(社説)台湾の政治対立 解職請求は無理筋だ

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 公職者への解職請求リコール)は民主政治の重要な制度だが、その行使には慎重さが求められる。考えさせられる事例が台湾であった。

 立法委員(国会議員)のうち野党・国民党の24人に対するリコールの投票が各小選挙区で7月26日にあり、全て不成立に終わった。頼清徳(ライチントー)・民進党政権には痛手で、今後の対中関係や来年以降の選挙に影響しそうだ。

 台湾は地方の首長・議員のほか小選挙区選出の立法委員をリコールする制度がある。一定数の署名が有効と認められると、解職の賛否を問う投票が実施される。

 統一への圧力を強める中国に向き合いつつ、台湾の主体性を重んじる民進党と、中国との融和を図る国民党が対立するのが台湾政界の構図だ。議会は与党・民進党の議席が半数に満たず、国民党が他党と組んで防衛予算を削るなど頼政権に対抗してきた。

 これに対し、国民党が中国の意を受けて政治を混乱させていると市民団体が危機感を抱き、リコール運動を始め、民進党が後押しした。リコール成立後の補選で議会の過半数を取り戻したいという思いも民進党側にはあった。

 だが、結果は仕掛けた側の完敗だった。投票があった選挙区はいずれも国民党がもともと優勢だったが、そもそも24人を一斉にリコールするという試みが強引すぎたのではないか。

 リコール制度を支えるのは、議員が有権者の負託にこたえているか監督されるべきだという思想だ。一方で、議員には自身の信条に従って政治活動をする地位が保障されるべきでもある。

 リコールは議員に違法行為や不祥事など深刻な問題がある場合に限るというのが、妥当なところだろう。国民党を支持できないなら次の選挙で勝負するのが筋だ。

 台湾のリコール制度は2016年の法改正で要件を緩和し、請求しやすくなった。今回はそれによった手続きが進められた。今年になって再び要件を厳しくする改正があった。制度自体の均衡点を見いだすのも難しい。

 国民党は勢いづいている。とはいえ議会での国民党の行動を危ぶむ市民が多いのも事実で、リコールの投票結果は国民党の政策方針が積極的に支持されたことを必ずしも意味しない。

 有権者の大半は2大政党のはざまで対中関係の現状維持を志向している。その民意を見誤ることなく、台湾が1980年代から積み重ねてきた民主政治の前進に資する行動を両党に望みたい。

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