化など教学DXを推進したのです。
大学の長期ビジョン「N’2030 Plan」のもと、AIやデータサイエンス教育にも対応した新カリキュラムを策定し、従来の人文学と最新技術を融合させた教育を展開しています。古いものをただ守るだけでなく、新しい技術や手法を恐れず取り入れる姿勢は、水戸氏の改革の大きな特徴でしょう。
改革の成果と評価
水戸氏が主導したこれらの改革は着実に成果を上げつつあります。まず、教育の質の向上が学生の満足度に表れてきました。少人数で濃密な指導や実践的プログラムにより、「ここでしか得られない学びがある」と感じる学生が増えているようです。就職実績の面でも改善が見られ、卒業生の進路は教員や公務員から民間企業まで幅広く、希望する進路に進める割合が高まっています(具体的な就職率の向上データも大学広報で明らかにされています)。
特に、金融機関との連携による金融教育プログラムは学内外から高い評価を受けました。みずほ銀行との協働講座は学生に人気となり、メディアでも取り上げられるなど社会からの注目度も増しています。大学が提供する金融リテラシー教育は時宜を得たものとして、「大学教育の新しいモデル」と評価する声もあるようです。
さらに、社会貢献活動の充実も大学の評価を押し上げています。二松学舎大学は伝統ある人文学の大学でありながら、先端技術との融合にも挑戦しています。その象徴が「漱石アンドロイド」のプロジェクトです。明治の文豪・夏目漱石(実は二松学舎の前身校で漢学を学んだ卒業生です)をモデルに、人間そっくりのアンドロイドを開発する試みで、2016年から大阪大学との共同研究で進められてきました。完成した漱石アンドロイドは文学とテクノロジーの融合を体現する存在であり、2025年開催の大阪・関西万博「いのちの未来」パビリオンに出展されることが決定しています。
このプロジェクトにより、二松学舎大学は単に教育機関としてだけでなく、日本文化と先端科学を結ぶ橋渡し役として社会にアピールすることに成功しました。大学発の文化テクノロジーの発信という貢献は、ブランド価値の向上にも大きく寄与しています。「伝統×革新」を体現する大学として、二松学舎の名前が世間に知れ渡るきっかけにもなったでしょう。
まとめ
大学改革を考える上で、守るべき伝統と取り入れるべき革新のバランスは常に悩ましい課題です。水戸英則氏が率いる二松学舎大学の取り組みは、両者を見事に調和させた一つのモデルケースと言えるのではないでしょうか。渋沢栄一の精神を今に生かしつつ、時代の要請に応じた改革を進める姿勢には、私も多くの示唆を受けます。もちろん道半ばの部分もあるでしょうが、同大学が示したビジョンと実行力は高等教育界に新風を吹き込んでいます。
大学は何のために存在し、これからどうあるべきか――その問いに対し、二松学舎大学は「人間教育と実学の融合」という一つの解を提示しているように思います。今後、同大学がさらにどのように発展していくのか、大いに期待しつつ見守りたいと思います。そしてこの事例から、私も改めて「大学の未来」について考えてみたいです。


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