最近、度々話題になっている競馬場での雨傘や日傘の使用について。つい先日もXで「杉原誠人騎手が『日傘危ないな』と言っていたのを聞いた」というような投稿がありました。実際に現場の人たちは傘についてどう思っているのか聞いてみました。
まずは話題になっていた杉原騎手に、Xに投稿されていた内容について詳細をうかがいました。
「日傘が悪いというわけではなくて…。2歳馬の千直の返し馬で、外ラチ沿いを行きたいところに目の前に日傘を差している人がポツンといて、すごく目立ちました。地下馬道から馬場に入って、ちょうど目の前にいたんですよ。暑いので日傘はいいと思いますし、みんなが日傘を差していれば逆に大丈夫だったと思うのですが、あんなところにいるんだという場所にポツンといたのが良くなかったです。それで『日傘危ないな』と言ってしまったのですが、その人が悪いという意識で言ったわけではなく、思わず言ってしまったんですよね。何か事故が起きてからでは遅いので、終わったあとにJRAの人には言いました」
杉原騎手に日傘を差している人を直接注意しようという意図はなく、思わずこぼれてしまった言葉だったようです。また、今回のポイントは千直の返し馬だったということ。
「千直の返し馬は外ラチ沿いを見せたいですし、長いので歩きたいんです。逆に外ラチ沿いを行くのは千直の返し馬だけなんですよね。千直の返し馬は、スタンド前は歩かせたいという人が多いです。競馬のスピードになれば大丈夫ですが、歩いているときは特に2歳馬は見ますね。こういうときは嫌だなと思いますし、配慮していただければと思います。ただ、これだけ暑いのでわざわざ来てくれている人に日傘を絶対に差さないでほしいとは言えないので…。こういう見るシチュエーションがあるということを知ってもらって、場所だけ考えてほしいと思います」
JRAから日傘の使用は禁止されておらず、新潟競馬場では日傘の貸し出しが行われています。ただ、利用可能エリアは定められており、ホームページには『馬が近くにいるパドックやコース付近では使用できません』と明記されています。それは私物の日傘を差す場合でも同じではないかと個人的に思います。近い距離で見られるからこそ、見る側が考えなくてはいけないことです。
もう一人、どんなに些細な質問でも真摯に答えてくださる青木孝文調教師にもうかがいました。
「シンプルに安全面ということだけで言えば、ないに越したことはないです。ただ、われわれはお客さんや馬主さんなどに、見てもらってなんぼの仕事。見る人側への制限はなるべく少なくしないといけないという認識は持っています。だから、理想は日傘や合羽(かっぱ)を見ても驚かない馬を作ること。しかし、馬という動物の性質上、慣らすことには限度があります。過度に制限することはできる限り避けたいですが、馬を気遣っていただけるファンの皆さまには馬の性質を理解したうえで、なるべく人馬が能力を発揮しやすいようにご配慮いただければ幸いです」
このコメントが全てではないでしょうか。雨の日のトレセンでは厩舎の人たちはウインドブレーカーのようなものを着て、記者も同じようなものか、レインコートを着ています。ただ、気になったのが「日傘や合羽を見ても」という言葉。レインコートも馬にとっては驚くものなのですね。
「合羽はガサガサという音に驚くことがあります。ただ、傘でも合羽でも慣れている人といない人の挙動が違います。慣れていない人の良くないところは動かない状態から、いきなり動きだす。ずっと差した状態で歩いているならなんの問題もないですが、馬は止まっている状態から急にぐわんと動くのを一番警戒する動物なんです。物陰からいきなり出てくる動物を警戒して生き残ってきたんだから、当たり前ですよね。自然に流れていて、自分に何もしないなら気にしません」
一度、雨の日のトレセンでポンチョを着たことがありますが、風でなびいてしまってうるさかったので着るのをやめました。レインコートもそのタイプや、着る人の挙動によるということですね。これを読んで傘を差してもいいじゃないかという人がいると思いますが、個人的な意見としては全員が馬が驚かないように使えるとは限りませんし、競馬やパドックを見るうえで他の人の邪魔になるのではと思います。私は物心がつく前から野球を観てきて、雨の日の球場では傘ではなくレインコートを着ることが当たり前だと思っていました。競馬はさらに馬という動物がいて成り立っているものなので、正式に禁止されていなくても配慮が必要なのではないでしょうか。
「傘を差していることを注意されて、急に閉めるというのが一番困ります。一度閉めたものがパッと開くのも最悪ですね。なんでも急に対応するくらいなら、そのままでいいです。馬の性質なので。それを説明してもちゃんと理解してくれる人は少ないです。競馬場に応援に来てくださる人たちのおかげでご飯を食べられているのは間違いないので、ラチ沿いで傘を振り回しているとかはダメですけど、おとなしくして気をつかってくださっているのなら、一律で禁止するのではなく、われわれもそれに慣れていかないといけないのかもしれません」
お二人とも、ファンの方たちのおかげで競馬が成り立っているということを口にされていました。先ほども書きましたが、だからといって傘を好き勝手使っていいわけではなく、正式に禁止されていなくても配慮が必要だと思います。先週末の新潟競馬をテレビで見ましたが、パドックもコース付近もものすごい数の傘で驚きました。全員が馬が近くにいるときは急に動かないというのであればいいのかもしれませんが…。例えばパドックでまだ他の馬が周回していても、自分の目当ての馬が馬場に向かったら移動するという人もいたことでしょう。
Xでは傘の使用の多さを嘆く人の投稿が多くみられました。一方で気にしすぎだという人も。傘の使用そのものというより、青木調教師がおっしゃっていたように傘を差している人を注意して、その人が急に閉じるということが最も危険です。傘がないに越したことはないですが、ファンの方同士の過度な干渉はトラブルの元だと思うので、傘を使う人は場所や取り扱い方を十分に気をつけるというのがベストではないでしょうか。この問題に正解はないのかもしれません。トレセンで働く人全員に聞いたわけではないですが、現場ではこう思っている人たちがいるということが伝われば幸いです。(三浦凪沙)
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